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国防と兵役――戦うとはどういうことか



教室の空気はいつもより少しだけ張り詰めていた。


小春は教壇の前で静かに深呼吸をすると、黒板に大きくこう書いた。


『国防と兵役――戦うとはどういうことか』


「さて。今日はちょっと重たい話をします」


そう前置きしただけで、教室の空気がピンと張る。


「戦争です。……とはいえ、剣を振り回したり火の玉で吹っ飛ばしたりする話ではありません。今日は、国家が“どうして戦争を始めてしまうのか”、そして“そのために人を徴兵するということはどういうことなのか”を考えます」


魔王インディゴが軽く目を細めた。


「小春、ずいぶんと重いテーマを選んだな」


「魔王様こそ、何百年も戦争と関わってきた方の前でお話しするのは緊張しますけど……まあ、やりますよ」


小春は軽く微笑んでから、話を続けた。



---


【戦争は、誰が始めるのか】


「戦争は、感情で始まるものではありません。外交の失敗、経済の不均衡、宗教・民族対立、権力闘争、時には“国内の不満を外に向ける”ために、計算されて始まるものです」


小春は黒板に「戦争のトリガー」と題していくつかの言葉を書いた。


領土問題(例:ロシアとウクライナ)


経済制裁と報復(例:第二次世界大戦前の日本)


宗教・民族対立(例:旧ユーゴスラビア)


同盟と集団安全保障(例:第一次世界大戦)



「たとえば日本が第二次世界大戦に突入したきっかけは、“石油の禁輸”が大きかったとされています。燃料がなければ軍も動けません。そうなると『取るしかない』という発想に至る。そこに、“正義”や“大義名分”があとから乗ってくるんです」


「つまり、戦争は突然に起きるようでいて、いくつもの政治的な階段を経て始まるということか」


「はい。しかもそのプロセスには“民意”が利用されることもあります。つまり、“みんなが賛成してるから”と。だからこそ、国民一人ひとりが冷静に考える必要があるんです」



---


【国を守るって、どういうこと?】


「じゃあ、“国防”って何でしょう?」


小春は板書する。


国防=国家の主権、領土、国民を外敵から守ること。


「国防って聞くと、“戦争の準備”をイメージする人が多いですけど、本質は違います。“起きないようにする準備”なんです」


「つまり、抑止だな。こちらが戦う準備を見せることで、相手に『やめとこう』と思わせる」


「そうです! たとえば自宅に『セキュリティ完備』ってステッカーがあると泥棒が入りづらくなるでしょ?あれと同じ」


「妙に現実的だな」


「そういうの好きなんで」



---


【兵役とは何か】


「次は、“兵役”です。国を守るために“国民に義務を課す”制度です。今でも、いくつかの国では“徴兵制”が取られています」


小春は列挙する。


● 現代の徴兵制(一部抜粋)


韓国:男性は約18~21か月の兵役義務。拒否すれば処罰される(最近は代替制度あり)。


スイス:男女問わず兵役義務あり。訓練後も予備兵として登録。


イスラエル:男女とも徴兵。18歳以上。女性は約2年。


ロシア:1年間の徴兵あり(ただし近年は契約兵化が進む)。



「ちなみに日本は“徴兵制”はありません。憲法第18条で“意に反する苦役”が禁じられているし、憲法9条で“戦力”を持たないとされてますから」


インディゴが首を傾げる。


「では、日本は誰が守っているのだ?」


「自衛隊です。憲法上は“軍隊”じゃないけど、実質は近代的な戦力を備えてます。あとは、アメリカとの“日米安保”という同盟ですね」



---


【兵役のメリットとデメリット】


「兵役制には賛否があります。たとえばメリットはこうです」


国防力の確保


国民の意識向上(国防意識)


職業訓練や教育の一環として



「一方、デメリットもあります」


個人の自由を侵害する可能性


兵士の質が安定しにくい(訓練期間が短いため)


社会復帰の困難さ


政治利用の危険性(“若者を消耗品にする”懸念)



「つまり、徴兵制って『国を守る』という美名のもとに、人の人生にものすごく深く介入する制度なんです。だからこそ、慎重に考える必要がある」



---


【日本の今と未来】


「さて、日本の現状を見てみましょう」


憲法により徴兵制は難しい(ただし解釈改憲の可能性あり)


自衛隊は志願制だが、隊員数が年々不足


国防費は年々増加、2024年度でGDP比2%超え


国際的な緊張(中国、北朝鮮、ロシア)により“有事”への関心は高まっている



「つまり、今後“徴兵制を復活すべきか?”みたいな議論が出てくる可能性はあります。ただしそれには、『誰が何のために戦うのか』という倫理的な議論を避けては通れません」



---


【戦争を防ぐ最後の防波堤】


「……最後に、ひとつ」


小春は黒板に大きくこう書いた。


『国を守るのは、兵士だけではない』


「戦争を防ぐには、政府の暴走を止める知性、冷静に情報を見る目、そして『この道は違う』と声を上げる勇気が必要です」


「つまり、国防とは“知識と議論”も含まれると?」


「その通りです。戦争を止めるのは、誰かが作った“平和の機械”じゃなくて、“私たちの言葉”なんです。だから……今日この話を聞いたあなたも、すでに“国を守る側”なんですよ」


インディゴはしばし沈黙したあと、小さくうなずいた。


「……小春。お前の言葉は、剣より重い」


「そのセリフ、録音しておけばよかった」


「やめてくれ、恥ずかしい」


教室に、少しだけ緊張がほぐれた笑い声が漏れる。



---


【まとめ】


戦争は“突然”ではなく“積み重ね”で始まる


国防は“抑止”であり“戦争の準備”だけではない


兵役は国防の一形態だが、倫理的な問題をはらむ


日本では徴兵制はないが、国防を巡る議論は続く


最後に国を守るのは、“言葉”と“意志”である




---


「では、今日の授業はここまでです。質問がある人は、武器ではなく手を挙げてください!」


「……今日ばかりは茶化せぬな」


「そこをなんとか茶化せるようになるのが、平和な国の証拠なんですよ」



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