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一日5秒を私にください  作者: 蒼緋 玲
一日24時間を私にください
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後日談:一日24時間を私にください 8






グラタン・パスタコーナーには数種類の品揃えがあり、大好きな何のグラタンをどれほど食べるかの配分が難しく悩んでいると、パスタを乗せた皿を持ったアビーと蒸留酒片手にパミラが訪れた。



「よしよし。沢山食べられているわね」

「はい!まだ三分目ぐらいです」

「あの量で三分目か…」

「旦那様、色々頑張ってくださいね」

「まあ…運動するから問題ない」

「どれだけ…」



何やらテオルドとパミラが話している内容を聞いていたアビーがユフィーラに向かってにまにましているので、こてんと首を傾げる。



「体力使うだろうから、沢山お食べなさいね」

「ありがとう、ございます?」



良くわからないが沢山食べる許可はしっかりと記憶に刻みつけ、ユフィーラはシーフードグラタンを攻め始める。



「パミラさん。婚姻式に付けていた髪飾りは、もう一度見ることはできないでしょうか?」

「ん?見れるよ勿論。その為にネミルにお願いしたんだから」

「ネミルさんに?」

「あ、ネミル。あれ上手くいきそう?」



イーゾと話していたネミルがちょうどこちらの料理を取りに来たらしくアビーが声をかける。



「イーゾが是非グラタン勢を制覇してみたいと言うもので」

「シーフード増し増しですね!」

「ふふ、はい。増し増しです!アビーさん、ドレスは少しかかりますが、髪飾りはもう出来上がってます」

「おー仕事早いね!ここにある?」

「例の物の所に置いてありますが持ってきますか?」

「うん。お願いできる?言ってなかったからユフィーラが気になってるの」



パミラが蒸留酒を飲みながらネミルに言うと、わかりましたとネミルがささっとお皿にグラタンを盛って離れていった。


少しすると、ネミルが両手に収まるくらいのガラスの四角い置物を持ってきた。



「ユフィーラさん。一生に一度の髪飾りをずっとそのままで」



そう言って渡してくれたのは、ガラスの入れ物の中に固定されて綺麗に飾られている髪飾りであった。



「う、わぁ…ネミルさんこれって…」

「ネミルにね、ガラスケースの中に保管魔術を使って半永久的に保てないかってお願いしてみたのよ」

「そうそう。ドレスもだけど、一度しか着られないけどユフィーラにとっては何より残っていて欲しいものでしょ?」

「…ぃ。…はい!」



こんなにもユフィーラの気持ちを慮ってくれるアビー達にユフィーラはまたもや涙腺が緩みそうになる。



「生花でも食べ物でも魔力を注ぎ続ければずっと綺麗なままですよ。これはガラスケースの中に主様から預かった魔石を入れてあるのでそこから魔力を吸収して半永久的にこのままです。間に合って良かったです」

「…ネミルさんが最近良く枯渇に近い状態になっていたのは、この為なのです?」



ネミルはちょっとはにかみながらも首を横に振る。



「それだけではありません。自分自身でやることを決めて実行しただけです。ユフィーラさんに気づかれて窘められましたが、そのおかげで魔力を魔石に移してそれを原動力として吸収させる方法が開発できたので」


それでもこの日の為にネミルが頑張ってくれたことは確かだ。それについてはテオルドが言葉を足してくれた。



「ネミルはダンの制作物やブラインの花、ガダンの料理にも保管魔術を施してくれた」

「…そんなに」

「いえいえ。主様が僕が継続的に魔力を使うことを懸念されて、魔石からの吸収方法を提案してくださったからこそ、結果他の皆さんの物もできたのです」

「ネミルさん、ありがとうございます。…この髪飾りが残ってくれて思い出としてずっと身近にあることが本当に嬉しいのです」



ネミルは優しい笑顔で返してくれる。もう瞳の中に淀んだものは一切残っていない。



「少しでも恩返しができて良かったです。ユフィーラさんの笑顔が僕をこれからも前に進める源になります」

「ネミルさん…」

「ネミルも大概に心に刺さることを言うんだよねぇ」

「ユフィーラ男性版誕生?どうなるのこの屋敷」



お姉様方二人がひそひそと話している間、正面特攻型の男女二人は私も僕もと繰り返しているところをイーゾとギルがやってきた。



「何やってんのー」

「ネミル、次はミートグラタンに行くぞ」

「イーゾはグラタンが好きだなぁ。では失礼しますね」



ネミルとイーゾが離れ、パミラ達はお酒を調達しに離れる。ユフィーラはギルのお皿に目が釘付けだ。


そこには最近ハマっているガダンお薦めの牛肉のタルタルと海老のタルタルである。



「…不覚。見逃していました」

「うん?これ」

「ギルさん達が居た……あそこですね!」



ユフィーラはぴゅんっと、素早くタルタル現場に突入する。そこには先程までギルが居たところにハウザーが立っていた。



「良かった、まだありました。これを見逃したら悔やんでも悔やみきれません」

「なんだ」

「先生が死角に居たので、タルタルを見逃すところでした!」

「知るか」



ハウザーは蒸留酒を飲みながら海老のタルタルを摘んでいる。



「ふぅ。確保できました。これで我が人生に悔い無し!」

「そこまでか」

「まだ悔いを残してくれ」



ハウザーのみならず、テオルドまでもが、突っ込みを入れる。だが好物のタルタルをもぐもぐ食べている今のユフィーラにはあまり効き目が無い。



「牛タルタルにはこのペッパークラッカー、海老タルタルにはハーブクラッカーがとてつもなく合うのです!ささ、どうぞ召しませ!」



そう言ってハーブクラッカー海老タルタル乗せをテオルドの口に、ペッパークラッカー牛タルタル乗せをハウザーの口にそれぞれひょいっと放り込む。



「美味しいですねぇ!」



そう言いながら満面の笑みと幸せそうにもぐもぐするユフィーラを見て二人は何も言えなくなる。



「そういえばトリュスの森で七色の蝶が沢山飛んでいましたが、やっぱり先生の魔術の影響なのかなと思いました」

「まあそれもあるな」

「そしてあれは間違いなく雌の蝶が数匹常に先生の側にいたのですよ」

「は?」



急な話の展開にハウザーとテオルドが瞬きをする。



「あの時は自分事で精一杯だったのですが、今思い返してみるとその蝶たちは先生と道を歩いている時には流石に離れていたのですが、それ以外ではいつも先生の近くにいたような気がします。しかもその中の一匹の蝶は先生の頭の上に乗っていたのを今思い出しました!まるでリボンのようでしたよ!」



テオルドが物凄い速さで顔を背け、ハウザーは眉が寄った。そしてそれを地獄耳のギルが聞きつけて腹を抱えながらこちらに戻って来る。



「可愛いじゃん」

「黙れ」

「テオルドもこっち向きなよ」

「黙れ」



二人から即座に返された言葉に歯牙にもかけないギルはユフィーラに向き合う。



「僕はその瞬間は見れなかったけど、ハウザーの近くにずっと居るなぁとは感じていたんだよね」

「私も記憶を辿って今ようやくって感じなのです。そのまま彼方に追いやらなくて一安心しました!」

「今後はそのまま彼方に記憶を放れ。呼び起こすな」



ハウザーから憮然とした表情で言われ、首を傾げながらも頷く。男性は可愛いと言われるのが照れ臭いのかもしれない。



「そうそう。これあげるーお祝い」



ギルが漆黒の手の平サイズの巾着袋をユフィーラに渡した。



「まあ…来ていただいただけでも有り難いことなのに、贈り物まで…」

「いいのいいの。ハウザーがまともになった御礼も兼ねてるからさ」

「おい」

「これ原石だから加工はテオルドに任せてね」



ユフィーラが巾着袋を開けて中身を取り出すと、そこには本当に採れたてといった感じの荒削りな漆黒と紺色が混ざったような煌く石が入っていた。



「まあ…なんて素敵な…これは私とテオ様の色…?」

「うん。異国でしか採れない石でさ。宝石としても扱われてるみたいだよ」

「これは見事だな…良く採れたな」



テオルドも僅かに目を丸くしている。



「ちょっと危険な場所で、しかも希少価値があって少量しか採れないから、削れて残った欠片も持っていると何かの時に換金できると思うよ」

「そこで俺の命は削れそうになったけどな」



会話に参加してきたのはグラタンを摂取して満足そうなイーゾだ。



「イーゾさんも一緒に行ってくれたのです?」

「ああ。ギル兄が場所見つけて俺に行けって命令してさ。あんなに危ない場所だったら、ちゃんと事前に言って欲しかったしな」

「言って尻込みしたら面倒でしょ。すぐに穫れる場所まで教えてあげたんだから感謝して欲しいくらいだよ」

「あんな自然の脅威トラップがあるなんて誰がわかるか!」



何やら壮絶な体験をしたらしい。そんな思いをしてまでもこの石を採ってきてくれた二人の心遣いにユフィーラは胸が温かくなる。



「…ギルさんとイーゾさん、本当にありがとうございます!テオ様と話し合ってどんな物をつくるか決めたらお二人に一番にお伝えしますね!」

「感謝する」



これにはテオルドも驚きと共に喜んでくれたようで御礼を言っていた。



「ああ。ネミルが世話になったからな。喜んでくれたなら良かった…恐ろしい経験はしたけどな」

「イーゾにとってはその辺の輩とちょっと交戦するくらいのものだから問題ないよーハウザーをこれからもよろしくねー普通の人間で居させてやってよ」

「承りました!」

「俺は元から普通だろうが」



ハウザーの訴えにギルはわざとらしく肩を諌めてやれやれと示し、イーゾは見て見ぬふりを決め込んでいた。


テオルドが保管しておいてくれると言うので、渡してユフィーラ達はスープコーナーに向かった。





「ランドルンさん。…それは至極のコンソメスープですね?」

「ええ。これは相変わらず最高に美味ですね」



残念ながらもう神父服ではないランドルンがスープカップに注いだコンソメスープをゆっくりと味わっていた。ユフィーラとテオルドもスープカップに程よい熱さのコンソメスープを入れていただく。



「ああ美味しい…何と言うか沁み渡ります。これはガダンさんも最高の出来だと言っていましたものね。シンプルだからこそ一番難しい味付けだと」

「ええ。色々な材料がこのスープに凝縮されているのが一口一口味わうごとに感じます」



微笑を湛えながらランドルンが口に含む。このスープには色々な思いがあるそうだ。



「自分の婚姻式のドレスもそうですが、ランドルンさんの神父服姿ももう見れないと思うとちょっと残念なのです」

「おや。そんなにお気に召しましたか」

「それはもう!あの格好が誰よりも似合うのはランドルンさんです!ですよね?テオ様」

「だな。あれはランドルンだからあそこまでの仕上がりとなった」

「ふふ、そうですか。それは光栄ですね。今後何かの任務であればまた着ることがあるのかもしれませんね」

「に、任務…テオ様、特殊魔術班に今後そのような任務の予定は…」

「残念ながら無い」



ユフィーラは音がする程がくりと肩を落とすのを、ランドルンが苦笑しながら、いつか機会がありましたらと銀縁眼鏡をくいっと押し上げる仕草だけで何だか神父に見えてきたので、ユフィーラは取り敢えずそれで手を打つことにした。


そしてランドルンから、テオルドが婚姻式中にユフィーラが強欲でテオルドを独占したい話をし俯いていた時、テオルドが今までにない極上に微笑む表情をユフィーラだけ見ていなかったことを教えられ、胸倉を掴む勢いで確認するが、当の本人は「どうだったかな」と、とぼけた顔をされハンカチを噛み締めたいくらい悔しかった。







不定期更新です。

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