第13話:偵察部隊のはずが「かくれんぼ」に
①魔王城会議
魔王城の大広間は、もはや「アザゼルの脳波が完全にフラットになった音」しか聞こえない、絶対的な静寂に包まれていた。
クッキングデーモン部隊による「味覚を通じた心理的接近」が、勇者たちに「強制毒見」と誤解され、結果としてレオに「謎のやけど」を負わせ、さらに「勇者たちの逆上による怒りの経験値ブースト」を引き起こしてしまったという報告を受け、アザゼルは完全に「彼岸」へと到達していた。
彼の目は虚ろに虚空を見つめ、口は半開きになっている。
「うむ!
我らがクッキングデーモン部隊の『繊細な味覚表現』が、勇者どもに伝わらなかったとは、誠に遺憾である!
彼らの『見た目への先入観』および『微細な飛沫への過剰反応』を鑑みれば、これもまた、深き反省の対象であるな!」
魔王ゼルガディスは、腕を組み、深く頷いた。
ゴルグの専門用語を、まるで自らの言葉のように使いこなしている。
彼の脳内では、勇者たちが、クッキングデーモンのスープを一口食べ、そのあまりの美味しさに感涙し、「こんな素晴らしい料理をありがとう!」
と感謝の言葉を述べているのだろう。
アザゼルは、もはや「思考回路そのもの」が断線していた。
「魔王様……もう……
もう、私には……
私には、何も……何もできません……」
アザゼルは、床に倒れ伏したまま、かろうじて喉から絞り出すような声で訴えた。
その声は、もはや「存在証明の限界点」を示していた。
「フン!
愚かなクッキングデーモンどもですわね。
わたくしの『魅惑の香水』をスープ全体に吹き付けていれば、勇者たちはその芳香に抗えず、スープを一滴残らず飲み干したはずですわ!
美しさは、全ての毒を蜜に変えるのです!」
リリスが、扇で口元を隠しながら、相変わらず的外れな「美」の論理を語る。
彼女の香水瓶は、もはや「全人類の味覚を破壊する兵器」と化している。
「ぐおおお!
スープが駄目なら、次は『友好の肉体改造講座』だ!
俺が勇者の前で全力でトレーニングの素晴らしさを説いてやる!
そしたら、きっと筋肉の魅力に目覚めて、魔王軍に入隊してくれるはずだ!」
ガオガオが、早くも次の「おもてなし」の準備に取り掛かろうと、大広間で奇妙なスクワットを始めた。
その度に、床がミシミシと音を立て、アザゼルの「精神の断片」がさらに砕け散った。
「……アザゼル殿。
これまでのデータ分析により、『直接的な身体接触』、『直接的な聴覚刺激』、『生産活動を通じた間接的友好形成』、『遠距離からの視覚的友好アピール』、そして『味覚を通じた心理的接近』によるアプローチの限界が明確になりました。
勇者は我々の『友好の意図』を、一貫して『攻撃』と解釈し、最終的に『戦闘』に持ち込むか、あるいは『戦意を向上』させる傾向にあります。
そこで、次の作戦は『心理的距離の短縮を目指す、非接触型友好促進理論』を推奨します」
ゴルグが、いつもの冷静な声で、しかしどこか確信に満ちた響きで発言した。
アザゼルは、その「理論」という言葉を聞いただけで、彼の「脳髄の残骸」が激しく疼くのを感じた。
「『心理的距離の短縮を目指す、非接触型友好促進理論』……?
ゴルグ殿……
今度こそ……今度こそは、まともな……」
アザゼルは、もはや「空気の震え」のような声で懇願する。
「ご安心ください、アザゼル殿。
今回の作戦は、非常に平和的かつ、勇者の『純粋な心』に直接訴えかける効果があると判断します。
人間は『遊び』を通じて、互いの警戒心を解き、親密な関係を築くというデータがあります。
彼らの警戒心を解き、レベル上げ効率を低下させるには、彼らに『遊びの楽しさ』を体験させることが最も効率的であると判断しました。
そこで、その姿を消す能力を持つインビジブル部隊に指令を出します」
ゴルグは、無機質な視線でアザゼルを見つめながら、新たに広げた巻物を見せた。
そこには、姿の見えないインビジブルと、目を瞑って数を数える人間の子供が描かれている。
アザゼルは、もはや「現実と夢の狭間」で彷徨っていた。
「インビジブルたちは、森の開けた場所で、『かくれんぼ』を仕掛けます。
彼らは『姿を消したまま』で、勇者たちに『数を数える』ことを促し、鬼になってもらいます。
勇者たちがインビジブルを見つけられなくても、それは『かくれんぼの成功』であり、『友好の証』です。
そして、インビジブルは勇者たちが隠れ終わるのを待ち、『鬼の番』になったら、彼らを『優しく追いかける』ことで、『遊びの楽しさ』を共有し、戦意を喪失させることが可能です!
これにより、勇者たちは我々の真意を理解し、その場で『童心に帰る喜び』を体験することで、戦闘への意識を逸らすことが可能です!」
ゴルグが淡々と説明する。
アザゼルは、その説明に脳の血管が「光の速さでブチ切れそう」になった。
(『かくれんぼ』!?
『姿を消す能力』を持つインビジブルが、姿を消したまま勇者を追いかけるって、それは『心霊現象』だろ!
勇者が「鬼」になったら、どうやってインビジブルを見つけるんだ!?
『優しく追いかける』って、見えない存在に追いかけられたら、それは『恐怖体験』だろ!
『童心に帰る喜び』じゃなくて、完全に『精神崩壊の危機』じゃねえか!!)
アザゼルの脳内は、悲鳴とツッコミの嵐だった。
ゴルグの理論は、常に「魔族の視点」と「人間側の常識の乖離」を極限まで突き詰めてくる。
今回は特に、その「遊び」が「ホラー体験」に見えるという、最悪のパターンだ。
「ほう、『かくれんぼ』とな!
それは素晴らしい!
遊びは心を繋ぐ架け橋!
共に遊ぶことで、勇者どももきっと我らが魔族の『純粋な心』を理解するであろう!
よし、アザゼル!
この『心理的距離の短縮を目指す、非接触型友好促進理論』、ぜひとも試してみるべきだ!」
魔王ゼルガディスは、目を輝かせながら頷いた。
彼の脳内では、インビジブルと勇者が笑顔で手を取り合い、森の中で楽しそうに「もういいかい?」「まーだだよ!」と叫びながら遊んでいる、牧歌的な光景が広がっているのだろう。
「そうですわ!
わたくしの『魅惑の香水』をインビジブルに全身に浴びさせれば、たとえ姿が見えなくても、その香りに誘われて、勇者たちは自然とインビジブルの元へ集まってくるはずですわ!
美しい香りは、どんな隠し場所も見つけ出しますもの!」
リリスが、香水瓶をキラキラと輝かせながら提案する。
「ぐおおお! かくれんぼか!
よし、俺が最強の『かくれんぼの鬼』になってやる!
勇者もきっと、俺の鬼ごっこ能力に魅了されて、友達になってくれるはずだ!」
ガオガオは、早くも次の「おもてなし」に胸を躍らせ、大広間で奇妙な「鬼の真似」を始めた。
その勢いで、アザゼルの「存在しない胃の残骸」がさらに痛んだ。
「……インビジブル部隊よ!
『記憶の回廊』と呼ばれる森の道で勇者たちを待ち構えよ! 決して姿を現すな! 勇者と遭遇したら、その場で『かくれんぼ』を仕掛けよ!
勇者が『鬼』になったら、絶対に『見つかるな』!
そして、勇者が立ち去ろうとしたら、『鬼の番』になったと認識し、『優しく追いかけろ』!
我が魔族の未来は、お前たちの『隠密行動と遊び心』にかかっている!」
アザゼルの指令は、もはや「地獄からの悲鳴」のようだった。
②勇者との遭遇
その翌日。
『迷いの森』を抜け、『記憶の回廊』と呼ばれる古道を進んでいた勇者パーティーは、そこで奇妙な感覚に襲われた。
まるで、何かの視線を感じるような、しかし誰もいない空間がそこにはあった。
「ん?
なんだか、変な気配がしますわ……」
セリアが魔法杖を構え、周囲を警戒する。
「まさか、これも魔王軍の罠か!?
不可視の魔物か!」
ライアスが聖書を構え、額に汗を浮かべる。彼の分析は、常に危険を察知する。
「ひぃぃぃ!
見えない敵って、一番怖いやつぅぅぅ!」
ミラは、恐怖でレオの背中に隠れた。その時、どこからともなく、微かな声が聞こえてきた。
「…モ…いいかい…?」
その声は、森の木々が囁く風の音にも似て、しかし確かに人の言葉のような響きを持っていた。
「……誰かいるのか!?」
レオが剣を構え、周囲を見渡すが、そこには誰もいない。
インビジブルは、アザゼルの指令とゴルグの「普遍的娯楽理論」、そして「心理的距離の短縮を目指す、非接触型友好促進理論」を懸命に解釈していた。
彼らにとっての「かくれんぼ」とは、その隠密能力を最大限に活用し、勇者たちに「不思議な体験」を提供することであると結論付けたのだ。
そして、「数を数えることを促す」という指令を文字通り受け止めた。
魔物が現れた。どうする?
たたかう
ぼうぎょ
▶ようすをみる
にげる
勇者たちは、正体不明の気配と声に警戒し、まずは「ようすをみる」を選択した。
【インビジブルは、姿を消したまま、勇者たちに「もういいかい?」と語りかけている!】
インビジブルは、勇者たちが警戒していることに気づくと、さらに「かくれんぼ」のルールを促そうと、再度声をかけた。
その声は、勇者たちには、まるで「風のいたずら」のように聞こえた。
「まーだだよ……」
ライアスが、無意識に呟いた。
彼は、子供の頃に遊んだかくれんぼの記憶が蘇ったのだろうか。
「ライアス様、何を言っているのですか!?」
セリアが驚愕する。
「くっ……
これは……精神攻撃か!?
『まーだだよ』などと、無意識に口走らせるとは……!」
ライアスは、自らの発言に動揺し、すぐにそれが魔物の仕業だと結論付けた。
インビジブルは、勇者たちが「まーだだよ」と答えたことに満足し、さらに奥へと姿を消した。
彼らにとっては、勇者たちが「鬼」になり、自分たちが隠れる番だと思っていたのだ。
勇者たちは、しばらく様子を見たが、何も起こらない。気配も完全に消えていた。
「どうやら、逃げたようですわね……」
セリアが安堵のため息をついた。
「くっ……
やはり、不可視の魔物か……。
だが、これで我々の勝利だ!」
ライアスは、誰も倒していないにも関わらず、勝利宣言をした。
「よかったぁ……」
ミラがレオの背中から顔を出す。
勇者たちは、インビジブルが完全に逃げ去ったものと思い、その場を立ち去ろうと歩き出した。
しかし、インビジブルは、勇者たちが「鬼」になり、自分たちが隠れる番だと勘違いしていた。
そして、勇者たちが立ち去ろうとしたのを「かくれんぼ終了」と認識し、今度は自分たちが「鬼の番」になったと解釈したのだ。
インビジブルは、姿を消したまま、勇者たちを追いかけ始めた!
勇者たちが道を歩き始めると、彼らの背後から、微かな風の動きや、草木の揺れる音が聞こえてくるようになった。しかし、誰もその姿を見ることはできない。
「なんだか、後ろからついてくるような……?」
ミラが不安げに振り返る。
「気のせいですよ、ミラ様。もう魔物はいませんわ」
セリアが安心させようとする。
インビジブルは、勇者たちに気づかれないよう、しかし確実に距離を詰めていた。
彼らの目標は、一番後ろを歩くライアスだ。
そして、ライアスに「タッチ」することで、かくれんぼを終わらせようとしていたのだ。
【インビジブルは一番後ろを歩いていたライアスにタッチしようとした際、つまづいて転んでしまった!】
インビジブルの一体が、ライアスの背後から忍び寄り、まさに「タッチ!」と手を伸ばしたその時、木の根につまづいてしまった。
彼は、姿を消していたため、足元が見えていなかったのだ。
【インビジブルの手が、ライアスのズボンに引っかかってしまい、ズボンがずり下がった!】
「へ、へぶぅっ!?」
ライアスは、突然の衝撃にバランスを崩した。
次の瞬間、彼のズボンがずるりと足元にずり下がり、あられもない姿が晒される。
その下からは、可愛らしいウサギ柄の白いパンツがあらわになった。
「きゃあああああああああああああああっ!!!」
セリアとミラが、絶叫しながら目を覆った。
レオは、あまりの衝撃に言葉を失い、固まっている。
その直後、インビジブルは、ライアスに触れたことで「ゲームオーバー」と認識し、姿を現した。
【インビジブルは姿を現した!】
ライアスの目の前に、姿を現したインビジブル。
彼は、満面の笑みを浮かべ、ライアスに向かって「見つけた!」と、魔族語で嬉しそうに告げた。
その瞬間、ライアスの顔は、怒りと羞恥で真っ赤に染まった。
「貴様ぁぁぁああああああああああっ!!!!!
よくもぉぉぉおおおおお!!!」
ライアスの叫びが、森全体に響き渡った。
彼の聖なる瞳には、今までにないほどの怒りの炎が宿っていた。
③戦闘と結果
【ライアスは、怒りに震え、単独でインビジブルに襲い掛かった!】
【ライアスは、聖書を掲げ、憤怒の表情で『ホーリーバースト』を放った!】
【光の柱がインビジブルを直撃し、消滅させた!】
【ライアスは、怒りのままに『神聖魔法:裁きの雷』を連発した! 】
【インビジブルは消滅した!】
ライアスは、もはや制御不能な怒りをもって、残りのインビジブルに渾身の『最終奥義:聖なる審判』を叩き込んだ。
森全体が光に包まれ、全てのインビジブルは塵と化した。
「くっ……
くっそぉぉぉぉぉお!!!」
ライアスは、地面にひざまずき、荒い息を吐いた。
彼の顔は、怒りと羞恥で真っ赤なままだったが、その表情には、すべてを出し切ったような清々しさすらあった。
「ラ、ライアス様……」
レオが、恐る恐る声をかける。
「お、おパンツが……」
ミラが、まだ目を覆ったまま呟いた。
「し、静かにしなさい! ミラ!」
セリアが、顔を赤らめながらミラを制した。
勇者たちは、ライアスの単独行動と、その尋常ならざる怒りの理由に困惑していた。
しかし、結果として、インビジブル部隊は全滅した。
勇者たちはインビジブルを撃破した!
レオは経験値【0】手に入れた!
セリアは経験値【0】手に入れた!
ミラは経験値【0】手に入れた!
ライアスは経験値【600】を手に入れた!
ライアスのレベルが1上がった!
「はぁ……はぁ……
レベルが……レベルが上がったぞ……!」
ライアスは、信じられないものを見るように、自分のステータスを確認した。
彼の目には、経験値の数値とレベルアップの表示が、何よりも尊く映っていた。
羞恥は、一瞬にして歓喜へと変わった。
「な、なんですって!?
ライアスだけ!?」
セリアが驚愕する。
「まさか……
ライアス、あんなことでレベルアップするのか……?」
レオは、呆れたような、しかし納得したような顔で呟いた。
「うさぎ……
うさぎさん……」
ミラは、まだウサギ柄のパンツの幻影に囚われていた。
④結果報告
魔王城。
インビジブル部隊からの報告を受けたアザゼルは、もはや「存在の彼方へ消え去った魂」のような状態だった。
彼の表情は、完全に「無」であり、その瞳の奥には、光すら宿っていない。
「インビジブルが『かくれんぼ』を仕掛け、勇者たちが『姿を消した魔物が逃げた』と誤解して立ち去ろうとして、インビジブルが『鬼の番』だと勘違いして追いかけたら、つまづいてライアスのズボンを下ろして『ウサギ柄のパンツ』を晒した挙句、それに激怒したライアスが『単独で全員を殲滅』し、『ライアスだけレベルアップ』だとぉぉぉぉお!!
しかも、あんな形でレベルアップさせただとぉぉぉぉお!!!」
アザゼルは、もはや喉から「絶望と虚無の混じり合った断末魔」のような音が漏れ出た。
彼は、全身を痙攣させ、泡を吹いて倒れた。
「うむ……
今回のデータから、『普遍的娯楽理論』における人間側の『視覚情報への過度な依存』および『精神的ショックによる覚醒効果』が原因と分析します。
我々の『遊びの提供』は、彼らにとって『羞恥心を伴う自己啓発』と認識されたようです。
そして、『ズボンが下がる』という事象は、ライアス殿の『内に秘められた潜在能力』を覚醒させた模様。
次なる作戦では、より『個人的な成長を促す、非物理的な介入』が必要不可欠ですな」
ゴルグが、眉間に深いシワを寄せ、真剣な顔で分析している。
彼の言葉は、一見すると論理的だが、その根底にあるのは相変わらず「普遍的娯楽理論」という、人間には理解不能な「遊び」の概念と、「魔族独自の常識」が複雑に絡み合っていた。
彼は、インビジブルが全力で「かくれんぼ」を仕掛けたにも関わらず、勇者が「純粋な遊び」を理解しなかったことを、深く憂いているようだった。
「なるほど、やはり我らの『おもてなし』が、まだ奥ゆかしすぎたのだな!
よし、アザゼル!
次はもっと直接的だが、決して攻撃的ではない『自己探求の道』を示すのだ!
我らが魔王軍の『深遠なる教え』を、勇者どもに与えてやるぞ!」
魔王ゼルガディスは、ゴルグの言葉に深く納得したように頷き、倒れ伏したアザゼルに新たな指令を出す。
その顔は、まるで悟りを開いた仙人のようだった。
「そうですわ!
わたくしの『魅惑の香水』を、勇者たちの内なる声に直接働きかけるように改良すれば、彼らはその香りに導かれて、自らの真の姿を悟り、魔王軍へと帰依するはずですわ!
美しさは、自己を見つめ直す鏡ですもの!」
リリスが、手のひらの上で香水瓶をくるくると回しながら、新たな提案を始める。彼女の提案は、もはや「自己啓発セミナーの主催者」と化している。
「ぐおおお!
自己探求か!
よし、俺が最強の『筋肉哲学瞑想』を勇者の前で披露してやる! 瞑想で筋肉を極限まで意識したら、きっと勇者も俺の悟りの境地に達してくれるはずだ!」
ガオガオは、既に次の「おもてなし」に胸を躍らせ、その場で奇妙な座禅を組みながら、唸り声を上げ始めた。
アザゼルは、もはや自分の魂が、この魔王軍の狂気から解放されることをただ願うばかりだった。
(ああ……
もうダメだ……
この魔王軍に、まともな未来は存在しない……
私は、いつまでこの『魔界心理カウンセリング』に付き合わされるんだ……)
アザゼルの意識は、確実に「次元の狭間」へと消え去りつつあった。
彼の存在は、もはやこの狂気の中で、かろうじて保たれているに過ぎなかった。
この魔王軍で生き残る道は、永遠に続く、シュールな精神修行の悪夢のようだった。