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(逃がさない)無自覚ガチ恋S級冒険者が、バレたらおわりな天使の正体にじわじわ迫ってくる(たすけて)  作者:
第2章

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③依頼

 運ばれてきた料理の香りがふわりと立ちのぼり、マリアはそっとスプーンを口に運んだ。

 その瞬間、表情がふわっと緩む。

 緊張がほどけるように、ほっとした息がこぼれた。


 それを横目で拾ったカインが、小さく呟く。


「……ちゃんと食えてんなら、よかった」


「え?」


 顔を上げたマリアの視線に、優しい眼差しがそっと触れた。


「それで? なんかあった?」


 促す声に、マリアは小さく息を吸い込む。


「……あの、カインさん。次回、深層に行くとき……護衛をお願いできませんか」


「護衛?」


 眉がごくわずかに寄る。

 瞳にあるのは、拒絶ではなく“なぜ今さら、俺に?”という静かに探る色。


 マリアは、胸の前でそっと指を組んだ。

 理由は伏せて、言葉を探しながら続ける。


「実は最近、隠密が少し弱まってきているんです。

 今はまだふとした時に違和感が生まれる程度ですが、このまま長くはもたないかもしれなくて……」


 声が震える。


「…次で、深層支援士の活動を最後にします。

 その許可をいただく条件として、カインさんに、護衛をお願いするようにと言われて」


 そこまで話すと、カインは何も言わずにマリアをじっと見つめた。

 その表情は読めないが、空気が少し、重い。


 やはり、断られるだろうか。


 マリアのまつげが揺れた。

 視線がテーブルに落ちる。


「その……危険なお願いであることは分かっています。本当に、申し訳なくて……」


 指がぎゅっと絡む。

 消えそうになる声を必死に繋ぎ止める。


 その時──


「……いいよ」


「……え?」


 顔を上げた瞬間、

 目の前のカインは頬杖をつきながら、苦笑していた。


「ほんとはもう、危険なことしてほしくないけどな」


 軽やかな口調。だが奥に確かな心配が滲んでいる。


「でもさ。そんなお人好しで無鉄砲な天使に……ギルドの奴らや、冒険者たちも救われたんだろ。もちろん俺も、その中に入ってる」


 さらりと、それでいてどこまでも誠実に言う。


「恩返しだよ。最後まで付き合う」


 その言葉に、心の奥の淀みが、そっとほどけた。


「……ありがとうございます」


 綻ぶ笑顔を見たカインは静かに目を細める。


 店のランプがゆらりと揺れ、二人の間の空気はやわらかく満ちていった。

カインは、ギルド長が部外者である自分をマリアの護衛に指名した理由に疑問を抱いています。

けれど、その理由をあえて尋ねようとはしていません。


ロガルドは、どうせ避けられない縁なら、マリアが望む限り、ふたりで向き合って進む道を選んでほしいという思いがあって、あえてカインに任せています。

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