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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
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イーゾとネミル






イーゾとネミルはカールの屋敷で生まれた。


一卵性双生児で生まれ、産後の肥立ちが悪かった母親が程なくして亡くなった。成長途中でもカールは愚か屋敷の全ての者から母親の話は一切聞けなかった。母親が平民で花屋の看板娘だったらしいことをイーゾは屋敷から脱出した後、自ら母親のことを調べる中で知ったそうだ。


カールは血の繋がった息子たちを血縁としての関心は全く無かったが、ネミルは魔力の量、イーゾは魔力を身体強化に変換する術があった為、ネミルは魔石に魔力を蓄える為の魔力源兼傀儡の魔術師に。イーゾは身体能力を活かした殺人人形にするためという非道な扱いを受け日々酷使させられていた。


ネミルは常に魔力が枯渇状態で、元はイーゾと同じ灰緑の髪に茶色の瞳だったが、その影響なのか色が変わってしまうほどだった。同時に洗脳もされていた為、どんな不遇でもカールの言いなりだったという。


一方イーゾは幼い時は大人の力で何の抵抗もできなかったが、洗脳に関しては常に反感意識があったからか、精神的に強かったのか殆ど効かなかった。しかしそれが露見すると何をされるかわからなかったので、人形のように徹していた。


イーゾが十三歳になる頃にはまだ少年という年なのだが、カールの屋敷のどの暗殺者も彼には勝てなくなっていた。魔力そのものを術として放つことは出来ないが、その全てを身体に置き換える能力が桁違いだったらしい。だがそれでもわざと能力を低くみせながら時機を探っていた。


そしてカールの周辺が魔術師団の件で騒がしくなってきた頃、イーゾは隙を見て地下へ赴き、滅多に会えなかったネミルにここから一緒に脱出しようと声をかけた。しかし既にその時のネミルはカールの傀儡と化していた。更に双子の片割れのイーゾに対し残り少ない魔力で攻撃までしようとしてきたので、イーゾはショックを受けながらもそこから一人で脱出した。


それから数年は奇しくも強制させられていた暗殺を生業として生き延びていた間にカールは失墜し、魔石も押収されたと聞いた。その後ネミルの行方を調べると、何故かイーゾも知らなかった母親が住んでいた家に居た。そこで彼はひたすらカールが成し得なかった魔石の研究を続けていたのだ。


その間何度か会いに行くのだが、ネミルは一切耳を貸さなかった。その頃になるとイーゾも暗殺者としてその界隈で有名になってしまい、ネミルの元へ行くことも出来なくなってしまった。


そして十八歳になった時にネミルが魔術師団に入団したという情報が入ってきて、確認しに行くと、彼は魔術師団の副団長の元で仕事をし始めていた。


今まで見たことのなかった明るい表情で仕事をするネミルを見て、カールの呪縛からようやく解放されたのだと思い安堵しながらも、同時に暗殺者である自分とは関わらない方が良いと心寂しさを抱えつつ、イーゾは彼から離れた。



それから暫く経ち、ネミルの住んでいる地域周辺で、不可解な風邪のような症状が頻発しているという噂を聞いた。その症状がどうにも昔カールが行っていた魔石吸収の内容と酷似することから、まさかとイーゾが調べていくと、辿り着いた先にいたのはネミルだった。


ネミルはカールが持っていた魔石の一つを所持していた。それに改造を加えながら、魔力量を多く持つ魔術師団に入り、改めて父親の悲願を果たすつもりなのだとわかった。



イーゾは何度か接触を試みたが、相変わらず聞く耳を持たないネミル。更に悪い噂の絶えない貴族至上主義の大貴族との協力関係。もう片割れは父親と同じ道に片足を突っ込んでいる状況であることに耐えられなくなったイーゾは自らこの因果関係を絶ってやろうと考えていたある日、副団長の伴侶のユフィーラの情報を手に入れる。周辺も調べていくうちにユフィーラとその周りもこの事態について動いている事を知った。


願わくばネミルを止めて欲しい。それまではイーゾがネミルを屠るしか方法がないと思っていたが、片割れを殺すのはやはり躊躇してしまう、とイーゾが話を締めくくった。





話を聞き終わり、テオルドとガダンの情報が間違いなく正確であった確信になった。



「ふーん。殺したいわけじゃなくて、殺さざるを得なければってことね」

「当たり前だろ。片割れを失うことになるんだ」



ギルの言葉に即座にイーゾが言い返す。



「イーゾさん、お話ありがとうございました。…あ、来ましたね。二つ?」

「うん。こっちは僕宛て」



ギルの元に連絡魔術が届く。イーゾが話す前にテオルド宛てに送ってもらったのだ。ギルからテオルドの手紙を受け取り読む。



「……私の判断に委ねてくれるそうです。現在ネミルさんとアッカラン侯爵共に泳がせている状態ですが、注視は常にしています。ネミルさんにより症状が出た方々は私が精製した薬で改善していますのでご安心を」

「ああ」

「ネミルさんも薄々感づいているかもしれないので、近々動きがあるかもしれないとのことです。イーゾさんはどう関わっていきたいですか?」

「止めたい。だけど頑なに俺の話は聞こうとしない」

「もしかしたらさー自分と同じ顔に否定されることがこの上なく苦痛なのかもしれないね」



ギルの言うことは一理あるなとユフィーラは思った。

まるで自分に自分の考えを真っ向から否定されているという感覚に陥るのかもしれない。イーゾは「あー…そうかもしれないな」と途方に暮れたような表情になる。



片割れの暴走を止められず、どうしたら良いかわからない状態は苦しくてずっと歯痒かったのだろう。

それこそ命を終わらせてやろうと思うほどに。



「おっけ、ハウザーから了解取れた。イーゾ。あんた暫く僕預かりね」

「は?」

「暴走して余計なことして欲しくないし、お嬢ちゃん達の邪魔になっても困るし。ついでにもう少し鍛えてあげるよ、有り難く思いなよね。全部終わったら好きなとこに行けばいいよ」

「は!?」

「あらまあ」

「あと僕のことは頭領って呼んで」

「頭領!?」

「名前は駄目だよ。あれはハウザーとお嬢ちゃんだけが呼べるものだから」

「そもそも名前知らないから!」

「あら…そうだったのですね。そうとは知らず普通にばんばん呼んでしまっていましたが…何だか特例扱いみたいでちょっと気分良いですねぇ」

「でしょ?国王にも呼ばせてないからね。もう名前で呼んでも構わないよ。敢えて言わないでくれたでしょ?察しがいいねー」

「まあ。お褒めに預かりまして」

「ちょっと待て!」



のほほんとした二人の会話にイーゾが物申す。



「もう王国の懐刀じゃないんだろ?何で頭領なんだよ」

「抜けて基本単独だけど、たまにどうしても僕じゃないと難しい任務は昔のよしみで受けてあげているの、報酬たんまりで。呼び名は僕の下僕になりたいってのが数名頭領って呼んでる。その辺の野良を片っ端から躾けたらいつの間にかそうなった。あとは王国の影の信望者みたいのが辞めてこっちに来た」

「それもう国内最高の最凶組織になるだろうが。…ここ数ヶ月で何人もの腕利きの暗殺者が連絡つかなくなったと噂になったのはこれか…」

「まあ、ギルさんは凄いのですねぇ。そんなギルさんを雇っている先生も凄いのかも知れませんねぇ」

「あの人全然そう思ってないから今度ちょっと言っておいてよ、人使い荒いんだよ」

「簡単に目に浮かびますね」

「お前さ、こいつがどれだけ非情で残虐なのか知らないのか?」

「ギルさんですか?天井に住まわれているイメージしか…」

「…は?」

「頭領だから。今度こいつ呼ばわりしたら躾けるよ」

「!」



イーゾは頭を抱えてしまったが、ギルがイーゾを導いてくれるなら何だかとても安心だ。



今後何か情報が入った場合はハウザー経由で連絡してくれるということになり、ユフィーラはトリュスの森で別れることになった。



本能的と能力的にギルから逃れることは難しいと本人も分かっているらしく、心底うんざりした顔をしていたイーゾに、ユフィーラは去り際にこれだけは伝えておこうと思った。



「イーゾさん、私昔ちょっと境遇がよろしくない時があって、対人への機微が人より少し察知しやすいのです」



急に自分のことを話し始めたユフィーラにイーゾは訝しげな表情をする。



「ネミルさんには二回だけお会いしましたが、瞳の奥の動きが普通ではありませんでした」

「…濁るとかいっていたやつか」



ユフィーラは頷きで返す。



「濁りっぱなしや歪みっぱなしの人はいくらでも居ます。でもネミルさんはそれだけでなく輝きや純粋さ、幼さもあるという不可思議なものでした。所々変化するように見えたのです」



ユフィーラは自分のあの直感…第六感というものを信じてきた。今回も信じるのみだ。



「彼とはほんの僅かしか話しませんでしたが、全ての言葉が偽りだとは限りません。それに賭けてみれば、もしかしたら一発逆転の可能性もあるかもしれない。なので彼の唯一の身内のイーゾさんだけはネミルさんをしっかり見ていてあげてください。最後に信じる信じないはあなたの自由です」



イーゾが瞠目する。言いたいことは伝えた。ユフィーラはギルにお辞儀をしてからルードに跨がり帰路についた。







不定期更新です。

誤字報告ありがとうございます。

とても助かります。

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