政党③民主主義と政党の限界
その日の授業が終わった後も、魔王インディゴはどこか考え込んでいた。
小春は、それを見てにっこり笑った。
「……何か気になること、あります?」
「うむ……民の成長、政党の成熟……考えれば考えるほど、民の力が大事だと痛感する」
小春は頷き、少しだけ真剣な顔になった。
「そうですね。だからこそ、次にお話したいことがあります」
黒板に新しく、ゆっくりと書き出す。
──【民主主義と政党の限界】──
「民主主義は、民の意見を重んじる、素晴らしい仕組みです」
「うむ」
「でも、完璧ではありません」
インディゴが静かに首を傾げた。
「ほう……?」
小春は、チョークで"完璧ではない"の下に大きな矢印を書いた。
「たとえば、民が必ずしも『正しい選択』をするとは限らないんです」
「……どういうことだ?」
「民も、時には感情に流されます。甘い言葉を言うだけの政党を選んでしまったり、現実を見ずに理想ばかり追ってしまったり──」
小春は、少しだけ哀しそうに笑った。
「これを『ポピュリズム』と呼びます」
黒板に『ポピュリズム(大衆迎合主義)』と書き加える。
「聞こえのいい約束ばかりを並べて、民の人気を集める。でも、本当にそれを実現できるかは別問題だったりする」
「……なるほど、民の心が未熟なままだと、政党もまた堕落しやすいのだな」
「はい。だから民主主義も万能じゃないんです。放っておけば、いずれは腐ってしまうこともある」
インディゴは深くうなずいた。
「民の心が成長せねば、国もまた危うくなる……」
「その通りです。民主主義は、民が賢くなり続けないと成立しないんです」
小春は、もう一つ黒板に言葉を加えた。
──
【民主主義の限界】
・民が誤った選択をすることもある
・ポピュリズムに流される危険
・常に『育て続ける』必要がある
──
「政党もまた、権力を握った後に腐ることがあります。自分たちの利益ばかり考えて、国民をないがしろにする政党も、悲しいけど存在します」
「……政党を監視するのも、民の責務なのだな」
「はい。そして、もしも政党が駄目になったら──新しい政党を作る自由も、民主主義にはあります」
「新しい政党を?」
「ええ。民が声を上げれば、変えることができる。だから、本当の意味での民主主義は、終わることのない『国民と政党の対話』なんです」
魔王インディゴは、重く、ゆっくりと頷いた。
「民を育て、政党を育て、互いに高め合う……か」
「はい。それができれば、民主主義は最強の政治体制になるでしょう。でも、できなければ──」
小春は、チョークをコツンと黒板に当てた。
「……ただの数の暴力になってしまう」
教室に、静かな緊張が走った。
インディゴは拳を握りしめ、まっすぐ前を見た。
「ならば、我が民を育てよう。政党が育つ国を、必ず築こう」
「はい、魔王様! 私も、力いっぱい手伝います!」
二人は固く、未来への誓いを交わした。