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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一年365日を私にください
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番外編:続・使用人達の集い






「その時でした…慈愛の笑みを湛えながらもパミラさんの周囲には神々しくも、全身から毛穴全開になるほどの魔力がの織が顕現したのです!」

「う、わぁ…!その魔力の織はとても見事で美しかったのでしょうね…まるでパミラさんそのものを模したかのような…」

「はい!それはもう人間から発せられたとは思えないくらい…何と言うかパミラさんの心と同じような清らかなのに、でも力強さも兼ね揃えたかのような―――」

「ねえ。ねえ、もう止めようか。その辺で終わらせとこ?」



それはネミルを除いた使用人一同が王宮で模擬戦を行った日の夕食の時間であった。


食後のお茶を飲み談笑しながら、本日行われた使用人達の模擬戦を観戦していたユフィーラが、制約の為屋敷から出られなかったネミルに模擬戦の一部始終の出来事を事細かに発表していたのだ。


ユフィーラが皆を褒める時はいつ何時でもまっさらな本心であるが故に、魔術師として賞賛されるのは勿論嬉しい。


だが言葉を盛り過ぎではないかと恥ずかしくなるくらい熱烈に披露されることにより、使用人達は酒の進みが早くなったり、顔や耳を赤らめながら視線を逸らしたり、最早堪えられないと止めに入ったりと、ユフィーラの話とそれを嬉々として聞きながら更に広げようとするネミルの姿にちょっぴり嬉し恥ずかしの時間を過ごしたのだった。




その日の夜カウンターには興奮冷めやらぬネミルとガダン、ランドルンとジェスの姿があった。



「僕もいつか皆さんの素晴らしい魔力の織をこの目で見てみたいです」

「まあ、この屋敷の防壁魔術は年一で上書きしていくかって話になってるから見られるけど、攻撃系のものは流石に難しいねぇ」

「ネミルの過ごし方によってはいつか短時間でも見られる時が来るかもしれませんよ」

「精進します!」

「この果実酒は…かなり良い物だが、…どこで手に入れたのだ?」



それぞれ持ち寄った酒とガダンのつまみを啄みながら、模擬戦の話題は尽きない。

そんな中、ジェスが屋敷から出られないはずのネミルが持ち込んだ果実酒に疑問を抱く。



「イーゾから貰ったんです。僕本当に酒の知識も何も知らなかったので、任務に行った時とか買ってきてくれるんですよ。まだ初心者なので軽めのものばかりですが、少しずつ酒の知識を得ています」

「そうなのか。これは相当良い物だ」

「果物マスターのジェスさんをも認められるほどのものなのですね。お出しできて良かったです!」

「確かに濃度は軽めだが、果物そのものの濃さがしっかり出てるねぇ」

「甘みが強いのにくどくないですね」



果物好きのジェスのお眼鏡に叶うくらいの酒を選別してきたイーゾのセンスにネミルは胸を張りたくなった。



「今は甘みがある果実酒だけですが、酒の味がわかるようになったら葡萄酒や蒸留酒もお願いしようと思っています!」

「その時は是非ご相伴に預かれると有り難いですね」

「あぁ、良いねぇ。蒸留酒ならパミラが喜色満面で喜びそうだ」

「えっ…あ、そ、そうですね。その時は是非パミラさんやアビーさん達にも!」



目を丸くしたネミルがぽっと頬を赤らめ動揺した様子で何とかどもりながらも言葉を返し、果実酒をくいっと飲んだ。


あからさまな反応をするネミルに対し、ガダン達はランドルン達に目配せしながら苦笑する。



模擬戦の話でネミルは誰に対しての試合でも目をきらきらさせながら熱心に聞いてはいたが、パミラの時だけに関しては熱心を通り越して聞き入るように、あれこれ質問もしながら深堀ることに専念していた。


人の色恋に疎そうなジェスですら気づくネミルの行動に、皆からかうこともなく何も言わずに温かく見守っていた。


何故ならネミル自身からその想いを公にするつもりがないのだろうことを大体のメンバーが気づいていたのもある。それは彼の過去に関しての負い目がどうしても邪魔するのだろう。


それにパミラの心情も彼らは知っているわけではないので、余計なことはせず静観するつもりであった。







屋敷が襲撃され、ユフィーラが暴走し逆行してしまった日の夜。


カウンターにはガダンを始め、パミラとダン、アビーとブラインが酒を飲んでいたが、いつものように和やかに酒が進まない。



「旦那様…誰よりも辛いのにね」



ちびりと蒸留酒を飲んだパミラが小さい声でぼやいた。



「そうだな…それでも最優先はユフィーラなんだ」



ダンが泡の抜けた麦発泡酒を見ながらグラスを傾けている。



「テオルドさんが前を向くなら俺らも同じ」



ナッツを口に入れながらも動かすことなくブラインが呟く。



「そうよね。私達が二人を守らず誰が守るのよ」



普段は酒を楽しむアビーがぐいっと葡萄酒を一気に呷った。



「そうだなぁ…それにしてもユフィーラのあの魔力は…」



ガダンの言葉に皆が視線を向けてくる。



「あれには本当驚いたね…」

「潜在的…だとしても異常だったよな」

「禍々しいくらいだったけど俺は怖くなかった」

「そうね。あれは…テオルド様や私達を思うが為…守る為に動いてくれた」



精鋭と言われるほどの彼らからしても、見たことがないほどの膨大な魔力の顕現に驚愕したのは勿論、ランドルンが常日頃言っているように魔力は何時になっても計り知れないものだと実感せざるを得なかった。



「俺ですら全身から戦慄いたからねぇ。―――――ユフィーラはあの力を全て俺達の為に使ったんだ」



お腹に居た子の助けはあっただろうが、それでも彼女が何よりも大事にしている皆と場所に危害を加えるはずがないと誰もが確信をもっていた。


そしてユフィーラが逆行しようが、記憶が失くなってしまったとしてもユフィーラであることに変わりはないのだ。



「ユフィーラはユフィーラ。旦那様の言う通り」

「だな!俺達も俺達のまま変わらずだ」

「何も変わらないし変えない」

「そうね。私達がどんと構えていないとね!」



彼らが再度酒を酌み交わすのをガダンは眉を下げながら微笑んだ。


ユフィーラも。

ガダンも。

誰でも。


そりゃ居心地良くてここから出たくなくなるよなぁとガダンも蒸留酒の入ったグラスを傾けた。







「やり返したけど達成感が欠片もなかったわね」

「ただの弱者の甚振りだからな。まあやらない選択はなかったけどさ」

「当然」

「我が主のことを思えば甘すぎるくらいだ」

「我々全員だけでなく屋敷もですからね。彼の命だけでは到底足りない」

「奴の命にそこまでの価値もないからねぇ」

「それにしても旦那様とハウザー氏、元影の人とイーゾはちょっと格が違ったよね」



その日ゲイルへの報復を済ませた面々は、充足感も無く何となくカウンターに集まっていた。



「当たり前だ。我が主の腕を侮るなど…!」

「言ってないから。ハウザー氏のは初めて見たけど、あれはえげつなかったわよ」

「だねぇ。あいつを捕らえる時の織もそうだったけど群を抜いていたなぁ」

「テオルドさんとハウザーは別格」

「イーゾの魔力と体術の組み合わせも秀逸で流石元暗殺者と感じましたよ」

「元影の動きと魔術の自在さは異様だったな。中身もかなり残忍だったしな」

「そういえば制約かけてでも来たネミルの魔術もちょっと驚いたよね」



パミラの言葉に皆の視線が集まる。


ここにも一応誘いはしたがネミルからは今日は外出したので静かにしていますと部屋に戻っていったのだった。



「あーあれね。ネミルの本来の実力は俺らも目の前で見たことなかったからねぇ」

「元から魔力は多かったわけだから納得はいくけど、能力的にもあれは相当よ」

「内容もなかなかに惨たらしいものでしたね」

「普段からは全然違ってた」

「己の大事なものが危機に晒されればな」

「俺も驚いたけど、あいつに囁いたあれは本音なんだろうな」

「皆の危機が許せなかったんだろうね」



パミラの言葉に何故か周囲がやれやれとでも言う風に溜息を吐いたり肩を諌めたりするので、パミラはぱちぱちと瞬きをして首を傾げる。



「え、何その反応」

「確かにあの言葉は皆にとも当て嵌まりますが…」

「いや、あれは違うな!表情が男だった!」

「性別男だけどね」

「そうじゃないのよね。テオルド様じゃないけど唯一を守る!みたいな」

「主ほどの覚悟ではなくても、まあ認めてやらんでもないが」

「何で上から目線なんだかねぇ」



首を傾げたままのパミラに、またもや各々がこれだからみたいな表情や仕草をするのが物凄く面白くない。



「私の予想では元より打ち明ける気がないと見ています」

「うん、そんな感じよね。だから余計なことはできないわ」

「その割には態度に出過ぎな気がするんだが」

「今まで動かなかった心だ。操作は初心者だな!」

「そこがある意味ユフィーラと似ているんだよねぇ。属性が一緒だ」

「バレそうだよねというか、バレてるんじゃない」

「…好き勝手に言ってくれるよ」



元精鋭魔術師であり、それなりに苦汁を舐めてきたメンバーだ。

彼らが言いたいことは何となく察していたパミラである。


ネミルの向ける視線の先にある熱、そしてあの襲撃で彼が咄嗟にした判断が自分の身を守らずパミラを守ることだった。その行動で何となく感じていたことが確信的になった。


パミラは死別とはいえバツイチであるし、年も離れている。

今までのネミルの人生からそういう機会に恵まれなかったことで、もしかしたら母性と勘違いし求めている場合もあるし、更に言うのならパミラの夫が死んだ要因の一つがネミルであると本人が当然認識していることも知っているわけで。


パミラ自身、夫の死後誰かと改めてなど考えたことも無かった。

そんな余裕も気持ちも無かったし、この屋敷に来てからは色恋沙汰よりもここでの和気藹々とした生活で十分満たされていたからだ。


ネミルは始めこそ青年のように細くひょろっとして周囲を窺い見るところがあったが、ユフィーラ始め皆の動きにより、今では本来のネミル自身というものが形成されてきたようで、良く食べるようになったことと、体力づくりもしているらしく体格も青年から男性らしくなってきて、元々綺麗な顔立ちをしているから、男性としてはとても魅力的ではあるのだ。


そこまで考えてふとパミラは思考を止めた。


何故周りの言葉に惑わされてネミルの人となりだけでなく、男性としての評価までし始めたのか。


三十路を超えた自分は何様なんだとパミラはうんざりしながら、ジェスが持ってきた濃厚な果実酒を飲み干した。




そして後日ユフィーラの為の食事会でユフィーラ節ならぬネミル節を真っ向から受けるはめになる。蒸留酒を一気飲みしてしまったネミルからの猛口撃に、パミラはそこもユフィーラと同じ属性なのか!と顔を覆い、直ぐ傍でずっと見つめてくる愛くるしい表情を思い出さないように、必死に自我を保つことに専念し続けたのだった。







番外編と後日談を投稿していきます。

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