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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一日24時間を私にください
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特殊魔術班のハイパフォーマンス






数日後、食堂にはユフィーラとテオルド、そして使用人兼特殊魔術班が勢揃いしていた。ユフィーラもある手紙をしっかりと手の中に収めて参加だ。テオルドがざっと見渡してから口を開く。



「何人かは事前に聞いているが、周知も含めて改めて報告を」

「それじゃあ、私から」



手を挙げたのはパミラだ。



「まずは皆も知っている通り、ユフィーラとハウザー氏の助手として負の影響による魔力強制増減を解除するものを開発。同時に内外共に効くことから、病にも対応できる可能性有り。今後研究所で引き続き実験を進めていくとハウザー氏から報告があった」



増減解除薬はユフィーラの専売特許として登録した。これを提案したのはハウザーで、ユフィーラとしてはどの薬師でも作れる方がと良いのではと考えていた。しかし稀有な効能であることから今後この薬の逆の効果を発想して悪用、即ちこの薬そのものを無効化してしまう薬を精製する者が現れるかもしれない可能性を潰す為とのことだ。リセッカの薬草自体が希少であるので可能性としては低いが、念の為ということでユフィーラが思っている以上にこの薬の開発は偉業らしい。だからこそ希少価値として今後もやっていった方が良いと国からも言われたとのことだった。



「それと…以前に私の夫と共に同僚だった、生存している者達と連絡をとったの。皆ほとんど処分してしまって持っていなかったけど、一人だけ居た。親の形見だからと大事に持っていた指輪の人を。それを旦那様に提出している。以上」



パミラとしては当時の関係者に会うのは己の傷口を抉るようなものだ。それでも前に見据える為に選んだ選択だったのだろう。



「では次は私が報告を」



そう言ってランドルンがその場で立ち上がる。



「まずは没落した私の元生家、男爵でまともな精神で辛うじて生きていた関わりの深い者にちょっと話しやすくする魔術で囀ってもらいました」



初っ端からの物騒な言葉と裏腹にランドルンはにこりと微笑む。ガダンが言うランドルンの本来の姿のひとつなのかもしれない。



「私が男爵由来のものと使用していた指輪はカール自作のものでした。解呪と共に相応の魔力を吸い取るもの。他には解呪関係なく魔力のみを吸い取る装飾品を使って下人数人に試し、カールに魔力を献上していたそうです。彼らの命を犠牲にね」



吐き捨てるような嫌悪の滲む声色。



「それともう一つ。以前より調べていたのですが、解除魔術関連の術者への負担の緩和化。命を削る行為でなく、本人の魔力量の%消費のみ。できれば魔力全体の消費を半分に目標、又は魔石を使用することで魔力減少の緩和も想定に入れて、現在少しずつ詰めている状況ですね、以上です」



ブラインが以前言っていたランドルンが書庫にいる理由。博識で番人としてだけでなく、ずっと時間をかけて調べていたことの結果が実を結ぼうとしていた。これが発案されれば相当な功績となるに違いない。



「じゃあ俺の報告」



続いてはブラインだ。



「元生家が俺に使わせようとしていた装飾品元の商会の名前を思い出した、というか記憶から掘り起こしたというのが正しい。その装飾品店はカールの件の後潰れていたけど、店主が元魔術師上がりらしくて、手ならしにちょっと追い詰めてみた」



ちょっとその辺までお散歩に行ってきたみたいな言い方だが、ブラインも案外武闘派なのかもしれない。



「相手は腕に覚えがあったのかしれないけど、助けを乞うまで五分もかからなかった」



武闘派だ。



「装飾品だけでなく魔石もカールから入手するよう依頼されてた。高品質で大きいもの。それは他の証拠も併せてテオルドさんに報告済み。以上」

「じゃあ、その流れで私も報告」



手をひらひらさせながら微笑むアビー。



「昔付き纏われていた御子息の生家、元伯爵なのだけどね。父親が熱心なカール信者状態だったけど中枢まで関わっていなかったからって理由で没落はしなかったんだって。でも伯爵家の領地は没収されて、辺境で農村近くの土地を与えられ降格して男爵位を与えられた。今までの豪遊生活とかけ離れ、自ら畑に出なければならない、でも逃げられない蛇の生殺し状態な生活に様変わり」



輝くような眩しい笑顔で歌うように話すアビー。何故か身震いしたくなるその他大勢。



「久々に会いに行ったのよ。最近購入したお気に入りの服で。着古した作業着の相手に。私が魔術師団を去る時に、どうせ女を武器に魔術師団に入っていたんだろうなんて宣われたことを思い出しちゃって。女だけどそれなりに魔術使えるのよって身を持って教えて差し上げたわけ。女だけど」



誰もがすんとすまして聞いてはいるが、今後一言でも『女性』を貶める修飾語を使用することはご法度だと男性陣は固く心に誓ったに違いない。パミラは慈愛の込もった笑顔でそれらを見守っていた。



「太陽が眩しかったのかしら…彼が涙目になっちゃって。自分達よりももっと深く関わっていた大貴族はいるだなんて叫ぶの。でも仕返しが怖くて口が割れないなんていうから、割っておいたわ。以上♪」



断言しよう。

アビーは生粋なる武闘派だ。

この前誰かがどさくさに紛れて言っていたのだから間違いない。



「そそそれでは次の報告は私だな」



完全にアビーの迫力に飲まれ、第一歩を格好良く踏み出せなかったジェスが咳払いをして己を取り戻していく。



「我が元侯爵家は主の極刑により一家四散された。証拠品などは殆どが押収されたと聞いたが、相手とのやり取りをしていた手紙の数が極端に少なかった。連絡魔術の可能性もなくはないが、私の元父親は魔力が低くて連絡魔術を苦手としていた。それに自分は相手に証拠を残し、相手の証拠を自分が取れない状況を作るとは思えなかった」



淡々と話すジェスの表情に悲壮感が全く無いことから、侯爵家との想いは既に風化されているのかもしれない。



「暫くは屋敷もそのまま残っていたのだが、今では更地になっている。再調査をしていたら、ちょうど侯爵家が没落した直後からとある大貴族に再就職していた者が浮上した。その人物は元生家で働いていた執事見習いだった。今ではその大貴族の執事となっている。異例の出世だ」



口角を緩く立ち上げる。その笑みは鬱蒼としていた。



「私は遠隔魔術が得意なんだ。その大貴族の周辺で執事仲間の精神と口を借りて噂を流した。『更地になった元侯爵家の地下に、ある貴族との内密の手紙が実はまだ残っている。更に関わった人物全員の名を記した名簿もあるという噂が経っていて、まだ見つかっていないそうだ』と。するとその日の夜更けに元執事見習いが血相を抱えて更地を徘徊していた。普通に考えればそんな噂すぐに嘘だとわかるだろうに、『全部処分したはずなのに、どういうことだ!裏切り者がいたのか』と探し回り、その大貴族の名前をぶつぶつと連呼しながら。その様子を主から渡された録音魔術が施された魔石で証拠としてお渡しした。以上となる」

「じゃあ次は俺な」



頭の後ろで組んでいた手を解いたダンが姿勢を正す。



「元羊飼いとピッタ爺の繋がりで顔が広くなると色々な話が耳に入る。餌の話、馬の自慢話、そして馬主の話とか、な。相手先やそこの主が高慢だったり不条理な態度だったりするといくらでも不満は出てくるんだ」



人間は表だけでは判断できない唯一の生き物だからなぁとダンが言う。



「んで、先日ピッタ爺主催で定期的に催されている馬好きの同好会のようなものがあってさ、参加してみたんだ。そこでは馬の様々な話をするんだが、時には愚痴を言い合うこともある。馬の飼育が上手くいかないとか、最近何某の餌が高騰していて大変だとか、馬主の愚痴や噂話とか」



ダンの人懐こい笑顔と会話、聞き上手な対応に間違いなく相手は気持ち良く話せているのだろう。



「とある家で働いている馬丁がいてさ。馬好きが高じて馬丁になった奴なんだけど、働いている屋敷の主が傲慢でさ。それは馬に対してもみたいで。馬は当然そんな主を乗せることが憂鬱になる。そいつと仲良くなったからさ、ちょっと擬態魔術をして、主と御子息の馬の様子を見に行かせてもらったんだ。馬が不憫でさ。そこで餌や馬房で休む場所にバレない程度に心が静まる魔術を少しだけな。その時にたまたま御子息が来て、元羊飼いだという話を聞いた俺をみて一言。『馬だろうが羊だろうが、人との仕事より楽な仕事で羨ましい限りだ』とさ」



どこにでもそういう人間はいるものだと思った。どれも必要だから仕事としてあるのではないだろうか。



「自分のことは棚に上げて馬をちゃんと躾けろと馬丁をわざわざ詰るんだよ、俺の前でさ。彼はお前が躾けられろと何度心の中で思ったかと憤っていたらしいが、その態度が顔に出ていたみたいで彼は更にこう言った。『お前も孤児上がりの小僧のように追い詰めてもいいんだぞ』と」



その言葉にユフィーラ始め皆が目を見張る。



「その馬丁の雇い主は、アッカラン侯爵家だ。以上だな」

「わ、私もその流れに乗っかります!」



挙手してから、ユフィーラの今朝方アリアナから速達で届いた手紙を見せた。



「これは今朝朝一で届いたアリアナさんからの手紙です。以前軽くお話はしましたが、アッカラン子息の婚約者であるモニカさんがアッカラン邸に行った帰りに急いだ様子でハインド邸に寄られたのだとか。その時、彼がとても機嫌が良かったらしく理由を聞いたら、こう話していたそうです。『そろそろ魔術師団の副団長が何かやらかすかもな』と」

「「「「「「「は?」」」」」」」



綺麗に七人の一言が揃った。誰もがシモンに対しお前が言うなと思ったことは想像に難くない。



「これはテオ様に既に報告し、テオ様からリカルド団長様には伝言済みです。以上です」



皆がテオルドの顔を見て、彼が一つ頷くのを確認してようやく殺伐とした空気が和らいだ。



「それじゃあ、俺はちょっと違う視点からの話だねぇ」



カウンターから肘をついていたガダンが体を起こし、腕を組んだ。



「魔術師団に入る前は傭兵のようなこともやっていたんだけどさ。当時の仲間みたいな奴らと久々に会ったんだよ。そしたらその中の一人が十年くらい昔カールのお抱えの隠密のような仕事をしていてねぇ。何せ報酬の桁が違うんだと。ある日仕事の報告しに赴いた時に、たまたま開いていた地下を覗くと、少年くらいの子供が閉じ込められていた…実際は魔力を使い過ぎて発達障害みたくなっていたらしい」



カールの屋敷の地下に少年を監禁。魔力の枯渇状態であろう予測にユフィーラは思わず眉を顰める。



「その少年は伸びっぱなしの緑の髪に茶色っぽい瞳のガリガリの少年で、ローブを着た大人に囲まれて机の前に座らされて何かさせられていた。んでそいつ気分悪くなってそこから出て庭から帰ろうとしたら、またその子に会った。今度は黒い服を着せられて身体中傷だらけで倒れていた。その周りにもそいつと同じような黒尽くめの人間が取り囲んでいた」



ん?とユフィーラは首を傾げる。他に数人同じ動作をした。



「あれ?だろ。そんな短時間であるわけないよなぁ。でも顔は同じなんだよ。だからこう考えるのが自然だよな。双子なのかって。それか年が近い兄弟」



そういうことならば合点はいくが、それでも少年への対応に誰もが不可解に思っているだろう。



「と、ここまではそいつに美味い酒を奢ってやって聞いたことなんだけど、ここからもう少し上等な話があるかもなんていうから乗るしかないだろ?その条件が俺との久々の腕比べみたいなやつでさ。そいつは今でこそ仲は良いが元々は何かにつけて喧嘩売ってくる奴だったの。ぬるま湯に浸かって腕が落ちただろう俺から一勝したかったらしい。三分で終わったけど」

「短」



思わず発したブラインの言葉も最短だ。



「それで、聞いたわけ。そいつも屋敷内でそういうのを今まで見たことなかったから気になってこっそりと調べていたらしいんだよ。そしたらねぇ、……息子」

「え…」

「恐らくカールの息子」



その言葉に胸がざわりとなる。

カールは終世伴侶をもたなかったと聞いていたし、子供がいることも公表されていなかった。



「それから数年も経たないうちに傷だらけだった方の少年は忽然と姿を消した。死んだかの確認まではできなかったらしい」



緑の髪の二人の双子の男の子…。

生死はわからないが一人の少年は消えた。

ユフィーラの中で何ともいえない違和感が残った。







不定期更新です。

誤字報告ありがとうございます。

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