表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

スペシャル(魂なき英雄伝説) 『ノクの夢の中の影』

『まだ、ここにいる』


影は、音を持たない。


冷たくも、温かくもない。

ただ、無限の夜みたいに広がっていた。


ノクは――

そこに沈んでいた。


足も、手も、羽もない。

輪郭も曖昧で、形という形が自分から抜け落ちている。


ただ、胸の奥だけが、

かすかに脈を打っていた。


ドクン……ドクン……


それが、自分がまだ“ここにいる”証だった。



1. 昔のリア


暗闇の向こうで、光が滲んだ。


最初に現れたのは、小さな女の子。


幼い頃のリアだった。


まだ剣も持っていなくて、

魔法も下手で、

何度も失敗して泣いていたころのリア。


「……ノク?」


声が、少し震えている。


ノクは声を出そうとする。

でも、音にならない。


リアは気にせず、笑った。


「ねぇ、今日ね、お兄ちゃんと喧嘩したの」


白い手で、地面に座り込みながら話し始める。


「私がさ、無理したの。

そしたらあの人、怒って……でも怒り方下手でさ」


クスクスと、小さく笑う。


「でもね、本当は怖いんだと思う。

私がいなくなるのが」


その言葉が、

影よりも深くノクに刺さる。


リアは空を見上げた。


「ノクはさ、どう思う?」


ふわ、と

影に風が流れる。


ノクは何も答えられない。


けれどリアは、

もうわかっているみたいに微笑んだ。


「……うん、知ってる」


「守ってくれてるんでしょ?」


その笑顔が、

光になって溶けていく。


ノクの中に、何かが残った。


痛みじゃない。

悲しみでもない。


ただ、後悔のような何か。



2. 小さい頃のカゲナ


次に現れたのは、

まだ少年よりも小さなカゲナ。


訓練場でもない、

外の草原にひとり座っていた。


剣も持たず、

空間もまだ創れなかった頃の彼だ。


「……なあ、ノク」


空を見るように呟く。


「僕な、強くなりたいんだ」


その横顔は、不安で揺れている。


「守りたいとかさ、正しいこととか……

正直よくわからない」


「でも」


彼は膝を抱えて、続けた。


「僕が弱いと……誰かが苦しむんだ」


ノクは静かに、彼を見つめた。


「だから……

もし、ノクがいなくなったら……」


一瞬だけ、空間が震えた。


「僕は、たぶん……折れる」


カゲナは笑う。

自分をごまかすみたいに。


でもその目は、まっすぐだった。


「だからさ……勝手に消えるなよ」


その言葉が響いた瞬間、

幼いカゲナは霧のように消えてしまった。


影だけが、

静かに残る。



3. ルミナ


闇の中に、

小さな光の粒がひとつ落ちる。


それが――羽になった。


白く、淡く輝く一枚の羽。


ノクの胸にある、

あの羽と同じだった。


やがて、光が人の形を結ぶ。


ルミナだった。


空に浮いたまま、

昔のように穏やかに笑う。


「また会えたね」


ノクは何も言えない。

でも、彼女はそれでいいというように頷いた。


「寂しかった?」


ノクは、少しだけ首を振る。


「ルミナ、あなたは……」


声は出ないのに、

言葉だけが影に浮かぶ。


ルミナはそれを読み、微笑んだ。


「私はもう、光じゃなくなった」


「でも、消えたわけじゃないよ」


彼女はそっと胸に手を当てる。


「ここに、いる」


影の中で、

彼の心臓と重なる位置に。


「私は記憶でも、残留でもない」


「あなたの“選び続けた想い”そのものだよ」


ノクの胸が、強く脈を打った。


ドクン……ドクン……


「だから、ノク」


ルミナは少しだけ真剣な顔をした。


「あなたはまだ、生きるの」


「夢の中じゃない。

ここでも、あの世界でも」


彼女はそう言って、

ふわっと消えていった。


羽だけを残して。



4. 母、セルロラ


最後に現れたのは、


暗闇の中に立つ、

ひとりの女。


セルロラだった。


王でもなく、

魔王の妻でもなく、


ただの「ひとりの女」の姿で。


「随分と眠ったわね」


静かに言う。


ノクは動けないまま見つめていた。


「……酷い目に遭わせたわ」


彼女の声には、

いつもより柔らかさがあった。


「あなたを剣にしたのは、私」


「道具にしたのも、私」


でも、と彼女は続ける。


「それでもあなたは、まだ人でいようとしている」


セルロラはゆっくり膝をついた。


影に咲く花のように。


「ありがとうとは言わないわ」


「でも……」


わずかに目を伏せる。


「……ごめんなさい」


空間が、震えた。


彼女は手を伸ばし、

ノクの胸に触れようとする。


触れる直前で、止まった。


「そろそろ、戻りなさい」


「彼らが待っている」


その言葉と同時に、

影の世界にひびが走る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ