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(逃がさない)無自覚ガチ恋S級冒険者が、バレたらおわりな天使の正体にじわじわ迫ってくる(たすけて)  作者:
第1章

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2/25

①戸惑い

 ギルドの扉が静かに開いた。


 朝の光を背に、黒い長衣をまとった男が歩み入る。

 長身で、鍛え上げられた体つき。

 癖のあるプラチナブロンドの髪に、目元に落ちかかる前髪が色気を帯びる。

 精悍に整った顔だちに、ほんの少しだけ野性味のある彫り。

 鋭いアンバーの瞳が、ひとたび向けられれば息を呑むほど強くて、なのに男も女も沈むような甘さを含んでいる。


 強さと色気を合わせ持った、危険なほど魅力的な男。


 最高ランク──S級冒険者、カイン。


「あ、カインさんだ……!」

「今日もかっこいい……」

「カインさんは戦ってる時もすげーかっこいいんだぞ……」


 ざわめきが波のように広がっていく。

 武装した冒険者たちの空気すら変わり、ただ歩いてくるだけで街の喧騒を一瞬で引き連れる男だった。


 誘われれば大人の余裕で軽やかに応じ、街では華々しく慕われ、戦えば圧倒的。

 いつも少しだけ気怠げで、なのに仲間思いで情に厚い。

 そんな矛盾すら魅力に変えてしまう男が、今は。


 どこか早足で脇目も振らず、真っ直ぐに受付奥の情報窓口へ向かっていった。


 ⸻


「昨日の補給物資、確認したんだって?」


 落ち着いた声だった。けれど、よく聞けば微かに焦りが沈んでいる。

 職員の肩がぴくりと揺れた。


「はい。確かに確認しました」

「血がついてたって、本当か?……怪我したのは、天使?」


 一瞬で、空気が張りつめる。

 遠くから聞きながら、マリアの胸がぎゅっと縮んだ。


(血……。拭き忘れ……たの……?そんな、気づかなかった……)


 職員はすぐに答えた。


「血がついた理由は分かりませんが、深層支援士は無事です。それは確かです」

「……そうか」


 カインはほんのわずか安堵したように息を吐いた。

 だがすぐに、瞳の色が鋭さを取り戻す。


「無事ってどの程度確か?最近、姿を見た職員はいるのか?誰が確認してる?」

「……申し訳ありません。答えられません」

「なんで?」

「規則です。深層支援士に関する情報は、一切公開できません」

「……一切?」

「はい。あなたがS級冒険者であっても、例外はありません」


 カインの眉が小さく動いた。

 怒りではない。

 ただ、焦りと苦い苛立ちが沈んでいる。


「無事って言葉だけじゃ……安心できないんだけどな」


 重く響くその言葉に、職員は困ったように視線を落とした。


「ですがどうか、信じてください。そうとしかお答えできず、申し訳ございません。」


 カインは数秒黙った。

 そして、肩を落とす。


「……いや、悪かった。本当に無事なら、それでいい」


 その声は掠れ、揺れていた。


 ⸻


 そのやり取りを遠くから聞いてしまっていたマリアは、胸の奥で何かがすくみ上がるのを感じた。


 まさかあの時、補給物資に血がついていたなんて。

 もし気づいていたら、絶対に拭き取っていた。誰にも心配させたくないから。


 ……それに。


(見つかったら……深層支援士を続けられなくなっちゃう……)


 マリアには、誰にも言えない秘密がある。

 ギルドの仲間でさえ、誰もその核心までは知らない。


(なのに……どうして……よりによって、カインさんが……)


 彼の追及には悪意なんてものはない。むしろ純粋な心配から来るもの。

 だからこそ余計に、胸が張り裂けるように苦しい。


 マリアは袖の中で震える指先をぎゅっと握りしめ、俯いた。

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