二重の輪郭
自分自身になりたい、そんな願望は昔からあった、でも社会が求めてる物は普通だと幼いながらに気付いた。
だから僕は普通を演じてきた。ばれたりもしたし、いろんなことがあった。そんななかでも悩みの種が一つある、それは、叶わないであろう初恋をしてしまったこと。
「水瀬今日もごはん一緒に食べよー」
昼休みになると教室に想い人がやって来る。これが最近では当たり前になってきた。
この人が僕の好きな雫先輩。優しくて、可愛くて、頭も良い、そんな人。
「もちろん食べましょういつものとこで良いですよね?先輩」
いつもの場所、それは中庭だ。
中庭は人が多いわけでもないし、少ないわけでもない、僕達にとってちょうど良い場所だ。
「いつものベンチ空いてるよ」
先輩が指差すベンチに僕たちは座り、ごはんを食べだした。
「先輩のごはん、いっつも思いますけど美味しそうですよね」
先輩の弁当は、彩り豊か。それに栄養バランスも考えられていると思う。
「ありがとう、これ私が作ってるんだよね」
「凄いですね、大変じゃないんですか?」
「大変だけどさ、お母さんと妹が美味しいって言ってくれて、その原動力で頑張れるんだ」
好きな何かについて語る先輩は僕が一番好きな先輩だ、劫末の日まで見ていたいほどに。凄く生き生きしていて、見ているこっちにまで伝染してしまう様な楽しそうな言動。
「ご家族のこと大好きなんですね」
「うん、大好き」
そう言う先輩の笑顔は輝いていて、誰もが見入ってしまうほどだった。
「そうだ水瀬も食べてみてよ」
「良いんですか?」
「もちろん」
好きな人が作った料理、そんなの嬉しくないはずがないよね。
「じゃ、これあげる。」
先輩から貰ったのは卵焼き。でも今はそんなことは、どうでもよくなってしまった。なぜなら先輩は箸を僕の口に押し付けてきたから。
「せ、先輩!?」
「水瀬どうしたの?」
先輩は心底不思議そうに聞いてくる。……あーもう、どうにでもなれ。そう思い自暴気味に、僕は先輩の箸に口をつける。
「どう、美味しい?」
どんな味だろうと、僕は美味しいと言ってしまうだろう。でもお世辞抜きで、この卵焼きはおいしかった。ほんのり甘くて、僕が好きな味付け。
「先輩の卵焼き美味しいです」
「ほんと?ありがとうね、水瀬がそう言ってくれるの嬉しい」
その言葉に僕は勘違いをしてしまいそうになる。でもわかる先輩は、そんな気持ちなんて微塵もないことが。。
それからは先輩に僕のお弁当をあげたり、他愛のない話をしたりして過ごした。
「水瀬またねー」
先輩は教室まで付いてきて、その道中楽しそうに話しかけてくれた。
手を振りながら去っていく先輩に、僕も手を振り返す。
先輩と話すのはやっぱり楽しい。でもそれ以上に最近は、先輩を騙して近くにいる自分に、嫌気がさしてくる。今日も僕が僕なら、先輩はあんな行動しなかったと思う。
それからは何事もなく、いつもどうりだった。放課後になると隣の教室から親友が来る。
「一緒に帰ろうぜ」
「もちろん」
この人は、戸崎優真くん。僕の秘密を家族以外で、現時点で、唯一受け止めてくれた人だ。
「今日も水瀬の家よって良い?」
「あーうん良いよ」
移動しながら、そんな話をしていると玄関につく。下駄箱を開けると中には一通の手紙があった。
「手紙?」
「そうっぽい」
中には、「校舎裏で待ってます」とだけ書かれていた。こういうのは、ぼちぼちある。
「優真くん、ごめんすぐ帰るから待ってて」
「分かった別に急がなくても良いからな」
そう言う優真くんを尻目に早歩き気味で、目的地に向かった。
校舎裏に行くと、一人の知っている生徒がいた。たまに話す程度のクラスメイトだ。
「水瀬さん来てくてありがとう」
少しばかり安堵したように一人の生徒はそう言う。
「それで何のようかな?」
「始めて見たときから水瀬さんが好きでした、付き合ってください」
「今、好きな人がいるので貴方とは付き合えません」
もはや定型文と化した言葉を返す。それを受け取った相手は、落胆したような表情をし、帰っていった。
こういった告白は、まあまあくる。僕をよく知らない人間、告白してくるのは大抵そんな人だ。僕を好いてくれている。それは普通なら、純粋に受け取って喜べるはずなんだ。
でも僕は素直に喜べない。相手は確かに僕を見てる、だけど僕を観ていない。
相手は悪くないのは分かってるし、僕が心の内を告白すればいい話だって分かってる。でもそれが原因でどうしても相手の好意を、上手く受け取れない自分がいる。
まあそんなことは考えてもしょうがない、僕はそんな思考を振り切り、優真くんの待つ場所へ向かった。
「どうだった?」
開口一番にそう聞かれた。
「いつものだったよ」
「そうか」
いつもので伝わるほどに、今の僕が告白されてる、好かれている、そんな事実に少し嫌気がさした。
みんな秘密を知れば僕から離れていくのだろうか、嫌うのだろうか?昔から思っている疑問だ。答えはすぐに出せる、でもそんな勇気は僕にはない。
「佑真くんそんな話は置いといて、今日アプデだよ」
「そっか!!アプデ今日か」
それからはゲームの話で盛り上がった。話に夢中になっていると、僕の家に着く。二階建ての家。表現を気にしないで言うなら普通の家だ。僕は普通が一番いいと思う。
「ただいま」「お邪魔します」
そう僕らが言うと、奥からお母さんが来る。お母さんは少し話すと、奥にいってしまった。
二階に上がり僕の部屋に行く。
部屋に僕だけ入ると、着替え始める。優真くんは部屋の前で待ってくれている。なにも変わらない、いつものこと。
ちなみに僕の部屋は、どこにでもありそうな男子高校生の部屋。つまり良くも悪くも普通だ、まあ僕が思う普通だけどね。
「入って良いよ」
そう言うと、優真くんが扉を開き入ってきた。
「じゃあゲームするぞ!」
「そうだね」
僕たちはゲームをして過ごしていた、そんな折りに
優真くんは僕に聞いてきた。
「あのさ、最近どう?」
「どういうこと?」
優真くんは、よく遠回しに聞いてくる。意味がわかることもあるが、わからないことももちろんある。
「……その、友達と上手くやれてる?」
「うーん、多分やれてるんじゃないかな」
喧嘩とかはしてないし、上手くいってると言って良いんじゃないかな。
「そうかそれなら良いんだ」
「ありがとね、気にしてくれて」
「良いってことよ」
その一言を皮切りに、僕たちはゲームに戻っていった。そうして時は過ぎ、もういい時間となり。お開きとなった。
「じゃあ、優真くんまた明日」
「おう、あっくんもまた明日な」
そう言い、手を振りながら帰っていった。ちなみにあっくんというのは、僕が優真くんにあだ名で呼んでほしいとお願いして、つけてもらったものだ。
「何しよっかな」
どうしよう優真くんが居なくなると、暇になってしまった。ゲームをするのも良いかもだが、今一人でするのは、あまり気分ではない。
そう考えてるうちに先輩が脳裏によぎる。最近はいつもこれだ。先輩をどうしても想ってしまう。でも想えば想うほど、先輩も僕を観てくれないことを、自覚してしまいナイーブになってしまう。
こういうときは、あんまり考えずに寝るのが一番良い。そう思い僕は寝ることにした。
――♪~~
「んん」
目覚まし時計の音で僕は起きる。朝は着替えて、ごはんを食べて、歯磨きして、登校する。
「優真くーん」
「おっ、きた」
僕と優真くんは家が近い、だから毎日一緒に登校をしている。こういうののせいで、周りから色々言われたりするが、あんまり気にしないようにしている。別に僕らはただの親友だしね、周りが言うような物じゃない。
そんなこんなで、優真くんと話してるうちに学校についた。
「じゃまたな」
「うん優真くんバイバイ」
僕らの教室は違うから一旦ここでお別れ。
教室に入ると、友達が話しかけてる。一応仲の良い友達はいる、でも誰にも秘密は言えてない。いなくなるのが怖いから。
今日も友達とは、当たり障りの無い会話しかできなかった。
「水瀬ーごはん食べよー」
お昼休みになると、いつもどうり先輩が来た。
「わかりました先輩」
僕らは、いつものように中庭を目指し、歩き始めた。その間先輩は、話しかけてくれる。それに僕は答える。そんなことを繰り返していると、目的地についた。
先輩がベンチに座り、僕も隣に座った。
「水瀬今日も私のお弁当食べる?」
「良いんですか?」
そう聞くと「良いよ」と先輩は言ってくれた。先輩が作るものなら、何でもほしい。そういった欲は誰でも存在すると思う。
先輩がくれたのは、昨日とおんなじ卵焼き。昨日と同じくとても美味しい。それに貰い方も、昨日と同じくお箸をつき出される方式だった。先輩に「美味しいです」と返すと、笑顔でとても喜んでくれた。
先輩の笑顔はとても可愛い。僕にそれを向けてくれる、それだけで嬉しい。はずなんだ、でもやっぱり、先輩が見せる笑顔は、友達や中の良い相手に対しての安心しきった顔。僕が欲しているものとは少し違う……
「水瀬ってさ好きな人いる?」
先輩と当たり障りの無い会話をしていると、先輩が聞いてきた。
なんと言うか難しい。あなたですということも無理だし、どう答えたものか……。
「えーと……い、いませんよ」
「ダウトいるでしょ絶対」
そう言われてしまった。どうしたものか、ほんとのことは言えないから否定するしかない。
「いませんって」
「いやいるね」
「いないです」
「いーーーやいるでしょ」
そんな押し問答は無駄と思い、僕は口を割った。
「先輩頑固ですね認めます、そうですよ、居ますよ」
「やっぱり!!相手は誰?」
ここで本当のことを言っても、あなたが困るだけなのに。残酷だ、知らないって。
「それは秘密です恥ずかしいので」
「駄目か……それじゃあ相手の人とどんな感じとか教えてくれない?」
先輩は恋バナとかが好きなんだろう。興味津々なのが誰が見てもわかるように、食い入るようにこちらを見つめている。見つめてくる先輩、やっぱり可愛いな。僕はそんな場違いなことを考えてしまう。
「それなら、まあ良いですよ」
「ほんとに!?」
ダメ元で聞いたつもりなんだろう、先輩としては予想外らしい。
「ほんとですよ、といってもその人は、こちらのことをただの後輩だと思ってると思います」
「水瀬なら行けるよもし私がその相手ならアプローチされたらころっと落ちちゃうかも」
じゃあ落ちてくださいよ、ころっといってくださいよ、そんなことを言いたくなる。でもいってしまったら戻れない。何をするにしてもそれのせいで、一歩止まる自分がいる。
「ありがとうございます、でも無理だから困ってるんです」
「……ごめんね、嫌なこと言っちゃったかな?」
ばつの悪そうな顔をして先輩はそう言う。
「すみません大丈夫ですよ、先輩にそう言ってもらえるのは嬉しいので」
「そう?」
「はい、本心ですよ」
本音は複雑だけど、嬉しくない訳じゃない。だから本心と言っても良いじゃないかな。
それからこの話については、先輩は言及してこなかった。
少しの間他愛の無い会話をしていると、先輩が時計を観て驚いた。
「あ、もう少しで時間じゃん水瀬またね!!」
そう言って先輩は走り出してしまった。僕はそんな先輩を眺めながら、昼休みが終わることを悟った。
授業が始まるから、教室に向かう。
……どうしよう。授業中、先輩のことで頭がいっぱいで、先生の話が頭に入ってこない。焦燥感のせいだろうか?届かなければ届かないほど、先輩が頭にずっといる。
先輩は好きだ、先輩と話すのは好きだ、先輩の全部が好きだ。でもそれと同時に、先輩のことを考えると苦しくなる。
僕はどうすれば良いんだろうか……
「水瀬帰ろ」
「うん」
そんなことを考えていたら授業も終わってしまい、優真くんがいつもどうり教室に来た。そしていつもどうり下駄箱に行く。
下駄箱を開けると、今日も一つの文が入っていた。中には「水瀬さん屋上で待ってます放課後来てください」とだけ書いてあった
「二日連続とは珍しいな」
「そうだね」
二日連続は多分初めてかな。基本頻度が多すぎるときで、一週間に一つぐらいのスピードで、ラフレターが入れられていた。
まあ内容は「屋上に来て」だけだから、ラブレターと確定はしていないけどね。
「優真くんごめん今日も待ってて」
「良いよ良いよ行ってきな」
僕は屋上に向かう。基本的にこういう誘いは、ちゃんと行くようにしている。自分の立場で考えて見ると、先輩が来てくれないってことだからね。それは悲しいから、せめて行くようにしている。
屋上に居たのは最近よく話したりして、優真くんを抜いたら一番仲が良い、友達だった。
「水瀬さんその……まずは来てくれてありがとう」
「木村さんそれで何の話かな?」
木村さんは誰が見ても分かるほどに緊張しているみたいで、まさにぎこちない様子に見えた。
「水瀬さん単刀直入に言います、水瀬さんのことが好きです付き合ってください!!」
「その、ごめんなさい今好きな人がいるので、木村さんとは……付き合えません」
僕がそう言うと、木村さんは少し、本当に少しだけ、涙を流していた。
「はは、ごめんなさい、独りよがりな告白をしてしまって、関係を壊してしまって」
苦しそうに、言葉を絞り出し木村さんは謝ると、逃げるように去ってしまった。
仲が良い友達に告白されたのは、初めてだった。基本的にその場に流されて仲良くなるのは、同姓だったから異性と仲良くなるのは、あんまりなかった。
だから多分、仲のよかった人に告白されて、少しだけ戸惑ってしまったのかな。
僕が嘘つきじゃなければ関係性は壊れなかったはずだ。だから悪いのは木村さんじゃない。まあそもそも、嘘つきじゃなければ関係性が構築できなかった可能性が高いけどね。そう考えるとやっぱり、嫌いな今の自分を利用する形になって、しまっているんだな。
わざとじゃなくても、そんな形になってしまっている。それがただ苦しい。でも本当の自分を、僕は怖くて出せない。そこら辺割りきれれば、どんだけ楽だろうか。……我ながら面倒くさいな。
そう考えながら、下駄箱に僕は戻ってきた。
「優真くんごめん少し遅くなって」
「いやいや大丈夫だよ、あ、それとさ水瀬ん家行って良い?」
「もちろん」
僕の家で遊ぶことが日課になって、聞くのを忘れていたのだろう。
そうして僕らは、ゲームなどの話をしながら、帰路についた。
「ただいま」「おじゃまします」
奥からいつもどうり、お母さんが来る。お母さんと少し話した後、2階の僕の部屋に向かう。
そうして部屋に入った後、僕はいつもどうり部屋で着替える。
「優真くん着替え終わったよ」
「うん、じゃあ入るよ」
優真くんが扉を開けて入ってくる。
「どうする?」
「何でも良いよ」
僕らは結局、ゲームをしていた。そうしていると、お母さんがお菓子を持ってきてくれた。ちょうど良いと思い、僕らはそれをつまみながら休憩をし始める。そんなときに優真くんから聞かれる。
「ところでさ、例の先輩とは上手くいってる?」
「仲良くはなれるんだ、でも僕こんなだから恋愛対象としては、見れないんだと思う」
優真くんの前だと、弱音や本音を話せる。だからだろうか優真くんには甘えてしまう。
「そっか」
「だからそろそろ告白して終わらせようかなって」
「無理にしなくても良いんじゃない?」
確かにそうしたら、先輩とは一緒にいれる、でも……
「そうかもしれない、けれども最近は先輩のことばっか浮かんで来て仕方ないんだ。先輩のことを想えば想うほど、届かないことを痛感して辛くなる。だからもう先輩に僕と付き合えないって、そう言ってもらえれば諦めが付くと思うんだ」
「そっか、あっくんがそうするって覚悟を決めてるなら、俺はその事についてもう何も言わないよ」
自分でもめんどくさいと思う話を、優しい顔つきをして優真くんは、そう言ってくれた。
「ありがとう」
「これからも辛いことがあったら、いつでも相談のるからな。前みたいになる前になんでも相談してくれ」
「……ありがとう」
「おう、良いってことよ」
優真くんの優しさが心地良い。だけれど少し罪悪感がある。優真くんを僕のことで、振り回しすぎてしまっているような気がする。
優真くんなら多分「そんなこと気にすんな」といってくれると思う。でもその優しさに漬け込むのは、なんか違うと思う。その思考とは裏腹に、僕は優真くんに頼ってしまう。友達で僕を唯一知っている。だからだと思う。
「この話は置いといて、ゲームの続きしよ」
僕がそう言うと優真くんは、快く承諾してくれた。そうして楽しい時間は過ぎ、優真くんが帰る時間になった。
「じゃ、また明日な」
「うんまたね優真くん」
そうして優真くんは帰っていった。玄関で見送ったあと僕は部屋に戻る。
「どうしよう」
明日か明後日にでも告白して、終わらせようと思っている。覚悟はできてる……と思う、でもやっぱり少し怖い。拒絶されるのが、否定されるのが。
多分拒絶される。それが分かっていても付き合えた後の妄想をしてしまう、叶うことの無いそんなことを。でも僕は妄想の中ですら理想を作れなかった。もしも付き合えても僕は きっと、嘘の重りで潰されてしまう。
そんなこと考えたって変わらない、そんな事わかっているのに溢れ出てしまう。もう寝よう、それが一番の解決策だ。
「気持ち悪い」
僕の秘密をはじめて知った友達は、僕に対しそういい放った。幼いながらに僕は自分が変だって理解していたと思う。だからそれに気付いてからは、自分自身を友達にも家族にも見せなかった。
それでもこの人ならって当時仲が良かった友達に明かせばこのザマだよ。相手も僕も幼かった、それ故に起きた物だった。
こんな出来事は小さくて、相手から見れば何でもないことかもしれない。でも僕は耐えきれなかった、誰にも頼れなくてずっと言われた言葉が頭にある、だから犯してしまった、命に対しての最大の冒涜を。
――♪~~~
僕は目覚ましの音で目覚める。
「うーーん、なんか変な夢見てたような。まあ良いかそんなことより学校の準備しないと」
準備をし、ご飯を食べ、例の場所へ向かう。そこにいるのは勿論佑真くんだ。合流した僕たちは学校へ向かった。
「優真くんまたね」
「おうまたな水瀬」
別れて教室に入ると友達が近寄ってきた。
「この前おオススメしてくれた本面白かったよ」
「ほんとに?それなら良かったよ」
今話してきた人は中学からの友達。もう長い仲になるそんな人にも嘘をつき続けている。あの本が面白いとか、新刊がでたとか、そんな話をしていると先生がやって来る。それを確認して僕らは席に戻った。
……やばい、授業を聞いているのに全然頭に入ってこない。恋は盲目とは言うが相当だな、、、いや盲目とは違うかもしれない。そんなことはどうでも良いから今は授業を出来る限り頭に入れよう。
「水瀬~ごはん食べよー」
昼休みが始まり教室に先輩がやって来る。
「はい、食べましょう」
そうして僕らは中庭に行き、ベンチに座り、話ながら食事をとる。
「今日は水瀬の家に行っても良い?」
当たり障りのない話をしていると、先輩がそう言い放つ。もう話せすらしないかもしれないし、最後に先輩を家に招待するのも良いかもな。
「良いですけど、どうしてですか?」
「私の家に水瀬が来たことはあってもさ、水瀬の家に行ったことないなって、だからいきたくなった」
「ゲームしかない変な部屋ですよ?」
他の同級生と比べても変な部屋だと自負している。
「良いよ、水瀬の部屋がどんなだってもただ行ってみたいだけだから。あと水瀬がゲーム好きなのは知ってるし」
先輩はゲームをあまりしないが、たまにゲームの話になることもある。それで知られてしまった。まあ今時ゲームが趣味の子なんて山ほどいる、だから大丈夫だろう。
「それじゃあ放課後に下駄箱に集合ね!」
「水瀬帰ろうぜ」
案の定あまり身にならなかった授業を終えると、優真くんがやって来た。
「あ、優真くんごめん今日は一緒に帰れないや」
「そうか、それじゃまた明日な」
「うん、また明日ね」
優真くんに、そう断りをいれて僕は下駄箱に向かう。
そこにいっても先輩の姿は見えなかった、多分まだこれていないのだろうと数分待っていると、先輩の姿が見えた。
「あ、先輩」
「水瀬ごめん待った?」
「いえ全然大丈夫です、それじゃあ帰りましょう」
「そういってくれるとありがたいな」
こうして僕らは帰路につく。先輩と談笑していると、気づけば家についていた。
「ただいま」「お邪魔します」
奥からお母さんがやって来た。お母さんは驚いてるみたい。そりゃそうか、だって最近は女友達を連れて来ることはあまりなかったから。お母さんは少々困惑しながら、ある程度話したら戻っていった。
「ここが水瀬の部屋か」
あの後すぐに、二階の僕の部屋に入った。
「変な部屋ですよね……」
「そんなことないよ、少し思ってたのと違ったけど。まあこれもこれで水瀬って感じする」
部屋が認められた。その事実のせいで自分までもが認められた気がしてしまった、そんなわけはないのに。
「水瀬ここ、こうじゃない?」
今は二人で、僕が最近買ってやってなかった、謎解き系のゲームをしている。
「確かに。あ、扉開きましたよ!!」
「これで5ステージ目クリアだね」
「そうですね、一旦区切りも良いですし休憩しましょう」
「そうだね少し疲れたよ」
「先輩お菓子持ってきますね」
「ありがとう」
そういって僕は一階から軽くお菓子と飲み物を持ってきた。
二人でお菓子をつまみながら話して少ししたらゲームの続きをし始めた。
「あ、ヤバもうこんな時間じゃん」
謎解きに長時間没頭していた僕たちは時計を見ていなかった。
「そうですね先輩帰りますか?」
「うん、そうするよ」
「じゃあ送りますよ」
「良いよ一人で」
「大丈夫です少し散歩したかったので、そのついでです」
「うーん、なら甘えようかな」
ちなみに散歩したいは嘘だ。
僕が告白をすれば、終わるかもしれない、会えなくなるかもしれない、だからただ今は先輩と一緒にいたいそう思っただけ。
なら告白しなければいい僕もそう思う、でも一緒に居たいのに、居たくない、そんな感情に取りつかれて苦しいから終わらせる。でも今は苦しくてもなぜか先輩と居たい。
僕って最低だよね一番嫌いな体を使い先輩に近付いて、あまつさえ自分が嫌になったら感情を吐き出して終わりにするなんて、結局はどう取り繕うとも僕が身勝手なことは変わらない。秘密がどうとか関係なく僕はそういう人間なんだ。
先輩が家に向かう道中で「あのゲーム面白かったね!またしよ」何てことをいっている、僕はどうすれば良いんだろうか?
悩むのは止めよう。先輩は好きだ、でも僕にとって毒だった、少しずつ僕を蝕む美しい毒……いや本当に毒なのはこの感情なのかもしれない。今はそんな毒をも楽しもう、解毒剤など無いのだから。そんなことを考えていると先輩の家にたどり着く。
「水瀬今日は楽しかったな、たまにはゲームとかして遊ぶのもいいね」
「私も今日はとても楽しかったです」
「それなら良かったよ、また今度水瀬の家行ってもいい?」
先輩は意地悪なことを聞いてくる、そんな約束をしてしまえば明日吐き出そうとしていたこの感情が戸惑ってしまう。
「……機会があればまた遊びましょう」
「ありがとう、それじゃあまた明日学校でね!!」
「はい、また明日」
そんなことを言い先輩に手を振りながら帰路に着く。しばらく物思いに耽りながら歩いていると家に着く。
どうやらご飯の準備が出来てるらしく僕は帰るや否や、ご飯を食べ歯磨きなどを終わらせ自分の部屋に行った。
「入っていい?」
暇を潰していると、お姉ちゃんが扉をノックしてきた。
「うん、入って良いよ」
扉を開けてお姉ちゃんが入ってくる。
「お姉ちゃん何のよう?」
僕は疑問を投げ掛ける。お姉ちゃんとは仲は良いがお姉ちゃんが、部屋に来ることはあんまり無い。だからなぜ、突然来たのか気になってしまった。
「まあ、なんだ、君が最近浮かない顔をしてるから気になって」
基本僕はあんまり顔に出さないように、努力はしている。でもお姉ちゃんにはよく見破られてしまう。
「なんでもないよ」
「ホントに?」
お姉ちゃんが顔を近づけ圧をかけてくる。こういうときのお姉ちゃんは、とても頑固だ。何かしらあると核心してるのだろう。実際こういうときは何かしらあるから、困ってしまう。
「うぅ……あるけど別にどうでも良いことだよ」
「どうでも良いことでも聞かせて?」
家族に色恋のあれこれ相談するって、どんな罰ゲームだよ。
「好きな人がいてそれに悩んでるだけ。はい、この話終了」
「それだけ?」
「そうだよ」
嘘はついてない。だけどふわふわした感じで伝えると、根掘り葉掘り聞かれてしまう。心配なのはわかるが僕はもう高校生だし、そんなに心配性にならなくて良いのにな。
「分かったもう聞かないけど、何かあったらすぐお姉ちゃんに相談してね」
「もう高校生だよ?ああいうことはもうしないから、そんな心配性にならなくて良いよ」
「うーん、それは無理かな?」
「どうして」
僕は少しばかり不満げに聞いてしまった。
「あんなことがあったのも理由のひとつだけど、いくつになっても、私の大事な大事な弟ですもん。心配する理由なんてそれで十分だと思うな」
「……ありがと」
少し恥ずかしがりながら僕は返した。
お姉ちゃんは僕の部屋から帰っていった。
僕は恵まれているな、ここ最近は本当にそう思わされた。アイデンティティを認めてくれる家族に友達。それだけで生きることを見失わないでいれる。だけれども人間は、僕は欲張りみたい。先輩にも僕を観てほしい、でも言えば終わりな気がして言い出せない。だからこれは秘密にする。可笑しいよね、告白して終わらせようとしてるのに、秘密を言って終わらせるは嫌って。
「ふぁぁ、今日はもう寝よ」
僕は眠いのに先輩のことで動く頭を、押さえつけて眠りについた。
なんだここは視界がぼやけてよく見えないが、わかることは僕が浮いて多分この場所は、僕がよく知ってる場所だということ。
僕は寝ていたはずじゃ……あ、これは明晰夢てやつじゃないか?そう考えていると、真下から声が聞こえてきた。ここは高層ビルの屋上、そんなところに人がいるそんな状況に強い既視感を覚えた。
「……あはは、結局最後まで嘘つき続けちゃったな、でも結局は遺書でみんな知っちゃうんだよな。怖いなぁ死ぬのが、でもそれ以上に皆に拒絶されるのも、自分を押し殺すのも、嫌だし疲れちゃった」
誰に聞かれるわけでもないのに自分をさらけ出す独りぼっちの男の子、さらにその子は涙を流し呟いた。
「来世はもっと自分らしく生きたいなぁ」
そう最後に強く願望しながら深呼吸をした男の子は、笑いながら、でも苦しそうに落ちていった。
ドン!!
「うわぁ!!」
僕はあの気味の悪い夢で起きてしまった。
鮮明に覚えている夢の中で聞こえたあの鈍い音を、知らないはずなのに自分が重なる。
「忘れよ、終わった話だし。そういえば今は何時だ?」
そう考えていると、聞き慣れた電子音が聞こえてくる、それは目覚まし時計から鳴っていた。どうやらちょうどいい時間に起きれたみたい。
「とりあえず着替えるか」
「優真くーん」
「あっくん、それじゃあ行くか」
「先に言っとくんだけどさ、今日一緒に帰れそうにないから先に帰ってて」
「分かったわ」
僕らはそんな会話を皮切りに学校へと歩み出した。
「水瀬ご飯食べよー」
午前の授業が終わり先輩がやって来る。
「はい」
食べる場所は例のごとく中庭だ。そして僕らはベンチに座り談笑しながらお弁当を食べる、そんな幸せな時間、だけどそれに相反する罪悪感が僕を蝕んでいく。
「水瀬大丈夫?」
突然先輩がそんなことを言い出した。
「どう言うことですか?」
「水瀬が最近苦しそうにしてるなって思って前から気になってたんだけど、それが今日特に強かったからどうかしたのかなって、でも気のせいだったらごめんね」
どうやら顔に出ていたみたい、出したつもりはなかったんだけどな。僕が思ってるより先輩は見てくれてるのかな?
「大丈夫です先輩が気にすることは無いですよ」
「そう?何かあったら言ってね力になるから!!」
「はい、その時は頼みます」
僕が出せる最大限の笑顔で言った、なのに先輩はもっと心配している様子だった。
午後の授業も終わり放課後、僕は校舎裏で一人想い人を待っていた。
下駄箱にいれたラブレター、それを見て屋上に来てくれるのか少し不安だ。
「み……水瀬?」
そんな不安を壊すように先輩は現れた。
「先輩まずは手紙を見て、ここに来てくれてありがとうございます」
「水瀬どうしたの?」
先輩は呼び出しを不思議がってみるみたい。
「先輩、ぼ……私は先輩のことが好きなんです、心のそこから、ですから付き合ってください」
先輩は誰が見ても分かるくらい困惑している様子だ。
「えーと、ごめん女の子同士って私あんまり分からなくて、だけど」
まだ続けそうな先輩を遮り僕は言う。
「すみません、こんな身勝手なことしてしまって」
予想していた言葉は、思っていたより重かった。僕はいてもたってもいられなくなり、逃げ出してしまった。予想以上に本気だったんだな、僕は……
「ちょ、水瀬待って」
先輩が追いかけてくるがそんなのは気にしない、先輩よりも僕のほうが足は早いのだから。
先輩を振り切って自分の家に、部屋に逃げ込む。
「なんでだろう」
後悔、喪失感、そういった感情が止めどなく溢れてくる。玉砕するなんて分かってた、覚悟してた、でも告白が失敗したあの瞬間僕は酷く後悔してしまった。
男に産まれてれば悩まなかったのかな、でも女だから先輩に近づけたんだよね。あんなに嫌ってたはずの自分自身を利用して近づき、そして先輩を振り回した。僕は卑しい人間だよ。