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一日5秒を私にください  作者: 蒼緋 玲
一年365日を私にください
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魔術師の在り方






続いてはランドルンとパミラだ。






「お二方は動いてドンパチの感じがしないのですが…」


「そんな可愛いものじゃない」


「え?」


「えげつないよ。魔術師から言わせると」






テオルドとリカルドが揃って言うので、どういう意味だろうとこてんを首を傾げる。




パミラはここ最近ひっつめ髪を殆どしなくなった。


その度にユフィーラがこれでもかと褒め称えるので諦観の念もあるのかもしれないが、髪が邪魔になる時以外は左右に緩く結っていることが増えたので慈愛度が増している。それを言うと、今日いる特殊魔術班男性陣は何故か身震いするのだ。




そして更にいうならここ数月でパミラは体型もすっきりした。


彼女曰く憂いのようなものが晴れたのと、寝酒を止めたことで体重が知らぬ間に落ちたらしい。それでも慈愛と美しさは変わらないのだ。




対してランドルンは本日は髪を解いている。さらりと靡くシルバーブロンドは、もうどこぞの秀麗な筆頭魔術師か、誰もが傅く教祖のよう。フードを被った姿は絵に描く美しい魔術師そのものである。




そんな二人なのに可愛くない、えげつないと謳う二人を不思議に思う。






「始め」






テオルドが号令をかけた瞬間だった。




ブゥゥゥゥン…




と静かな重低音のような音がすると思った瞬間。




ぐわんと二人の背後が歪みパミラは青系統の色合いが混ざった魔術の織が波動のように噴き出した。それがゆっくりと蠢きながら纏まったと思ったら、物凄い速さでランドルンに向かっていったのだ。




ランドルンの方はと言うと、神聖な彼の見た目には似つかわしくない、夥しい銀色と黒が混ざった魔術の織が彼の背後から湧き出るように淀み、それが四方八方に飛びながら、パミラを目指して突撃していく。




二人の間でドォォォン、ズガァァァンと轟きが連続して聞こえ、辺りはそのぶつかる光で目が開けられずその中でもユフィーラが目を細めながら二人のどす黒い魔力の織の中でも煌くものを追ってしまう。






「うわぁぁ…私でもちょっと手こずりそうだ。しかもやらしいなぁ」


「やらしい、ですか?」


「ああ。なんていうか、一筋縄ではいかないというか。様々な方向からねちねちと攻撃してくるというか…」


「要は敵に回ると当たりたくない相手ということだ」


「まあ…流石のお二方で、鼻が天井まで高くなりそうです」


「ぷっ。ユフィーラさんにとっては自慢になるんだな」


「それはもう。違う一面も普段の姿もお二方には違いありませんからね!」






逆にこれだけえげつないと言われる、多彩で曲者の魔術の織を編むことができる二人の能力の高さと手腕をユフィーラは誇らしいとさえ思う。






「これ以上やると、防壁魔術にひびが入りそうだ。―――止め!」






リカルドの声に二人は同時に大きな一撃を轟音と共にお互いにくらわせた。






「やってくれるじゃない。イラッとする一言を言ってもシーツはちゃんとさらさらでしょうに」


「ええ。稀に二言程余計なことを言った後に枕カバーの端がパリパリの時があったので、御礼も兼ねて」






二人は先程の爆音などなかったかのように淡々と冷えた空気で話している。二言とシーツの恨みはそれぞれ根深いのかもしれない。






「ガダンは誰とやるの?私やりたい」






パミラがテオルドに向かって言う。






「じゃあ、そのままランドルンとペアでやってみるか」


「さっきの敵は今の友ってやつ?」


「非常にやり辛い相手ですが、味方ならこれ以上の相手はいませんね」


「それで良いか?」






他の特殊魔術班の面々は頷いている。




そしてガダンがのんびりとした足取りで会場に出てくる。






「この二人かぁやり辛いなぁ」


「とかいって嬉しい癖に」


「久々に少し本気を出していいのでしょうか」


「壊れない程度に」


「頼む。壊さないでくれ。修繕魔術が大変になる」






リカルドの懇願に三人は外用の笑みで答える。控える気はなさそうだ。






「旦那、頑張っちゃってもいいんですかね」


「壊れない程度に」


「だから修繕魔術が―――」


「りょうかーい」






ゆったりとした口調のガダンのローブの下は髪の色より暗めの深紅で赤系統が本当に良く似合い、彼の長い手足にさらりとした生地が纏う。






「では始め」






テオルドの声と共にパミラとランドルンの周囲に巨大な火柱が顕現し、同時にガダンの周りには氷柱と稲妻が迸る。そこかしこに三人の魔術の織が彩り舞い上がる。




ユフィーラは轟音を物ともせずにその織とその動きに魅入られる。




すると、ガダンの周辺が紅蓮の花のような火柱が噴き出すように出始めてパミラ達の攻撃を掻き消していく。そしてガダンの瞳が爛々と炎焔のように赤くなる。更に元々攻撃型魔術師として前線に出ていた彼は相手が平伏すしかないような斬撃のような赤い紅い数多の攻撃を片方の口角を上げながら愉しそうに次から次へと繰り出している。




普段は美味しい料理を饗してくれる繊細な動きをするガダンの両手は、今では相手を攻撃するためだけに巧みに動かし、パミラとランドルンに撃ち続けている。




ガダンの攻撃を往なしながらもパミラの瞳は綺羅びやかな薄茶色と水色が混ざったような美しい瞳に変わり、隙を見て氷刀を繰り出し斬撃した瞬間に、金銀に輝くように瞳が変化しているランドルンはその氷刀に併せて轟く雷鳴の如く電撃をガダンに降り注ぐ。




最早、斬撃音と轟音しか聞こえずに周囲は赤と黄色と白い魔術の織が占拠している状態だ。




それをユフィーラはきらきらした瞳で見逃さないように高速で瞬きしながら見続けている。






三人共、微笑んでいる。




ガダンは愉悦の笑み。


パミラは慈愛の笑み。


ランドルンは静謐な笑み。




個々違う笑みだが、皆この模擬戦を存分に楽しんでいるのがわかる。






「三人とも楽しそうですねぇ」


「そうだな」


「もう本当に愉しんでるよね…もう防壁ぎりぎりじゃないかな…」






まるで会場そのものが地響きのように震え、バリバリ!ズドォォン!と凄まじい音が鳴り続ける。ここにいる観客始め騎士団の面々も、これが本来の魔術師の戦いで在り方なのだと、お互いに尊重していければ良いのにと願いたくなる。特に近衛騎士団とは。




轟音に爆音が続く中、ピシピシと会場全体に何か破れるような音が重なる。






「もうそろそろ破壊されるか」


「まずい!そろそろ終わりにしてもらおう。――――止め!」






リカルドが大声で叫ぶと、ガダンは特大の火柱と火の塊を、パミラは氷山の天辺を削り取ってきたのではと思うほどの氷の塊、そしてそれにランドルンの緻密な雷撃を纏って、双方が共に打ち込んだ。




バリバリガリ、ドドォォォォォォン




もうこれは戦なのではと思うほどの耳を劈く音の後、静寂になる。


そんな中のんびりとした口調が会場に響く。






「最後の合わせ技はちょっとないんじゃないのかねぇ。避けなきゃ危なかった」


「そっちこそ、火柱の隙間からでかいのと無数の焔龍混ぜて飛ばす?ランドルンのかまいたちがなければほやほやのローブが少し焦げていたんだから」


「ですね。死角からの猛撃はちょっと性格がでますよ」


「はは。それはこっちのセリフだよなぁ」






内容は物騒極まりないが、対話する声色は双方朗らかだ。




そして一つ間をおいて大歓声が起こる。ユフィーラも手が痛くなるほど拍手喝采を送った。






「お嬢ちゃんの所の使用人というものは恐ろしい集まりなんだねー」






ちょっと間延びした、あまり感情の入らない声に振り向くと、そこには黒一色と口元にも黒い布で覆ったギル、そしてその後ろにはハウザーが居た。






「まあ。ギルさんと先生ではないですか。お二人も見学に?」


「いや。国王に呼ばれたのに玉座に居ないとなればな」


「あらまあ」


「こんな面白い催し物じゃあ、わからなくもないけどさ。僕達にそれ伝えていないのは減点だよね」






にいっと三日月のように目元だけ微笑むギルだが、ユフィーラにたまに見せてくれるものと違い瞳の奥が笑んでいない。国王に些かご立腹なのかもしれない。






「そこそこ大事な用事がとか言うから来てあげたのにさ。もう帰ろうか」


「だな」


「好きにすれば良い」


「え。それはちょっと困るんじゃぁ…」






ハウザーも適当に頷き、テオルドはどうでも良く、リカルドは少しだけ困っている。






「それにしても元魔術師団の面々はこれで注目されちゃうのかな?」


「そしたら、ファンクラブや親衛隊なる人達がわんさかと…」


「あ。そっちが気になるんだ」


「見目も性格も魔術師としても一流の皆さんなので、踏ん反り返って自慢できてしまう方達ばかりです!…あ、でも屋敷に突入されるのはちょっと…」


「皆が張った防壁で害虫は入らない」


「まあ」


「せめて人間扱いしてやってくれ」






リカルドの提案にもテオルドはどこ吹く風だ。






「これで有名になっちゃって、屋敷を出て行くことになったらどうする?」






ギルが首を傾げながら少し意地悪な質問をしてきた。だがユフィーラにとっては、とても優しい部類に入るものだ。こてんと首を傾げる。






「どうするも何も私が何をできるというのです?」


「ん?」


「皆さんとても良い大人であり、今の生活と自分が望む先を天秤にかけて、出て行く方を選ぶならば余程何か成し遂げたいと思った時なのでしょう。それだけ今の屋敷での生活を皆さん楽しんでいますから。それを止める術を私は持ちません」


「行かないで!とか言わないの?寂しい!とか」


「行かないではないですね。笑顔で送り出します。でも寂しいは行った後にぐちぐち独り言で言っていると思います。部屋の角あたりで」


「俺がいる」


「ふふ。テオ様に慰めてもらいますね」






ユフィーラが微笑みながら返すと、ギルは肩を諌めた。






「お嬢ちゃんは何を言っても動じないなー」


「そんなギルさんも先生と離れなければならない状況は嫌ですよね?」


「大丈夫ーどんな場所でも追跡できるから」


「まあ、熱烈ですねぇ」


「やめろ」






ハウザーがうんざりした表情をしているが、これだけ一緒にいれば間違いなく情は入っているのだろう。二年共に居たユフィーラにも与えてくれたのだから。






「さて、そろそろ終わらそうか」






リカルドが周りをみながら言うと、それを遮る声があった。






「テオルド。ちょっと腕慣らししようよ」







不定期更新です。

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