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一日5秒を私にください  作者: 蒼緋 玲
一日24時間を私にください
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洗脳の可能性






ユフィーラはテオルドと別れ、そのままハウザーの診療所へ向かった。



(良かった…)



ユフィーラは心底ほっとした。実際確証がないのに同僚を疑えとお願いするのはとても心苦しかったし怖くもあったが、テオルドは承諾してくれた。



「前にも言っただろう?俺とリカルドは近い位置に居るからこそ見えなくなる部分もあると。勘の鋭いフィーの言葉を流すことはしないし、ちゃんと調べて問題ないならそれに越したこともないからな」



テオルドはユフィーラのミルクティーの髪を弄りながら、五人が症状が出る前にネミルと装飾品の話をしていることが時期的に疑わしいし、俺ではその情報を引き出せなかっただろうからなと言っていた。


そう。ユフィーラは症状を聞いたあとに魔術師の必須アイテムでもある装飾品の話の話題を出した後に、最近装飾品でのちょっとした事柄を何となしに聞いてみた。それで五人全員の口からネミルの名前が出たのだ。


一人は首飾りについている魔石を見せて触らせた。

二人は指輪の補修をその場でやってもらった。

二人はブレスレットの魔石をネミルの手持ちの魔石で追加していた。


全員がネミルに装飾品を触れさせていたと話していたのだ。


テオルドは五人の魔術師達から詳しく聞いてその装飾品を一時的に預けてもらい、精査をする。そしてそれが明確になった時に初めてネミルの素性を改めて詳しく調べる流れだと言っていた。


ユフィーラはネミルの瞳のアンバランスさは一体何なのだろうと考える。

都合が良くないものや恐らく感情的に面白くない話題が出た時の濁り。でもテオルド達と会話している時の輝く瞳と親しみを込めた話し方に偽りは感じなかった。なのに時折どろっと歪む時がある。あそこまで忙しなく変わる瞳の変化をみたことはなかった。



(何と言うかまるで…二重人格のよう)



そう。それがしっくりくる。ほんの一瞬混ざる不気味な変化になんとか表情には出さなかったがユフィーラは相当驚いたのだ。でもそんな症状例が実際に存在しているかすらユフィーラには分からない。



(書庫に人の精神面に詳しい本はあるかしら…精神を誰かに支配される…でなく洗の…)



ユフィーラは立ち止まって目を見開く。



もしカールが行っていた洗脳に近い状態だとするなら。



ネミルの不可思議な瞳の変化。

テオルドや使用人達から聞いたカールの蛮行の数々。

カールに対しての過剰な妄信。

装飾品を用いて魔力を――――――奪う。



次々に今までの不可思議な出来事が繋がったような気がする。

ユフィーラは診療所に向かって走り出した。




「先生、こんにちは!来て早々、で申し訳ない、のですが、テオ様に連絡、魔術をお願いしたくて!」



滅多に全速力で走らないユフィーラの声は息切れで途切れ途切れだ。昼休憩中だったらしいハウザーは診療台横の机の上に珈琲を置いて一服中である。



「ん?早いな。走ってきたのか」

「連絡、魔術、をー」

「まあ落ち着け」



そう言って机に置いてある瓶から色とりどりの飴を一粒取り出しぽいっとユフィーラの口に放り込む。



「ふぇんふぇ!あふぇでふぉまふぁかふ―――」

「良いから座れ。飲み物持ってきてやるから書くことを頭でまとめておけ」



そう言い残し聞く耳持たずにキッチンへ消えていった。


ユフィーラはすとんと椅子に座ると急いで走ってきたからか足全体がじんわりとなる。同時に糖分も欲していたらしく口の中に甘みがふわっと滲み、ようやく落ち着きを取り戻して息を整えた。



ハウザーが昔からユフィーラが好きなミルクたっぷりの珈琲を淹れ机に置いてくれる。それから連絡魔術用の紙を渡してくれて、テオルド宛に出した後、ユフィーラも珈琲に口をつけながらようやく一息ついた。



「あの時の魔術師か。全然気にも留めていなかったな。お前は良く気づいたな」

「ネミルさんの親しみの込もった話し方に対して人嫌いのテオ様が本心から嫌がらないのは珍しいなぁと彼の顔をまじまじと見てたまたま気づいたというか」



それと、きらきらした表情でユフィーラに話しかけた時にやっぱり勘違いではなかったという気持ちが大きい。相手を褒めている間にも見え隠れする瞳の不可思議さにとても困惑したのを覚えている。



「まあ、あいつもお前だけの言葉を頼りにすることはないだろうし、きちんと調べるだろうよ」

「勿論そうしてくれると思います。でも鬱陶しがられなくて良かったです」

「鬱陶しい?」

「彼の接し方を嫌がっていなかったってことは、嫌いでも無関心でもないのに、そんな相手を私が疑えと言う形になってしまったので…」

「そう思うのは仕方ないが、あいつが言っていたように側にいて情があるからこそ見落とすこともある。事が大きくなって致命的になったら不味いからな。必要なことだ」



ハウザーはいつもユフィーラが望む言葉をくれる。粗雑な言い方でも温かく時に厳しい。それがユフィーラにはこの上なく有り難い。



「それで薬としてはこの前言ったようなもので良いのか?」

「はい。強制的に吸収される魔力を緩和できる薬、中和なら尚良しでしょうか。もし運良く可能ならば今後それに近い病が出た時に一時的にでも効果のある似たような薬ができたら助かるとのことです」

「緩和はともかく中和が一番難しかったりするな」



ハウザーは顎髭を擦りながら思案顔で宙を見ている。



「今回の件がもし装飾品が原因とするならば、外せば元通りになるのか残存されてしまうのかもまだ何もわかりません。そうでなかった場合は新種の病の可能性も視野に入れていかなければいけませんね」

「まあ、王宮の研究所でやるか…色々揃っているしな。今回に関してはユフィーラの考えが当たっていると思うがな。聞けば聞くほどカールがやらかした時の症状にそっくりだからな。ネミルという魔術師が奴とどんな関係があるのか否かはテオルド達に任せるしかない」



ユフィーラは頷く。今後ユフィーラ達は薬の精製に専念すれば良い。



「魔力を中和、又は緩和する為の薬草は確かマージやデスパ以上に希少なのですよね?」

「ああ。リセッカという薬草なんだが、中和というよりは打ち消す、無かったことにするという効果のある希少種の薬草だ。人伝に聞いたところによると、トリュセンティア国辺境のパリモの森付近で見たことがあるという噂は聞いているが、実際直接見たことはないし効果もどこまで本当かわからないから今回は頭から手探り状態にはなるな」

「色や形もわからないのです?」

「全体はくすんだ緑色で橙色の小さな花が咲くらしいが時期がわからん。デスパやマージと比べて全体が小さくてこれと言った特徴もないのが見つかりづらい理由の一つだな」

「辺境周辺の気候はどうですか?」



もし運良くリセッカを採取できた時に栽培できるならば是非ともやりたい。あまりにも気候が違うならばそれこそ温室でも作らなければ難しいだろうし成功するとも限らない。



「山と海の中間の場所だな。海風と山の豊富な栄養の土を含む、だな」



海水はミネラルや水分を含んでおり、そこから吹く風もそれらを含み流れるので癒やしや促進効果もあるらしい。土は魔術でどうにかなったとしても海風の部分が難しそうだ。



「転移なら日帰りで行けるが、それでも最低数日かかる可能性を視野にいれておいた方が良い。俺も急に診療所を閉めることはできないから、取り敢えず早くて明々後日以降だな。お前の薬の方はどうだ?」

「薬の精製の方はある程度融通は利きますが、保湿剤の方は注文をいただいているので…私も明々後日なら問題ないです」

「じゃあ明々後日の昼前に出るか」

「お弁当有りですね!おやつも有りですか?」

「ピクニックか」

「腹ごしらえは活力の為に必須です!」

「はいはい」



ユフィーラはまたガダンにお願い事をしないとなぁと思いながらもどんなサンドイッチにしてもらおうと恐縮する様子は垣間見えない。



「実は明後日はアリアナさんと久々にカフェでお茶をするんです!予定が潰れなくてこれも一安心ですね!」

「だから日程聞いた後にやついたのか」

「朗らかな微笑みです!」

「鬱蒼とした昏い笑みだったぞ」



それから当日の持ち物など詳しく詰めていた頃、ハウザーの元に連絡魔術が飛んできた。中身を見ずにそのままユフィーラに渡してきたので、テオルドからだとユフィーラは自分の魔力を微量流して封を開いて中身を読んだ。



「!先生、テオ様は既にその可能性を視野に入れているそうで気にするなとのことでした。逆に躊躇せずに話してくれて感謝すると…!」

「だろうな。あいつに物申す奴はリカルドくらいだったし、そもそも他は一切聞き入れなかったからな。それにお前の第六感は侮れない」

「第六感を鋭敏にキレッキレに…!」

「鈍感部分が更に鈍りそうだから止めておけ」



それから転移で送ると言ってくれたハウザーの申し出を丁重に断り、ユフィーラは明々後日までの予定を頭に思い浮かべながら帰路についた。







不定期更新です。

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