なぜ我々は税金を払わされるのか
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「さて、今日のテーマは……これです!」
小春は黒板にチョークで大きく書いた。
『なぜ我々は税金を払わされるのか』
「うーむ、なんというか、タイトルに悪意を感じるな……」
魔王インディゴが眉をひそめる。
「そんなことありません。私たちが自然に感じる疑問を、素直に言葉にしただけです。魔王様だって、あの納税通知書を見て『うへぇ……』って声が漏れたって噂ですよ?」
「誰がそんなことを……!」
「私ですけど?」
小春はにこりと笑った。
「さて、税金です。言ってしまえば、国家という仕組みを動かすための“燃料”ですね」
「では、魔力のようなものか?」
「そうです。国は一種の巨大な“装置”です。その装置が学校を建て、道を作り、病院を動かし、裁判所で正義を裁き、魔物から国民を守っているわけです」
「つまり、払った分だけ国がちゃんと動く……?」
「それが理想です。でも現実は、ちょっとややこしい」
小春は黒板の隅に「理想」と「現実」と書き分ける。
【理想】
国民から集めたお金を、国民のために公正に使う。
【現実】
複雑な制度と利権と帳簿の海で、誰も全体像がわからない。国民も「まあ仕方ない」と諦める。
「ふむ……」
「もちろん、税金を払うのは義務です。憲法にもはっきり書かれてます。“すべて国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ”(日本国憲法 第30条)。でも、なぜそれが“義務”なのか──今日はそこを掘り下げます」
小春は指を一本立てた。
「まず大前提として、“国民には公共サービスを受ける権利がある”。これがあるからこそ、義務も生じます」
「ふむ。権利があるから、義務があると……」
「そう。国家は国民に教育・医療・福祉・治安・裁判などのサービスを提供します。その代わり、国民はそれらの“維持費”を支払う。それが税金」
「では払わぬ者は、そのサービスを受けられぬということか?」
「それがまた難しいんです。国民全体に関わる“公のサービス”は、個人の支払い有無に関係なく提供されます。例えば道を歩くのに“道利用税”とか取られませんし」
「確かに……」
「だからこそ、税金は“連帯責任”のようなものです。“みんなで国を維持する”という思想ですね」
魔王は腕を組み、ふむ、と唸った。
「だが……それでもやはり、不公平だと感じる者は多いのではないか?」
「そうなんです。だから、税の話は“権利”と“義務”のバランスそのもの。たとえば、生活が苦しい人にとって税は重荷。でも、税をちゃんと払ってない大企業がいたりすると……それは不満も出ますよね」
「うむ……民の怒りも当然だな」
「実際に、裁判になった例もあります」
小春は書類を取り出す。
「たとえば『租税法律主義』という原則。これは“税金は必ず法律で定めなければならない”というルールです。勝手に課税したらダメ、ということ」
「当然といえば当然だが、そう書かねば守らぬ者もいるのだな」
「そうです。戦前の日本では、天皇の命令で新しい税を作れた時代があったんです。今では考えられませんが、“課税には法律が必要”ということが、ちゃんと憲法で保障されてるのは重要です」
「税の徴収にすら、法の下の平等が求められるということか」
「その通りです。ちなみに“税金の使い道”についても、国民が意見を言う権利はあります。言論の自由、請願権、選挙権……全部、税と深くつながってるんです」
小春は、黒板に大きく「権利」と書き、その下に矢印を伸ばす。
言論の自由 → 税金の使い道に口を出せる
請願権 → 無駄遣いを正すために声を上げられる
選挙権 → 税の配分を決める議員を選べる
「……というふうに、税金は“ただ取られるもの”じゃない。“取られ方”や“使い方”を考えることこそ、国民の“権利”なんです」
魔王はしばらく黙っていたが、やがてゆっくり口を開いた。
「つまり、黙って払うだけでは、義務を果たしても、権利を活かしていない、ということか」
「そうです。税は、ただの支払いじゃありません。“この国をどう運営するか”に参加する入口なんです」
「……小春」
「はい?」
「余は、お前の授業が好きだ。時々、胃が痛くなるが」
「ありがとうございます。胃薬、持ってきましょうか?」
「頼む」
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【本日のまとめ】
税金とは:国家を維持するための“共同出資金”
税を払う義務:公共サービスを受ける権利の裏返し
税の使い道に関与する権利:言論の自由・請願権・選挙権などと直結
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「というわけで、今日の講義はここまで! 次回は“国防と兵役”についてでも話してみましょうか」