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一日5秒を私にください  作者: 蒼緋 玲
一日24時間を私にください
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後日談:一日24時間を私にください 10


最終話






本日参加してもらった皆には帰り際に引き出物を渡し、希望する人には気に入ったガダンの料理をお持ち帰りしてもらった。因みに全員希望したらしく、流石我が最強の料理人だとユフィーラは反り返りそうなくらい胸を張った。


ユフィーラたっての希望で、デザート類を手伝ってくれたエドワードや、素晴らしいドレスやワンピースの生地を作ってくれたモニカの弟、そして素敵なドレッサーを贈与してくれたハインド伯爵にも引き出物を渡してもらっている。



国王とゼルザにもそれぞれ引き出物とガダン作のご馳走セットをバスケットに入れ、速達で送ってもらった。




そして誠に無念なことに、どうしてもユフィーラはご馳走の数々を制覇することができなかった。それ以前に誰も制覇した者はいないのだが。


今生の別れのような表情で料理の数々を惜しんでいた所、優しい料理人が保管魔術を施しているから数日間食べられると教えてくれ、目を潤ませながら歓喜するのをガダンは微笑みながら頭を撫でてくれた。




それからユフィーラは、またもやアビーとパミラに拉致されて湯船に連行されていった。これでもかと磨かれ、朝と違った少し香りの違う香油で仕上げられて、二種類の夜着を提供される。


一つはとんでもないほどに露出度が高かったので、首が千切れそうなほど横に振ると「まあわかってはいたけど」と二人はバルーン袖が可愛らしいオフホワイトの夜着を着せてくれた。



ここまでされても無知なユフィーラはまだ気づいていなかった。



ふんわり髪を乾かされ、何故か軽く寝化粧までされたユフィーラは「じゃあ色々と頑張って。明日は無理して起きなくて良いからね」とパミラに言われ、ガダンの食事を制覇するのだからそんな訳ないのになとまたもや首を傾げながら、部屋に戻る。



そこには湯を浴びた直後のテオルドが寝台に座っていて、布で髪を拭いていた。

濃紺色の夜着は胸元まで釦が開いており、引き締まった体が目に入ってユフィーラはほんのりと頬を染める。


そしてユフィーラに気づいた少し髪の濡れたテオルドが視線を寄越した瞬間。


凄絶な色気が発散され、ユフィーラはくらりとする。



「フィー。おいで」



とても甘く危険な匂いがすることは間違いないのに、ユフィーラはふらふらとテオルドの元へ寄っていく。


ユフィーラの手を取ったテオルドがゆっくりと手の甲をなぞり、今までにないぞわりとする、でも嫌ではない感覚に囚われる。



「それ可愛い」



ユフィーラの夜着に触れながらテオルドが腰を軽々と持ち上げて自分の膝に座らせた。



「テオ、様?」

「…うん?」



頬や首筋に口付けを受けながらちょっと濡れた髪が触れるのが、何故か火照った体には心地良い。



「練習は終わり」

「れ、んしゅう…」

「うん。本番」



そこでようやくずぼらなユフィーラにもこの後起こることを思い出したのだ。


ユフィーラとしては、今夜が初夜だとしっかりと理解していたのなら、もしかしたら緊張でどきどきして食事会も思い切り楽しめなかったかもしれない。そう思うとずぼらなのも、時と場合によっては良いのかなと良い方向に考えを向けておいた。


ふわふわとした温かく熱くもある気持ちの中で、心が緊張と歓喜と少しの不安で覆い尽くされる。



「…沢山練習したから大丈夫」

「だい、じょう、ぶ…?」

「ん。…愛しい、俺の唯一」



ふわり、ぽふんと頭と背が寝台に埋まる。上から眺めてくるテオルドはとても幸せそうで、でもそれ以上に艷やかで官能的な表情で。


既にその熱に浮かされたユフィーラは何か一言でもと、回らない頭を何とか動かし、こてんと首を傾げた。



「お手柔ら、かに、お願いし、ましゅ?」



もう噛むのは定型なのだとユフィーラは虚無の目になる。



そしてそれを聞いたテオルドの表情はきっとユフィーラしか見られない至極のもの。



口付けが降り注ぎ、徐々に深くなっていく。

ユフィーラは永く濃密な時間を享受しながら夜は更けていった。








翌日から優に三日間、ユフィーラは部屋から出ることはなかった。

いや、出られなかった。



朝食兼昼食を取りに来たテオルドの艶めかしさと満ち足りた表情に、使用人一同はくらくらした。食事も入浴も全てテオルドがご満悦状態で担っているらしい。



それでも使用人一同は気になって仕方がないので、時間を作っては忍んで様子を見に行く。





ある馬房を管理する使用人は、少し開いた窓から



「歩けないではないですか…!ルードとレノンの顔を―――」

「他の男の話をするのか」

「男ではなく雄の仔ですよ!」

「同じだな」



と主の情けないほどレベルの低い嫉妬に苦笑した。





ある新人使用人は、扉の向こうから



「仕事には行かないのですか?もう朝も遅いです」

「新婚なのに行くわけがないだろう。一週間休みを取ってある。有給が溜まっているからな」

「一週間……」

「フィー?戻っておいで、目が逝っている。戻してやろうか?」



顔を赤くしながらそそくさとその場を立ち去った。





ある書庫を守る番人兼使用人は、扉の向こうから



「異議あり!」

「却下だ」

「まだ何も言ってないではありませんか!」

「大体予想がつくからな」



と主の大人らしからぬ稚拙な対応を耳にして肩を竦めた。





あるメイドの使用人は、湯を張ってくれと主に頼まれて部屋に入った際。


掛布から恐らく這々の体で抜け出そうとして、途中で力尽きたであろうユフィーラの無念そうに垂れ下がった腕を見て目頭が熱くなったが、にやけは止まらなかった。





ある庭師の使用人は、窓から聞こえる喧騒に耳を傾ける。



「そ、そこは駄目です!」

「いいだろう、少しくらい」

「そんなことされたら…!」

「こうか?」



とんでもない場に遭遇してしまったと耳を赤くして口元を覆った時。



「チェックメイト」

「ああ……!私のキングが…!」



庭師は無性に雑草を引き千切りたくなった。





ある料理人の使用人は、扉の下から覗いていたメモ用紙を拾った。



『クラムチャウダー卵串揚げミスジ肉海老アボカドサラダミルクレープチェリーパイ引き出物パウンドケーキ』



と、食事会での料理の内容を、まるで時間がないかのような書き殴った文字に必死さが溢れており、ぶはっと噴き出し、この後用意する食事に全部少しずつ添えてあげようと厨房へ戻って行った。





ある家令の使用人はどうしても精査してもらわなければならない書類を持って訪れた際に



「まあ…私が恐れ慄くとでも?」

「どうかな?腰が退けているし少し震えている」

「一旦後方に下がって助走をつけること、そして武者震いというのをご存知でない…?」

「いや?」

「私を舐めてもらっては困ります。受けて立ちましょう。いざ!」

「それは僥倖」



あまりに楽しそうに会話をする敬愛する主に家令はハンカチで目元を覆って踵を返した。





ある雑務担当の使用人が主から寝台のシーツを替えてくれと頼まれ、部屋を訪れると浴室から声が聞こえた。



「泡で髪を逆立てないでください!自作とんがり帽子ではないのですよ!」

「ふはっ」

「こんな辱めを…ならば、私も泡で二つに分けて耳を作ってやります!テオヒョウ誕生!」



ぶふっと思わず噴き出してしまうが、我に返りささっと流れるようにシーツ交換をこなし、早く仲間に報告したくて飛び出して行った。





そんなこんな日々を送りながらも。

トリュセンティア国魔術師団副団長の屋敷は

本日も賑やかで和やかで穏やかである。



屋敷の主とその最愛の妻の部屋。

贈られたドレッサー横の棚の上には

屋敷の主なのに絶対接触ができないガラスケースが飾られ、

その中には鎮座した二匹の猛獣が寄り添うように

今日も仲良く並んでいる。









 

これにて完全完結となります。

書きたいことが多過ぎて思った以上に長く

なりましたが、最後まで読んで下さった皆様

ありがとうございました。

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