なぜ国の制度はこんなに複雑なのか?
教室の黒板に、今日もまた静かに文字が踊る。
『なぜ制度はこんなに複雑なのか?』
~“馬鹿が損をするように作られている”のか?~
魔王インディゴは首をかしげた。
「挑発的な文言だな」
「でもこう書いた方が伝わりやすいでしょ?」
小春が肩をすくめた。
「確かに、お前に渡された教科書にあった制度は意味がわからなかったな。税、保険、法律、手続き……どれも妙にわかりにくい。まるで、分かる者だけが得をするような……」
「その感覚、正解です」
小春はチョークをくるりと回して言った。
「制度が“分かりやすく”なると、全員が使えます。でも“分かりにくく”作れば、一部の人だけが得をします。だから――」
『複雑な制度は、知ってる人だけ得をする“構造”を生む』
インディゴの目が細められる。
「……つまり、“無知な者が損をする”仕組みになっているのか」
「そうです。例えば税制度。控除や優遇措置、還付金など、知ってる人は得します。知らない人は黙って払うだけ。申請しないと受けられない制度も多いんです」
「なぜ、そんな仕組みに?」
「本気で“全員に平等に届けたい”なら、もっと単純にできます。でも、分かりにくくしておけば、知らない人には“配らなくて済む”んです。これは、国にとって“得”ですから」
インディゴは険しい顔になる。
「……ならば、政府は“愚かな民”を放置するほうが都合がいいのか?」
小春は黒板に一言、静かに書いた。
『馬鹿であることが損になる社会は、静かな差別を生む』
「制度は平等に見えて、実は“理解できる人”だけに優しい。学ぶ機会が少ない人、弱者、情報に届かない人……彼らが“取り残される”んです」
「……それは、不公平だ」
「でも、それを変えられるのは“知ること”なんです。知らないことを恥じず、学びを忘れたものが取り残される。学び続けること。教えをこうこと。そして、わかりにくい制度には、“わかりやすくしろ”と声を上げること、それが必要なんです」
最後に、小春は黒板の端にこう書いた。
『知ることは、武器になる。無知とは、武器を持たないこと』
インディゴはうなずいた。
「この国に、学ぶ文化が根づくように……我も努めよう」
「そうです。そしてそのためには、王がまず“わかりやすく伝える力”を持つことが大事なんですよ」
小春の言葉に、教室は一瞬だけ静まり返った。
その静けさの中に、確かな希望の芽があった。