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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一日24時間を私にください
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後日談:一日24時間を私にください 7






「おいふぃ!」

「料理は逃げない」



賑やかに和やかにユフィーラ達の披露宴なる食事会が始まった。


今日の料理の品数は膨大であるが、ユフィーラは何としてでも全種類制覇したい気持ちでいっぱいである。だがしかし、量が量なのでお腹への配分を緻密に計算していかなければならない。それでもついついどれもが美味しすぎて食べてしまうのがガダンの料理の恐ろしいところなのだ。



「あらあら、本当に美味しそうに食べるのね」



ユフィーラが好物の一つ、卵の串揚げをもぐもぐしている時に来たのは発泡葡萄酒の入ったグラスを持ったビビアンとリカルドだ。



「はい!ガダンさんのお料理はいつでも美味しいのですが、今日はビビ様も来ていただいているので一層美味しく感じます!」

「可愛いこといってくれるのねぇ」



ユフィーラは一度しっかり口の中の物をお腹に収め、ビビアンに向き合う。



「改めて、ビビ様にはテオ様が指輪を作る過程にご協力いただきまして本当にありがとうございました。この世で二つと無い一等素敵な指輪になりました!」

「喜んでくれて何よりだわ。今まで大して関わらせてくれないもんだから、強引に私の行きつけの宝飾店を紹介したの。まあまあ使える店だったでしょ?」

「途中半泣きになっていたけどな」

「あれは半泣きなんてものじゃなかったけどなぁ」



リカルドが遠い目をしながら店側に同情的な眼差しをする。



「うふふ。良いのよ、普段から支援して沢山稼がせてあげているのだから、それくらいやってもらわないと」

「まあ。では無理をさせてしまったのですね。ですがそのおかげで唯一無二の最高の指輪を贈っていただけました。お店の方や職人さんにお伝えいただけると幸いです。最高最上極上だと!」

「やだー可愛い」



ビビアンがにっこりと微笑むのをリカルドが「社交界では見ない表情だな」と苦笑する。



「それはそうよ。あっちは本音を隠した鎧の笑み。一緒にしてもらっては困るわ。ユフィーラちゃんはテオルドと舞踏会に参加しないの?」

「舞踏会、でしょうか」

「ええ。毎年年末に開催される王族主催の舞踏会は全ての貴族にお声がかかるの。テオルドも毎年招待されているはずなのに一度も参加したことないわね」

「必要性を感じないからな」

「これだもの。ユフィーラちゃんと一緒なら一度くらい行ってみたら?」

「ユフィーラが目をつけられたらどうする」

「集る蝿女共は私が片っ端から蹴散らしてやるわよ」

「違う。男の方だ」

「あらまあ、そんな酔狂な方はいないですよ」



男性からお声が掛かると露ほどにも思っていないユフィーラの返しにビビアンは呆れた表情をする。



「これは重症だわ、テオルドが」

「そうだな。会場が業火に焼かれたら困るしな」

「あらまあ…そんなに熱狂的な催しが…」

「ユフィーラちゃん、そうじゃないから」



ビビアンの突っ込みに首を傾げながらもユフィーラは答える。



「私は平民出身ですし、マナーも残念ながらないようなものなので、テオ様の恥に繋がることはできません」

「フィーが恥になることはない。参加する奴らが恥そのものだ」

「凄い暴論」

「ふふ。コルセットなるものも、とても苦しそうですし何より美味しい物が並んでいるのに啄む程度しかできないなんて、どんな苦行かと綺羅びやかな会場よりもそちらに目を向けてばかりだと思います」



口元に手を当てながら微笑むと、ビビアンは目を丸くしてから手を添えて思わず声を出して笑う。



「うふふ。何それ可愛い。美味しそうに食べるユフィーラちゃんを是非見せつけたい気持ちはあるけれど、テオルドの視線が氷点下のように冷たいから止めておくわ」

「そうしろ」

「まあ怖い。そういえばユフィーラちゃんの保湿剤なんだけど、この前リカルド経由で譲ってもらったのだけど、定期的にローズの保湿剤が欲しいの。可能かしら?」

「はい。毎度ありがとうございます!」

「何その商人対応、堪らない!」

「ユフィーラさん、その時に私の保湿剤も一緒にお願いできるかい?」

「はい、勿論!テオ様、儲けてうはうはですね!」

「そうだな」

「あはは!」



淑女なるビビアンだがついに思わずといった風に声を上げて笑ってしまう。



「久々に声に出して豪快に笑っちゃったわ。これは保湿剤だけでなく定期的に会いたいわ」

「都合が悪い」

「テオルドの都合なんてどうでも良いの。私とユフィーラちゃんの都合次第よ」

「フィーの都合も俺と同じだ」

「器が狭い男は鬱陶しがられるわよ」



ビビアンとテオルドの応戦にユフィーラはテオルドがリカルドの妻とはいえ、女性とここまで話すなんて貴重だな、と全く明後日の方向に考えながら今度は海老のカクテルサラダを堪能していると、リカルドが小声で話しかけてきた。



「実は以前ユフィーラさんがテオルドの指輪を填めた時があっただろう?あの後、指輪のことを伝えたら固まってショックを受けていたんだよ。あいつには指輪を贈るって知識も概念もなくて、しかも自分が何も贈り物をしていないって気づいて、己自身にがっかりしたんだろうな」

「まあ…そもそも私もそのような概念がないので全く気づきませんでした。でも私には指輪があってもなくてもテオ様と居られるならそれに勝るものはないのです」

「うん。そんなユフィーラさんだからこそ、テオルドは今回頑張ったんだろうな―――――ありがとう。テオルドに寄り添ってくれて。心を開いてくれて」



そういうリカルドの表情は孤児だったテオルドの身内のような眼差し。テオルドには血は繋がっていなくても慮ってくれる家族がすぐ側に居たのだ。



「私こそ、団長様が常に側で見守っていてくださったからこそ、テオ様が迷いながらも歩み寄ってくれたのだと思っています。団長様あっての今のテオ様なのです」

「ユフィーラさん…ありがとう」



リカルドの目元が微かに潤む。本当にテオルドを大事に思っていることが感じ取れてユフィーラもとても嬉しくなる。


ビビアンがユフィーラの食べていたカクテルサラダを食べたいと、リカルドと共に離れていった。





ユフィーラが次に攻めるのはローストビーフだ。ガダン自らエドワードの紹介で訪れる市場で選んだ極上の牛塊肉で作ったロゼ色に煌く逸品を濃厚な玉ねぎのソースでいただく。


ハイテーブルに置いた皿からカトラリーで簡単に解れるほどに柔らかく、味の濃い旨味にユフィーラは目を輝かしながらもぐもぐと口を動かしていると、ダンが話しかけてきた。



「それ絶品だよな、俺何枚食べたかな」

「はい!お肉の旨味がこれでもかと凝縮されていますね!」

「はは!ユフィーラは本当に美味しそうに食べるなぁ」



ダンも皿にローストビーフとフライドチキン、ステーキと肉好きな品揃えを盛って豪快にぱくぱくと食べていく。



「いつものテーブルでお話しながら食べるのも良いですが、こうやってハイテーブルでちょっと近くにいて食べるのも新鮮で良いですね」

「ああ。ガダンから依頼されて作ってみたけど案外使えるな、これ」

「…はい?」

「ん?」

「フィー。このテーブルはダンが作ったんだ」

「…え!?」



なんとこの白いハイテーブルも祭壇上同様ダンの作品とは驚きである。



「まあ…あの祭壇を作ったことだけでも驚愕だったのに、このテーブルまで制作されていたなんて。ダンさんの手はまるで新しいものを生み出す腕利き魔術師なのですねぇ」

「思ったより楽しくてさ。木を切ったり削る過程は体内魔術を上手く使えば綺麗に仕上がるし、一から作っていくのは面白かった。でも誰かに言われたけど仕事にはしたくないなぁ」

「ふふ。趣味としてだからこそ、想像や閃きが冴えるのかもしれませんね。素敵な家具をありがとうございます」

「ああ、趣味、か。良いなそれ。趣味でこれから気が向いた時に家具でも作ってみようかな」

「その時は是非私も閃きに参加を!」

「はは!了解」



ダンはにっこり太陽のように微笑んで、次は魚料理を攻めに向かった。






少し喉が乾いたので、カウンター近くに飲み物を取りに行く。今日のユフィーラとしては料理をとことん攻めたいので、お酒は飲まずに果実水に手を伸ばす。お酒は飲まないが、酒のつまみはしっかりといただく予定ではある。


つまみのコーナーに行くと、ブラインが好物の塩ナッツとカラメルナッツをぽりぽり食べながらお酒を飲んでいた。



「ブラインさん、お料理にもナッツを使ったチキン料理がありましたよ」

「もう食べてる」

「流石早いですねぇ」



ユフィーラがどの果実水か選んでいる間にブラインがグラスを取ってくれた。



「ん」

「ありがとうございます。ブラインさんが作ってくれたブーケと髪飾りを始め、扉のリースや玄関や食堂、カーテンタッセルやカウンターの小さなブーケまであんなに多彩な花のアレンジのセンスが秀逸で感動してしまいました」

「…別に大した事ないし」

「前にブラインさんが間引きしていた花を組み合わせていたのは、練習的なものだったんですか?」

「今までは庭全体を見て色や植物同士の相性とか見ていた。でも飾る目的で作るのもまた違った要素があって、それなりに楽しかった」

「まあ。大好きな植物の幅が広がったのですね」

「そう…いうことになるのかな」

「はい。これで更に好きな植物の色々な魅せ方や間引きした花の使い道が増えますね」

「うん。間引きした花も何処かで見せてあげたかったからアレンジして屋敷に飾るのは良いかも」

「では今後も見られることがあるのかもしれないのですね!楽しみです」

「…別に大した事ないし」



目を背けながらも耳をほんのり赤くさせたブラインはカラメルナッツをユフィーラにお裾分けしてささっと離れてしまった。



「フィーはブラインを喜ばすのが上手いな」

「喜ばすと言うよりも思ったことをそのまま伝えるのがブラインさんには一番伝わるのかと思っただけですね」

「それがブラインには心地良いのだろう。あいつは捻くれているが、言葉は真っ直ぐだ。育てている植物のように」


そう言ってブラインを見るテオルドの表情は何だかお兄さんのようでユフィーラはほっこりとした気持ちになった。







不定期更新です。

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