最愛の逆行 2
イグラス国のとある男爵家にユフィーラは生まれた。政略婚姻した母親が産後に程なくして亡くなり、父親である男爵は元々懇意にしていた平民の女とその娘、恐らく血が繋がっているだろう母子を後妻にすぐに迎えたらしい。
ユフィーラは死産扱いされ、国籍もなく物心がつく頃には家で下女として働かされ続けた。後妻とその娘から蔑まれ侮られ、家令や使用人からも見下され、父親の筈の男爵は見て見ぬふり。それが十六年近く続いた。
ある時に重税を強いていた男爵領がいよいよ危ない状況になり、継母と娘の金使いの荒さも相まって継母が今は没落したが、元伯爵で表向きが絵に描いたような善人だった男に奴隷として売るという話をユフィーラが聞いてしまった。
それでその日の夜に夜逃げをしてトリュスの森に迷い込んだところをハウザーに出逢ったという流れだった。
ユフィーラはハウザーとの生活で人間らしい人生を歩み始め、テオルドと出逢うきっかけになった。
ざっと聞いただけでも、ユフィーラの過去は中々に惨いものであった。それでも誰かを陥れたり、騙したりすることなく、荒まずに人を傷つけずに、代わりに全てを心の内に押し込んできたのだ。
それらを全て聞いた上でもテオルドの気持ちは何一つ変わらない。逆にその状況でも今のユフィーラを保っていて、それを貫いた彼女を称えたいくらいだ。
皆そうだ。思うことは変わらない。
そしてその最たる者が己だとテオルドは自負している。
ユフィーラが居たから、関わったから、真っ直ぐ想いが伝わったから、テオルドは心の動かし方がわかった。
それは心を柔らかくすることだが、弱くなったわけではない。
強くなったのだ。
ここでそれを見せずにいつ見せる。
ここでその集大成を奮わせなくてどうする。
テオルドは目を閉じてユフィーラを思う。
(フィーの…成してきたことが、今苦しむお前を救う手段になる)
ゆっくりと目を開けたテオルドが不遜な目付きで皆を見据える。
「俺達がフィーを救う」
その言葉に全員が団結した。
一刻しないくらい経った時、リリアンから連絡魔術が届く。
ユフィーラには今までの経緯をざっと説明したそうだ。ゲイルの件については悪い人間から皆を守ったこと、子のことは伏せたとのこと。
話を一通り聞いたユフィーラは関わった全員と会いたいとのことで、テオルドを先頭に皆でユフィーラの部屋に向かった。
扉をノックし、リリアンの応答が聞こえ開けると、寝台の端に腰掛けたユフィーラとリリアンがいた。
まるで幼子のような表情でテオルド達を見たユフィーラだが、思った以上に大勢であったことに少し驚いた様子で、胸元に手を当てて深呼吸をしていた。
「ユフィーラさん、ここに住む皆とここに来る前に世話になった人達、全員が集まっている」
リリアンがテオルドを始め、それぞれの紹介をしていった。
名前を言う度にユフィーラは一人一人に目を留めぺこりと頭を下げる。その姿がとても余所余所しく感じテオルドは心がぎゅっと苦しくなるが、己を叱咤する。
そして聞き終えたユフィーラはゆっくりとその場に立ち上がった。
「あの…リリ、アン、医師に今ま…での私の、ことを、聞きました」
辿々しい言葉遣いは人と話したことが殆どなかっただろう過去を彷彿とさせるようでテオルドは心が切なくなる。
「私の、今頭の中に、ある記憶は十五…歳くらい、です。一番近い記憶が、男爵家で、夜遅く、まで働いて、沈むよう、に眠った記憶が、最後です」
少し俯きながら話していたユフィーラが、ふと何かを吹っ切ったかのように顔を上げた。
そしてその場にいた全員が愕然とした。
ユフィーラは微笑んでいた。
へらっとした当たり障りのない笑み。
諦観の滲み出た笑み。
「私が記憶に障害が残って色々忘れてしまったことで、皆さんにご心配をおかけしております。一日でも早く思い出せるように頑張りますので、少しお待ちいただけると助かります。―――本当に申し訳ありませんでした」
急に饒舌な話し方になったユフィーラがそう言って深く頭を下げた。
誰もが思っただろう。
誰もが察しただろう。
ユフィーラの紡いだ言葉は、どう答えれば相手の願う状況に、どう言えば相手が納得できなくても最小限でことを収められるかを熟知した返答。
そこにあるのは全て相手への配慮だけ。
自分の心は一切加味していない。
そして加味することができるとも思っていない。
『皆が知っている【ユフィーラ】を誰もが望んで待っている』
『今の私を必要としている者は誰一人いない』
それがわかっているから、少しでもテオルド達を安心させる為に紡いだ言葉。
そんな想いが込められただろう言葉に、テオルドは駆け寄って抱きしめたい衝動に駆られる。
そんな苦しい笑顔を
そんな諦観に満ちた笑顔を
させたいのではない
だからと言って、今のユフィーラで良い、前のユフィーラが要らないというわけでもないのだ。
『ユフィーラ』を皆望んでいるのだ。
しんとした空気の中、ユフィーラは頭を下げ続けている。
テオルドはゆっくりと歩み寄り、ユフィーラから少し離れたところで跪いてユフィーラの目線よりも下の位置から話しかけた。
「フィ…ユフィーラ。顔を上げてくれるか」
そう言うと、ユフィーラがゆっくりと頭を上げてテオルドの顔を見る。そして僅かに目を見開いた。
リリアンからまだ本調子ではないからとユフィーラは諭され、恐縮しながらも寝台の端に腰掛けた。
「俺はテオルド。ここの屋敷の主だ」
「テオ、ルド…様」
「ああ。俺とのことはリリアンから聞いたか?」
「あ…はい。…私の、いえ、前の私の旦那、様…だと」
今の自分がと言うことすら烏滸がましいとでもいうかのように言い替えるユフィーラに心が痛む。
「今でも昔も関係なく、俺はユフィーラの伴侶だ」
「っ…そう、なんですね。申し訳ありません、リリアン医師と色々と話し合って、どうすれば早く記憶が戻るのか、頑張りますので」
その言葉は『今でも』というテオルドの言葉を信用していない、気遣われただけだと思い込んでいるユフィーラの心が透けて見えていた。
これではきっといくら言葉を重ねても埒が明かないと判断して、テオルドは再度ユフィーラを見つめた。
「本音を話していいだろうか」
今のユフィーラも人の善悪、偽りか否かを判断する能力はあるはずだ。
「…はい」
ユフィーラは、思い出せなかったらここから出て行くくらいの、いつ何時でも受け入れられるような覚悟の面持ちで淡く微笑んだ。
そんな顔を今後一切させたくない。
「俺は元々人間自体に興味がなくて誰に対しても無関心な人間だった」
テオルド自身のことを話す出だしに、ユフィーラは少し驚いた様子ながらも一つ頷く。
「それを、フィ…ユフィーラと出逢ったことで心の動かし方、人を慈しむ、人を愛しいと思うことを覚えた」
その言葉にユフィーラは再度頷くが、まるで他人事のような反応だ。
今のユフィーラからしたら正にその通りなのだろう。
「俺に人を想う心を育ませてくれたユフィーラを誰よりも大事に大切に思っている―――――それは今までもこの先も変わらない」
頷き続けるユフィーラの瞳が徐々に昏くなっていくのがわかる。
「だが、それは今までの『ユフィーラ』だけでなく、今の、今後の『ユフィーラ』にも当てはまることだ」
テオルドの言葉に、ユフィーラは言葉を理解できないかのように僅かに首を傾げた。
「現状で俺と屋敷の住人、以前世話になった者達の記憶が欠如しているとはいえ、君がユフィーラであることには変わりない」
「え…でも今の私は―――」
貴方達の知っているユフィーラとは違うと言おうとしたのであろうが、テオルドが自分の口に人差し指を当てるのを見て、ユフィーラは口を噤む。
「勿論俺を含めて、皆もユフィーラの記憶が戻ることを願っているのは確かだ。…でもそれは今のユフィーラ、君の記憶もそのまま一緒に望むということでもある」
「…わ、たしの、記憶?」
ユフィーラの理解し難いという言葉の揺れにテオルドはしっかりと頷く。
「ああ。ユフィーラは一人だけだ。唯一だ。それは過去も今も変わらず、今ここに居る『ユフィーラ』を望むんだ」
その言葉にユフィーラは信じられないという風に目を見開く。
僅かにでも勘違いしたままで居させたくない。あの諦観した笑みを彼女から作らせたくない思いがテオルドを始め誰もが感じていることだろう。
「じゃあ例えば今ここに居るユフィーラ。君が今の記憶で俺やこの屋敷の皆と過ごし、色々な出来事があって、日々の想い出が作られるとする。それがある日を境に記憶が戻る、ないしは喪失したとして、今の君の記憶が失くなっても、皆が別に今があるなら過去はどうでも良いと言われたとしたら、とても悲しくならないか?」
テオルドの話にユフィーラははっと言いたいことがわかったのか、口元に手を当てた。
「今のユフィーラでないユフィーラもきっとそれは寂しいに違いない。そして俺も屋敷の皆もそれぞれに想い出があるから忘れたくない。無かったことにしたくない。そしてそれは今ここに居るユフィーラも同じなんだ」
「…同じ…」
テオルドが頷く。
テオルドが。
ハウザー達が。
この屋敷の皆が思うことは。
「前のユフィーラには勿論会いたい。忘れられるわけがない。だが同時に今のユフィーラを支えて共に過ごしたい。思い出を沢山増やしたい。息苦しい思いを一切させたくない。ここに居て穏やかに過ごして欲しい」
テオルドの連ねる言葉にユフィーラは目をゆっくりと見開いていく。
「俺達は『ユフィーラ』という人間を必要としているんだ」
テオルドはユフィーラの瞳を見る。
紺色の瞳。
少し不安気な様子だが、テオルドの言葉が偽りだとは思ってはいない筈だ。
ユフィーラは人の機微に敏い。不安気ではあるがテオルドの瞳をちゃんと見据えているのがわかるからだ。
それは相手が自分を傷つけたり害するものならばきっと目を伏せて防御態勢になるのではないかとテオルドは思っている。
だが真実か否かを判断するために、ユフィーラは今テオルドの眼差しを真っ直ぐ見て判断しているのだ。
だからテオルドは伝われという思いを込めて再度言葉を重ねる。
「今後、ユフィーラがこの屋敷で暮らしていく上で、君の知らないユフィーラのことを話す者は居ない。俺も皆も今この場にいるユフィーラに対して接していくのを身を以て知ってくれ。それでいてユフィーラがもし自分の過去のことが気になった時、その時その時に相手に聞いてみれば良い」
ユフィーラは瞠目する。
「生活していく上で、そして時には過去の自分を知ることで、どれだけユフィーラが皆に愛されているかが間違いなく理解できる。君自身で知れば良い」
「私自身で…」
ユフィーラがそう言って顔を上げると、周りに居る皆が一斉に頷くのが背を向けているテオルドにもわかった。
わかるくらい誰もが『ユフィーラ』を望んでいる。
テオルド始め、ハウザーも使用人一同もギル達も、それぞれがユフィーラの影響で何某か良い方向に進んでいった。
満たしてくれた、幸せにしてくれた分のお返しを今全員で行う。
ユフィーラに思い知ってもらう良い機会ではないか。
テオルドはユフィーラのポジティブ思考を倣わせてもらうことにする。
勿論今までのユフィーラに何よりも誰よりも会いたいのは当然だ。記憶が戻って欲しいのは当たり前だ。でも、今目の前にいるユフィーラの記憶も加えての状態であって欲しい。
それがテオルドの願いでもあり、皆の願いでもある。
テオルドがゆっくりと手を出して更にゆっくりとユフィーラに差し出した。
その手の動向を凝視しながら瞬きもせず、ユフィーラが見つめる。
その姿に過去理不尽な暴力を振るわれた名残の動作なのだと心が痛くなるが、ハウザー同様これから何度でも何回でも試してユフィーラに人と触れ合う温かさを知ってもらいたい。
「俺はユフィーラの伴侶…夫だが、それをまだ理解するのは難しいかもしれない。暫くはこの部屋で過ごしてくれて構わない」
「あ、…夫、…私の旦那様、ということですよね?」
「ああ。今差し出している手を俺は動かすことをしないから、触れられるだろうか。これからよろしくという挨拶で握手をしたい」
「握手…」
「手と手を合わせて握ることだ。今は握る手前の触れ合いだけでも良い。どうだろうか」
テオルドは手を差し出したまま、動かずにユフィーラの綺麗な紺色の瞳を見つめる。
ユフィーラはテオルドと差し出している手を交互に見ながら、自分の両手をもじもじするように握っていたが、それを解いてゆっくりと指先を伸ばしてきた。
時折止まり、こちらを伺うような仕草をしながらまたゆっくりと手を伸ばして、指先だけがこつんとテオルドの掌に触れた。
たったそれだけのことでも、テオルドの心が歓喜する。
(ああ…やっぱりユフィーラだから、俺はこんなにも心がざわめく)
テオルドが男性だからとか、初めて会ったからだとかの理由で怯える想定も当然していたが、ユフィーラはテオルド自身を見て、話を聞いて手を触れてみようと自分で判断したのだろう。
それはテオルドの言葉が僅かにでも届いた証拠である。
たった数本の指が触れただけでもこんなにも嬉しい。
「あ、の。握手というのは、掌と掌を合わせて、ですよね?」
「ああ。でも無理はしないで良い」
その言葉にユフィーラは選択肢が一つではなく、自身で選べるのだとわかったのだろう。指先だけ触れたまま、少し思案してゆっくりと小さな、そして繊細な精製魔術を施す手をテオルドの掌に合わせてきた。
(…ああ、幸せだ)
テオルドは、らしくなく泣きたくなる。少し目を伏せてそれを悟られないことを願いながらも、再度ユフィーラを見て話しかけた。
「俺の手をゆっくりと握れるだろうか」
「握る…」
ユフィーラは初めて習うことのように言葉を繰り返す。
そうだ。ユフィーラは何も知らなかったのだ。
人と触れ合う喜びも。
人と話して会話を楽しむことも。
ユフィーラがテオルドの手に重ねた自分の手を徐々に力を入れて、きゅっと握った。
「痛く、ないで、しょうか」
「ああ。俺も同じくらいの強さで握っても構わないか?」
テオルドの希望にユフィーラの瞳が少し不安に揺れたが、「…はい」と了承の返事を貰い、テオルドはゆっくりと小さな手を握る。
「…あた、たかいです」
「そうだな。一緒だ」
「一緒…」
その言葉にユフィーラの瞳が僅かに嬉しそうに揺らぐ。
「ユフィーラ、これからよろしく」
「は、い。よろしく、お願いします」
辿々しい相手を伺いながら発せられる言葉遣いは、今までまともな会話というものをしてこなかった、そして何かいう度に暴言や暴力を振るわれてきた痕跡なのだろう。
ユフィーラの緊張していた体が微かに緩んだのが手から分かり、テオルドは口元を緩めた。
その後はリリアンとパミラが残り、ここでの生活の大まかな流れを説明するとのことで、テオルド達は一度部屋から出た。
共に横に並んで歩くハウザーにテオルドは視線を向けないまま話しかけた。
「ユフィーラと出逢った時期は」
テオルドの質問にハウザーが片眉を上げる。
「四季ってことか?」
その言葉に首肯すると、ハウザーが顎を擦りながら少し記憶を探るような節を見せてからテオルドに視線を向ける。
「春頃だな。ちょうど花が芽吹く時期だった」
ハウザーから大体の日付を教えてもらったテオルドは思案し始める。
「何だ?」
「ユフィーラがお前と出逢った時、ちょうど十六歳になる手前だと言っていた」
「そうだな」
「ならその辺りが誕生日ということだ」
テオルドの言葉にハウザーの歩みが止まった。
「誕生日、か」
「ああ。俺はユフィーラの誕生日すら知らなかった。それを知ったところで当時の俺は祝うつもりも、元よりそんな習慣も無かったしな。あと一月くらいでユフィーラは二十歳になる」
テオルドの言わんとしていることにハウザーが面白そうな表情になる。
「なるほどな。それまでにユフィーラが心を開くと?」
「婚姻式同様、俺がそうしたいと願うから。心を開く有無に関わらずこれから皆に相談して実行に移す。お前も参加しろ」
勿論ユフィーラ自身があまりに恐縮したりする場合は再考するが、テオルドだけでなくここの屋敷の皆の協力があれば必ずユフィーラは心を解すと自信があった。
その大前提としてまず目の前の男が証明している。
そしてテオルドも心を育み、どう行動すれば良いかとか、己だけでなく周りを頼ることができるようになったのだ。それの集大成として今度は人数が増えてそれをユフィーラに贈りたい。
ユフィーラがこの世に生誕したことへのテオルド達からの幸福と喜びを知ってもらいたい。
それにテオルド個人としては、ずっと根深いものがあった。
ハウザーが初めにユフィーラに出逢ったことによって、テオルドがユフィーラと出逢うきっかけになったことは過言ではない。契約婚姻する時もハウザーが後見人だと知っていたから進めたくらいなのだ。
それらが無ければ、常に無関心一本で生きてきたテオルドがユフィーラと契約とはいえ、婚姻していた可能性は限りなく低かっただろう。
そういう意味では目の前にいる男に感謝はしているが、それでもテオルドよりも二年以上前にユフィーラに出逢い共に過ごしていた軌跡、テオルドがどうしても縮められない一つである。
「…お前の顔を見て何を考えているか何となく察することができるようになるとは思ってもいなかったな」
「全てユフィーラ在っての今の俺だ」
「そういう言葉が出ることすら微塵も想像すらできんな。これだけわかり易くなるとは、人間変わるもんだな」
「その言葉をそのまま返す」
テオルドの言葉にハウザーが肩を諌めるが、否定はしない。
「ギルやリカルドがいつもいう人間らしくなったとかいうやつか。それで俺は何をしろって?」
「今まで通りに」
「は?」
ハウザーが訝しげな表情をする。
「今まで通りに接してくれ」
「――――お前としては、ここぞとばかりに時期的な問題が挽回ができるんじゃないのか?」
「それは俺のエゴだろう。ユフィーラの為にならない。彼女にお前の存在は必要だし、全てにおいてユフィーラが最優先だ」
その言葉にハウザーが珍しく目を見開く。
テオルドだって自分の立ち位置に成り代わる可能性のある存在など、跡形もなく消してしまいたいのが本音だ。それだけハウザーの存在は脅威だ。
だが、それはテオルドの利にはなるが、ユフィーラには全くならない。
あの時のユフィーラにはハウザーの存在が必要不可欠だった。
それは今でも同じだとテオルドは思っている。
悔しいし、妬ましいが、それくらいの影響力がハウザーにはある。
だがテオルドも負けるつもりは微塵もない。
同じ位置にいるのだから。
豪語できるだけユフィーラを想う自信は誰よりもあるのだ。
譲るなどという選択肢はないが、相手の選択肢を消すことはしない。
テオルドにはテオルドのやり方があるし、それはハウザーも然り。
ハウザーが僅かに口角を上げた。
「ユフィーラ第一の考えは俺も同じだ」
「知っている。やり方は任せる。今後会いに来たり、どこかに連れ出す際には事前に連絡を」
「ああ」
二人は共に階下へ降りていった。
不定期更新です。