訳アリ使用人の過去2
「仮定として、もし魔力が通常通りに増えている、そしてそれ相応の魔力を吸収する何か。…口にするもの…よりも何か常時身につけるもので外さないものとするなら―――――」
その言葉に食堂が緊張を帯びた。
「魔術師の方は装飾品を身に着けている方が多いと聞きます。それを見越して、もしそれらを何らかの形で持たせることができたのだとしたら…装飾品に気づかれずに何か細工をする…?」
「多分それで当たり」
パミラが頷く。
「トニーが亡くなった直後は流石にそれどころではなかったけど、少ししてから気づいた。ずっと身に着けていたものが彼の体から無くなっていたの。私が少しだけその場を離れた瞬間を狙ってカールが見舞いに来たのだと後から聞いた。間違いなくその時に持っていったはず」
パミラが腕を軽く上げるのを皆の視線がそこへ集中する。
「ブレスレット…?」
ユフィーラの言葉にパミラは右腕を少し振って見えやすいように銀色の細い鎖に石が所々装飾されたブレスレットを見せてくれた。
「お揃いなの。魔石を仕込んだブレスレット。お互い失くさないように常に気をつけていた。亡くなる前に彼のそれを間違いなく握って願っていたんだもの。だけどトニーが亡くなった後、そのブレスレットは失くなっていた」
魔術師にとって装飾品は魔力を込める入れ物のような役割をしているので、どんな魔術師でも自分の魔力を蓄える為に装飾品をつけている者が殆どだという。自分の魔力が減少して使えない時の有事用や連続して使いたい時に重宝するらしい。
「カールが持ち去ったのは明白。でも証拠がない。恐らくあのブレスレットに何か細工されていた。何かの効果がある魔石をね。でもぱっと見た目には気づかなかったから、分からないくらい小さい石だったのかもしれない。その効果は恐らく解呪と同時にそれ相応の魔力を吸収する悍ましいもの」
その時、ずっと座った状態で石像のように動かずに聞いていた人物がテーブルに肘をついて顔を覆った。
「…これは私も出るべきですね。今が動くべき時と判断します。主、頼ってくれて…この話をしてくれて心より感謝します」
「ランドルン…」
顔を上げ、テオルドに決意の眼差しを灯した表情をしたのはランドルンだった。
「私はカールに洗脳し続けられ、魔力製造機として使われていました」
開口一番からの驚愕の事実にユフィーラは目を見開く。
「元は平民出身だったのですが、運良く入団できた後にこの容貌が気に入ったのか魔力目当てだったのか…今は没落した男爵家に養子として迎え入れられました」
そう言ってグレーの瞳を伏せてさらりと横に結った髪が流れる姿はまるでどこかの美術館に展示されている美しい彫像そのもの。眼鏡をかけていることで人間味が生まれるように見えるというくらい整った麗しい美貌である。今は背が高いから男性だと分かるが、昔は小さく線の細さから女性と良く勘違いされていたそうだ。
「男爵の勧めで私はカールの所属場所へ赴きました。今考えれば何故魔術師でもない男爵がカールと繋がっているんだと思わなくもないですが、当時の私は貴族の裏の繋がりなど知る由もなかった物知らずだったのですよ」
普段からとても洗練されているランドルンの動作は実は付け焼き刃なのだという。とてもそうは見えないのはきっと、元々のセンスとそれだけ努力を積み重ねてきたのではないだろうか。
「適性検査では私はこれといった適正な結果は出なかったんですが、魔力量が多かったのと、魔術書を良く学んでいたので、色々と研究をさせられていました。詳細を知らされずカールの上っ面だけの優しい心に響く褒め言葉を信じながら。私一人の成果ではありませんでしたが、あの悍ましい解呪の一端を担ったことは確かです」
そう言いながら自嘲するように口元を歪ませるランドルン。
「ある程度解呪の完成に近づいた頃から、私の元へ良くカールが赴くようになりました。男爵とは懇意にしていることは見て理解していたので、こちらも下手な行動はできません。連日まるで親のように親身なって私の懐に入ってきました。褒め称え元平民でありながら私の功績はどれだけ素晴らしいことなのかと言葉を重ねられ、私の話にも寛容に耳を傾けられながら…知らずのうちに徐々に侵食されていったのです」
眼鏡を中指で持ち上げながらランドルンが遠くをみるように、平民時代に認められなかった自身をこれでもかと嫌味なく持ち上げるカールにいつの間にか気持ちを掌握されていたのでしょうねと呟く。
「その頃から僅かに少しずつ、自分の思考が濁り膜が張るかのようにあやふやな状況が増えてきたように感じました。その頃になるとカールが何を話していたのか詳しい内容を理解し切れなくても、何故か彼の言うことに従わなければという思いになっていく己がいました。その時点で既に正常な判断の基準すらカールに支配されかかっていたのかもしれません」
当時はそれがおかしいとすら気づく警戒心が根こそぎ消されて奪われていたのです、と苦笑しながらランドルンが言う。
「同時期に男爵当主からある装飾品を譲り受けました。そして…私はいつの間にか魔力製造機と成り果てていたのです。常に魔力が微妙な量が続き、常時意識が朦朧一歩手前な状態でした。家でもその状態が増えているのにも関わらず、男爵家の者は特に何も言わなかった…恐らく私はこの為に養子にされたのだろうと後々になって気づきました」
そこでテオルドに視線を向ける。
「何をやるべきかすら判断も理解もできなかった状態の時に、たまたま魔術師団の団舎でテオルドに面と向かって言われた言葉。……お前のあれがなかったら私は二度と戻れなかったかもしれないな」
ランドルンは親しみを込めて主としてではなく同期として語りかけた。テオルドと同時期に入団した同僚みたいなもので、ランドルンが養子に入るまではお互い己の容姿で騒がれてそれが憂鬱で、ちょくちょく声を交わすことがあったそうだ。変に構えずに会話ができたお互い貴重な相手だったと言う。それも養子直後にカールの所属に入ったことで途絶えてしまっていたのだが。
「『今のお前の顔は魔術への探究心が皆無だな。何の為にここに居る?頭は正気か?』…この言葉で私は今まで考えなかった…考えなければならなかった思考が再始動するきっかけとなった。それから明らかに今の自分の状況がおかしいという男爵に訴えると、男爵はカールと共謀して私を陥れ解呪研究所に秘密裏に監禁し完全な魔力製造機にされようとしていた。それでも抗ったが、カールの魔術には叶わなかった」
そしてパミラを見る。
「その後パミラが無我夢中で亡くなった最愛の人の証拠を集めようとし、隠蔽されていたことが分かって辞めていった頃、その行動に感化された洗脳されていない魔術師と明らかにおかしな方向に進んでいくカールに不信を抱いた上が動き出してカールが捕縛され、ようやく私は助け出されたが暫く寝台から出ることはできなかった。パミラ、」
「それ以上、痒くなるような言葉綴ったら、シーツ一式パリッパリに糊付けしてやるよ?」
パミラがシーツを伸ばす仕草をする。
「ランドルンの性根が腐ってるのを理解していたなら、あなたを雇うと言った旦那様の話を聞いた時点でここから去っていたから。あなたは完全なる被害者。それ以上でも以下でもない。今でも書庫で実は内密に解呪や洗脳に対して危険性のない解除の魔術を模索していることは知っているんだからね」
「…え?」
ランドルンがパミラの言葉に瞠目する。そして更に言葉が違う方向からかけられた。
「それリークしたの俺」
不定期更新です。




