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前編

 ――これはとある異世界でのお話である。主人公はお姫様でも魔法使いでもない、5歳の女の子、レベッカ。彼女は歩く度に落とし穴に落ちるほどのアンラッキーだが、決してへこたれずいつもニコニコしていた。レベッカは昔、両親を亡くしており、今は兄のアルと小さな小屋で暮らしている。そんなある日、レベッカが大好きなアルが病気で倒れてしまった。


「ごめんな…レベッカ、兄ちゃんが情けなくて。――ゴホッゴホッ!」

 白いボロボロのベッドで黒い短髪の20歳の青年、アルがしきりに咳をしている。その横を金色の地面に着きそうなくらいに長い髪の少女、レベッカが心配そうに見ている。

 どうやら、アルは可愛い妹のために無理をしてしまったらしく、体を壊してしまった。すぐさまレベッカはベッドに駆け寄ってつぶらな瞳で心配そうにアルを見つめる。

「お兄ちゃん!死んじゃやだ!お願いレベッカを一人にしないで…」

 目いっぱいに涙を浮かべてアルの手を握る。すると、アルは優しく微笑みかけた。

「…大丈夫だ。ただの風邪だよ…昨日お医者さんがそう言っていたじゃないか…――ゴホッゴホッ」

 アルは苦しそうに咳をしていた。そして、おもむろにベッドの横の棚のカレンダーを見た。その瞬間――。

「あぁーーーーー!!!!!」

 突然大きな声を出してベッドの上を大きく飛び跳ねた。アルの顔からはバケツの水を被ったような汗が流れている。その様子を見て、レベッカは近くにあったタオルで汗をぬぐいながら話しかけた。

「どうしたの?お兄ちゃん。もしかして、お腹も痛いの?それとも、足?」

「…ち、違うんだ。今日は大切な配達の日だってこと忘れていたんだ。こんな日に体調不良だなんて…しくじったらクビにされる!」

 アルの職業は配達員である。依頼を受けた店から特定の場所まで荷物を運ぶというものだ。今回の依頼はとある大きなケーキ屋から隣町にある著名人のイベントに出すケーキを届けるというもので、報酬は3か月、金に困らないくらいにはある。ただし、上からの通達で失敗すれば金輪際、契約を切るという厳しい条件があった。アルは今まで遅刻も欠席もしたことがなかったので、引き受けてしまったのだ。

 アルはとても焦って、黒い短髪を櫛で綺麗にし、すぐさま時間を確認して身支度を整え始めた。しかし、風邪のせいで体が重く、思うように動かない。

「…まずい。転職を考えた方が身のためかもしれん…」

 完全に状況は最悪だ。そんなとき、レベッカが長い金髪の髪を揺らしながら太陽のような笑顔で言った。

「それなら、レベッカが行く!お兄ちゃんに無茶はさせないよ!」

 アルは目を大きく見開いた。

「…やめろ…レベッカ――ケーキ屋さんはいつも一緒に行っているからわかると思うが、隣町に行くには列車に乗らなきゃいけないんだぞ。…この前、列車で席に座ったら座面が抜けて転んだだろ。…アンラッキーなんだからやめておけ。」

 妹が心配な兄、アルは激しく抵抗した。両親を失った今、家族は妹のレベッカだけになって失うことを恐れていたのだ。しかし、レベッカはアルの注意を無視して身支度を整えた。

「大丈夫だよ。お兄ちゃん。レベッカにはこのお守りがあるからね!」

 彼女が取り出したのは赤い大きなリボンだった。これは母親の形見だが、不思議なことにこれで髪を結ぶとどんなアンラッキーでも大きな怪我はしなくて済むのだ。レベッカはリボンを金色の髪にキュルンと縛り付け、白いワンピースを着て嬉しそうに外に出かけた。そのとき、――

 ――ガッシャーン!

 突然、大きな音が響き渡った。

「どうした!レベッカ!無事か⁉」

 慌ててアルは玄関のドアを勢いよく開けてレベッカの方を見た。どうやら、家の屋根のレンガがいくつか落ちたらしい。レベッカはギリギリ手前の方にいたので、無傷だった。

「大丈夫、大丈夫!心配しないで。」

 アルはますます心配になり、結局、口元にバンダナを巻き重い体を引きずって、あとからこっそりついていくことにした。


 家からケーキ屋に行く途中、山道で熊に遭ったり、土砂崩れが発生したりと、この上ないほどのアンラッキーが続いていたが、リボンの効果かレベッカは無傷でスキップしながらケーキ屋に向かった。また、アルも物陰でダルそうな顔でこっそり見守っていた。そのせいで何度かストーカーと間違われ、警察に呼び止められたが、なんとか事情を話して尾行を続けた。


 そして、レベッカはやっとケーキ屋に着いた。

「こんにちは!アルお兄ちゃんの代わりに来ました、レベッカです!」

 レベッカはいつもの調子で明るく店員に話しかけた。

「…あら?お兄ちゃんはどうしたの?」

 店員は不思議そうにレベッカに話しかけた。すると、後ろで風邪のだるさとレベッカへの愛の重さで仏頂面のアルが店の窓ガラスに張り付いて見ていた。それで店員は暗黙の了解で納得した。それに気づいていないレベッカはとても緊張した様子だ。

「お兄ちゃんはお風邪なの。今日はレベッカが配達するの!ケーキはどこ?」

 レベッカはよだれを垂らしながらワクワクしている。

「…わかったわ。注文の品はこれよ。レベッカちゃんもお腹が空いているみたいだから、これはサービス。列車で食べてね。」

 店員はケーキと一緒にクッキーの入った袋も渡した。すると、レベッカは大きく飛び跳ねて喜んだ。

「わーい!クッキーだ。お姉さんありがとう!」

 後ろでアルはほっとしていた。そして、窓ガラスに一枚の紙を張り付けた。そこには、『向こうには事情を電話でお伝えしました。目的地の駅で受け取るつもりだそうです。そのことをレベッカに教えてください。』と書いてある。それを見た店員はレベッカにさりげなくそのことを伝えた。そして、レベッカは店を飛び出していった。


 駅に到着した。レベッカは落とし穴に何度もハマったがケーキも彼女も無事だった。

「…ふう。ここまで行けたら後は大丈夫だろ。いやぁ、ヒヤヒヤさせるなぁ。」

 アルは駅の待合室で新聞で顔を隠しながら見守っていた。そして、レベッカが列車に乗るところを見届けると家に帰るため、駅舎を出た。――そのとき、

――ドカーン!大きな音が線路でした。アルが慌てて駆け寄ると列車が脱線して車両が線路から投げ出され横倒しになっている。その様子を見たアルは血の気が引いた。

「…そんな、レベッカ…。おーい、レベッカー!返事しろ!兄ちゃんだぞ!」

 アルは辺りの瓦礫をどかしながらレベッカを呼び続けた。しかし、姿は見えず、返事もない。辺りで土煙があがる中、アルはひざまずいてしまった。レベッカの太陽のような笑顔を思い浮かべながら。

「…嘘だろ。レベッカ。レベッカーーー!!!」

 あまりのアンラッキーな出来事で風邪もどこかにいってしまったアルの声は晴れ渡る青空でこだましていた――。

この話は後編に続きます。

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