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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一年365日を私にください
127/148

切り札降臨 2

大事な箇所がすっぱ抜けてました(汗)

加筆しています。






ユフィーラの言葉と手の位置でその意味を理解したドルニドが瞠目した。



「その後私は相手からの攻撃により、お腹の中に居る命が潰えそうになっていることを本能で感じ、何故かトリュスの森で弔わなければと直感的に思い転移しました。…その転移の方法も今では思い出せません。婚姻式の場所から然程離れていない大きな木の窪み、……まるで来ることが分かっていたかのように七色の蝶が沢山顕れて、共に…ずっと見守ってくれていました」



ユフィーラが逆行から戻った時。


覚醒した時の自分の魔力の中に今までにない湧き出すような膨大な魔の力。

溢れ出て枯れないほどの魔力。

それらの全てが殆ど感じられなかった。



もしかしたら。

ユフィーラが今後も起こり得る、有り余る魔力による暴走をしないように。


もしかしたら。

我が子が天に召されたあの時に共に持っていってくれたのではないか。


今のユフィーラの状況を見るとそうとしか思えなかったのだ。



愛しい愛しいユフィーラとテオルドの初めて授かった小さな命。



ユフィーラは二度と会うことが叶わない子を想ってお腹を優しく擦った。



「そしてあの森で意識を失くし、夢の中でも…七色の蝶と共に、…幼い姿の我が子が天に昇っていく姿を見て、子もトリュスの森の加護を受けていたのだと確信しました。そして魔術に長けていない私の為に…まるで憂いを払ってくれるかのように希少な力も一緒に持っていってくれたのでしょう。今の私にはとてつもない魔力の力は感じられません」



ユフィーラがふわりと切なげに微笑む姿にドルニドは瞠目したまま瞬きもせず凝視していた。



「それにもし同じ条件で再度覚醒したとして、暴走しない確証はどこにもありません。止めてくれる存在は、もう……もう居ないのです」



あの時、闇の深い深いところからずぶずぶと呑み込まれるように周囲が徐々に遮断され重々しい膜が濃くなって意識が徐々に置き換えられてしまうような感覚だった。


それを救ってくれたのは一心同体であったユフィーラの子の存在。

体内に居たからこそできたことだと思っている。


一つの命が失われていた事実を初めて知ったドルニドも流石にどう返していいかわからないようだった。


とはいえ、ユフィーラもこのことを盾にしてお涙頂戴をする気はない。

これは今から話す案を円滑に考慮してもらう為の伏線なのだ。


困惑しながらも国王としての決断を行使するだろうドルニドが己の立場を取り戻す前にと、ユフィーラはお腹に置いていた手を上げて人差し指だけをピンっと上に向けた。



「注意事項には該当しないかと思われます、国王様」

「ん?注意事項?」



突如がらりと話が変わったことにドルニドが目をぱちぱちと瞬きした。



「国王様でも不可能な無理難題、国獲り、人を消してしまう、旦那様が魔術師団を辞める、でしたでしょうか」



そう言いながらユフィーラは懐から一枚の紙を取り出した。



それはアイボリーの淡い色の柄が入った金色の縁のカード方の紙。

視界に入ったそれを見たドルニドは呆けたようにぽかんと口を開けた。



「それは…」

「はい。以前婚姻式で国王様からお祝いだと拝受された国王券です!」



ユフィーラは国王券を両手で持ってだだん!と前に出した。



「今この場で国王券を使わせてください」



ある意味玉座でしてはいけないだろう呆然とした表情をしているドルニドに対し、ユフィーラは更にずいっと国王券を差し出した。



「今回話に出ている法に関して、国王様始め謁見室に居られる重鎮の方々しか知らないのだと聞いています。ならば公にされる前に法を曲げるとまでは言いませんが、この法に関して対象者個人の意思を尊重していただきたいのです。その為にこの券を行使します!」



ハウザー達始めテオルドにすら内緒にしていたユフィーラは、まさかの切り札の登場にドル二ドくらいに呆然としている二人をみてちょっとだけ可笑しく感じた。テオルドに至っては国王券の存在すらすっかり忘れてしまっていたのかもしれない。


ユフィーラはしたり顔を収めて、表情を改める。



「国王様。私は旦那様の傍から、あの屋敷から離れてしまったら、息ができないも同然…何よりも心が壊れてしまいます」



国を担う国王相手にユフィーラごときが勝てるわけがないのは一目瞭然であり、百戦錬磨の話術に対抗することなど困難だ。


だが強行される以前にユフィーラは一国民として法を犯したわけではないのだ。

それならば内密にあった法に今後色々特記事項など足される前に、ユフィーラは国が守るべき国民の一人としての盾を出して妥協案も同時に提案していくしかない。



「恐らく国王様がこの件を強行した場合、私だけでなく旦那様とも何かしらの確執が残るのではないかと危惧します。きっと屋敷の使用人の皆さんや、先生ですらも」



このことは当然ながらもドルニドも懸念するところだったのだろう。僅かに眉を寄せている。



「巨大な魔力を始め七属性の存在は消失したものだと私は感じていますが、お疑いなら都度登城させていただきますし、行動に関していつ何時でも影を付けていただいても構いません。狙われる可能性があると言うのならば、…屋敷からの外出も一切しません」



好きな時に自由に動けなくなるのは悲しいが、テオルドや皆と離れるくらいなら他は幾らでも我慢できる。ユフィーラは眉を寄せたまま難しい表情をしているドルニドを正面からしっかりと目を合わせた。



「私の願いは一つだけです。過去のこと全てを踏まえてもこの国に来たことで、この国の法の元、私の人生は拓け、救われました。そこで出逢ったかけがえのない人達とずっとこの国で共に居たい。それだけです」



ユフィーラはトリュセンティア国に辿り着いたことで、ハウザーと出逢い、テオルドと出逢い、屋敷の皆と出逢えて世界が拡がった。


この国の法や在り方がユフィーラを生かし、ここまでこられたのだと思っている。

ドルニドの統治によって、この国は豊かになり、人が集まり、そこにユフィーラの全てが集まっていたといっても過言ではないのだ。



「この国で、心から望む大事な人達と共に暮らしたい。どうか願いを叶えてはいただけないでしょうか」



ユフィーラはそう締め括り深く頭を下げた――――直後のことだった。



足音とすぐ傍で布が擦れる音がした。ユフィーラが僅かに横を向くと、そこには片膝を付いたテオルドが居た。



「俺の唯一を奪わないでくれ」



今までのテオルドの態度から想像するに恐らく跪いたことなど一度も無いのだろう。周囲がざわめいたがそれらに反応することなく、テオルドはドルニドだけを見つめ再度口を開く。



「俺を…人間で居させてくれ」



人に何かを乞うことすら無かっただろうテオルドからの懇願の言葉に誰もが息を呑んだ。


するとユフィーラの隣にもう一人の大事な人の気配、そしてテオルドと同じく片膝を付いた。



「身内として同じく願う」



そう言ったのはハウザーで、周囲が更にざわついた。


ユフィーラの為に誇り高い二人が膝を付き、それぞれの想いを伝えてくれたことにユフィーラは頭を下げ続けたまま、目頭が熱くなる。




暫くの沈黙の後、誰かが立ち上がる気配、歩む足音がユフィーラの方へ近づいてきて頭を下げていた視界に先程王座に座っていたドルニドの足元が入った。



「顔を上げて」



端的な言葉に従い、ユフィーラは顔を上げてこの国の王と目を合わせた。


目の前にいるドルニドの表情は感情を読み取らせないような一国を統べる王の姿そのものであり、何を考えているのかわからない。


ユフィーラの心の内に一抹の不安が滲み出そうな気がした時だった。



ドルニドがユフィーラが持っていた国王券にすっと手を伸ばして抜き取り、目の前に掲げて裏表を眺め見る。ふうと小さく息を吐いてからユフィーラの耳元に少し顔を寄せてきた。



「……本来であれば奇襲前、奴の動きが止まった時点で最悪な事態に備えて動いておくことは可能だった。だが国を担う者として確実性の無い、半ば憶測で動くことで相手国から難癖を付けられない為にタイミングをずらしたのは確か。……今回はその判断が…守るべき一国民の命を犠牲にした」



ユフィーラにしか聞き取れないくらいの声でドルニドは口元を殆ど動かさずに続ける。



「私は君を…あけすけに言うのならば囮に使ったも同然。国の利益を優先させた。それは国王の判断としては適正と言われることだったのかもしれないが、…人としては不適正。……すまなかった」



ユフィーラは微かに目を見開いてドルニドを見ると、僅かに困った笑みを浮かべていた。



そこに居たのは人間としてのドルニドで。



姿勢を戻したドルニドは既に国王の顔に戻っており、ユフィーラから離れ国王券をヒラヒラとかざした。



「あー確かに君に贈ったこのカードには、無理だとは書いてなかったなぁ。婚姻式に間に合わないって急いで書いたのがこんなところで足元を掬われるとはなぁ」



軽い口調で自分の失態を語るドルニドは美しい所作でカードを懐に仕舞った。


ユフィーラは驚きと共に先程耳元で囁いた言葉を思い返した。


ドルニドの行動は先を見据え国の未来を築く為に国王としては当然の対応であり、いくらテオルドの妻であり保湿剤を提供しているからといって、他と差別したら周りに示しがつかないのだろうことはユフィーラも理解しているつもりだ。


それでもユフィーラにだけ伝えた言葉はドルニド個人の思いであり、それを公に話すことは国王としても出来なかったのだろう。



「国王様…」

「まあ、実際に実力行使したところでさ。テオルドとハウザー、その背景の猛者達全てを敵に回すのは得策じゃないのはわかってるんだよねー。さあ君達はどう?彼らを納得させて且つ揉めることなく彼女を取り込める方法があるなら教えてよ」



話しながらドルニドは宰相含む国の重鎮と言われる者達に目を向けながら肩を諌める。



「それと気づいていたかい?彼女はね。ただの一度として今回のことに関して国側、我々を責める言葉を言わなかった。罪に問われる内容ならば勿論僕だって容赦はしないけど、この法はまだ公になっていないもの。国の今後の発展の為に保護することは大事だけど、国民が過ごしやすくこの国にずっと居たい、この国だから心から貢献したいと思ってもらえるような国造りをしたいよね。例え綺麗事だとしても、それを目標に努力してみるくらい良いじゃない」



ドルニドの言葉に、宰相を筆頭として重鎮らが次々と胸元に手を当てて敬礼をし、それは瞬く間に臣下全員に広まった。その中で誰一人として腑に落ちない、納得いかない表情をしている者はおらず、逆に安堵のような空気が流れたのだ。



「魔術師団副団長の貢献は勿論のこと、ハウザー氏の貢献…そして副団長の奥方の保湿剤は、…私事ですが我妻もとても気に入っているものなのです」



ドルニドより年嵩の宰相が頭を下げたままそう告げた。



「我らも宰相殿と同意見です」



宰相の発言を皮切りに後方に並んでいた重鎮の一人が発言し、他の重鎮達も倣って同じような言葉を重ねてきた。その一連の行動にドルニドがにこりと微笑む。



「うんうん。僕の臣下達は優秀だね。その時その時の状況を鑑みて臨機応変に対応。流石だ。即位する前に腐った膿を出し切って葬った甲斐があるよ」



些か不穏な言葉が混ざっていたが、ユフィーラとしては願った以上の成果に歓喜が沸き起こる。その溢れ出す気持ちを引き締めてから、ドルニドと重鎮達に向き直り心からの感謝を言葉に乗せた。



「国王様ならびに宰相様、重鎮の方々の配慮と決断に感謝致します!」



この先もテオルド達とずっと共に居られることが嬉しすぎて無意識に語尾が力強くなってしまったことにドルニドがくすっと笑った。



「ユフィちゃん。これからもテオルドの手綱をしっかり持っていてね」

「はい!引き摺られても振り回されたとしても意地でもしがみついていきます!」

「手綱なんか必要ない。常時纏わりついている」



若干被せ気味に答えたテオルドの返答にドルニドだけでなく重鎮達も目を瞠った。



「テオルドが人間になった…人間と言えばそうだ。ハウザーも人間にしてくれてありがとうとユフィちゃんには―――」

「後見人は身内のようなもんだからな」



目の前に御わすのは一国の国王であるのだが、ハウザーに至っては御言葉を遮断するという所業である。



「……身内に優しいハウザー」



ゼルザとの辛辣なやり取りをよく目にするドルニドには些か信じ難いのかもしれないが、ハウザーはユフィーラにとっていつでも温かかった。



「こんなにも恵まれた私は世界一の果報者です!」



そんな二人が何より格好良くて誇らしく、ユフィーラは小さいながらも存分に胸を張った。


鼻の穴を膨らませるかの如く自慢気に微笑むユフィーラの姿にドルニドが、国王ではない優しい表情に変わる。目元の皺が増えとても魅力的な表情だ。



「魔力や属性云々よりも、君からは何より彼らを変えた……それこそ十分な貢献だよね」



その言葉にユフィーラはこてんと首を傾げるが、ドルニドはそれ以上何も言わずに全体を見渡した。



「では全員総意でこの件は当本人の意思を最優先に考慮し行使することとする」



国王としての威厳のある声色でそう締め括ったドルニドに重鎮達は一礼で返し、ハウザーは軽く頷き、テオルドは無反応だったが、微かに肩の強張りが解けたのがユフィーラにはわかった。



「さてさて。宰相、この後って私に緊急の公務はないよね?」

「え?は、はい」



急な話の切り替わりに宰相が驚きながらも返事をすると、にっこりとドルニドが微笑む。



「余程の要件がないと滅多に登城しない二人と可愛い女の子が居るんだ。これから庭園の方でお茶で―――」

「フィー、帰ろう」

「帰るぞ」



王座に君臨しておられる国王の御言葉を容赦なく切り捨て踵を返したハウザーとユフィーラの手を取ってそれに続くテオルドに重鎮達は驚きよりも噴き出す音と口元を押さえ下や横を向いて耐えていた。



「ちょっとちょっと!私は国王だよ?話を何度も被せて遮るとか酷くない?というか不敬じゃない?」

「またの機会があれば一考は一応する」

「未来永劫ない機会だろうがな」

「えぇ……」



どちらかと言うと普段は言い合いになるテオルドとハウザーだが、対ドルニドに限っては気が合うらしい。


相変わらず国王へのつれない態度の二人に、ユフィーラは眉をへにょんと下げたドルニドに対しちょっと可哀想になってしまい、手を引かれていたテオルドの手をきゅっと握って足取りを止め、向きを変えた。



「あの…もう日にちは過ぎてしまっているのですか、今度私の誕生日と称して、旦那様始め皆さんが食事会を開いてくださるのです]



実は逆行している間に誕生日が過ぎてしまったユフィーラに対し、テオルドと使用人の皆が改めて誕生のお祝いとしてユフィーラが好きなビュッフェ形式の食事会を開いてくれるというのだ。


ユフィーラとしては逆行していたとはいえ、その記憶も引き継がれており、わざわざもう一度してもらうことに恐縮したが、皆それぞれが仲の良い人達も呼んで改めて賑やかに過ごす食事をしたいと言われてしまえば両拳を掲げて頷くしかないではないか。



「もしご予定の調整が叶うならば、国王様という立場でなく一人の御人としてお誘いさせてもらうことは不敬になりませんでし―――」

「参加する。絶対参加。宰相、予定を何が何でも合わせろ」

「………御意」



即座に被せ返しをしてきたドルニドにユフィーラはほっこりしてしまう。そして普段からそういうことを言われ慣れているのか、宰相がまたかという風に額に手を当てながら溜息を吐いている姿を見て今度はしんみりとしてしまった。


先ほどの寂しそうな顔とは真逆の笑顔でドルニドがこの場をしめる。



「いやあ、楽しみができたなぁ。テオルドやハウザーと違ってユフィちゃんの心遣いが心に沁みるよ。じゃあまたね」



満足気にひらひらと手を振るドルニドに、お辞儀で返したユフィーラは臣下としての一礼を華麗に省略した二人に連れられて謁見室から退室した。




王宮から出るまでの間、テオルドとハウザーがそれぞれユフィーラがドルニドを説き伏せられなかった場合、やれとある過去の体のことをばらすとか、若かれし頃のあまりに恥ずかしい経験を暴露するだとか言い始めたので、ユフィーラは一国の王の現状イメージをせめてそのままにしたい我が身の可愛さの為に耳を手で塞ぎながら聞かぬ存ぜぬの体で歩き続けた。







不定期更新です。

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