表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(逃がさない)無自覚ガチ恋S級冒険者が、バレたらおわりな天使の正体にじわじわ迫ってくる(たすけて)  作者:
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/25

⑩静寂の先に(カイン)

前話のあとがきにも書きましたが、本編に収まりきらなかった設定を活動報告にまとめました。

 深層の帰り道。

 薄暗い通路に、魔石の光が静かに揺れていた。


 仲間と共にセーフティエリアへ戻ったあと、カインはひとりだけ深層側へ引き返していた。


 理由は──自分でも笑えるほど単純だった。

 救援物資の中に、いつもあるはずの天使の手紙が、今日は入っていなかったからだ。


 いつもなら、どこかしらに小さな祈りの文字がある。

 だが今日は、どれだけ探しても見当たらない。


 おそらく、手紙を書く暇もなく慌てて立ち去った可能性が高かった。

 そしてその要因は自分たちが来たからだと推測する。


 ならば入れ違いで出たとして、そう遠くへは行っていないはずだ。


 深層の空気は重く、肌にまとわりつく。

 こんな危険地帯をひとりで歩く’’彼女’’の姿を想像して、汗の滲む拳を握る。


 その時、潜んでいた魔物が唸り声を上げて横槍に飛び出した。瞬間、カインは振り向きもせずただ一閃で仕留める。

 そのしなやかで容赦のない動きは“彼女”の進路を確保しようとする冷静な掃討。


 静寂が戻る。


 カインは呼吸を整えるでもなく、ただ目を閉じて探る。

 手がかりを追うごとに、いつの間にか僅かに感じ取れるようになってきた気配がある。

 魔物でも冒険者でもない、もっと小さくあたたかで、柔らかい──


 逸る胸を落ち着かせ、感覚を研ぎ澄ませる。


 その時だった。


 空気が、ひとつ震えた。

 そして……微かな音。

 それは潜めた吐息の音のようにも聞こえた。


 カインは歩みを止めた。

(……いる。ここに)

 安堵から、呼吸がひとつ深く落ちる。


 そして身体中に走る、これまで感じたことのない感覚。

 探し求めていたぬくもりに触れる直前のような、じんわりと侵す熱。


 …まだ隠れきれると思っているのか、必死に息を潜める…’’彼女’’。


「……なんだよそれ、可愛いな」


 その囁きに反応した影が更に震える。


 その反応に、カインはふっと喉の奥で笑う。

 頭の奥で何かが静かに崩れ、そして満たされた。


 足がゆったりと動き出す。

 その余裕を持った歩みは狩人のそれで、

 崩れたものは、ずっと探して焦がれ続けた誰かに触れたい男の、忍耐だった。


 熱が肌の内側を満たす。

 声も指先も理性も、全部が彼女へ向かって傾く。


 暗闇の奥へ、そっと手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ