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直接民主制と間接民主制

 紀元前の哲学者、アリストテレスは、政治制度に関して著作を残している。

 政治制度を『一人の支配』『少数の支配』『多数の支配』に分類し、その中で最も安定性の高い政治形態を『多数の支配』である『共和政治』と定めた。

 しかし『共和政治』を行う際、そもそも多数の市民がある程度の資産と教養を身に着けていることが大前提とアリストテレスは示している。

 政治を担う国民が私利私欲に走ると、共和政治はすぐさま堕落し、衆愚政治に陥る危険性があることもアリストテレスは語っている。

 これは現代の政治においても考えるべき重要な課題の一つであろう。

 



 前回までのあらすじ。

 団子頭がトレードマーク。

 大学生の飯治(いいはる)小春(こはる)は、不慮の事故で異世界に転移してしまった!

 魔族の国を彷徨う彼女は、危うく奴隷商人に売り飛ばされそうになりながらも、持ち前の機転と度胸で危機を脱し、逆に商会を乗っ取ってしまった。

 裏稼業で名をあげる小春──広く名前が知られるようになった彼女の前に現れたのは、魔族を統べる王──魔王インディゴであった。

 果たして、小春の運命や如何に──新本格青春エンタここに開幕!




「何しとるんだ?」


「あらすじを書いてるんです」


「あらすじ?」


「はい、私って趣味で小説書いてるんですよね。ほら、魔界って娯楽ないじゃないですか。なので私の世界で売れたような話をここで書けば、結構売れるんじゃないかって」


「どうだかな。小説とはつまり、作り話だろ? 魔族が好むのは血沸き肉躍る戦乱だ。目の前で起きる殺戮ショーよりも刺激的なものなど、そうそう作れんよ」


「どうでしょうね。魔族だってみんながみんな争いが好きなわけじゃあないでしょうし、仮に魔界が駄目でも人間界に行けば結構いい線いくかもしれませんよ」


「ま、俺は別に咎めたりはせん、授業さえしっかりやってくれれば、後は好きにやれば良い。ふん、しかしなんだ、もう書き終えているのか? だったら俺が読んで、感想でも言ってやろう」


「あ、いえ、まだできてませんよ。あらすじを書いてみただけです」


「……普通あらすじって書き終えてから書くもんじゃ?」


「そうなんですか? 私って小説とか書いたことないので、勝手がわかりませんけど」


「まぁ、好きにやれ、そういう書き方もあるにはあるだろう」


「そうさせていただきますね。にしても、小説とかお詳しいんですね」


「無論、そういった文芸も教養として学んでいるよ。足りないのは政治学! だからお前をここに置いてやっているんだ」


「そうでしたね」


「さて、今日の授業を始めるぞ! 小説なんて後にせい! ほら立った立った、今日は民主政治の話だったな。よろしく頼む」


「……勉強熱心ですこと。ええ、わかりました早速始めましょう」



 そういうと小春は立ち上がり、チョークを握る。



「前回は宿題を出しましたね。ちゃんと読んできましたか?」


「言われた通り、読んできたぞ。『古代地中海世界の政治』だったかな? ローマとやらがどこかは知らんが、なかなか勉強になったよ」


「左様ですか。でしたら問題を出しても答えられますよね? よろしいですか?」


「……ちょっと待って。復習させてくれ」


「駄目です。ちゃんと読んで頭に入ったなら、いらないはずです」


「ぐぬぬ……貴様は慈悲の心を持ち合わせていないのか」


「持ち合わせているから、こうして授業をしているんです。では問題です。『民主政治』には、国民が全員政治に参加する形態と、国民から選ばれた代表者が政治を行う形態の二つがありました。それぞれ何と言いましたか?」


「ひとつは、『直接民主制』だな、もう一つが『間接民主制』」


「お、流石ですね。しっかり覚えているじゃないですか」


「当たり前だ、俺を誰だと思っている。魔界を統べる魔王インディゴ様だぞ」


「はいはい。では続きいきましょう。『直接民主制』と『間接民主制』の違い、言えますか?」


「直接民主制は、国民一人一人が政策を決めるやつだろう? 間接民主制は、選ばれた代表者が代わりに決める」


「バッチリですね。ちなみに、直接民主制が実際に行われていた国、覚えていますか?」


「……アテネ、だったか?」


「正解です! 古代ギリシアのポリス──都市国家アテネで、成年男性市民全員が集まって国の方針を決めていました。あ、ちなみに女性や奴隷、外国人には政治参加権がありませんでした」


「なんだ、随分と狭い『国民』だな」


「そうなんです。今で言うと、国民の中の一部しか政治に参加できなかったんです。だから本当の意味で『みんなの政治』とは言えなかったかもしれませんね」


「ふむ。なら、間接民主制のほうが現実的ということか?」


「その通りです。国が大きくなればなるほど、全員が一堂に会して決めるなんて無理ですからね。だから代表者を選んで、代わりに議論してもらう形になったわけです」


「なるほどな。だが……」


魔王インディゴは腕を組み、真剣な顔で唸った。


「どうしたんです?」


「代表者を選ぶとなると、結局はその代表が腐ったら終わりではないか?」 


「おお!さすが魔王様!だてに魔界を統治しちゃぁいませんね!だから『選挙』がとても大事なんです。ちゃんと信頼できる代表を選ばないと、国民が損をすることになります」


「……つまり、民の側にも賢さが求められる、というわけか」


「そうですね。どんな政治形態にも弱点はあります。直接民主制も、間接民主制も、完璧ではありません。結局のところ、政治を担う人間の質が問われるんです」


「ふむ、どの道、国をよくするためには、民も王も成長せねばならんということか……」


「その通りです。魔王様、今日は素晴らしい学びを得ましたね!」


小春はぱん、と手を打った。


「うむ、わかりやすかった。褒美にこの後、魔界名物『火竜焼き』を奢ってやろう」


「えっ、あ、ありがとうございます! って、火竜焼きって辛いやつじゃないですか! しかも火を吹くレベルの!」


「教育の後には試練があるものだ。ふははは!」


魔王は高らかに笑った。

小春は内心、(絶対水も準備しなきゃ……)と小さく決意したのだった。




さて次回は、間接民主制を支える制度──「選挙」や「政党」について、さらに深く学んでいくことになる。


異世界で学ぶ中学公民講座、まだまだ続く!


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