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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一日24時間を私にください
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後日談:一日24時間を私にください 5






皆の心の込もった贈り物の集大成をユフィーラは全身全霊で受け止める。



アビーとパミラが仕上げてくれた全使用人渾身の魔石がふんだんに使われた世界に一つのヴェール。

アリアナとモニカ主導で、テオルド達が選んでくれた婚姻式用の世界唯一のユフィーラだけのドレス。

ブラインの花を生けるセンスの良さと、隠れた才能を発揮したジェス作のリボンが結ばれたブーケ。

ダンが作ってくれたこの森の同化するくらい素晴らしく制作された祭壇。

本日限定でどの教会よりも祭壇上が似合っているランドルンの神父。


そしてテオルド自ら魔力を込めて魔石から作ってくれた耳飾り。



ハウザーと共にゆっくりと祭壇に向かって歩んでいく。


まるで一国の王の威厳でも持っているかのような、無精髭の無い美丈夫になっている堂々とした振る舞いのハウザーが、ユフィーラの歩幅に合わせてゆっくりと歩んでくれる。街での長い足の一歩とは大違いだ。



誰が作ったわけでもないのに、ハウザーと祭壇まで進んでいく道のりには生い茂った植物や蔦が一切ない。まるでこの森にも祝福されているかのような錯覚を覚えてしまう。


目の前の最高のシチュエーションと、過去の邂逅が代わる代わる頭の中を奔走し、感動で目は潤みっぱなしだが、二度とお目にかかれないだろう素晴らしい景色を見逃してなるものかと、ユフィーラは瞬き連打で何とか視界をクリアにする。



祭壇に近づくに連れて左右に並んでいる使用人の皆、ギルとイーゾ、アリアナとモニカ、リカルドとビビアン達の微笑ましく見る表情が視界に入り、再度目頭に落ち着け!と暗示をかける。



その先に見えるのは、職人も真っ青な出来栄えの見事な祭壇と、本職の神父より本職な出で立ちのランドルン。



そして。



手前の祭壇に凛として佇むユフィーラの最愛の人物。


漆黒の軍服の上に艷やかな最上級のシルクを惜しみなく使用し、漆黒に紺色と茶色の刺繍が緻密に施されたフードが無い襟の立っている厳かだが、優美なローブ。



ユフィーラはローブを纏ったテオルドの姿がとてもとても好きだ。



トリュスの森で出逢い、当初は何にも感情を動かさなかったテオルドの冷たい表情と、今ユフィーラを待っている温かみのあるテオルドの表情を見て思う。



(テオ様も私だけでなく皆のおかげでここまで表情が豊かになって感情も出せるようになった)



感情と表情が表に出るようになって、それが相手にも伝わり、共に親しみ近づいたのだ。




テオルドのいる祭壇手前に着くと、ハウザーが腕からユフィーラの手を取りテオルドに向けて差し出す。



「失望させるなよ」

「未来永劫ないな」



祭壇上でするには中々に物騒な言葉の応酬だが、それが何だか二人らしいとユフィーラは含み笑む。


テオルドがユフィーラの手を取り、ハウザーは神父役のランドルンに一礼して最前列、ギルの隣に移動した。



テオルドがユフィーラの手を見て、親指でさらりと手の甲を撫でながら俯き加減に僅かに微笑むのを間近で見てしまった。その凄絶な微笑みのせいでユフィーラの心臓は速るを超えて高速稼働爆走だ。



テオルドが祭壇上を向くのに倣い、ユフィーラも向きを変えた。



祭壇上には神父ランドルンが書物を持ち、くいっと銀縁眼鏡を上げながら「では始めましょう」と慈愛の微笑みで、婚姻式が始まった。どこかの教会で一日体験させてみたいと神…森の前でついつい不純な願いを思い浮かべてしまうが、ユフィーラの純然たる本音である。



「テオルドから神は信じないという言伝をもらっていますので…二人の出逢った、トリュスの森の精霊達に」



誰もが、誓う神そのものを否定するのかと思っただろうが、ユフィーラとしてはテオルドらしいという感想のみである。それにユフィーラも誓うのは神ではなく目の前に居る大好きで一等大切なテオルドだ。



「テオルド・リューセン。貴方はここにいる、ユフィーラ・リューセンを生涯、何時如何なる時も心寄り添い、共に在ることを誓いますか?」

「誓う」



実に端的な一言である。

敬語という概念は彼には存在しないのだ。それすらもユフィーラからすればテオルドらしいの一言で終わってしまうのでユフィーラも大概かもしれない。


ランドルンが一つ頷き、次にユフィーラに向き合う。

ユフィーラの心臓がどきりと鳴る。



今までここぞと言う時に大抵言葉を噛んでしまっているので、緊張も人一倍どころではない。



(誓います。これだけ。ゆっくり言えば良いの。誓います。ち、か、い、ま、す。この五文字だけ…)



ユフィーラは暗示をかけるように何度も頭の中で復唱する。



「ユフィーラ・リューセン。貴方はここにいる、テオルド・リューセンを生涯、何時如何なる時も心寄り添い、共に在ることを誓いますか?」



ユフィーラは気持ちをぐっと込めて一つ頷く。





「ちかいましゅ……す…」





ゆっくり慎重に言ってもこれだ。



(何故なのだ…!どれだけ本番に弱いの…!無念過ぎる…)



間近で聞いてしまったランドルンは、流れるような仕草で口元に手を当て、その手は少し震えている。


ユフィーラがぽぽぽっと頬を赤くしてしまう姿を、少し眉を下げ蕩けるような笑顔を見せるテオルドの表情を、祭壇下から見た使用人を除く全員、そしてちょっと遠目から見ている謎の人物達が瞠目する。



「俺はそんなフィーが可愛くて愛しくて仕方がない」



そう言ってブーケを持っていない方の手を取り指先に口付けを落とすものだから、ユフィーラの顔は更にぼんっと真っ赤になる。口付けを施すテオルドは壮絶に美しく艶めかしい。


ユフィーラが白目を剥きそうになるのを察知したランドルンが「では指輪の交換を」とテオルドを急かすように声を掛ける。



「…ぇ…指輪…?」

「ああ」



祭壇上にある小さな漆黒の箱。後方からパミラがユフィーラの持っていたブーケを受け取る。ユフィーラはその小さな箱に目が釘付けだ。



(まさか…それって…)



テオルドが箱を開けると、そこには白金を基調とし、周りに漆黒と紺色の石が埋め込まれ、一周に散りばめられ輝いている指輪が二つ。



「ユフィーラ、左手を」



ユフィーラは呆けた状態で半分無意識に手を差し出す。


テオルドが二つのうちの小さな指輪を取り出し、ユフィーラの細い左手の薬指に填める。



「ぴったりだ」

「テオ、様。いつ…」

「眠っている間にちょっと」



そう言ってテオルドが指で輪っかを作る。

いつの間に色々動いてくれてこの指輪を用意してくれたのだろうか。

ユフィーラは填められた指輪を目の前に翳して魅入る。


白金に砂粒のような、これはきっと魔石なのだろう。

華美なものをあまり好まない、薬の精製作業をするユフィーラの手の邪魔にならないように配慮された形。シンプルなのに黒と紺色が所々に仄かに輝く、唯一無二のテオルドの気持ちがこれでもかと込もった贈り物だ。


いつ何時でも常に外したくないほどの、ユフィーラの宝物となることは容易に想像できる。



「フィー。俺にも付けて」



そう言われるまでユフィーラは瞬きもせず指輪を見つめていた。

指輪から目を離しテオルドを見ると彼の持っている箱には、もう一つの大きめの指輪。



(…そうか、お揃いなんだ。テオ様とお揃い…初めての、お揃い……)



ユフィーラの中で筆舌に尽くしがたい、心の底から噴き出してきそうな満たされる感情に、全力で今は贖う。その代わり目元が潤んで仕方ないが、それでも何とか踏ん張って箱からユフィーラの物より一回り大きな指輪を取り出し、テオルドが差し出す左手にゆっくりと填めた。



「…お、揃いです」

「ああ。そうだな」



テオルドがふわっと幸せそうに微笑む顔に、意識がくらりとしながらも、まだまだ!と辛うじて耐え抜く。



「…重い…重いよ、あの指輪」

「ねえねえ…ちょっと内容やばくない?」

「主の想いがこれでもかと…!」

「あの細かい魔石に良くあれだけ精密に施したねぇ」

「あれ普通無理だろうな」

「不可でしょ」



使用人方面からのちょっと物騒な小声の会話のやり取りも。



「ねえねえ…あの指輪の防御魔術の数は何」

「知るか」

「凄い…。人間であそこまで、魔石に魔術を詰め込めるなんて」

「お前は真似するなよ。しなくていいんだからな」



ハウザー方面からの小声談義も。


胸がいっぱいいっぱいのユフィーラには耳を素通りするばかり。

もう瞼を幾ら連打して瞬きしても、溢れ出る涙を抑えることが不可能になった時。


ふわりと体が浮いた。



「…テオルド」

「良いだろう、もう」



ランドルンの苦言を一蹴したテオルドがユフィーラを抱き上げる。

驚いて目を丸くし、ぽろりと一雫流れた涙を溢すユフィーラを見て、テオルドはこれでもかと心底幸せそうな笑みを見せる。



「これが無くても俺の想いは変わらないが、これでフィーは俺のだと知らしめられる」

「…無くてもテオ様だけの妻ですよ?」

「ああ。でもそれを俺自身が望むんだ」



そう言って顔を近づけてユフィーラの口に口付けを落とした。



「…テオルド。誓いの口付けをそのような形にで…全く、貴方って人は…」

「だからもう良いだろう。神なんていないからな」

「はあ…やれやれ」



そう言いながらもランドルンは苦笑してユフィーラに「まあ想定内です」と囁く。

ユフィーラは公衆の面前で口付けをされ――――いや、継続的に何度も現在進行形である。



「…凄いですわね…相手によって、ここまで様変わりしてしまうなんて」

「それだけユフィーラさんへの想いが強いのでしょうね」

「テオルド…立派になって…」

「ほら、ハンカチで拭いてよ。リッキーはもう兄というよりも父親のようねぇ」



皆が感想を述べている間にもテオルドの口付けの猛撃は止まらない。



「主が幸せそうだ!めでたしめでたしだな!」

「ユフィーラが息絶えそうだけど」

「何とかなるでしょーユフィーラは意外にしぶとくて強いから」



ユフィーラはもう絶命手前の心境ではあるが、どうしても伝えたいことがあったので、全力で気張り羞恥を抑え込んでテオルドの頬を包む。



「て、テオ、様」

「うん?」



僅かに首を傾げるテオルドの表情は壮絶な幸福感を纏った新郎そのもので、またもやぐらりと意識が飛びそうになるのを、ぐぐいっとユフィーラは最後の力を振り絞る。



「以前私には欲がないだろうと仰っていたことがありましたよね?実は私は誰よりも欲深いのです」

「…なるほど?」



テオルドがちょっと面白そうな風に片眉が上がる。



「はい。物欲などはあまりありませんが、誰よりも欲深く重苦しい願いを私は持っています」



テオルドが一つ頷く。



「それは、テオ様。貴方です。私が全身全霊を賭けて欲したい唯一の相手なのです。だから、誰よりもそれを願う気持ちは勝り、相手が誰でも負ける気は皆無です」



テオルドが瞠目して口を僅かに開く。



「一日5秒くださいとお願いしたことがありました。ですが今ではそんなものでは到底足りないくらい私は強欲です。一日全部…と言いたいところですが、テオ様にも仕事や自分の時間など必要なので…数時間――――」



そうやって時間配分に悩んでいる最中に下を向いてしまっていた。

だからこそ。

テオルドのユフィーラを見つめる幸せそうな満面の笑みを、事にあろうにユフィーラだけが見逃すという最悪の失態を後に知ることになる。



ユフィーラ以外全員が呆然とする中、テオルドがまた顔を近づけてユフィーラにふわりと口付けをする。



「甘いな」

「え?」

「一日数時間ごときで良いなんて」

「…え」

「じゃあ、俺はフィーに乞おう」



テオルドがユフィーラを抱き直して視線を同じ位置に合わせた。




「一日86400秒を俺にくれ」

「秒数計算早っ!そして何かちょっと怖っ!」




ユフィーラのあけすけな秒速突っ込みに、後方からは噴き出す複数の音、ユフィーラと同じく「怖」や「恐」などの声が蔓延り、ある一箇所からは「我が主…見事な〆のお言葉…」と嗚咽と共に聞こえ、ある一箇所からは「私は分で答えた!流石だな!」と賛同する声と「気持ち悪い」と伴侶からの呆れた声も重なるように聞こえてきた。


それらに対し、何一つ微塵たりとも悪気無く、堂々とした出で立ちのテオルド。

だいたいが斜め方向へ向かうユフィーラの謎の闘志が、今回も沸々と湧き起こり、勇ましいところを自分も見せなければならないと案の定明後日の方向に爆走し始める。



「フィー?俺の重苦しい想いには勝てそうにないか?」

「…まあ…どの口が仰っているのでしょうか。テオ様は私がどれだけ執着も、ねちねち粘着もあるかを知らないからそんなことが言えるのですよ…?」

「…へぇ?」

「…あらまあ、何でしょうか。その疑わしいとでも言うような表情……わかりました、よろしいでしょう。私のどろっどろの息苦しい部分でも沢山見て、せいぜい吃驚すれば良いのです!」

「受けて立とう」

「途中で退くは男の恥ですからね!」



何やら祭壇上で穏やかではない応酬が勃発しているのを、改めて皆が視線を二人に向ける。


その状況を露知らずにユフィーラは、美しい筈の花嫁衣装の姿で鼻息荒く、テオルドの頬をしっかりと押さえ込んで、改めて宣言した。



「一日、24時間を、私に、ください!」



そう言ってちゅっと自らテオルドに口付けをした。

ユフィーラにとっては相当大胆な行動にテオルドの表情が一瞬固まり、仄かに頬が赤くなって喜色満面の笑みなるのを、ユフィーラ始め全員が驚愕の表情になった。



「望むところだ。フィーも逃げるなよ?しっかり包囲するが」

「…こちらこそ望む全部です。一生ですよ?逃がしませんからね!」



ユフィーラの言葉にテオルドの表情が妖美に微笑む。

ユフィーラ始め数人がぞくりとしたが、これは武者震いなのだとユフィーラは相変わらず鋭角斜め方向に突っ走りながら己に言い聞かした。



「勿論です。女に二言はないのですよ!」

「一般的に言われるのは男だけどな」



テオルドに抱き上げられながら、ユフィーラが違う意味の宣誓的な拳を振り上げた。



「何か神聖な場所での些か物騒な会話なのに、二人らしいって感じがするよね」

「そうねー今後も見逃せないわ」

「俺らそれを間近で見られるんだもんな」

「会話と酒が進むねぇ」

「主を酒の肴になど…!」

「誰よりも近くに居て見学してそう」



使用人達の楽しそうな会話を聞きながら、ふと掲げている拳にきらきらとしたものが舞い落ちたのに気づく。


上を見上げると、数多の七色の蝶たちが、まるでユフィーラ達を祝福しているかのように飛び交い、それによる眩い七色の光の粒子が乱舞していた。


それに気づいた周りも一斉に森を見上げた。



「まあ…」

「凄いな…フィーの影響か?」

「私、ですか?先生ではないでしょうか」

「無くはないが、俺が呼んだわけじゃないぞ」



そう言ったハウザーの方を見た時のことだ。



「まあ」

「何でいるんだ」

「おい、ふざけるな」



三者三様でまたもや声が重なる。


ハウザー達客人が並ぶ少し遠くの木の陰に、なんと最近騎士団周辺と、研究所で会った二人の人物がこちらを覗いていたのだ。



「え。何してんの、あの人達」

「…勿論、許可は取って来ているんですよね…?」



ギルとリカルドがぼやき、皆がそちらに視線を向けると、「やあやあ」とその人物、トリュセンティア国王のドルニドとハウザーの父ゼルザが木陰からしれっと出てきたのだ。


アリアナとモニカが咄嗟にカーテシーをする。

リカルドは溜息を吐き、ビビアンはおざなりのお辞儀で対応している。


テオルドは胡乱げないつも通りの表情で、使用人もこれといって特に反応無し。

お見事な主従連携である。



「大丈夫大丈夫。ちょっと出掛けてくるよって言っているから。ゼルザも一緒って知っているから問題ないよ」

「俺は責任取らんぞー」

「ちょっと良い加減にしてくださいよ」




今思えば、ここにドルニド始めゼルザ、リカルドととんでもない王族三兄弟が勢揃いということになる。



「まあ…恐れ多いですねぇ」

「そうか?只の中年だ」

「リカルド。こいつらをどうにかしろ」

「そもそも出来るなら、とうの昔にそうしている。不可能だ。お前こそできるのか?」

「不可能だ」



何だかわちゃわちゃし始め、それを知らぬ存ぜぬの態度で原因の大元であるドルニドとゼルザがユフィーラ達の前に来る。



「ごめんね、急に。影で覗き見てすぐ帰ろうかと思ったんだけど、あまりに七色の蝶が美しくてついつい首を伸ばして魅入られてしまったんだ」

「嘘つけ。そろそろ出る?とか言っておったくせに。それに国王たるもの覗き見とか有り得んぞ」

「嬉しそうに僕よりも首伸ばしていた兄さんが何言っているんだかー」

「まあ」

「おい、いい加減にしろよ」



眉を寄せ剣呑な表情をしているハウザーと、既に無言状態で凍えるような瞳をしているテオルド。

ここは婚姻式を執り行い、改めてテオルドの妻を実感した新生ユフィーラの出番である。



「ちょっと抱き上げられているもので、祭壇上の更に高い位置から失礼致します。国王様並びにゼル様、本日はお忙しい中、お越しいただきましてありがとうございます」

「うん。改めて婚姻おめでとう。このまま是非テオルドをここに繋いでおいてくれると嬉しいなー」

「ふふ。どこまでできるかわかりませんが、逃げ出されないように精進致します」

「俺がフィーから逃げるわけないだろう」

「テオルド坊やがここまで変わるとはなぁ」

「お前は止めろ。何で一緒に来た」



やいのやいの賑やかになってきたが、ユフィーラとしてはより楽しい婚姻式になってきたなぁと微笑みたくなってしまう。



「この後お屋敷の方で食事会がありますが、ご参加できるのです?」

「え?良いの?嬉しいなー」

「ふざけるな」



ハウザーはもうその言葉しか言えなくなったようだ。

そしてリカルドの元に連絡魔術が飛んできている。



「国王。王宮は大騒ぎだそうですよ。すぐにお戻りください。この後はみっちりきっちり執務させるように進言しておいて差し上げましたから」

「ああ、こんな目出度い日に我が弟はなんて非情なんだ…!」



薄い黄みがかったプラチナブロンドを手で掻き乱しながらドルニドが恨めしそうにリカルドを睨む。



「ほら、もう良いだろう。行くぞ。若者達の邪魔をするんじゃない」

「兄さんは良いじゃない。研究所とかで会えるんだからさー」



肩を諌める仕草がハウザーとそっくりのゼルザがユフィーラに向き直る。



「すまんな。お嬢ちゃんの祝い事だとハウザーが最後まで日程を隠しおっててな。ちょっとドルニドの影を使って調べたんだ。おめでとうな」

「兄さんはなんてことに影を使っているんですか…!」

「良いじゃない。これでこの後の激務をやる活力になったんだからさ」

「ゼル様、ありがとうございます!わざわざお祝いにお越しいただけるなんて、とても嬉しかったです!」

「そうかそうか。女の子は可愛いのう」

「ふざけるな」

「お前が言わないのが悪い」

「へーだから最近何人か周辺にいたんだ。何もしてこないから放ってはおいたけど」



納得したようにギルが頷く。早々に追い返されそうな二人に対し、折角来てくれたのに何もお返しもできないのはと、ユフィーラがへにょんと眉を下げていると、近くに寄ってきたガダンが声をかけてきた。



「バスケットに詰めて後で引き出物と一緒に送ろうか」

「…ガダンさん!ありがとうございます!引き出物、ですか?」

「ああ。俺がフィーに頼んだ保湿剤と魔力薬もその一つだ」

「あら…あの依頼の品々がそうだったのですね!良かったです。私から皆さんにも何もお返しができないとちょっと悩んでいたのです」

「そう考えると思っていたからな。ガダン、そうしてくれ。後々煩く言われたら堪らない」

「テオルド酷いなー国王にそんなこと言って悲しいなー」




更に蝶たちが増え、景色が明るくなり再度上を見上げると、まるで森の中にある教会のステンドグラスのようだ。


皆が幻想的で神秘な光景に魅入られている。



「…祝ってくれているの?あなた達のおかげで私は今日と言う日を迎えられたのよ…ありがとう。これからも薬草を取りにきたりするからよろしくね」



そう小声で言うと、蝶たちはいいよいいよと答えてくれているかのように軽快に舞っている。



「さてさて。とても珍しいテオルドと、素晴らしい…ある意味脅威でもある自然が見れて今日は抜け出した甲斐があったよ。そろそろ私は失礼するとしよう。あ、婚姻祝いは僕と兄の連名で既に贈ってあるよー受け取ってね」

「え」

「では諸君、また会おう」

「断る」

「会わん」

「テオルドと甥は相変わらずつれないなー」



そう言いながらもドルニドとゼルザは転移でその場から消えていった。



ユフィーラは見送りながらも、上に広がる壮大な自然の恵みと七色の光に感謝をしながら、暫し時間を忘れて眺めていたのであった。







不定期更新です。

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