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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
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主と使用人の結束






「では皆の報告から鑑みた俺と魔術団の現状を伝える」



テオルドが周りを見渡す。



「先ずは薬の件だ。症状のある魔術師達それぞれ服用直後から全員に効果が出た。装飾品を外した後も残存するような後遺症状態にはならなかった。日常的に肌見離さずに着けているものだった故、気づかなかっただけだった。魔力も回復して現在も個室で観察しているが特変なく通常の状態だ。ユフィーラ。改めて良く頑張ってくれた、ありがとう」



テオルドが目元を細めながら口元を僅かに緩ませる。ユフィーラはじんわりと心が温かくなった。少しでも役に立てて何よりだ。



「いえ。皆さんが滞りなく正常に過ごされていて安心しました」

「ああ、問題なく過ごしている。そしてパミラ、ユフィーラが一番きつい時に手助けをしてくれて感謝する」



それに対しパミラはにこりと片手を上げて了解の意志を示した。



「次は、パミラの夫の同僚から預かっている指輪と、今回症状を受けた五名の装飾品の鑑定だ。ブラインから報告を受けていた元魔術師をブラインに連れてきてもらって、鑑定に参加してもらった」



ブラインとつんとすました表情から任意ではないことは間違いないだろう。



「そいつとうちの鑑定班が確認したところ、全てどこかの魔石へ魔力吸収される術が施されていた。五人の魔術師から預かった装飾品は全てネミルが何かしら関わっていたものだった。ブライン、元魔術師を良く見つけた。あいつを共に鑑定させたのはかなり大きかった」



ブラインは「余裕だし」とだけ答え目を逸らす。ほんのり耳が赤いのを誰も突っ込まないのはもうお約束になっている。


ネミルの話をしているテオルドの表情は変わらない。だが、少なくともどうでも良い人物ではなかったはずだ。側で働かせるくらいには。ユフィーラはそれが何だか切なくなってしまう。



(家はともかく、魔術団ではリカルド団長様以外に気を抜ける人が居なくて、もしかしたらそういう人になっていたかもしれない)



それがずっと裏切られていたのだから。



「次。アビーとジェスの報告から、その二件と他の方面からも再確認した結果、アッカラン侯爵がカールの件で深く関わっていただろうことが濃厚だ。ジェスの元侯爵家が首謀として大貴族の中では取り沙汰されていたが、アッカランも同様かもしれないな。恐らく危機察知能力だけは早く上手く証拠も隠していたのかもしれない。リカルド曰く引き際だけは優秀だといっていたからな」



ということは今までも怪しく疑いがあっても、上手く避けてきたという可能性は高い。



「アビー。ジェス。二人の情報のおかげでこちらでも調べていたことの裏付けがスムーズにできた。感謝する」



その言葉にアビーは満面の笑みで「テオルド様に貢献できて、ついでに久々に暴れてちょっと楽しかったし」と内容は些か物騒だ。ジェスは「これきしのことで、お礼など…!」とハンカチを目元にあてている。



「続いてダンの件だ。ユフィーラからの情報は今朝聞いたものだが、アッカラン侯爵自体がもう調べ始めているものもあって、ダンの直接聞いてくれた内容は確認の決め手になりそうだ。馬丁始め普段周りで共に生活している者の情報は時にこちらが調べるより重要なことがある。直接赴いてくれて感謝する」



ダンがにっこりと笑いながら両手を使って丸を作った。



「そしてランドルン。男爵内で起こっていた内情の話に似たようなものがあれから幾つも他からも出てきた」



その言葉にランドルンは軽く一礼する。



「そして解除魔術を行う術者への負担の緩和、魔石による併用の緩和想定論が今後実際できるようになれば偉大な功績となる。…本当に良くやってくれた」



ランドルンは何も言わずにもう一度一礼する。ようやく自分との心の折り合いがつき、進んで歩み始めるのを誰もが願っていることだろう。



「ガダンの情報があったことでようやくこちらの動かなかった部分が再始動することができた。そしてそれが昨日ある程度固まった。あの情報は貴重だった、感謝する」



ガダンはカウンターに肘をつきながらもう片方の手をひらひらとさせた。



「そして魔術団の方は大体のことを把握した。先ずはカールの件でアッカラン侯爵家が密に関わっていた。今は泳がせている。証拠を消されては堪らないからな。そしてもう一つの件とも関わりがある」



テオルドから齎される情報に周囲の空気はぴんと張り詰めた。



「魔術師達の装飾品からの鑑定でネミルが関わっていた可能性は確定だ。そしてネミルがカールの息子だということも。ガダンの情報と王族の影からの情報を照らし合わせた。カールには双子の息子がいたことが確認された。息子達の母親は出産と同時に亡くなったそうだ。ガダンの話通り二人はそれぞれ何某かの理由で…恐らく一人はカールの研究の被験者兼魔力製造機。もう一人は命令しか聞かない暗殺者、殺人人形を作ろうとしていたようだ」



恐ろしい用語の羅列にユフィーラは目を見開く。



「カールが失墜した時の調べで魔術と暗殺両方に長けた者を育てようとしていたことはわかっていた。多くは耐えられず死んでいったらしいが、そのうちの一人が息子だった理由が何故かはわからない。現在生存確認は不明。そしてネミルは魔力量が多かったことから道具として育てられたのだろう。そして今はアッカラン侯爵と組んでいる可能性が高い」



もしかしたらと思ってはいたが、やはりそこが繋がってしまうのかとユフィーラは落胆した。



「目的は?カールの再来を狙っているとか?」



パミラの抑揚のない声。



「その可能性もあるが、それならもっと範囲を広げても良かった筈だ。試験段階だったのか、魔力量の多い魔術団を狙うのはわからなくもないが、わざわざ気づかれやすい危険を侵すよりも徐々に魔石に魔力を蓄積させる方法はあった」



確かに魔術に詳しくない相手から少しずつ試験的に吸収する方法の方が危険性は低い気はするが、魔術師の魔力量を重視したのなら有り得る話だ。



「主、アッカランは猜疑心の塊だと。馬丁始め周りから噂で聞く話では何事も肯定的にとらずに基本疑ってかかる。それがカールの時は功を奏して逃げられたんだろうから、慎重にいったほうが良いと思う」

「ああ。俺は知りもしなかったがリカルド始め重鎮の多くはダンの話の通りそういう奴だと知っている。この話は俺とリカルド、王族とその影のみが知る。あとはここにいる皆だけだ」

「ネミルって魔術師も泳がせる?」



ブラインの視線にテオルドが頷く。



「ああ。遠回しに症状のある魔術師たちの様子を度々聞いてくる。恐らく魔石に魔力が貯まらなかった時期を疑っているかもしれない。今は数名の魔力量が多い魔術師でその装飾品を回している。そろそろ行動に出るかもしれないから注視している状態だ」



ユフィーラはあの歪んで濁った、そして輝く眩しい茶色の瞳を思い出す。



(カールという人の再来…ネミルさんにとっては父親。父親の意志を受け継ぐ?それに見合わない扱いを受けていたのに?歪みのある瞳が垣間見えても、何かどこか歪な心情というか…って私はカールという人物を知らないから所詮想像でしかないのだけど)



それでも、と思う。ネミルのあの表情と会話が全て偽りだとは思えない。でもやってはいけない境界線は既に超えているのだ。



「ランドルンの解呪魔術の研究は魔術団経由でやることになるのかしら?」



アビーの質問にテオルドが僅かに首を傾げる。



「皆からの報告を始め魔術も適応能力全てが錆びついてなどなく、寧ろ磨かれていることがわかった。ランドルンはこちらに託すと言ってくれたが、俺としては魔術団よりも特殊魔術師の皆に担ってもらいたい」



その言葉に使用人兼特殊魔術師達の空気が一気に喜色をたたえる。



「うちらでやれば何でもさくさく進むんじゃないかしら?」

「屋敷の片手間にできるし」

「ブラインのちょっと角度の違う案はいつも助けられていますしね」

「主の命令ならば私は例え業火の中でも!」

「何で俺達が業火扱いになるんだよ」

「まあ、癖のある者同士揉めてもそれはそれで楽しめそうだしね」

「そういうパミラがその筆頭なんじゃないのかねぇ」



わいわいと使用人達が話している中、テオルドを見ると使用人達が話しているのを無表情の中にもほっとしている穏やかさが何となく理解できて、ついにんまりと微笑んでしまう。それを見たテオルドは少し目を逸らしながらユフィーラの頬を指の背でなぞった。



「フィーももう無茶はするなよ」

「勿論基本しません。それでもここで行かずにいつ行くのかという時は、本能から動くとこは否めません!」

「…だろうな」



はあと溜息を吐くテオルドだが、それでも極力俺にまず相談してくれと懇願されたので、ユフィーラは頷いた。そしてテオルドが改めて使用人達に声をかける。



「そしてもう一つ頼みがある。屋敷全体を覆う防御と防壁の魔術は俺が常時施しているが、皆もそれぞれ個人でやってくれているな」



聞かれた皆は頷いている。



「そりゃあ自分の住処だからねぇ」

「植物が自然以外で脅かされるとか有り得ないし」

「そりゃ馬達の馬房周辺は完璧だと思うぞ?」



口々に自発的にこの屋敷を守る術を施している皆にユフィーラは知らぬ間に皆のおかげで守られていたことを知る。ユフィーラにはその辺りの感覚の認識は疎い。しかし皆ここの屋敷が大好きで守ろうとしてくれている心意気が何よりも心に沁みた。



「アッカランもネミルも今後進展があってこの屋敷まで影響を及ぼすことはないと思うが、今までよりも強固にはしておきたい。特殊防壁魔術はどこまで展開できる?それと得意な魔術の申告をそれぞれしてくれると範囲を特定してやってもらえるな。頼めるか?」



使用人全員が了解の意志を示す。そして後日全員が時間の合う時に実施するということで話を詰めているのを、ユフィーラはにこにこしながらアビーほどではないが、皆が途中喉を潤せるように紅茶と珈琲を準備し始めた。







不定期更新です。


誤字報告ありがとうございます。

助かります。

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