番外編:テオルドの最愛の妻への秘め事 2
「わあぁぁ…!お家の近くにある湖も勿論素敵ですが、海というのはこんなに壮大なものなのですね!」
テオルドは前もって今日丸々一日ユフィーラの時間をくれと頼んでいた。
ユフィーラは魔術師団内で大量の薬依頼でもきたのかと勘違いしたらしく、腕を捲りながら「任せてください!やってみせましょう!」とあいも変わらず斜めに進もうとしていたので、直ぐ様軌道修正を測る。
前に海が隣接している森へハウザーと薬草を探しに行くと言った時、海は自分が連れて行くからとテオルドは初めての駄々をこねてみたのだ。ユフィーラはとろんと優しい表情をして、「テオ様がそんな可愛らしい我が儘を言ってくれることがこの上なく嬉しくて仕方ないのです」と、本当に海には寄らずに帰ってきた。
そして本日テオルドは予てから約束していたパリモの森周辺に連なる海へユフィーラと訪れていた。
まだ暑い時期ではないからか人は少ない。
レノンやルードに乗って来ようと思ったのだが、色々今後の予定と組み合わせて今回は断念することになり、テオルドの転移でここまで来た。
「本当に左右どちらを見ても終わりが見えない海の広大さに驚いてしまいます。書庫で地図を見た時は半分以上が海でできているのだから当然なのかもしれませんが、森も含めてこうして自然と向き合うと人間とはなんてちっぽけなものなのだと実感してしまいますねぇ…」
ユフィーラが海を眺めながら物思いに耽るような表情になる。
「ああ。日々この世界のどこかで争いが起きているのに、いざ自然災害の脅威を前にすると何故か今度は団結したりもする。相手があまりに強大なのを理解しているからだろうが、人間同士はその差がないから自分が上だと何かと争いたがる。自然がそう教える前に気づけば良いのにな」
「ですね。その時に始めて本当に大事な、大切なことに気づいたり…それ以前にそうなる前に誰もが気づけば争いは減るのかもしれませんね」
「そうならないのが人間だ。望みというものが様々だからな」
「かもしれませんね。ですが、ちっぽけな私は自然様に歯向かうつもりは毛頭ありませんが、こんな小さい人間でも精一杯生きていっても良いではないかと胸を反り返して進んでいきたいと思います!」
ユフィーラはテオルドと手を繋ぎながら少し胸を反らせるように歩くのが、何とも愛らしくてテオルドは微笑む。それを見たユフィーラが目を丸くして「テオ様はとても表情が穏やかになりましたねぇ…反して私の胸は穏やかではありませんが…」と顔を赤らめながら顔を背けるので、敢えて顔を近づける。
「フィーだけに向ける表情だそうだ。皆に言われた。お前の専売特許だな」
「ぐっ…なんて至極の特許なのだ…で、でも心臓が持ちません!」
ユフィーラはぐぐいっとテオルドの顔を押しやり離れさせ、でも手は繋いだままで急いで先を進もうとするのをテオルドは優しい表情で見つめる。
人の少ない浜辺を共に歩き、音は砂を踏む音と海の波音のみ。
「ザザンと一定の間隔で聞こえる音が何だか海の心臓音のようで生きているのだなぁと感慨深くなります…波打ち際まで行って素足を付けてみたいと欲が芽生えるのですが、小さいのでそのまま波に攫われたらと思うと勇気が出ません…」
何とも可愛らしい欲望を出すユフィーラに、テオルドは何でも答えてあげたくなってしまう。
「奥まで行くと急に水深が深くなるから危ないが、波打ち際のすぐ側までなら問題ないだろう」
テオルドは浜辺より少し離れた木の陰に敷物を敷いて、お互いのブーツを脱いでから波の方へ戻る。浜辺の砂は陽の光を浴びてほんのり温かい。
「うわぁ…何だか不思議な足の裏の感覚が…!ふわりと沈んで温かいですねぇ」
一つ一つ感じ、思ったことを言葉にしてこれでもかと伝えてくるユフィーラを、テオルドは穏やかな気持で頷きながら見守る。波打ち際までくると、ちょうど波がきてテオルド達の足首あたりまで冷たい海水がかかった。
「わゎっ!冷たい!…温かい、…冷たい!…温かい!これは足裏の温度調整の修行に適しています!」
どんな修行かは不明だが、海水と湿っていない砂浜を行き来しユフィーラははしゃぎながら輝くような笑顔で初めての海と浜辺の虜になっている。テオルドはその笑顔が曇ることないように今後も偽りなく、真摯に向き合い、ユフィーラと共に歩んでいこうと心持ちを新たにする。
暫く浜辺で遊び、喉が乾いたので木の陰に戻り敷物に腰を下ろして、持ってきた水筒で水分補給をする。隣に座ろうとしたユフィーラの腰を軽々持ち上げて、テオルドの足の間に座らせた。ユフィーラはぽぽっと赤くなっていたが、いそいそとテオルドと同じ方向を向いて背中を預けてくる。それに頬を緩めながらテオルドは後ろから腰に手を回して抱き込んだ。
ユフィーラの一時的な人からの接触の恐怖心は、テオルド達の地道な努力により改善されている。最近では反射的に避けたり相手の手の動きをじっと見なくなっている。
暫くそのまま波の音を聞きながら海を眺める。
ふとユフィーラがふぅと息を吐きながら腰に腕を回しているテオルドの指先を弄りながら言葉を紡ぐ。
「こういう時間がとても大事で大切で、何よりの贅沢だって感じがしますねぇ」
「そうだな」
「…幸せですねぇ」
少し間を置いてから、ユフィーラは心の底からといったように呟く。今この時間を幸せだと噛み締めているのだ。テオルドも全く同じ思いだ。
「…そうだな」
「過去に一瞬戻れるとするならば、昔の私に言ってあげたいです」
「…何て言うんだ?」
過去の自分とは恐らく男爵家に居た頃の時だろう。
「今は色々大変だけど、ずっと後にとんでもない最高で最強の幸せが待っているから、もうちょっと耐え忍んでって。その後も…ちょっとだけ、…大変なことがあるけど、それでも最後まで…前を向いて頑張ってねって」
最後の方の言葉が僅かに震えたユフィーラの言葉にテオルドは切なくなり、腰の腕をきゅっと自分の方に引き寄せてユフィーラの頭に口付けを落とす。
天使と悪魔の天秤のことを思い出したのだろう。唯一ジェスが壮絶な苦痛を伴う中期に遭遇したのを後に聞いた。それでも彼の前でユフィーラは真っ青になりながらも毅然とした態度だったという。
あの一年間の自分だけは。
テオルドは未だにあの時の己を許していない。
恐らく一生許すことはないだろう。
それでも過去は変えられない。
だからこそ、それを決して忘れることなく、あのトリュスの森で七色の蝶に囲まれて眠っているユフィーラを見た時に誓ったのだ。
「…そうだな。俺をとても幸せにしてくれた唯一だ。俺も過去の自分に一瞬会えるなら、即座に殴り飛ばして教えてやりたい」
物騒な願いにユフィーラがくすくすと笑いながら後ろを振り向く。
「まあ。それは止めてくださいな。美しいお顔が腫れ上がるのは可哀想ですので。それに殴る方も痛いはずです」
「…」
「…あのような経緯だったからこその今なのです。あの時お互いに違う行動をしていたら、今こうしていなかったかもしれません。…私は今のこの状態が何よりも幸せで一番なのです」
そういってテオルドの胸に顔を預け背中に手を回してくる。
テオルドは何だか色々な感情が溢れ出てきて心と鼓動がおかしくなりそうだった。
愛しすぎて。
幸せ過ぎて。
「……そう、なんだな」
「はい。そうですよ」
テオルドは抱きしめる腕の力を込め過ぎないように最大限の努力をしていた。そうでなかったら、ユフィーラを抱き潰すくらい、咆哮したくなるような、満たされ過ぎて、幸せで嬉し過ぎて、どう制御したら良いか分からない感情に飲み込まれそうになっていたからだ。
自分の内にこんな激しい一面があるなんて知らなかったし、知るとも思わなかったのだ。
ユフィーラが背中をトントンと叩いてくれる。
テオルドがどうしたら良いかわからない感情を治めてくれるように。
リズム良く。
同じ間隔で。
テオルドが落ち着くまで。
何だか目頭が熱くなってくる。
目を硬く瞑ってそれを流さないように努力する。
それでも隙間から流れたものが下に、ユフィーラの頭部に落ちる。
わかっているだろう筈なのに、ユフィーラは決して顔を上げず背中を優しく擦ったり、リズム良く叩いたりを続けている。
少し傾いてきた陽を視界に入れながら、テオルドはそのまま暫く動けずにいた。
「テオ様、今夜の夕食は断ってきたのですよね?」
「ああ。今日は屋台に行ってみようかと思った」
「…屋、台?」
ユフィーラの瞳がきらりと輝く。
「屋台って、あ、あの、露店のようにお店が立ち並んで色々なそこの名産物や、美味しいものが沢山…」
「ああ。それで合っている」
ユフィーラは両手の拳を高く掲げた。
パリモの森に連なる海の近くには漁港があり、夜になるとそこでは海産物などを主体とした様々な露店や屋台で賑わっているそうだ。以前イーゾからその話を聞いており、ここに来る際には是非ユフィーラをそこへ連れて行ってあげたいと思っていた。
陽が落ちて漁港は閉まったが、隣接している通りには夜な夜な屋台がランタンに照らされて立ち並び、磯の香りや香ばしい匂いがあちこちでする。
お土産の海産物や貝殻などを使った装飾品の露店や、屋台の周りにはテーブルと椅子が並んでいて、そこで食べれたりテーブルのみの立食式のものまであった。
ユフィーラは初めて見る風景に紺色の瞳をきらきらさせながら左右首を忙しなく振って忙しそうだ。
「賑やかですねぇ…!昼間は漁港で水揚げした魚を取り引きしたり、夜はその海産物をきっといちばん美味しい方法で食べれるようなお店がこんなに沢山連なっているなんて…!」
「確かにな。漁師が一番美味い食べ方を知っていそうだな」
手を繋ぎながら、屋台を歩いて見ていく。
イカを丸ごと焼いているものや、帆立は貝殻を器代わりにして直火で焼いておりバターの香りが香ばしい。海産物の串揚げや、海ならではの生食できるものまである。
「ど、どれからいけば…」
ユフィーラはいつもの如く口をもぐもぐしながら悩んでいる姿が愛らしい。
「イーゾがここの蟹と海老がとても美味いと言っていた」
「!イーゾさんはそんな情報通だったのですね。ではテオ様、蟹と海老から攻めましょう!」
「ああ」
蟹と海老の店を探して歩いていると、程なくして甲殻類専門の通りに出た。
「ど、どれからいけば…」
またしても迷路に入ってしまったユフィーラに、近くに店を構えていた店主らしき恰幅の良い女性が声をかけてくれた。
「お二人さん、ここは初めてかい?」
「ああ。妻が色々店が多過ぎて何から食べたら良いかわからないんだ」
「つ、妻…照れたいところなのですが、同時に幾つどれだけ食べれるかお腹と相談中でもあるのです…」
「あはは!奥さんその意気良いねぇ。どこの店も同じ船から水揚げされているものだよ。どこも美味しいが、漁師の女将と言われている私の推薦間違いなしの店を幾つか教えてあげるよ」
「え!」
ユフィーラはテオルドの手を引っ張りながらその女将に飛びつかんばかりの勢いで近づく。
「ここの、海の女傑と言われているってことですか?女将さん!」
「お。女傑かぁ良い響きだねぇ。まあそんなもんだよ。先ずはうちの蟹どうだい?シンプルな焼き蟹から蟹の解し身と蟹味噌を乗せた甲羅焼き、甲羅に乗ったグラタンもあるよ。絶品だ」
「ぐ、グラタン…甲羅に乗ったグラタン…それくださいな!」
「はい。毎度!旦那はどうする?」
「そうだな。甲羅焼きを貰おう」
「あいよ!」
女将さんは手際良く二品を程良く火を通してから、大きな貝殻のお皿に乗せて渡してくれた。
「まあ…貝殻がお皿代わりに…なんて素敵なんでしょう。中身だけでなく全てを使わせてもらって、海の恵みにいつも感謝されながらお仕事をされているんですね」
「おいおい。奥さん話がわかるじゃないか。ほら、おまけだよ」
女将さんは焼き蟹をぽいっと一つユフィーラのグラタンの横に置いてくれる。
「テオ様!儲けました!」
「良かったな」
「ぶっ。ははは!気持ち良い我欲さだねぇ」
「そうだな」
「おいふぃ!」
テオルド達の会話など彼方にやってユフィーラは早速食べ始めており、更に瞳を輝かせてめいっぱい口をもぐもぐさせている。
「あれまあ。その辺の貴族の娘さん達に見せてあげたいほどの清々しい食べっぷりだねぇ」
「だろう?これがとても気に入っている」
「あはは!お熱いことだ!」
テオルドも甲羅焼きを食べる。
蟹肉に少し癖のある蟹味噌から香る磯の風味がとても美味しい。こんな風に食べ物の感想を思いながら食べるようになったのも、目の前で美味しそうに食べているユフィーラからの影響だ。
ユフィーラとそれぞれ一口ずつ交換する。ユフィーラは初の蟹味噌を食べて目を見開いていた。
「女将さん!海と乳製品の融合がここまで合致して旨味をより増長させるとは…!そして焼き蟹はシンプルだからこそ海の塩のみの味付けが秀逸です!そして初めて食べた蟹味噌は…ちょっと癖があるのに磯の香りをこれでもかと詰め込んだ最高の希少食材ですね!」
「あらあら。褒めてくれてありがとねぇ。そこまで美味しそうに食べてくれると提供した甲斐があるってもんだよ。幾つか良い店教えるからテレサの紹介って言いな。私の名前だ。何かしら優遇してくれるはずだ」
「…!テオ様儲けましたねぇ」
「そうだな」
「あはは!あんたら気持ち良いねぇ」
あっという間に蟹を食べ終えて、女将なるテレサの店からユフィーラは手を振りながらテオルド達は離れた。その後も教えてもらった海老や帆立の店でテレサの名前を出すと、店主たちはそれぞれ多過ぎるくらいのおまけをしてもらい、ユフィーラは終始表情が輝き、口はずっと動きっぱなしだ。
美味しい海老のタルタルソースがけ串揚げにご満悦状態で、ふと隣にあった貝殻の露店でユフィーラは煌めく巻き貝の小さな置物が気になったようだったので、他に目を向けている時にさっと購入したら、どちらにしようか悩んでいたもう一つを今度はユフィーラがさっと購入し、テオルドに贈り物として渡してくれた。
値段も高くなく物もそこまで良質ではないのに、今までの功績を上げたどんな高価な報奨品よりも一番嬉しく貴重なものに感じた。
これからもユフィーラと色々なところに行ってみたいと、テオルドは今まで何もしてこなかったことを悔やむが、これも経験として今後に活かせればとユフィーラのポジティブな考えを参考にさせてもらう。
「テオ様、海産物のお土産は本当に要らないのですか?」
「ああ。明日はちょっと色々やりたいことがあって、皆にも頼んであるんだ」
「明日もテオ様はお休みなのですか?」
「ああ。だから土産は次来た時にしよう」
「分かりました。明日は一体何をするのですか?」
「内緒だ」
「ふふ。内緒にされました。でもテオ様が何だかとても楽しそうな顔で企んでいるので、きっと私ももれなく同じくらい楽しくなりそうです」
「…そんな顔していたのか」
「はい。多分他の方が見たらそう変わらないかもしれませんが、なんとなく」
「そうか」
それはユフィーラだから。
そしてユフィーラのことを考えているから。
テオルドは表情も感情も曝け出せているのだ。
「結構遅くなっちゃいましたねぇ。皆さん心配していないでしょうか」
「連絡魔術で知らせているから問題ない。でももう遅い時間だから、起こさないように静かに帰ろうか」
「はい。本当に素敵で新鮮で、自然を満喫できた一日でした!テオ様、連れて来て下さってありがとうございました」
「…これからは色々な所にもっと行こう」
「…はい!」
ユフィーラが少し頬を染めながら満面の笑みで返してくれる。テオルドはその顔が見れるだけでこんなにも心が満たされるのだ。
前に愛しい妻が喜ぶ様子を見たくてもっと色々やってあげたくなると言っていたリカルドの気持ちを、テオルドはようやく理解したのだった。
日が変わってテオルドは疲れ果てて起きそうにないユフィーラを胸元に抱えながらゆっくりと目を開け、魔術で部屋の灯りをユフィーラの顔に当たらないように胸元に寄せてから灯した。
あれから帰宅後、皆寝ているだろからと敢えてそのまま直接部屋に転移した。
それは明日の準備に備えて、皆が動いてくれているからだ。本日のテオルドの役目は一日ユフィーラを外に連れ出せとのお達しでそれなら以前行こうと行っていた海を見に行こうと決行したのだった。
寝る前に少しだけ夜の練習したユフィーラは、海へ行った疲れと上乗せの疲労に今夜はもう起きることはないだろう。ユフィーラを引き寄せて腕と背中の部分に直接触れるが、起きる気配はない。
テオルドはゆっくりと魔力を解放して、先ずは腕の内側部分から浸透するように漸減魔術を施し始める。
ハウザーから教えてもらったこの魔術は、流石テオルドと並ぶくらいの能力を持つハウザーならではの緻密で難解な操作を強いられたが、どうにかテオルドにも使用することができた。
それをここ数週間の間、夜の練習の後にユフィーラが疲れ果てて眠りが深い時に行っていたのだ。しかも内面から治すことを重視してなるべく気づかれないようにしていた。
というのも本人に直接言って治すことも一度考えたが、ユフィーラは過去のことを隠そうとすることはなく、聞かれればあけすけに全部言ってくれるかもしれない。
でもテオルドは平気なふりをして、「汚い体でごめんなさい」と痛々しく微笑むしかないユフィーラの顔を見たくなかった。夜の練習の最中もユフィーラは本能的に背中を見せないように動いていた。もうそんな思いをしてほしくない。だからこれはテオルドの我が儘だ。
そして今夜全ての傷を消す。その為に徐々に少しずつ時間をかけてきたのだ。
テオルドはユフィーラの腕を擦る。傷跡の膨らみもない。そして腕を片方ずつ見る。どちらも傷一つ残っていない。成功だ。時間をかけて内面から徐々に薄くしていったことが功を奏したようだ。
テオルドは魔力薬を飲み、今度はゆっくりと魔力を背中に浸透させていく。そして背中を優しく擦りながら、どうか全て…記憶に残らないくらい綺麗に消えてくれと願いながら施していく。
くらりとしたが、もう少しだ。
再度集中し、魔力を巧みに操り背中に浸透し続ける。
そして背中を全体的に擦る。
何も残っていない。
脳内をぐるぐる回る頭を叱咤させながら、ユフィーラの顔を抱きながら夜着を捲って背中を見る。
「良かった…消え、た…」
テオルドは安堵と共に、そこで意識がふっと切れた。
明日のユフィーラの驚いて喜ぶ姿を脳裏に浮かばせながら。
不定期更新です。