独裁と民主主義、どちらが正しい?
翌日。
小春は教室に入るなり、黒板に大きくこう書いた。
──
【独裁と民主主義 どちらが正しい?】
──
魔王インディゴはその文字を見て、ゆっくりと眉をひそめた。
「……答えなど、あるのか?」
「それを、今日は一緒に考えましょう!」
小春は嬉しそうにチョークを回しながら言った。
「まず、独裁には良いところも悪いところもあります」
「良いところとは?」
「おわかりになるでしょ?」
小春がいたずらっぽく笑った。
「ふん、そうだな。王が優れていれば、自然と国は栄えるだろうか」
「さすがは賢帝!よく魔界を治めているたまけはありますね」
「下手な世辞はいらん。授業を続けろ」
仰せのままに、と小春は深くお辞儀をし、続けた。
「たとえば、リーダーが優秀だった場合──決断が早い。迷いなく国を引っ張れる。それに、国民が混乱しにくい」
小春は黒板に『独裁の長所』と書き、さらに続けた。
・優秀な独裁者なら国が発展する
・決断が早く、無駄がない
・混乱を抑えやすい
「インディゴ様、今の魔族の国が安定しているのも、インディゴ様が優秀だからこそです」
しかし小春は少しだけ、表情を曇らせた。
「でも、独裁には恐ろしい欠点もあります」
・独裁者が無能だった場合、誰も止められない
・民の声が届かない
・権力が腐敗しやすい
「一人の判断が、国全体を滅ぼしてしまう危険があるんです」
「……確かに。力あるがゆえの危うさ、か」
小春はうなずき、次に『民主主義』の話に移った。
「民主主義は、みんなで話し合って決めます。独裁に比べれば遅いけれど──」
・みんなで支え合う
・一人の暴走を防げる
・多様な意見を取り入れられる
「誰か一人が暴れても、他のみんなが止められる。だから、国が安定しやすいんです」
インディゴは腕を組んで考え込んだ。
「……では、やはり民主主義が正しいのか?」
「いいえ」
小春はぴしっと指を立てた。
「民主主義にも、さっき話した通り弱点があります」
・決断が遅い
・人気取りばかりで中身が薄くなる危険
・民が未熟だと、国も道を誤る
「先日話をしたポピュリズムがまさにその代表例です。その他にも、代表者が悪意をもって民を扇動したり、あるいは対立する者を大衆の意思を建前に攻撃したり、独裁のようにスピード感はないかもしれませんが、その分動き出したら止まらない、恐ろしさはあります」
小春はセリフを区切る
「つまり──」
魔王の言葉を待った。
「……どちらにも長所と短所がある、ということか」
「はい。だから大事なのは、『制度』じゃなくて『中身』なんです」
小春は黒板に大きく書き足した。
──
【大事なのは、王と民の『質』である】
──
「どんな制度でも、担う者が未熟なら腐ります。
でも、どんな制度でも、担う者が優れていれば、国は栄えるんです!」
魔王インディゴは、静かに目を閉じた。
「……制度だけを信じてはならぬ、か」
「はい。独裁でも、民主主義でも、成功するかどうかは──」
小春は笑った。
「国を支える一人ひとりの、覚悟と賢さ次第です」
魔王は深く、深く頷いた。
「ならば、どの道を選ぶにせよ──我が民も、我も、成長し続けねばならぬな」 「その通りです、魔王様!」
二人の声が、空に響いた。
未来はまだ、どちらに転ぶか分からない。
だが、彼らは知った。
『正しい道』とは、与えられるものではなく、自らの手で育てるものだと──。
「ならばなおのこと、学校の設立を急がねばな。以前話したあの件はどうなっている?」
「あー、進めてはいるんですけど」
普段快活に喋る小春が言い淀む。
「なんだ?何か不都合でもあるのか?」
「いえ、単純に、まだ形になるほど進んでいないというだけで、報告できるものができたら、お伝えしようかと思っていた次第です」
「何かあれば、遠慮なく申せよ」
「はい」
小春の、魔界学校大作戦については、とある筋肉バカの魔物と文化馬鹿の魔物が激論を繰り返し、教育方針の対立から暗礁に乗り上げているのだが、そこら辺のゴタゴタは別の話なのでまたいずれ。
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