処罰の方法
「そうだったのか…だがネミルが例え命を以て贖おうとしたということを踏まえても、今回の一連の首謀者の一人であることは最早避けようがない。アッカラン侯爵と関わりも聞いて調べて…良くて国外追放か、生涯罪人専用の国の魔力源扱いとなる…だな」
その処罰の方法を聞いてユフィーラは胸が切なくなる。ネミルが小さい頃から受けていたものと奇しくも同じ様なことになってしまうのかと。
「国外追放でも魔術師となれば、国宝を使用して魔力を使えないようにさせられる可能性は高いだろうな」
ハウザーからの国外追放の内容も処罰なのだから仕方のないことではあるが、ユフィーラは何とも言えなくなってしまう。いくら自分の身を挺してその場を収めたとしても、そもそもの発端がネミルなのだ。わかってはいるが、それでもと頭と心が相反してぐちゃぐちゃになりそうだ。
あ、そうだと、リカルドが思い出したかのようにポケットから小さな入れ物を取り出した。
「これユフィーラさんの保湿剤だよね?ネミルの左手にずっとこれが握られていたんだ。砕けた魔石で右手はぼろぼろだったんだけど、左手も確認しようと見たらぐっと握っていてなかなか開かなかったんだよ」
「!……はい、事件が起きる前にネミルさんにお渡ししたものです。手が…少し荒れていたので」
そう言ってそれを受け取り、この小さな保湿剤を何故か握り続けていたネミルが何を思っていたのかを考えるとやるせなくなる。
あの時のネミルの表情が頭の中に再現される。
小さな少年がお菓子をもらったようなとても素直で驚いた表情を。
「そう言えば、ユフィーラさんからサンドイッチをもらった時もネミルが珍しく興奮していたな。初めて人から心の籠もったものをもらったって」
リカルドが更に思い出したように話すが、あれは彼だけでなく皆への差し入れとして渡しただけだ。
「…あれはガダンさんの作った―――」
「そういうことじゃなく、お前の心配りがあいつの中の何かに響いたんだろうよ」
ユフィーラは首を傾げる。手渡ししただけで、そこまでの大層なことなどしていない。するとテオルドが淡く微笑みながら教えてくれた。
「フィーも昔言っていただろう?屋敷の皆に。慮ってくれることが、気にかけてくれることが、とても擽ったくてそれ以上に嬉しいのだと。ネミルもそうだったのかもしれない」
小さい頃から怖い大人達に囲まれて散々な扱いを受けてきたネミルの小さな小さな喜び。
その間に誰一人彼に寄り添う人はいなかったのか。
それか彼が受け入れる状態では最早なかったのか。
ユフィーラはふと一人の人物を思い出し瞬きをする。
(確かに心配りとしてなら私が初めてだったのかもしれないけど、それ以前にずっと気にかけてくれた人はいた)
イーゾだ。
ぶっきらぼうな口調かもしれないが、彼だけは直前までずっとネミルを気にかけていた。だがイーゾも言っていた通り、同じ顔で止められることは、まるで自分から責められているようだと感じていたならば、穿った見方をしてしまうのも頷ける。
でも今ならば。少しでも素の状態のネミルならば。
「テオルドはどうしたい?お前の今回の件における迅速な対処はお前の嫌いな功績となる。ネミルを全くの無罪放免にすることはできないが、多少は融通が聞くかもしれない。でも明らかに狙われたのはお前だ。ばっさり行くのも私としては勿論構わない」
「いや…間接的に狙われたのは確かだが、魔石の話を聞いた時のネミルはその場所に行かせたくなかったような口ぶりだった。恐らくアッカランの差し金で魔術団周辺を暴発による事故だとか適当にでっち上げて、原因を大方俺に罪を着せようとする算段だったんだろう」
テオルドは視線を落として少し考えたあと顔を上げる。
「リカルド、箝口令はどの程度漏洩する予測ができる?」
そう聞かれリカルドが首元を擦りながら答える。
「ネミルの名前がこの件で漏洩することは今のところない。皆はネミルがお前を庇ったと思っているからな。ネミルとアッカラン侯爵との関係性にも寄るが、どこからか嗅ぎつけてアッカラン侯爵がしゃしゃり出て証拠も揃えてネミルの話をし始めたら止められないだろう。できるだけ早くネミルから聞き出せると良いのだが、本人が全て罪を償うと言うのならこちらにそれを止める術はないな。まあアッカラン侯爵を庇うとは思えないが、アッカラン側は間違いなく己の為ならネミルを切るだろうからな」
先ずはネミルが目を覚ましてくれないとなぁ、とリカルドがぼやく。
「フィーはどうしたい?」
「え?」
急にテオルドがユフィーラに尋ねてきた。
「私ですか?この件に関して私の意見は―――」
「そうとも限らない。フィーはネミルに疑いを持ちながらも、寄り添った対応をしただろう?あれらは俺達には決してできることではなかった。その結果、今回のネミルの行動のきっかけになったことは確かだ。そうでなかったら俺も間違いなく無事ではなかっただろうし、魔石の暴走の範囲もあんなものではなかったかもしれない。最終的に国の為になった。功績を与える条件に当て嵌まる。リカルド、そうだろう?」
その言葉にリカルドが頷く。
「そうだな。少なくとも今回のユフィーラさんの行動がネミルを思い留まらせて、結果テオルドも大きな負傷もなく、範囲も最小限に収められた」
その言葉に頷いたテオルドが再度ユフィーラを見る。
「何か考えていることがあるか?」
テオルドの漆黒の煌めく瞳をじっと見つめながらユフィーラはきっとテオルドならと思ったことを何となく予想する。
テオルドはいつだって『彼ら』に対して無表情でも行動は優しかった。ぶっきらぼうな対応でも好きなことを好きにさせてくれて居心地が良かったと皆が言う。
今回のことも自分が狙われた立場だけど、彼の境遇を知ったからこそ今こうやって悩んでいる。そして奥底できっと思っているはずだ。
ユフィーラとネミルの境遇が似ていることが。
「テオ様が考えているだろう方法が私の願うことです」
テオルドが瞠目する。
「フィー…それは」
「テオ様は私がとても怖い思いをしたことを慮ってくれています。私が今後彼に対してその思いが残ってしまうのであれば、テオ様が考えていることを実行することはないのではと。…確かにあの恐怖は消えないですし、今でも思い出すと身震いしてしまいます。ですが、こう考えを変えるなら心を切り替えられることができると思います」
「切り替える?」
「テオ様が、私を助けてくれた時の気持ち身を以て知ることが出来た」
「「「!」」」
三人が驚愕する。
「そして今回のことでテオ様が私の唯一なのだと再確認することができました。恐ろしかったけど、それ以上にもっと大切に一日一日を共に過ごす時間を大事にしようと改めて思ったということで、彼に対し感謝に切り替えられると思います」
「フィー……」
テオルドの途方に暮れたような表情をする。漆黒の中に様々な色が漂っているような大好きな瞳を見つめてユフィーラは微笑む。
「物事を悪い方に考えることは誰しもありますが、どうせなら最悪の結果にならず、しかもそのことがきっかけで改めてテオ様を大事だと再認識することができたと考える方が建設的で幸せに向かっていけますでしょう?そして幸せは伝染しますので彼にももれなくそうなっていただきましょう。死ねずに罪悪感に苛まれながら幸せを噛み締めれば良いのです!」
その言葉にテオルドが蕩けるような表情をする。ハウザーは「お前は相変わらずぶれないな」と肩を竦めている。リカルドは滅多に見れないテオルドの甘い顔を目にして歓喜していた。
「テオ様の考えを教えてくださいな」
その言葉にテオルドが一つ頷いて、リカルド視線を向けた。
テオルドがリカルドと話している間にユフィーラは自分の今後の行動について考える。テオルドの考えを最優先はするが、かといってユフィーラは当然このまま静かに見守りに徹するつもりは毛頭ない。
それだけで済むと思っているなら大間違いなのだ。
リカルドが国王に許可を取るために連絡魔術を施そうとしているのを、ユフィーラは止める。
「団長様、少しだけ待っていただけますか?もし私にも何かしらの功績をいただけるのなら、一つ我儘を聞いていただきたいのです」
ユフィーラの言葉にリカルドは不思議そうに瞬く。
「我儘?何だろう」
「私をネミルさんにもう一度会わせて欲しいのです。できれば意識を取り戻したらすぐにでも」
我儘の内容に三人が首を傾げる。
「フィー何をするんだ?」
「お話をするだけです」
「それが我儘に相応するのか」
「恐らくは」
「ユフィーラさん優しいから大丈夫だよって導いてあげるのではないかな?」
リカルドが言った言葉にユフィーラは微笑む。その顔を見た三人が瞬時に固まった。
ユフィーラの紺色の瞳は全くもって笑っておらず、普段の表情からは想像できない精巧な人形のような笑みだ。
「まあ。団長様は私を買いかぶり過ぎです。私はそんな出来た人間ではありません」
ユフィーラは僅かに首を傾げた。
「どんな事情があったとしても、とても辛い過去があったとしても、それはネミルさんとその父親の問題。知ったことではありません。テオ様は何一つ関係ないではありませんか」
テオルドが瞠目する。
「私の大事な大切な旦那様です。そして唯一なのです。許せるわけがないではありませんか。彼がやらかした報いはちゃんと受けていただきます」
そう言って微笑むアルカイックスマイルに三人は無言状態だ。
これでもユフィーラは十分に怒っている。
ユフィーラだって、できることならへらへら平和に笑っていたい。でも今回のことはユフィーラの心に大きな衝撃を残した。それを変換させる為に当人にもあることに向き合ってしっかり苦しんでもらわねば。
「先生、お願いがあります。ギルさんに連絡を取ってくれませんか?」
「ギルを?」
「はい」
「何をするつもりだ」
「時には荒療治も必要だと思うのです」
そう言ってにっこりと微笑んだ。
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