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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一年365日を私にください

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魔術師団訓練場にて






「…本日は御前試合か何かなのでしょうか」

「誰がここまで広めた」



魔術師団に到着して、ユフィーラ達は模擬戦を行う訓練場に移動する。騎士団と違って魔術師団の練習や演習における訓練場は屋内となる。広々とした大きく壮大な建物の中に入ると、恐らく魔術による特殊な空間が作られているのだろう、中は静謐としている―――はずなのだが、見学場所にはこれでもかと多くの人の山が連なっていた。



「えー何これ。誰かが宣伝でもしたの?」

「凄く煩い」

「おや。これは想像以上の人だかりですね」

「人混みは久々だなぁ」

「こんな状況でご披露するわけ?やるのは変わりないけど」

「何時でも何処でも平常心を保つべくだ」

「別に良いんだけどさぁ…旦那がやるわけじゃないのにねぇ」



使用人…特殊魔術班の皆はあれこれ物申してはいるが、模擬戦をやることには変わらないらしい。要は腕試ししたくて堪らないのだ。



「テオルド」



人混みの奥から割って来たのは魔術師団団長のリカルドだ。



「これはどういうことだ。何故こんなに野次馬がいる」

「これはさぁ、実は―――」

「やあやあ」



リカルドの後方から朗らかな笑顔で登場したのは、なんとこの国の国王、ドルニド・トリュセンティアその人である。そして周辺では跪く者や敬礼、黄色い声など様々だ。


テオルドはうんざりした表情で国王なる人を見据える。



「余計なことを」

「違うよ、僕じゃないよ。リカルドが僕に訓練場の貸し切り使用許可を取りに来た時に、たまたま魔術師おたくの宰相が側で聞き耳を立てていてさ。さらっと知らぬ間に情報が周囲に蔓延したみたいなんだよね」

「あんたが来なければここまでならなかった」

「え?なんで僕が我慢しなきゃならないの。観戦したくて執務頑張ったんだよ?」



ドルニドの周囲には近衛騎士団始め、魔術師おたくと呼ばれた宰相らしき人物、その他要人らしき人達と大賑わいである。


因みに広めたであろう宰相は全力でこちら側とは目を合わせようとしない。暖簾に腕押しの会話でテオルドが胡乱げになるのに対し、ドルニドは変わらずにこにこしている。


そして特殊魔術班はこれといって数名軽く一礼するくらいで特に国王に対して反応していない。流石である。



「ユフィちゃん。久しぶりだね」

「ご無沙汰しております」

「おい、何だその呼び方は」

「もうテオルドちょっと黙っててよ。別に特別な愛称で呼んでいるわけじゃないんだから」



テオルドの凍えるような声音に気にも掛けずに飄々とした態度を崩さないドルニド。



「以前さ。贈り物は少しずつ小出しが嬉しいって言っていたでしょ?」

「はい。あくまでも私個人の主観ではありますが」

「それを妻にやってみたんだ。そしたら思いの外喜んでくれて次を楽しみに待っているんだよね」

「まあ、王妃様も小出し方法が有効だったのですね」

「そうなんだ。君から贈ってもらった保湿剤を少しずつ渡して、今度はどんな香りなのか楽しみにしているんだよ」

「申し立てします」

「え?」



え?ではないのだ。まるでユフィーラが国王に対し小出しにしていると勘違いされたら困るではないか。



「それはちゃんと王妃様に、元々全部揃ってはいるけど、敢えて一つずつ渡しているんだと言ってあるのですか?」

「…んー、言ってないかも」

「テオ様。私もしかしたら不敬罪に処せられるかもしれません」

「そしたら一緒にこの国を出れば良い」

「ちょ、ちょっと待って待って!ちゃんと説明しておくから!」

「今すぐに連絡魔術で伝えろ。ユフィーラが気になって見学できないだろうが」

「…リカルド、テオルドが人を慮っているよ」

「良いから早く出してください。この後のテオルドの不機嫌に対応するのは私なんですよ」

「早くしろ。ここからあんた含めて全員出しても良いんだ」

「わかったわかった」



テオルドとリカルドからも言われ、肩を諌めながらドルニドは紙を出して宰相が出したペンでさらさらと書き、しゅわんと飛ばしていた。



「はい。書いたよ。これで観戦しても良いよね」

「テオ様、お心遣いありがとうございます。これで憂いなく見学できます!」

「ああ」

「あれ。僕には?」

「…毎度ありがとうございます?」

「ぷっ」



ユフィーラのテオルド最優先の対応はドルニドにとって新鮮なものだ。これで国王絶対の人間ならばテオルドだけでなくハウザーも目もくれなかっただろう。それに不敬とか言おうものなら魔術師団が衰退するのは目に見えているのだ。



「テオルドも特殊魔術班も君も僕を国王だからって傅かないことが新鮮でさ」

「まあ…そうでした。ご挨拶のカーテシーを…できませんでした」

「する必要ない。勝手に来てるんだから」

「でも、それで後日呼び出しでも来たら困ります。今週はアリアナさん達とお茶会の予定があるので、外せません」

「あはは!そうそれ。君も相当つれないよね」

「まあ…そうでしょうか。保湿剤にはどれにも同じ心を込めて精製していますが」

「あはは!そうじゃないけど、いいよ。そのままでいてくれ」

「恐れ入ります?」

「ははは!」



国王が弾けるように笑う姿なんてまず見たことがない魔術師始め騎士団、野次馬勢は皆一様に驚いている。だがユフィーラからすればこの姿しか見ていないのだ。



「テオルド、そろそろ始めよう」

「騎士団と魔術師団の年間試合より観客が多い」

「それは仕方ないよ。元精鋭たち、しかも全員が一向に表舞台に出てこないんだから」

「知るか」



リカルドの苦笑にテオルドは歯牙にもかけない



「それにしても騎士団の訓練場には行ったことないのですが、屋外だとばかり思っていました。観客席以外は何も置かれていないのですね」

「ああ。騎士みたいに武器は要らないし、魔術師の場合は実際魔術が放たれて周りに影響が出ないように、特殊な防壁魔術を施しているんだ」

「ああ、なるほど。攻撃系の魔術が観客席の方向に飛んでしまったら大変ですものねぇ」

「そうそう。観客席に当たらないようになっているから戦々恐々と見学しなくて済む」



リカルドの後ろからひょっこりとドルニドが顔を出して言ってくる。



「さあ国王は観客席に下がってください。テオルド、模擬戦の順番は?」

「一戦目がアビーとダン。二戦目がジェスとブライン。三戦目がランドルンとパミラ。ガダンは三戦目で勝ち抜いた者とやる」

「所謂トーナメント戦…!」



ユフィーラはまるで試合が行われるような流れに興奮を隠せず、目をきらきらさせながら特殊魔術班を見て、彼らから頭を撫でられている。



「テオルドはやらないのかい?」

「ああ」

「久々に見てみたかったなぁ」

「見世物はごめんだ」



特殊魔術班の面々はどっちでも良いから早くやりたい気持ちが大きいらしい。そしてこれだけ観客が集まっているのを解散させるには時間がかかるし、何より国王がいるのである。


ユフィーラは使用人としての彼らしか知らない。本職で活躍していた魔術師としての姿を見られるなんて楽しみ以外の何ものでもない。



「フィーは観客席に行かなくて良い。俺の傍で一緒に見る」

「問題ないのですか?」

「私もそれが良いと思うよ。間違いなく国王が君の横を陣取るだろうからね」

「まあ…それだと存分に観客に徹することができないので助かります」



折角の滅多に見られないものだ。国王の隣は遠慮させてもらおう。

有り体に言ってしまうと国王どころではないのが本音である。


ユフィーラは準備をする特殊魔術班の皆と一旦分かれ、テオルドと観客席側反対の審判側の場所に移動する。


用意された席に座ると、周りに薄い膜のようなものが張られた。



「これが防壁魔術ですか?」

「いや。これは俺がかけた。元々この席一体にかけられている」

「どれだけ過保護なんだか…」

「慎重と言え」



リカルドの言葉を一蹴してテオルドはユフィーラの隣に座った。



広く何もない空間の向かいには、ちょっと多いのではないかと言うくらいの観客達。


そして左右からアビーとダンが現れた。二人共テオルドが用意した特殊魔術班専用の艶消しのローブがとても良く似合う。


アビーは今日も頭部に髪を纏め一つに結んでいる。だが格好はスカートではなく、シュッとしたぴったりの上下の魔術師の格好で綺麗なのに格好良い。体を伸ばすように動かして準備は万端なようだ。


ダンもいつものラフな服装ではなく魔術師専用の立襟の服装で新鮮かつ素敵である。首と手を回しながらこちらもいつでも良い感じだ。



「それでは始め」



テオルドのお外用の抑揚のない声が響く。



直後。



ドォォォォン、バリバリバリ



凄まじい爆音と雷撃のような音にユフィーラは思わず耳を塞いでしまった。


眼の前で行われているのは模擬戦などではない、正に戦いだった。


アビーが身軽に前進しつつ、得意の火の魔術の上級版、烈火の魔術を放ち、それに対してダンが雷撃で返しながら、これまた身軽に中に飛んでアビーに雷撃をお見舞いしている。



ズドォォォン――――バリバリズゥゥゥン―――



爆音が轟き、ユフィーラは目を丸くしながら二人の放つ魔術の織に魅入られる。


アビーの輝く赤色に対し、ダンは煌く黄金色。


双方とても身軽にあちこちに移動しながら飛び上がったり回転したり、どちらが押されるでもなく、お互いの様子を見ながら楽しそうに魔術を放っている。



「…なんて綺麗なのでしょう…」

「この音を聞いてるのにユフィーラさんの感想は面白いなぁ」

「魔術の織を追っているんだろう」



正解だ。確かに序盤からの轟音には驚いたが、それ以上に二人が放つ魔術を作り出す際の織がとても煌めいていて、それぞれの魔力が持つ美しさにユフィーラは目を輝かせながら見続ける。


アビーのまるで女傑の刺客かの如く素早い動きと体勢の美しさ。


ダンの大柄なのに体内魔術を駆使して軽やかに動く俊敏さ。


二人の魔術師としての能力の高さにユフィーラは感無量だ。



「止め!」



リカルドが声を張り上げる。


アビーとダンが最後の一撃を放って後方に下がった。


辺りはしんと静まり返る。



「あーあの途中の雷撃危なかったー!」

「アビーの複数連撃には恐れ入るよ」



アビーとダンはまるでちょっと前まで戦っていたことなど無かったかのように、殆ど息も切らせずにお互いの健闘を称え合っている。そして時間差で観客席からわあっと歓声が起こった。



「凄いですねぇ…戦いの場での本来の魔術師の在り方というものを知れた気がします」

「あれで二人共半分程度の力だな」

「……まあ、あれで」

「あの二人を始め、使用人になった彼らが辞めたのは本当に痛い損失だったんだよ」



リカルドが笑いながら称え合っている二人を見ながら微笑む。



「でも、魔術師団に居るよりもテオルドの側の方が彼らは伸び伸びと過ごせるのかもしれないな」

「普段の皆さんもそれは楽しそうにお仕事されていますから!」



ユフィーラは彼らの本来の姿だけでなく、今まで見てきた姿も大好きなのだと、自慢したくて満面の笑みで答える。



「そうだね。だからこそ、特殊魔術班を結成させて、両方の仕事をできればと思ったんだよ。テオルドも言っていたからな」

「テオ様…ありがとうございます!」

「ああ。たまにはここで発散させて腕慣らしするのも悪くない」

「その度に観客が押し寄せそうだよなぁ」



笑いながらリカルドが手を上げる。


次に出てきたのはジェスとブラインだ。それぞれ真っ黒のローブを羽織り、ジェスはいつもの燕尾服とは違う動きやすい魔術服がとても良く似合う。


ブラインの魔術服は少し生地に余裕を持たせてあり、細身のブラインが少しいかつく見えて格好良い。



「始め」



テオルドの声と共に、ブラインの周辺に夥しい蔦のような魔術が顕現された。それを巧みに操り、ジェスに向けて放つ。


対するジェスは手の中に無数の糸のような物を纏わせて、それを襲い来る蔦に的確に放ち仕留めていく。


二人がそれぞれ緻密な魔術の織を繰り出している様をユフィーラは瞬きもせずに見つめる。



「フィーは二人の放つ魔術だけでなく、二人が織る魔力の根源を見るんだな」

「…はい。お二方の魔力を編む織はとても繊細で細やかで一体どのようになったらここまで顕現できるのだろうと思ってしまいます。これは二人の手際の良さからきているのでしょうか」

「そうだな。ブラインもジェスも器用な方だ。だからこそ魔術そのものがまるで模様のように見える」

「テオ様の仰るとおりですね。その織がとても幻想的で綺麗なのです…!」



ブラインの数種類の緑色の織に対しジェスの水色を筆頭に薄いグレーや黒の織が蔓延る様が絡み合い、とても人の手による顕現とは思えない。


アビーとダンが双方動きながら魔術を繰り出すのに対し、ブラインとジェスは殆どその場から動かずに魔術そのものだけでお互いにぶつけ合うような戦いだ。



「止め!」



リカルドの声にブラインの無数の蔦はゆっくりと姿を消し、ジェスの数多の細い糸模様も砂が掻き消えるようになくなっていく。


双方消失したところで、おお!という歓声が湧く。



「やるじゃん。普段の主主だけじゃないんだね」

「当たり前だ。いざという時に主の身代わりにくらいなれなくてどうする。お前の夥しい蔦は流石だな」



だいたい食事中は殆ど揉めている印象ではあるが、双方それなりに認め合っている姿にユフィーラは感動する。



「特殊魔術班の皆さんをふんぞり返って自慢したくなります」

「そうだな」

「はは。ユフィーラさんは本当に皆が好きなんだな」

「はい!テオ様とは違う好きですが、本当に皆さんが大好きなのです」



テオルドは自分だけは特別であると言外に言われたことでご満悦になり僅かに笑みながらユフィーラの頭を撫でた。すると観客席からざわざわっとどよめいたが、ユフィーラは頭を撫でられた嬉しさと特殊魔術班の面々の凄さに周囲のざわつきには微塵も気づかなかった。







不定期更新です。

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