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民衆は馬鹿なほうが政府にとって都合が良いのか?


教室にいつものように魔王インディゴが座っている。 小春はチョークを指に挟み、静かに問いを投げかけた。

 

「さて、今日のテーマは……ちょっと刺激的ですけど、これです」


黒板に白い文字が走る。

 

『民衆は馬鹿なほうが政府にとって都合が良いのか?』

 

「ふむ……確かに、耳を引く言葉だな。だご−−−」


インディゴが腕を組む。


「その問いには、政の本質がある気がする」

 

小春はうなずいた。


「昔から、どの時代、どの世界でも、“民は愚かであれ”と願う支配者はいました。なぜだと思いますか?」

 

「愚かであれば、騙すのも操るのも容易だからか?」

 

「そうです。ちょっと失礼な言い方ですけど、考える力が弱ければ、あるいは考える気がなければ、


・おかしな法律に疑問を持たず  

・税が増えても文句を言わず  

・不正があっても見抜けない


のです」

 


「つまり、“都合のいい民”になってしまうということか」

 

「その通りです。ある意味、賢い民は迷惑なんです。政策にいちいち声をあげ、邪魔をする。政策は精査されて滞り、やりたいことが一向に成せない。たがらこそ、聞こえの良い政策に迎合してくれる、愚かな民を、都合のよい民を求めました⋯⋯」



とはいえ、と小春は続ける。



「それは“短期的には”都合がいいだけです」


小春の目が鋭く光る。


「愚かな民は、いずれ『騙された!』と気づいた時、暴力に走ります。怒りと憎しみの火は、一度燃え上がると止められません」

 

「……暴政が革命を生むのだな」

 

「はい。そしてもうひとつ――」


彼女は黒板の下に、別の文字を加えた。

 

『賢い民は、賢い政府を作る』

 

「民が賢くなれば、政府は“正直”にならざるを得ません。ごまかしが効かなくなるからです。だからこそ、教育が大事なんです」

 

インディゴはしばらく黙っていたが、やがて小さく言った。


「民を賢くするのは、王の責任でもあるのだな……」

 

「はい、そして民もまた、自分の国を“見張る責任”がある。 “王が賢いから大丈夫”では、民主政治は育ちません」

 

小春は、黒板の最後の一行をチョークで強調した。

 

『無知な民は、愚かな政府を生む』

 

「だから、私はこうして授業をしてるんです。知ることは、守ること。話し合うことは、争わないこと」

 

「……今日もまた、深い学びだった。小春よ、次は何を問う?」

 

「そうですね、せっかくなので、もう一つ考えてみましょう。テーマは、『どうしても国の制度はややこしいのか?』です」


魔王は首を傾げた。


「ピンときませんよね? 現状、魔界の制度は単純明快ですからね」


力こそがすべて。

強いものが生き、弱いものが死ぬ。

暴力により保たれる秩序。

それが魔界。

いや、私の現実も変わらないのかもしれない、小春はそんなことを思った。


「しかしこれから、民主政治を始めようとする魔王様には、知っておいてほしいのです」


宝石のように深い青を湛えた小春の瞳が、より色濃く沈んだように魔王は思った。しかし魔王には、それが眩い輝きにも思えた。


「よかろう。では小春、すぐにでも授業を始めるのだ」


息巻く魔王。

しかし小春は首をふり。


「殘念ながら魔王様、今日は少し遅くなってしまいましたので、この話はまた次回に」


外は既に日が落ちていて、ろうそくの淡い光が二人を照らす。

国の制度はややこしいよね。

また次回!

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