番外編・古今酒は飲んでも飲まれるな
後期突入あたりと、本編後のお話です
「こーら、二人共一度ストーーップ」
パミラの大きくないのに良く通る声色にユフィーラとブラインはぴたっと話を止めた。
「言いたいことはわかるんだけどさ、お互いに途中から自分の主張が強くなって相手を取り入れない感じになってきていたよ」
これはユフィーラとブラインが薬草と植物から抽出できる効能や香りに対して、パミラが担っているシーツや衣類などに香りや癒し機能を付けられないかと言い始めたことから広がった話だった。
始めはお互いを尊重しながら話し進めていたのだが、それぞれ薬草愛と植物愛に発展して段々と熱がこもり始めたところでパミラが諌めたのだ。
「ごめん。つい植物のことで考え曲げられなくて熱が入っちゃった…」
視線はしっかりと逸らしながらもブラインが体だけはユフィーラに向けて素直に謝罪をする。
「た、確かに私の言い分は途中から自分本位でした。こちらこそ熱くなってごめんなさい」
ユフィーラも今までになく白熱してしまい反省する。
「うん。二人共素直。歳を重ねれば重ねるほど、そう言った個人の思考は固まっていくから。気づいて振り返って見直すのは大事。じゃないと見えるものが段々見えなくなってくるからね」
にこりと微笑んでパミラが今まで話していた内容を紙に纏めながら話す。
パミラはおおらかな性格の持ち主で、普段は当たり障りない対応をしているが、事なかれ主義ではない。違うと思う時はしっかり自分の意見を述べる人である。
言葉は理路整然としていて、すっと頭に入る。そしてはっきり言う時は言葉を飾らず真っ直ぐなのもユフィーラは好んでいた。―――敵と判断した相手には誰よりも容赦がないところも皆が知るところだ。
「じゃあ、香り付けは取り敢えず二種類。ブラインとユフィーラさんそれぞれのお薦めを決めてから、ブラインは植物にかける香りの持続魔術と色付け、ユフィーラさんは薬草からの癒し効果を濃縮させる作業、私は布関係をより柔らかくする魔術を完成させて、柔軟剤を開発していく、でどう?」
それぞれの主張を上手く組み合わせ、一人の意見だけを強く出さず、尚且つ三人が納得する出来上がりを提示する。
「はい。癒し効果の底上げ頑張ります!色付けは一番詳しいブラインさんにお任せます」
「ん。匂いはあんたが選ぶのは大体俺も好きなのが多いから全部選んでも構わない」
「いいね。一歩引いてから再度見てみるとお互い思いやれるだろう?そして譲り合うことでより良いものが出来上がることもある。勿論能力を認め合っているからこそが前提だけどね」
そしてあれだこれだと三人で議論しながら、数日後についに二種類の柔軟剤が仕上がった。
「すぅぅ……ぷはっ」
ユフィーラはラベンダーが仄かに香る柔軟剤を使って洗った布に顔を埋める。
「…うん。これ良いね」
同じく薬草とハーブを合わせてさっぱりと爽やかな香りに仕上がった布にブラインが鼻先に近づける。
「良い出来になったね。寝具はラベンダー、他はハーブの組み合わせで取り敢えず揃えてみようか。好みがある場合は個々変える方向で」
「これでぐっすり眠れます!」
「最近のあんた良く眠るよね」
「…ふふ、ラベンダー効果でより良い睡眠が摂れそうです」
ユフィーラはもう一度顔を埋めて堪能する。
「レシピ完成だ。追々量産していこう。折角だから三人で作り上げたってことで打ち上げでもする?」
その言葉にユフィーラはぴょいんと背筋を伸ばす。
「パミラさん。そ、それは…飲食を持ち込んでお疲れ様会をするみたいな…」
「あはは!ユフィーラさん好きそう。そう、そんな感じ。やる?」
「やります、やりたいです、やるしかありません!ブラインさんは如何ですか?」
「うん。やる」
ユフィーラは拳を高く掲げた。
その日の夕食の後、寝る準備手前まで済ませてからユフィーラ達はそれぞれ飲食を持ち寄って食堂に集合した。
ユフィーラは先日アビーと共に出掛けた際に買ったさくらんぼ炭酸水とスティック状の干し肉にマドレーヌ専門店のミニマドレーヌ詰め合わせだ。
パミラは葡萄酒とチーズ数種類とドライフルーツ。ブラインは発泡果実酒とキャラメルナッツ、クラッカーをそれぞれ持参して、食堂のカウンターに広げていく。
「夕食後なのに…なんて罪深いのでしょう…背徳感があるのにこの誘惑に簡単に屈してしまいそうです…」
「ふはっ。毎日じゃないけど、ここに誰かしら居て晩酌してるよ。お酒飲みながらゆっくりしたい時や語りたい時とかね。それとここに持ち込んだ飲食は自動的に共有となるからね。皆それぞれ好きなものを好きに飲んで食べたりして良いんだ」
「最高の決まり事ではないですかっ」
「来たい時に来れば」
「ふふ。夜はすぐに眠くなってしまうので、目が冴えた時にお邪魔するかもしれません」
「食器類も片付けておけばガダンも何も言わないしね。それじゃ、素晴らしい柔軟剤の完成に祝して、乾杯」
「乾杯!」
「うん」
かちんとグラスを軽く鳴らして乾杯する。
「そう言えば、ユフィーラさんお酒は飲めるの?」
「それが飲んだことは数える程度で。先生とたまに一緒に食事した時くらいですね。先生が出したものを少しだけいただく位でした」
「味の好みは?」
「好みができるほど量を飲んだことないんです。多分甘い方が好きになりそうな気はしますねぇ」
「なら私が持ってきた葡萄酒はちょっと辛口だからなぁ。ブラインの果実酒の方が良いかもね」
「飲んでみたら?」
「まあ。良いのですか?」
「ここに置いたものは皆共有」
「ふふ。では飲み終わったら、少しだけいただきますね」
三人でわいわいと話していると、厨房にガダンがやってきた。
「お。なんだ楽しそうだな」
「ガダンさん。打ち上げです!」
「打ち上げ?」
「そ。柔軟剤開発の。ユフィーラさんが打ち上げ初体験」
「もう初体験は済みました!」
「言い方がなぁ」
「あんたの捉え方でしょ」
ガダンが並べられた酒に目を瞬かせる。
「あ、この葡萄酒あまり出回ってないやつ。何か持ってくるから俺も参加な」
「んー?いいよ。合うおつまみよろしく」
「カナッペ」
「ガダンさんのおつまみ…!」
「はいよ。仕込みしながら作ってくるからちょい待ってて」
ガダンはユフィーラの頭をさらりと撫でてから厨房に入っていった。
「ぷはっ。ブラインさん、この発泡酒はほんのり甘いのに喉越しがさっぱりでくぴくぴ飲めそうですね」
「うん。発泡酒で飲みやすいけどアルコール強め」
「ふふっ程々にくぴくぴ飲みます」
「あはは。もう少し酔ってる?ユフィーラさん」
ユフィーラは半分程に減った黄金色の発泡酒を眺める。
「酔うというのはほわんとして良い気分になって気が大きくなったりちょっとしたことで笑ったり泣いたりしてしまうのですよね?」
「んーまあそういうのもあるけど、人に寄っては酒が合わなくて具合悪くなったりする場合もあるかなぁ」
「まあ、そうなのですねぇ。今のところそういう風になったことはなくて。いつのまにか朝になっていたりしましたね」
「…ん?」
「それって記憶がないの?」
「多分眠ってしまったかと。先生は飲み過ぎるな、特に外では飲むなと言われました。眠ってしまっては迷惑かかりますしね」
ふふと笑いながらユフィーラはいつも通りの口調で干し肉をはぐっと噛んでいる。その時に感じた違和感を、二人は普通に話しているから問題ないだろうと流してしまった。
その後、馬達にあげる果物を取りに来たダンも加わり、ガダンはおつまみと蒸留酒、ダンは麦発泡酒を沢山持ってきてくれて食堂はなかなかの盛況振りになった。
「へぇ。この二種類から選べるんだな。確かに衣類はラベンダーでない方が良いな。俺厩舎で寝そう」
「あはは。ダンは間違いなくそうなりそうだね。種類はそのうち増やそうと思っているよ」
「後はその香りが効能と上手く混ざるか否か」
「あー確かに上手く混ざんないと香りが残らず散っちゃいそうだもんなぁ」
「その辺はブラインが上手く操作して撹拌できるんじゃないか?」
ゆったりとした時間が流れる中、酒やつまみを楽しみながら会話が弾む。
そこでダンが珍しく全然話に入ってこないユフィーラに気がつく。ユフィーラを探すと、少し離れた場所からグラスを持ち、にこにこしながらこちらを見ている。
「ユフィーラさん?どうして離れてるんだ?」
ダンの声に他の三人が同時にユフィーラを見る。
「この場に自分がご一緒できることへの感謝というか幸せを噛み締めていました」
そう言いながらくぴーっとグラスの中身を空けた。カウンターを見るとユフィーラが持ってきたさくらんぼ炭酸水はあまり減っていない。
「あれれ。ユフィーラさん結構飲んでる?眠くなったなら少し横になる?」
「全然大丈夫です!パミラさんのそうしたいつもさりげない気遣いに私はいつも助けられて心がほっこり温まっているんです」
「ん?」
「パミラさんの言葉はいつもすっと染み込むんです。上辺だけの取り繕ったものでなく、相手を慮った言葉や行動を息を吸うようにできる人はそうそう居ません」
「え、ちょっと、なに…恥ずかしいんだけど」
パミラが珍しく頬に手を当てながら呟く。
「あんた酔ってんの?」
「ふらふらしたり、呂律が回らないわけではないので大丈夫ですよ。ブラインさんは少しつれない言葉の中に気持ちが凝縮されているなといつも感じています」
「…え」
「口少ない言葉の中に、シンプルだからこそ真っ直ぐ透き通って伝わりやすいのです。とても心に響きます」
「…」
ブラインは思いっきり顔を背けた。その耳はほんのり赤い。
「ユフィーラさんもしかして相当…」
「そうです。そんなダンさんも相当なんです」
「え、何が?」
そう言いユフィーラは座っているダンの元まで来ると、少し硬めの薄水色の髪を両手で梳くように丁寧に撫で上げるのをダンは目を見開いて固まってしまう。
「きゅ、急にどうした?ユフィーラさ――」
「こうやっていつも馬達に話しかけながら優しく撫でるのを彼等は好ましく嬉しく幸せに思っているはずです。あれだけ気性も性格も違う馬達を理解してあげるダンさんだからこそ、いつも穏やかに過ごせているんだと思います。言葉でなく感情の通じ合いができる稀有な存在のダンさんです」
ダンは酒で少し赤かった顔をより赤くさせる。
「へえ、良く見ているねぇ。ユフィーラちゃん、俺は?」
「ガダンさんは…―――――っ!」
ガダンの方を向いたユフィーラは何かにはっと気づいて小走りで食堂から出て行ってしまった。
「ねぇ…ねぇ!何あれ何あれ。ユフィーラさん、何あれ。何あの悟りを開いた言葉。がつんとくるんだけど!」
「パミラ、まあ落ち着け。あれは酔っているのか?」
「ど、どうだろうな。口調はいつも通りだし顔も…赤くないし、普通に走って行ったし…」
「目も据わってなかった…」
「さくらんぼ炭酸水全然減ってないだろ?ユフィーラさん常にグラス傾けてなかったか?」
「んーそういえば、ハウザー氏から人前…外?では飲むなとか言われていたとか言って、いたっけ…?」
「うん。そんなこと言ってた」
「おいおい。まさかさぁあれって普通に見えて―――」
その時扉が開いて、ユフィーラが戻ってきた。
何故か困惑顔のテオルドを連れて。
しっかりと手を確保して拉致してきたらしい。
「…………」
四人全員無言。ユフィーラはにこにこしている。
「旦那様の気配がしたのでお連れしてみました」
「みました…って、旦那様、近くに居たの?」
「…部屋の前だ」
「遠」
「え、ユフィーラさんてそんなに気配に敏感だったっけ?」
「あー…酒の効果、なのか?」
「ささ、旦那様こちらへどうぞ」
いつもならまずやらないユフィーラの強引さにテオルドも反応できずに、言われるがまま椅子に座らされた。
「どうなっているんだろうねぇ」
「…俺が聞きたいんだが」
「まあまあ、主もたまにはいいでしょ。どれ飲みます?」
ダンがグラスを置く。ユフィーラは新しい皿を持ってつまみ類を乗せ、にこにこしながらテオルドの前にことんと置いて、自分のグラスがある場所へ戻っていく。
「旦那もたまには一緒に飲みましょ。あ、ユフィーラちゃん、さっきの話。俺は何かある?」
ガダンがにやっと笑いながらユフィーラに尋ねる。こてんと首を傾げてから思い出したようにガダンの前まで辿り着くと、カウンターに肘をついていた手に顔を近づけた。
「うん?どうした?」
ガダンがその手を動かしユフィーラの頭を優しく撫でる。
「―――お菓子のように甘くて繊細な匂いです」
「うん?」
斜めの方向の返答にガダンは目を瞬く。
「何事もそつなく熟されているのに、その実とても努力して細やかな作業を惜しまない。だからこそ繊細で緻密な味や魔術が作り出されるのではないでしょうか」
「…おぉ。そうきたか」
そして頭を撫でているガダンの手を指さした。
「私、昔は手を上げられると反射的に頭を庇ってしまっていたんです」
にっこり微笑んで話すのだが、話す内容は表情に全くそぐわない。
「先生が何度も慣らしてくれて、大丈夫になったんです。ガダンさんは初めから怖くなかったんですよ。素晴らしい食事とお菓子を作る優しい手だときっと本能でわかっていたんですね。先生とガダンさんのおかげです」
「おぅ…そ、そうか」
ガダンがすぐ言葉を返さないのはとても珍しいことだ。照れ隠しに撫でていた手を離してがしがしと自分の頭を掻く。
微笑んだユフィーラはグラスと皿を持ってテオルドの近くに置いてあった葡萄酒に手を伸ばす。いつも通りの見た目、口調なのに、彼等の柔らかい部分を引き出してこれでもかと愛でるように、そして本心から言っているのだろう。だからこそ羞恥最大級のユフィーラの無自覚戦略に彼等は戦慄く。
これがユフィーラの酔っている状態なのだとようやく使用人達は理解した。
これ以上飲ませてはいけない。
それを瞬時に察したテオルドがその葡萄酒をユフィーラから離す。
「旦那様?」
「もうそのくらいにしておけ」
「まあ」
「酒以外にしろ」
「ユフィーラさん。さくらんぼ炭酸水にしようか」
ダンが素早く葡萄酒と入れ替える。それを受け取りテオルドがユフィーラのグラスにとぽとぽと注ぐ。流れるような連携プレイだ。
「あらまあ、お見事な手際ですね」
「ほら、飲め」
そう言ってグラスを渡してきたのでユフィーラは受け取り、葡萄酒が入っていたテオルドのグラスを渡した。
「せっかく旦那様が注いでくださったので有り難くいただきます」
「ああ」
そしてユフィーラは軽くグラスを掲げて爆弾発言を投下する。
「では、久しぶりに目を合わせて話しかけてもらえたことに、乾杯!」
誰かがぶほっと酒を噴き出す音と、誰かがぶはっと笑う声が耳に入る。
テオルドが目を丸くする姿を見ながらユフィーラは注がれたさくらんぼ水を飲み干した。
「ふはっ。甘みと爽やかなしゅわっとした喉越しですねぇ」
瞠目していたテオルドもなんとかグラスを動かして一口飲んだ。
酔っているらしいユフィーラは更に続けて追撃行動を投下する。
テオルドの目の前で飲み終えたグラスを置き、よいしょよいしょと目の前の椅子、テオルドが座っている椅子をよじ登りちょこんと横向きに座る。要はテオルドの膝の上だ。
「…は?」
「あははは!これランドルン居たら大爆笑でしょ!呼べば良かった!」
パミラが大笑いしているが、ユフィーラは至って『普通』である。そして凝視しているテオルドの方を見てふにゃんと笑んだ。
「やっぱり旦那様の瞳は漆黒なのに色々な色彩が混ざって見えて…本当に美しい」
テオルド椅子、即ちテオルドの膝にお行儀よく座ったユフィーラはくっつき過ぎずに、久しぶりにその綺麗な瞳をじっと見つめた。
テオルドは固まってしまっている。そして暫しその瞳を堪能してから、テーブルに置いてある自分の皿からガダン特製のカナッペを摘んでひょいっと口に入れてもぐもぐと、その美味しさを味わう。引き続きテオルドの膝の上で。
「そこに座っているならハグしてもらえば?」
更に援護射撃が放たれる。テオルドは目を見開いてブラインに振り返るがブラインは決して屋敷の主人と目を合わさない。パミラも片眉を上げながら否定せず、ガダンもにやつきながら事の次第を見守っている。ダンもうんうんと頷きながら麦発泡酒を煽っている。
テオルドの味方は誰もいなかった――――間違いなくここ最近の己の行いのせいだろう。
が、思わぬところから味方が…味方が?現れた。
「ブラインさん、それはできません。ハグは一日5秒だけなのです。そこは約束を違えるわけにはいきません!」
ぴしっと人差し指を立てながら姿勢良く間違いを正すような言い方だが、座っている場所はそのテオルド本人の膝である。
「旦那様には、己の欲望で迷惑はかけません!」
普通に聞けばとても相手を気遣った内容なのかもしれないが、少し前に目を合わせられなかった分を、しっかり補給していたことを忘れてはいけない。
うんうんと一人で納得した雰囲気を作ったユフィーラは急にテーブルにこつんと頭を置いて動かなくなってしまった。
「…おい」
「…え、寝た?そこで寝ちゃうの!?」
「やっぱ酔っ払っていたんだ」
「こういう酔い方は初めて見たなぁ」
「旦那様、ユフィーラさん落ちちゃう」
やられ放題だったテオルドだが、一つ溜息を吐いてユフィーラを片腕で持ち上げて頭を肩に乗せた。
「あとは適当にやっとけ」
そう言って食堂から出て行った。
「それにしてもユフィーラさんの酔い方は確かに外では危ないよねぇ。記憶も一切残らないよあれ」
「いつのまにか妄信する輩が湧いてそう」
「はは!確かに。あんな可愛いことを外でやられたくないねぇ」
「だな。しかも至って普通な状態に見えるのが末恐ろしいな」
暫く四人はユフィーラの話題で盛り上がった。
テオルドはユフィーラを抱き上げながら階段を危なげなく上がっていく。
ユフィーラの部屋の扉を開けベッドに向かう途中、少し身動きしたので抱き直す。
「……良い…匂い。…ぃ…好き」
寝言なのかぼそぼそと呟くユフィーラをテオルドは見つめながらベッドにゆっくりと寝かした。
規則的な寝息が聴こえてきたので去ろうとするが、どうしてか足が動かない。
ベッドの端に腰掛けて、手触りの良いミルクティー色の髪に触れ、頭をさらっと撫でる。ふにゃっと笑うユフィーラにテオルドは暫く頭を撫で続けていた。
翌朝、何事もなかったような陽気な笑顔でやっぱり途中で寝ちゃったみたいです、と宣うユフィーラにテオルドは何だか諸々納得がいかない。何故ならテオルドを拉致しに来た以降の記憶がさらっと消えていたのだから。
参加した使用人達は半笑いで、「確かに外では止めた方がいいかもね」と口々にハウザー論に賛成した次第である。
そしてユフィーラには飲ませすぎるな、外では飲ますなという不文律が結成された。
**********
「先生から戦利品をいただいてきました!」
その日ユフィーラはハウザーに薬を卸しに行った時にハウザーから戦利品のお裾分けだと言われ、お酒をもらってきた。
「ユフィーラ、戦利品って?それお酒じゃない?」
「アビーさん、そうみたいです。何でも高貴な方と何かの勝負をしてぶん取ってきたも物の一本だとか。以前催された打ち上げの話をしたら、特別だぞってことでいただきました」
「それ…王族御用達の葡萄酒じゃないか…?」
「まあ。そうなのですか?ジェスさん良くご存知なのですねぇ」
「おっ!そのラベルは間違いないぞ。ユフィーラ、でかした!王族主催の舞踏会くらいにしか味わえない逸品だ」
「まあ。希少品なのですね。それとテオ様、先生から手紙を預かりました」
そう言って小さく折りたたまれた魔術式の手紙を渡した。
「手紙?」
「はい。私には見えなかったのでテオ様専用らしいです」
テオルドはその紙を開いて魔力を送り文字を浮き上がらせた。
【ちょこんと座って心の声がダダ漏れで可愛いだろ】
テオルドはすっと能面になり、即刻手紙を魔術で掻き消した。
近いうちに直接話をしに行く必要がありそうだ。
「あらまあ。折角のお手紙が」
「挑戦状だな」
「まあ物騒ですねぇ」
その晩、皆で王族御用達の葡萄酒を楽しんだ。ジェスとアビー、ランドルンは繰り出されたユフィーラ節に羞恥で顔を覆い、普段あわあわするユフィーラが、テオルドの膝に終始座ってひたすらテオルドを見つめ、テオルドは何度降ろしても何度もよじ登ってくるユフィーラに最後は遠い目をして無の境地に達していた。
その後テオルドだけのみならず、使用人総出で家以外では飲まないことを約束させられて、ユフィーラは首を傾げるばかりであった。
不定期で番外編と後日談を投稿していきます
ブクマと評価、いいねがいつのまにか沢山…ありがとうございます。
それを見てにやっと笑った自分の顔を見て戦慄いています。




