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一日5秒を私にください  作者: 蒼緋 玲
一日24時間を私にください
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完成と疲労






「ねえ、これなんだけど」



暫く会話以外の音だけが部屋には響き、昼前頃にパミラがユフィーラの元に記録された紙を持ってきた。



「このユフィーラが無効化を無効化にするって意味なんだけど…葉の現状の効果を変えさせる為に無効化にするんじゃなくて、一度効能そのものを消すって意味の無効化にしてみたらどうかな」

「無効化というよりも消失的な…」

「まあそれに近い。多分全部は消せないけど、もし薬草の生態で効能が限りなく消えそうな時に本来の効能を蘇らせるみたいな可能性もあるかなって思ってさ」

「なるほど…!」

「極限まで消失に近い状態に近づけてみろ。今までは重ね合わせしていたやり方の逆だ」

「は、はい!」



ハウザーも得心がいったのか、ユフィーラにやり方を説明してくれる。



「一番効能の多い蕾から抽出。葉に重ね合わせの転換で消失させるように精製魔術をちょっと置き換えてみて」

「はい!」



ユフィーラは順を追って精製魔術を使い、葉に全体にくまなく施していった。そして色味が褪せたような状態になった葉に促進魔術を少しずつかけて観察していると、元々のくすんだ緑色が徐々に淡い緑色に変化していったのだ。



「色が…!」

「うん、当たりかもしれないね。もう少しこのまま続けて」



ユフィーラの隣でパミラが手を翳し葉の全体に鑑定魔術を施していく。



「止めて」



少し経ってからパミラの声と共にユフィーラは促進魔術をかけるのを止める。シャーレを持ち上げあらゆる角度から見たパミラは一つ頷いてハウザーに差し出した。



「無効化。いけたんじゃない?確認してもらえます?」



ハウザーが受け取り、葉に手を覆って鑑定魔術で確認し、ユフィーラを見た。



「これだな。良くやった」



ユフィーラは両手を掲げて咆哮…したいのを研究所内なので我慢して歓喜した。




そこからはその葉をベースに作り、他の部分と重ね合わせができるかの流れにそれぞれが動いていった。





そして陽が沈む少し前。ユフィーラは手元をぷるぷるさせながら小指ほどの細長い小瓶をしっかり持っていた。



「出来ました…!」



最終的に出来た薬は負の影響による魔力強制減少を解除するもの。そしてその逆、魔力強制増加の解除もほぼ同時にできた。魔力暴走などに有効だそうだ。しかも内面からも外面からも可能な状態に仕上がったという素晴らしいおまけもついて。よって同時に病にも効く可能性がある代物が完成したというわけだ。



「頑張ったねぇ」



机に伏しながら小さな小瓶を手に持ったユフィーラの頭を優しく撫でるパミラ。



「パミラさんのあの時の提案のおかげです!」

「違うよ。私がそれに気づくまでに沢山の工程をこなしてきてくれたから気づいたこと」



そうパミラが言ってくれたのを、聞きましたか!?という風にハウザーにぐりんと振り返る。流石に連日、そして昨夜は付き合わせてしまった状況になっていたハウザーは机に足を乗せながら背もたれに寄りかかり、視線に気づいてこちらを見た。



「良くやった」



そう言って手の平を上にして人差し指を動かし呼ぶので、ぴゅんっと小走りで走り寄る。ゆっくりと手を伸ばしてぽすんといつもの身長の成長を脅かすものではない優しい力で頭を撫でてくれた。


その後パミラからはテオルドも佳境に入っているらしく、使用人にユフィーラのことを頼むと言っていたそうだ。使用人達もそれぞれ動いて数日のうちに報告を行うとのことだった。


ハウザーは研究所とテオルド、王宮の方にそれぞれ連絡魔術をとってくれ、状況が問題ないなら症状のある魔術師達に試してみるそうだと教えてくれた。


パミラとハウザーが今後の話などをしている中、ユフィーラは机の上に腕を組み顔を乗せる。



(これでどうか魔術師の皆の状態が改善されますように。そしてテオ様の役に立てますよう……に……)



興奮状態だったユフィーラだが、ようやく訪れた安堵と睡眠不足で瞼はもう開けていられなかった。意識の遠くの方で「――――…を呼べ」と聞こえたような気がした。


そして温かいものに包まれ、眠りを妨げないくらいの心地良い揺れと頬に触れる体温は慣れているもので、ユフィーラは思わず頬を寄せる。すると頭頂部と額に大好きな温度が落ちてきて、安心して身を委ねた。




気張っていた気持ちと短期間とはいえ滅多にない過密スケジュールだったからか、翌日ユフィーラは熱を出した。


額に、そして首筋に誰かのひんやりとした手が触れてユフィーラは目覚める。目の前には心配そうに少し眉の下がったテオルド。



「…テオ様?おはようございます」

「疲れが出たか」

「疲、れ…?」

「熱がある」



そう言われてユフィーラは自分の手で額に触れてみた。



「んー…わかりませんねぇ」

「手も熱いからな。他に症状はあるか?」

「症状…倦怠感くらいでしょうか…喉は大丈夫でふ」



寝起きでまだ舌足らずな状態のユフィーラの言葉に、テオルドは少し安心したようにふっと微笑み口付けを落としてきた。



「ちょっ…移っちゃいますよ!」

「疲れからだ。風邪でもするけど」



そう言って何度も口唇を落とすので、間違いなく更に熱が上がったに違いない。




その日は一日部屋で休むようにと約束させられた。ユフィーラはできれば入浴をしたかったのだが、夜に熱が下がったらだと浄化魔術をかけてもらい、テオルドは仕事へ向かった。その後、部屋には使用人の皆が次々にお見舞いに訪れてくれた。




「ちょっと頑張り過ぎたな。でも時にはそういうことも有りだもんな」



そう言って太陽のように明るい笑顔で労ってくれたダンは、外出した時に買った葡萄を一房くれた。



「今度ユフィーラと一緒ならゼルザの爺に会ってあげるから。先ずは早く治して」



ブラインはそっぽを向きながらも最近考案して完成したという花を香り付けした温かくてほんのり甘みを感じるフレーバーティーを淹れてくれた。



「今日は体も肌も休めてね。お疲れ様過ぎよ」



アビーは熱で火照っている顔を、少しだけリフレッシュねとアビーがいつも使っている顔パックにユフィーラの顔専用保湿剤を浸して、更に癒し効果の魔術をかけてひんやり顔パックを施してくれた。



「治ったらガッツリした美味いもの作ってやるから、今日は体も胃もお休みだねぇ」



ガダンが昼食時に食事の乗ったトレーを持ってきてくれた。ミルクたっぷりのパン粥にふんわりシンプルなオムレツ、オニオングラタンスープに桃のシャーベットと果実水が体と心に染み渡る。口から出る言葉は「おいふぃ」のみだ。



「ほらほら、じっと見ないで。仕事終わったら髪は解くから」



ユフィーラがふらふらと手洗いに行っている間に恐ろしい速さでさらさらの良い香りのシーツに交換してくれたパミラ。熱で血走った目でぎらぎらしていたユフィーラの言いたいことは理解してくれたようだ。



「主が留守にしているので代わりです個人的にでもないし他意はないんですよ他意は」



一気に捲し立て、机の上にとても可愛らしい包みの一口フルーツゼリーを置いてそそくさと出て行ったジェス。天邪鬼か。



「少し眠気が覚めた時用に。それと最近お勧めの飲み物がありまして」



ランドルンがユフィーラが好きそうな本と、冷たくて程よい甘さのショコラドリンクを置いていってくれた。



皆の心遣いの数々にユフィーラは嬉しさのあまり、興奮してしまい眠れなくなる……なんてことはなく、夕食前までたっぷりと睡眠を貪ったのであった。




そして、珍しくいつもの時間に帰宅したテオルドが夕食のトレーを持ってきてくれた。額と首筋に手を添えて「熱は殆ど下がったな」と言って、何故かユフィーラを膝の上に乗せて給餌を開始するではないか。



ガダン作のたっぷりきのこのリゾットをスプーンで掬い、ユフィーラの口に寄せてくるテオルドの表情が蕩けるように微笑んでいるので、ユフィーラは雛のごとく無の境地で口を開けた。



それでも、いつでも、ガダンのリゾットは最高に美味しかった。







不定期更新です。

誤字報告ありがとうございます。

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