表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一日24時間を私にください
83/148

後日談:一日24時間を私にください 4






そして冒頭に戻る。




転移した場所はトリュスの森中央の手前ではなく、陽の光があたる大きな木が立ち聳える場所であった。



そして目の前の森以外にあるもの。

ユフィーラは瞠目して何も言葉が出てこない。




いつも薄暗く大きな木の部分にだけ陽が照れされているトリュスの森の中央部分が、いつもより明るいのだ。


その理由は上を見てすぐにわかった。

上空を彼方此方に飛んでいる沢山の七色の蝶。

その舞う姿は七色の小さな光がほわりほわりと浮かんでいるよう。


まるで七色の灯火が、これから行われる婚姻式の場所を示しているように見えた。


「…なんて美しく壮大で幻想的なのでしょう…」

「ハウザーが施してくれた。陽の光だけでは場所によっては薄暗くなってしまうと。ハウザーの闇の魔術の変異から生まれた七色の蝶は、俺ですら神秘的だと感じる」



テオルドが魔術のこととはいえ、人を褒めるのをユフィーラは殆ど聞いたことがない。ここまでハウザーのことを認める言葉を聞くと、家族的な位置に勝手に置いているユフィーラとしては、胸をぐいんと張りたくなってしまう。



「本当に…私は色々な人に恵まれて今日を迎えられたのだと改めて実感します」

「それはフィーの人となりが成せたものでもある。それを誇れ。俺の唯一」

「…はい」



何より幸せを感じる言葉をくれるテオルドにユフィーラはまた目が潤みそうになるが、アビー渾身の化粧を崩すわけにはいかないと、ぐっと堪える。



ゆっくり進んでいくと大きな木の手前に。

何故か、祭壇がある。

ユフィーラはこてんと首を傾げた。



「…蝶が用意してくれた、のでしょうか?」

「流石にそれはないな。ダンが作った」

「え」

「始めから最後まで手作りだ」

「え!?」



マホガニー色の木目調、しかも下手したらその辺の教会よりも素晴らしい代物ではないかという程の祭壇。大きくはないが神父が立つ位置と婚姻式を迎える二人が立つ場所があり、まるで森の中の教会であるかのように違和感なく森の色と上手く融合しているのだ。


そして。



「ん?…え、え?ランドルンさん…!?」



その祭壇の神父側の位置に立っていたのは、薄い銀色に襟や袖には黒の緻密な蔦模様が入った派手さを抑えた神父服のランドルンが書物を持ちながら立っていた。



「ああ。神父役はあいつが適役だろう」

「…確かに。恐ろしい程に似合ってますね…」



あんな美麗な神父が居たら、その教会は女性の参拝者が連日数多に押し寄せるに違いない。


そして、周囲には。



「お、来た。旦那、何時でも始められますよ。…おお、普段の幼い雰囲気が一変するもんだなぁ。凄く綺麗だな、ユフィーラ」

「ガダンさんに褒められました…!」

「…ああ」

「旦那…そんな目で見ないでくださいよ。ったく、器が小さいんだからねぇ」



苦笑しながらハウザーを呼んでくると言って去って行くガダンを始め、ランドルン以外の使用人全員は以前屋敷の防壁魔術を執り行った時の特別なローブ、その下には皆礼服のような素敵な服を着ている。


そして使用人の反対側に居たギルやイーゾ、その隣にはいつもの茶色のローブではなく、焦げ茶色の控えめな艶の入ったローブを纏うネミルの姿が。



「ネミルさん…!テオ様、許可していただけたのですね!」

「ああ。あれから彼は常に前向きに行動し努力を続けている。保管魔術も日々進化に向けて改良していって俺始め使用人全員からもとても評価が高く有り難い限りだ。今日だけ特別に許可を出した」

「…ありがとうございます!」



ここに来て皆の姿を見た時、もしかしたらと一瞬頭に過ってしまったのだが、それを確認する前に立ち憚ったランドルンの凄絶な姿に視線が持っていかれてしまったのだ。



ネミルとお揃いのローブを来たイーゾ。仲良しだ。

その隣にいるテオルドの漆黒の軍服仕様とはまた違う系統の軍服姿のギルがイーゾに何か言ってからかっているようだ。ギルの軍服は華美が一切ないのに、そのシンプルな装いがギル本人の艶やかな容貌をより引き立ててくれている。


そしてアリアナは森に合わせたかのような深緑と淡い黄緑色の美しいドレス、そしてモニカは淡い水色のマーメイドドレスだ。二人の姿は舞踏会というよりも、何故かこの森にとても似合っている。



「あ!来たな!テオルド今回は本当に頑張ったなぁ」



そしてテオルドの後見人でいつも彼の傍にいてくれ、心を砕いてくれていた魔術師団団長のリカルドだ。彼の服装は魔術師団長だけに許された、濃紺に重厚な金の刺繍が縁に施された軍服、そして複雑な刺繍模様の入った漆黒のローブだ。


更にリカルドの隣に居るとてつもない美人の女性。



「まあまあ!なんて可憐なのに美しくもある素敵なお嫁さんなのかしら…!」



リカルドの腕に手を掛けている凛とした出で立ちの女性。

アッシュブロンドを左右複雑に編み込んで全体を頭部で纏めている。

碧眼の真っ青な瞳は相手の顔がくっきり映るくらいに鮮やかだ。



「…もしや、団長様の奥方様でしょうか…?」

「ええ。こうやって直接お会いするのは初めてね。リカルドの妻、ビビアンよ。いつも香りの良い肌に優しい心の込もった保湿剤をありがとう!もうあれ無しでは私生きていけないのよ」

「ビビ!そんなこと冗談でも言っては駄目だろう!」

「あら。そう思うならテオルドを離さず見張り続けて、ユフィーラちゃんへも誠意を以て常に対応していってよね。あのローズの保湿剤がないと私、本当に無理だから」

「わかった、任せてくれ」

「おい、服を掴むな」

「テオルド、私困るの。保湿剤がないと!」

「私に任せろ。テオルドは絶対に離さないからな!」

「おい、服を引っ張るな」



三人の流れるような気さくな会話が、テオルドが唯一心を休められただろう場所だということが伝わってきて、ユフィーラは嬉しくなる。



「ビビアン様。こちらこそご挨拶が送れまして申し訳ございません。ユフィーラと申します。いつも保湿剤を愛用いただき感謝申し上げます。そして本日はこちらに足を運んでくださりありがとうございます!」

「あら、ビビって呼んで。その辺の令嬢なんかより全然礼儀がなっているわよねぇ」

「まあ…恐れ多いことですが、折角のお心遣い。敬語を通常仕様としている私の希望の間を取ってビビ様で如何でしょうか?」

「あらなにそれ。可愛い言い方ね、決定よ!うふふ。楽しみにしていたの。テオルドが唯一心を寄せる相手だなんてもう何が何でも行くしかないじゃない?その為に色々押しに押して強引に事を進めたんだから!」

「ビビ!それはまだ内緒だ」

「あら」



ビビアンはユフィーラ達の手元を見てすぐに表情をぱっと作り直す。



「後で保湿剤の話を色々と聞きたいわ」

「はい、是非!」

「じゃあ、俺達は向こうにいっているぞ」

「ああ」



リカルドの流れるようなエスコートにビビアンが優雅な動作で去って行く二人は、社交界の華のように所作全てが洗練されていて見事だ。



「わあ…貴族って感じで王子様お姫様のようです。それなのに傲りの態度が垣間見えないのが更に見事ですねぇ」

「王子と姫って年齢でもないけどな。リカルドもそうだが、ビビアンは時と場合で上手く利用はするが、基本的には貴族至上絶対主義を毛嫌いしているからな」



だからこそテオルドが寄り添う場所となったのだろう。



改めてユフィーラは周囲を見渡す。


ユフィーラが皆と関わる中、何かいつもよりほんの僅かだが良い意味で浮足立っていて違うなと思っていたこと。その時は皆それぞれに何か嬉しいことがあって、そのお裾分けでユフィーラもお得になった気分になっていたのだが、全てにおいてテオルドも使用人全員もアリアナとモニカもリカルド夫婦も。皆がテオルドとユフィーラの婚姻式に向けて動いていてくれたのだと思うと感無量な気持ちになる。



そしてハウザーもだ。



「…まあ。先生はいつもと少し趣向が違って、また素敵な装いですねぇ」



ユフィーラ達の元へ来たハウザーは、中は漆黒の上下の正装姿なのだが、その上にユフィーラの瞳と同じ紺色のローブ、そして裾部分に薄茶色の刺繍があしらわれている。



「魔術師ではないがな。たまにはいいだろ」

「凄いでしょ。明らかにテオルドへの牽制的なやつ」



そこにギルも参加してハウザーを指しながら首を傾げて微笑む。



「たまたまだな」

「その色合いを以てたまたまだとどの口が言う」

「あらまあ。二人共それぞれ方向性の違う素敵な装いなのに、争ってしまうのですねぇ」

「うん、そうじゃないんだけど。それが気づかないのがユフィーラなのかなー」

「それでも先生がおめかししてくれたのは今日の為にですよね?とても格好良いですね!」



少し剣呑になりつつあったテオルドとハウザーだが、そんなことなど露知らずのユフィーラがにこにこしながら言うと、先にハウザーが戦線離脱しユフィーラに向き合い上から下にユフィーラの花嫁姿を見る。



「元々心根が美しいから個人的には外面はさして気にもしないがな。でも綺麗だぞ」

「まあ…先生に褒められるなんて、明日は太陽が二つ昇るかもしれません…」

「それ怖い。二つとかなんか眩しすぎて怖い」

「太陽自体が昇らないかもしれないな」

「テオルドも止めて。不吉だからほんと」



何故か普段突っ込みをする二人がぼけてギルに突っ込み役が回るという構造となっている。


ハウザーがゆっくりと手を伸ばしてユフィーラの飾りの無い頭の部分にふわりと手を乗せる。



「今まで良く頑張った。お前の成してきたことが全て形となってちゃんと返ってきたぞ」

「…先生」



ユフィーラは目を見開く。



「過去を忘れることはできんが、あれも経験。全部糧にし踏み台にして堂々と前を向け。お前の性根の前には誰もそれを害することはできん。それが証明された。ユフィーラ、今後も精進しろ。言われなくてもお前はやるだろうがな」

「……はい!」



ハウザーが一番最初に関わったことが、ユフィーラにとっての何より一番の僥倖だったのだ。

ハウザーとの生活において、彼が真摯に向き合ってくれたからこそ、ユフィーラはここまで心身柔らかく生きていくことができるようになった。


ハウザーが更に一歩踏み出し、ユフィーラの肩に手を添えて顔を近づけて頬に軽く口付けをした。



「あ」

「まあ」

「おい」



その場に居た三者三様の一言反応。



「俺からの祝福だ。そして今後この森に来る度に蝶がお前を祝福してくれるだろうよ」



そう言ったハウザーが上を見上げる。

ユフィーラも倣って上を向くと、蝶たちが先程よりも増え、ふわふわと四方八方に舞っていて、この森周辺を照らしてくれている。



「神秘的で綺麗ですねぇ」

「おい」

「あ、まだ納得いっていないの」

「なんだ。俺は父親兼兄役なんだろ?家族間ならこれくらい普通だろうが」



テオルドがそれでも納得いかない表情をしている。



「先生が父親と兄、です?」

「あーほら。祭壇に新郎がいて、そこまで連れて行ってくれる身内ってやつ」

「まあ。婚姻式にはそのような過程があるのですねぇ」

「お前は本当に知らないんだな」



ハウザーが肩を竦めながら、再度テオルドを見る。



「俺は身内のようなものだ。後見人でもあるしな。お前も重々精進しろ」

「言われなくても」

「ユフィーラ。何かあればいつでも戻って来い。身内だからいつでも歓迎だ」

「まあ」

「おい」

「まあまあ」



最終的にギルが諌めるような応酬が何度か続いている時、アビーとパミラが箱を持ってやってきた。



「そろそろ始めましょ。旦那様も、ほらあっちに着いて」

「もういつまで経っても始まらないし!」

「…ああ。フィー、更に綺麗にしてもらえ」

「僕も戻るねー」



そう言ってテオルドとギルが離れていくのをユフィーラはこてんと首を傾げる。



「これ以上は…元の素材もありますし」

「お前はその自分を低く見積もる癖を治せ」

「まあ、先生。お言葉ですが、私の身の回りの女性陣を見てくださいな。よりどりみどりの美人揃い!私を通さないと話すらさせてあげませんよ!とか言ってみたいくらい自慢の身も心も綺麗も皆さんなのです!」

「はいはい」

「あーもう本当に可愛い」

「こんな妹居たらめっちゃ贔屓していたわね」



アビーがそう言いながら持ってきていた箱を開ける。



「!!…こ、れは…」

「どう?使用人全員の合作」

「これをユフィーラに付けて欲しくて頑張ったのよね」



細長い大きめの箱の中には、真っ白なシルクの生地をベースに作った半透明のヴェール。風が靡けばふわりと揺れるほど軽く柔らかな素材と、頭に乗せる部分と裾部分には煌く小さな数多の半透明の石の数々。



「これは凄いな。使用人全員の魔石か」

「ええ。それぞれ願いを魔力に込めた渾身の出来」

「これを作るのに久々に魔力の織を精巧に扱って腕がなったわね」



それは八人それぞれの色、でもヴェールやドレスよりも目立たない小さな半透明の薄い色で輝く魔石の数々。それをパミラがふわりとユフィーラの頭に被せてセットしてくれた。


目を丸くしたまま、ユフィーラは裾の煌く数々の魔石を食い入るように見つめる。


アビーは琥珀色。

パミラはクリーム色。

ガダンは朱色。

ダンは山吹色。

ブラインは深緑色。

ランドルンは銀色。

ジェスは水色。

ネミルの榛色。


皆の魔力と心が込もった追撃的な贈り物に、ユフィーラの瞳がぶわりと潤むのを目を高速で瞬きしてなんとか持ち堪える。



「こんな…最高峰を更に超えたヴェールを贈って貰えるなんて、私は何をしてお返しすれば―――」

「出た、ユフィーラのお返し論。もうね、十分貰っているの」

「そう。こっちこそお返しだから」



その言葉にユフィーラこそ貰ってばかりいるのはこちらだと言いたくなるが、アビーが人差し指を口元にあて、魅惑的な笑みをみせる。



「やったやらないと思うことは自由よ。私達がユフィーラに恩返しをしたくて望んで、こうして喜んで皆参加したの。私達の気持ちはとても重いけど受け取ってもらうわよ?」

「アビーさん…」

「それでもと思うなら、今後もずっと美味しそうにもぐもぐ食事したり、シーツにダイブしたり、馬に揉まれたり、お化粧人形になったり、とか」

「あはは!そうねぇ果物好きを喜ばしたり、植物好きを照れさせたり、書庫であれこれ質問してうんちく聞いてあげたり、小屋裏に潜む住人をこれでもかと愛でたり?」

「今まで通りにずっと居てくれれば、私達も共に幸せになれるのよ」

「そうね、そのままで、そのままが良いのよ」



きっと自慢の綺麗で強い姉がいるとするならばこんな感じなのだろうか。

ユフィーラは下を向いてうじうじ悩むよりも上を向いて良い方に考えて歩む方が好きだ。



「……はい!お望み通りに存分に過ごしてみせましょう!もれなく私はその倍幸せになれますので!」



二人共頷きながら、ちょっとだけ滲んでしまった涙をアビーがハンカチですっと拭き取ってくれる。その時にちょっと悪い笑顔のパミラが耳元で囁いた。



「そういえばさ、余った布があったからちょっとユフィーラが喜ぶものを拵えてみたんだけど―――」



耳を寄せて聞くユフィーラの顔が徐々にぱあっと鮮やかになっていき、ハウザーに視線を合わせた瞬間、ハウザーは何故かとんでもなく嫌な予感に見舞われた。



「…なんだ?」

「いえ、後でのお楽しみです!」

「…そうか」



嫌な予感が拭えないハウザーだが、彼個人としてのその予想は後に大当たりとなる。



今度はブラインがこちらにやってきて、ユフィーラの前まできて、後ろに隠していたあるものを渡した。



「これ。持って祭壇まで」

「…え。ブラインさん、これはもしかして…」



そこには朱色や白がベースとなった華やかなブーケ。

ユフィーラが髪に挿しているダリアを始め、様々な花がアレンジされて作られている。



「うん。俺が作った。髪と同じダリアと他にはストック、ホワイトスターに、このカスミソウはちょっと細工して七色にしてみた」



それらをより際立たせるように観葉植物で纏められてブーケになっている。



「こんな美しく可愛らしい花束を貰ったことは初めてです…本当に素敵」

「…いつでも作れるし。それと今日のユフィーラは…いつも以上に綺麗」



ブラインは目を背けながらも耳がほんのり赤い。

ブラインが褒めてくれるなんて今後もう無いかもしれないのでユフィーラはしっかりと記憶に焼き付けておいた。



「まあ…お褒めの言葉とブラインさんの心が込もった贈り物をありがとうございます。このリボンも素敵ですねぇ」

「それジェス。意外な才能発見って感じ」

「え」



ユフィーラは本日何度目を丸くすれば良いのだろうか。


ブーケを纏めてある大きなリボン全体の色はアイボリーに近い白だが、縁を彩るレースは黒と紺のグラデーションとなっていて混ざり具合が秀逸だ。



「そうなのよ!ジェスが思いの外使えたのよね」

「うん。あれ本当に才能だよ。手先が細やかで彼の性分に合っているんだろうね」



ジェスの手作りリボンだと聞き、ツンツンしながらこのリボンを作成してくれたのかと思うと、ほっこりと心が温かくなる。



「ブラインさんの花全体のイメージを邪魔せずに、でも無いとちょっと寂しさを感じる絶妙な色合いに作って下さったのですね」

「ん。まあまあ」



ブラインはそう言うと、じゃあ早くやろうといってアビー達と共に戻って行った。


ユフィーラは今までのハウザーや彼らとの時間とテオルドとの時間、色々諸々を思い出して感慨深くなってしまう。高速瞬きをしながら思い耽そうになりながらも、最高のブーケをしっかりと持ち直す。



「全部ここまであいつが主導でやった」



ふとハウザーが呟く。



「テオ様がですか?」

「ああ。いつかはと常には思っていたのだろうが、自ら動き色々な者に助言を請うて行動していた」

「…そうなんですね」



ユフィーラの為だけでなく、テオルド自身が望んで動いてくれたことに胸が歓喜に踊る。


テオルドも周りの人達のおかげで色々変わった。



そしてそれはユフィーラもだ。




ユフィーラはとても頼りになる家族のような大好きな人物を見上げる。



「先生」

「何だ」

「今回家族役を担っていただき、…そして漸減魔術をテオ様に伝授していただき、ありがとうございました」

「…ああ」



ユフィーラが腕を少し上げて、背中も向ける。

ハウザーは何の跡もない腕と背中をみて少し眉を下げて微笑む。

滅多に見せないこの優しい優しい顔がユフィーラはとても好きだ。



「ほら。もう昔からあった傷が跡形もなく無いのです」

「…そうだな」

「傷の無い時を見た記憶が無かったので…別にそれは良いかなと思ってはいましたが、失くなってみると、何だかとても晴れやかで嬉しいです。涙が出るほどに」

「元のお前の姿で戻っただけだ。胸を張れ」

「はい。研究室で私が寝落ちしてしまった時に先生が試してくれたのです?」

「…気づいてたのか」

「いえ、テオ様に施されてから、あの時の夢現での腕への温かみの理由がわかったんです。あれを先生以外がやっていたら、間違いなく飛び起きていましたから」

「…そうか」

「不思議ですねぇ。本当の血の繋がった家族ではないのに、魔力が浸透しても拒否反応がないなんて」

「…家族なら絶縁でもしない限りは切れないからな。いつでも帰ってこい。家族だからな」

「…!ふふ。実家に帰らせていただきます!的な感じでしょうか。無いことに越したことはありませんが、帰れる場所があるというのは良いものですねぇ」



昔の男爵家では何一つ叶わなかったもの。

それが今こうやって違う形で叶っている。

それはなんて幸せなことなのだろう。



「そして先生のおかげで身長はともかく、心はこんなにも成長しましたよ」

「…そうか」



ハウザーがゆっくりと手を伸ばして頭をさらりと撫でてくれるのをユフィーラはにこにこしながら見つめる。そして祭壇方面を見たハウザーが、一つ頷いてユフィーラを見た。



「じゃあ、行くか」

「はい、先生」



ハウザーが腕を出してくれたので、微笑んでユフィーラはその腕に手をかけた。







不定期更新です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ