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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一年365日を私にください
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ジャバル国派遣団の来訪






テオルドはガダンと共に王宮へ来ていた。

ジャバル国から派遣団が来訪するという話を聞き赴いた。



ゲイルの襲撃後、国王のドルニドはすぐにジャバル国に派遣団を送った。

それに対しジャバル国の対応は国として最低限もまともに出来ておらず、派遣員からは国王に謁見することすら数日かかったらしい。恐らく王妃あたりが圧力をかけていたのかもしれない。


ようやく謁見できると思ったら王妃が出張ってきて、トリュセンティア国側がゲイルの行動を唆したのではないかと理不尽な言い分を連ね、暴言の嵐で捲し立てる始末。その間ジャバル国王グレーン・ジャバルは王妃を諌めもしなかったという。


それらを連絡魔術で報告されたドルニドは慈愛の笑みを浮かべていたらしい。

その笑みを見た宰相始め側近や周囲は怖気だった。


この笑みの本性は慈愛の真逆をいく今後を頭の中で企てている証拠。

優しげで甘い容貌をしているドルニドだが、人相で判断してはいけないという最も良い例である。


ドルニドの本質は狡猾で老獪。こうと決めた時の行動は冷酷無慈悲で相手が許しを請う隙間すら与えないという。しかも終始感情を出すこともなく淡々と行っていく。伊達に一国の王を担ってはいないのだ。


そんな国王の真の顔を知っている派遣団は遠い目をしながら、ああこれでジャバル国は間違いなく終焉を迎えるのだろうと帰り支度をしていると一人の王族から声をかけられた。



「はあ…相変わらず王妃が主導権を握っているってか。んで派遣に来るのは国王自らでなく、その時に声をかけてきた王族ってことですか?」



ガダンがうんざりした表情で尋ねてきた。



「ああ。王子の一人らしいが、自分から派遣団として後日こちらへ伺いたいと言ったらしい。それが今日だ」

「やれやれ。一応母国ではありますが何の感慨も湧きませんよ…どうにでもしてくれって感じでしょうかねぇ」



王宮の広い廊下を進み謁見の間へ向かう。



「ジャバル国の意向を伝えに来るんだろうが、まともに対話が出来る相手なら良いが」

「うーん。王子も沢山居ましたが、どいつが死んでどいつが生き残っているかすらわかりません。誰が来るかは見当が付きませんね。無事に帰れれば良いんですがねぇ」

「相手次第だな」



ドルニドは終始慈愛の笑みを崩さずに相手の横暴な対応の内容をうんうんと聞いていたらしい。だからこそ国王の真の恐ろしさを知る者達は今日を迎えることがとても憂鬱だったに違いない。


謁見室前に居た近衛兵がテオルド達に気づき、一礼する。



「お待ちしておりました。他の方々は既に揃っております」

「ああ」

「あれ。間違いなくジャバル国は出遅れてくると思ったのになぁ」



ガダンが少し意外という表情をする。近衛兵が扉を開けテオルド達は中に入った。





「やあやあ、待っていたよ。これで全員揃ったかな」



いつもの朗らかな笑みと声で国王、ドルニドがテオルド達に声をかけてきた。


謁見室には国王ドルニドと宰相、国王の側近の者達。ハウザーとギル。

そしてジャバル国から来訪した王族らしき人物とその側近らしき二人、計三名だけだった。


そして、王族らしき格好の人物がこちらを見て…ガダンを見て駆け寄ってきた。



「兄者!」



親しみの込もった声のかけ方にテオルドは目を丸くする。ガダンは首を傾げながらふと気づいたように話しかけた。



「ん?もしかしてマウノか?」

「はい!ご無沙汰しておりました。兄者も相変わらず色気ダダ漏れの良い男っぷりは健在ですね」



マウノと呼ばれた王族は黒をベースとしたジャバル国特有の長い上着に幅のあるトラウザーズを履いて頭にはグレーの布を巻いている。そこからはみ出る髪の色は橙色がかった赤い髪と瞳の色はガダンと同じ朱色だ。


男の色気というものを前面に醸し出すガダンに対し、マウノは優しげな少し垂れ目の好青年という容貌だ。



「おー。お前も最後に会った時よりも背も伸びたし男前になったなぁ」

「もう十年以上も前ですからね。あの頃の俺は病弱設定にしていましたし、常時毒に怯えていましたから食欲も湧かず体型もひょろっとしていたので。…ああ、兄者にまた会えるなんて本当に嬉しい」

「何だ。設定だったのかよ」

「いえ。小さい頃病弱だったのは本当ですよ」



開口一番高圧的な態度でくるだろうと思っていたテオルド始め国王達は、聞いていたジャバル国とは思えない友好的に接するマウノに些か拍子抜けした。


ガダンはテオルドに向き、説明してくれた。



「マウノですよ。以前過去の話をした際、俺が絶縁したい時に国王に口添えしてくれたんです」



ガダンの過去の件で国王を上手く諭してガダンが絶縁できたと言っていたが、それがマウノだったということだ。



「んーと、マウノが来たってことはお前が派遣された王族ってことで良いのか?」

「はい」

「そうなのか。てっきり王妃側の小煩い面々が来ると思っていたからなぁ」

「ああ、あの周辺はもう良い加減に終わらせますよ」

「ん?」

「それはこれからの謁見でゆっくり説明させていただきます」



そう言うとマウノはドルニドに向き直る。



「親愛なる兄者との久方の逢瀬についはしゃいでしまい、申し訳ありませんでした。今後について、先ずはジャバル国側の見解を聞いていただけると幸いです」



そう言ってマウノが一礼する。



「テオルドの希望で彼にはこの場に来てもらったんだけど、君にとっては幸運だったんだね」

「はい。私にとってこの上ない僥倖となりました」



ドルニドの言葉にそう答えたマウノは、改まった様子でその場に跪く。



「まずは此度うちの愚兄が犯した行い、国間だけでなく人道としても許し難い行為でありましたこと、まずは国代表として謝罪致します」



マウノはジャバル国特有の両手を交差させそれぞれの肘を持ち、頭を垂れた。



「我がジャバル国では未だに一夫多妻という風潮が蔓延っております。これは王族だけでなく、貴族にも当て嵌まる話。そしてその中でも妻側の勢力が強いと現国王のような勢力図になる可能性が高く、場合によっては今のような傀儡の王が出来上がります」



自分の国の負の部分をあけすけに曝け出していくマウノに、ドルニド始めテオルド達も驚く。



「随分と自分の国を卑下するんだね。大丈夫なのかな?」

「ここに居るのは私の側近で私のみに忠誠を誓う者のみ。今回の派遣で国王と王妃の手の者が付いてこようと画策していましたが一蹴しました。あれらが居てはまともな対談など皆無ですからね」



更に自国を貶める言葉に、ジャバル国の王妃の権力が絶大だとは聞いていたが、着々と牙を向く面々が身を潜めていたのかもしれない。



「我が国王の無能さや愚策を始め人心掌握、己の王妃すらまともに扱えず言われるがままの愚王振りには私始め重鎮、国民すら既に心が離れているでしょう」

「そうだね。逆にあの体たらくで今まで良く持ったと思うよ。そもそも国王呼んだのに何で君?」

「お恥ずかしい話ですが王妃に止められ断念、というのは建前ですね。国王ならば強行できるのにしなかった。分が悪い状態で己が動くのが何よりも面倒なのですよ」



ドルニドの辛辣な返しにもマウノは特に反することなく、頷き微笑む。



「なのでこれを好機と感じ私が馳せ参じました」



好機という言葉にドルニド始め皆の視線がマウノに注がれた。



「私は元々病弱ではありましたが、成長するにつれて健康になりました。しかし正妃と第一妃の刺客を恐れ私の母、第二妃は病弱のままの設定にしておりました。…ガダン兄者が国を出た後、私は水面下で動き周りに味方を集め奮起しようと画策しておりました。数年前にようやく準備が整う直前、私はゲイルに隙を突かれこれを装着されたのです」



マウノが片手を挙げると側近の一人が懐から小さめの袋を取り出した。


そして袋から取り出されたのは腕輪だった。



「っ…それは」



思わずテオルドが口に出すとマウノはおやという表情になった。



「この腕輪をご存じで?」

「今回の件で俺の妻が同じようなものを填められた」



その言葉にマウノは眉を寄せた。



「同じ物…まさか、ゲイルから?」

「ああ。ゲイルが襲撃した際、彼女は俺達を庇った直後攻撃されて、それとそっくりなもんを付けられた。マウノ…その腕輪は魔力を吸収させるもんだな?」



ガダンの言葉にマウノはぐっと目を瞑った。



「…ええ。何とも悍ましい装具ですよ。ようやくあの忌まわしい人間共に一泡吹かせてやろうと思った矢先のことでした。定期的に魔力を抜かれ、私は病弱の頃より動けなくなってしまった。彼自身でないと外すことすらできなかったのです。それでも僅かな動きだけは続けて時機を待っていました。そして数日前に突然腕輪が理由もなく外れた」



恐らくユフィーラが暴走した時だ。ゲイルが瀕死の状態になったことで、魔力が行き届かなくなりマウノの腕輪も外れたのだろう。



「ジャバル国の巷で流行っていた病と言われるものが私の状態に近かったので、間違いなくゲイルの仕業だと思ってました。それが最近になって急速に減少し、突如訪れたトリュセンティア国からの派遣団と書状。ゲイルがやらかしたのだとすぐにわかりました」



俯き加減に話していたマウノが顔を上げる。その目は強く決意に満ちていた。



「私はこの好機を逃したくないのです。ゲイル始め、王妃、そして国王。ジャバル国を巣食う輩を、動けるようになった今、蔓延る腐った権力を諸共一掃したい。何があったのか詳しく教えていただきたい」



ドルニド曰く、書状にはゲイルが国に甚大な被害を与えたと大まかに記しただけのようだった。



「マウノ…お前反乱を起こす気か」

「兄者。あの国…国王と王妃、ゲイルをのさばらせていたらジャバル国は遠くないうちに滅亡します。既に貧富の差も著しくなっている。この好機を見逃すわけにはいきません。私が起こさなくても市民が限界なのです。だが彼らが暴動を起こし覆せたとしても市民も無傷では済まされない。下手したら今後の彼らの生活すらままならなくなる。私は市民を守りたい」



マウノは決然とした目つきでガダンに答え、再度ドルニドを見た。



「我が国の恥を他国で更に上塗りする愚行の数々。ずっと機を待っていました。腕輪が外れた今、その時なのです。私の命を賭けて彼らを滅したい」



ドルニドはいつもの優男風の表情を変えずに肘を付きながら人差し指で頬を支えている。



「それは好きにやれば良いんだけどさ。自国でやって欲しかったよね。…ただ巻き込まれたからこそ、君の腕輪が外れたのかな。テオルド?」

「恐らくユフィーラの影響かと」



そう言うテオルドにマウノが訝しげな表情をした。



「ユフィーラ…殿というのは」

「俺の妻だ」

「腕輪を填められた?」

「ああ」



首を傾けていたドルニドが真っ直ぐ向いてマウノを見た。



「マウノ殿。君にどれだけの権限が有る?国王は今後も来る気ないの?」

「今回は私が代表として赴き、国王は私に一任すると言いました。王妃は最後まで反対していましたが、ねじ伏せてきました。恐らく滞在先に間違いなく王妃の刺客は来るでしょう。私所有の暗部の精鋭は連れてきています。国王は必ず引き摺り出して引導を渡します。その前に貴国と直接話をしたかったのです」



マウノがドルニドを見る。



「愚国、ジャバルは終わる。私が王になります」



ガダンの目が見開く。



「マウノ…」

「兄者。これでも俺は兄者程ではないが、そこそこ優秀なんです。だからこそゲイルはしつこく狙ってきた。今回の腕輪のように。だがもう終わりですよ」

「どこまで終わらすのかな?」



ドルニドの問いにマウノが向き直る。



「現国王と王妃、そして権力を笠に着ている王妃の一族とその周辺の貴族の排除。一新させる準備は既に整えてあります。世代交代後、直ぐに貴国への補償、そして彼らの制裁内容を」



マウノは再度頭を垂れる。

暫しの沈黙が流れた。



「テオルド」



ドルニドがテオルドの名を呼ぶ。

その顔は先程の優男と一変して冷徹で老獪な国王の顔となっていた。



「大まかで良い。今回の件の概要を」



その言葉にテオルドは頷いた。



「ハウザー」

「ああ。…ギル」

「はいはい。刺客は片っ端からね。それとジャバル国の監視もね」



ギルが軽い口調で答えた。



「温情に感謝を」



マウノが頭を垂れたまま礼を述べる。


テオルドはマウノの腕輪が外れた経緯を話した。あまりに惨い内容にマウノは体を震わせながらも、目は逸らさずに全てを受け止めていた。



「…我が国での横暴さだけでも許されざることなのに、どこまで身勝手で非道なことを…―――だが奇しくもそのおかげで私の腕輪が外れたというわけなのですね…」



マウノはテオルドに向かって、言葉なくゆっくりと深く頭を下げた。

それは王族である彼なりの謝罪の顕れなのだろう。



「ようやく見つけた兄者の居場所を荒らした奴等には相応以上の報いを受けさせますよ」

「ん?俺のこと調べてたの?」



明らかにガダンの状況を知っているだろう言葉にガダンが瞬く。



「ええ。俺はいつか兄者に帰ってきて欲しくて、ずっと暗部を付けてました」

「おぉ…まじか」

「とはいえ遥か遠くからですよ。近くに寄ったり深く調べたら気づかれてしまいますからね。現状を知るためだけでした」

「おぉ…そうか」

「ですが、諦めました。…あまりにも兄者が楽しそうに暮らしているから」



そう言って微笑むマウノの顔は王子ではなく、ガダンを慕う弟の顔だった。



「そうだねぇ。最高に居心地が良いから難しいなぁ。それに俺の作った料理を美味しい美味しいと食べてくれる皆が居るから辞められないねぇ」

「全ての事が済んだら俺も是非一度食べてみたいものです」

「ああ。俺の旦那の許可を得たらいつでも」



そう言ってテオルドに視線を向けたので、一つ頷いた。



「塵一つ残さず掃除するなら」

「それは料理抜きにしても是が非でも応える所存です」



好青年が挑戦的に微笑む姿は些か禍々しく感じたが、マウノも十分被害者だ。

ずっと病弱として生きていかねば何時殺されるかもわからない日々を送っていた。そしてユフィーラと同じ腕輪を付けられていた苦しみは彼にしかわからないだろう。


その後の動きを皆で話した後、マウノが問い掛けた。



「ゲイルに関してはこちらに引き渡してもらえるならジャバル国の中で最も慈悲の無い処刑がいくつもあるので、お望みの方法で公開処刑します。どうされますか?」

「ゲイルはこちら持ちだ」



テオルドが即座に答えた。



「ではそちらで処刑を?」

「…いや、殺しはしない」



その言葉にマウノが瞠目した。



「お言葉ですが、ゲイルの罪は何度処刑されても済まないもの。それでは我らも納得がいきません」

「死んだら終わりだろう」



マウノが首を傾げながらも反論する。



「ゲイルの行いで何人もの人間が亡くなっています」

「最終的には任す。だが奴に自死したくなるほどの絶望を味あわせてからにしろ」



その言葉にマウノの眉が上がる。



「こちら側は奴に心身の絶望を味あわせてから国宝で自死できない誓約をかけて五体満足で返す。その後はそっちで処刑でも何でもするがいい。中には何もかも失った奴に報復したい者も居るかもしれない。全てに絶望して、見下していた者から見下され、且つ自分では死ねずに生かされるのも一興だろう」

「なるほど…」



マウノは顎に手を当てながら思案していた。




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