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一日5秒を私にください  作者: あおひ れい
一年365日を私にください
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皆でお揃い






その後ゲイルの行方を追うが、さっぱりと気配を消したらしい。

ユフィーラがガダンと関係があると分かったことで、見つかるかもと危惧して身を潜めているのかもしれない。ゲイルの所在は依然としてわからなかった。


ユフィーラは狙われている可能性を考え、暫くは一人での外出を禁じられた。ガダンと一緒に居たことで間違いなく狙われる確率が高いだろうとのことだった。


ユフィーラとしては、それだけでなく自分の魔力のことも要因なのかと思っているのだが、指輪の反応がどれほどかはわからない。だがテオルド始め魔力に詳しい皆が言うのでそれに従うことにする。



物々しい出来事から数日後、二匹の進化を依頼していた使用人からついに完成したと言われ、ユフィーラは小躍りしたい気持ちを押さえながら二人、ネミルとジェスを部屋に迎えた。



「思った以上に上手くいきました」

「まあ余裕だな」



二人の使用人件凄腕魔術師はユフィーラに二匹のぬいぐるみを渡した。見た感じでは預けた当初と同じ形のままだ。



「今は伏せの状態なんですが、首付近と前後の脚を動かせるようにしました」

「あと長い尻尾もだな」



そう言われたので、ユフィーラは自由自在になったと言われるテオヒョウとハウジャガーの脚を恐る恐る動かして抱きつき状態に変化させた。



「こ、これです…!というよりも、新しく店頭にあったものよりも、断然こちらの方が魅力値が高いです!」



ユフィーラはふるふる感動に震えながら二匹を持ち上げて見上げる。



「脚の部分は曲げた状態で固定できるように硬めに施してあります。それとどこにでも抱きつき状態を保てるように肉球の部分も進化してますよ」

「に、肉球!」



ユフィーラは二匹の肉球を見つめるが、特に変化は見えない。



「脚と尻尾同様、見た目には変わらないが、掴まっていたのは丸太だったか?凹凸のある物だけでなくどんな場所でも脚の力もさながら、肉球部分でもしっかりと固定できるように魔術を施したぞ」



ネミルとジェスによる多彩な施しにユフィーラは感激しながら、近くにあったドレッサーの鏡部分にテオヒョウを設置してみる。つるんとした鏡部分だが、テオヒョウがしっかりとひしっとしがみついている状態になった。



「ぐっ…と、尊い…!」



ユフィーラは身悶える。きりりとした勇ましい姿のテオヒョウが縦に、しかも横を向いてつんとしながらも、しがみついている姿は最早萌え要素しかない。続けてハウジャガーもドレッサーの対になる反対側に脚と首を動かして設置させた。



「きゃわわです!」

「ふふっ」

「…くっ」



ネミルは口を押さえながらも笑い声が漏れ、ジェスも顔を背けるが噴き出した声がしっかりと耳に聞き取れた。



「お二人のおかげで想像以上に素敵な可愛すぎる子達に進化しました。ありがとうございます!」



目をきらきら…半ばぎらぎらさせながらお礼を言うユフィーラにネミルが微笑む。



「いえ。ユフィーラさんが一つのものを大事にしたい気持ちが改造していく工程で何となく理解できたような気がします。これでもっとお気に入りになりましたね」

「はい!最強です!ジェスさんもテオ様との狭間で悩んでいたのに色々やってくれてありがとうございます」

「いや、正直新たな魔術の使い道が拓けたからな。…主にもいつかきっとこの良さが…」



ジェスは自分に言い聞かせるように呟いているが、ネミル曰く改造している時のジェスはかなり嬉々として行っていたらしい。



ユフィーラは先日街で買った御礼の品をそれぞれに渡した。


ネミルは手袋を見つめながら「お揃いってちょっと照れ臭いけど嬉しいです」と言うが、何気にローブ始め色々と被っていることが多いのだが、敢えて突っ込みはせずにこにことして頷く。


「フルーツぎっしりの有名なケーキではないか…それにこの布は最近出たという…」といつもは冷淡な鋭い目が煌めいていたので喜んでくれたようだ。




再度御礼を伝え、ネミル達が部屋から去る。その足でユフィーラは薬の精製部屋に移動した。


以前はドレッサー横の棚にガラスケースと共にテオヒョウ達を設置しておいたのだが、預ける為に急にその場所から移動させてしまうと最愛の旦那様が訝しがるので、預ける数日前に精製部屋に移動させておいたのだ。


この部屋は誰でも入れるのだが、ユフィーラの、ユフィーラだけの空間のようなものに今はなっている。


何故ならそこには婚姻式のドレスとヴェール、そしてブーケと髪飾りも、ジェスの作った引き出物の袋までが、ネミル主導で作られた保管魔術を駆使したガラスケースの中に収まって展示されているからなのだ。


ユフィーラはそれらの隣に備え付けられた棚に置かれているガラスケースに二匹の進化したぬいぐるみを戻した。その棚の引き出しにもテオルドやハウザー、使用人の皆からもらった手紙や贈り物など大切なものが全部入っている。



ここはユフィーラの宝物部屋だ。

想い出が、記憶が沢山詰まっている。








「テオ様、依頼してから十日ほどですが、こんなに早く出来上がるなんて思いませんでした」



その日ユフィーラは先日テオルドと二人で相談し合い、ギルとイーゾからもらった宝石のような黒と紺色の石をブレスレットに加工してもらう依頼を出した、以前テオルドが指輪を作ったというビビアン御用達の店へ赴き、品を受け取って戻るところだった。



「ああ。事前にビビアンにも連絡を入れておいたからな。従業員総出でやったんだろう」

「まあ…だから皆さん少し窶れ気味に…数も多くお願いしてしまっていましたから」

「そこもビビアンが上手いこと動いたんだろう」



当初はユフィーラとテオルドの二人分だけ作る予定だったのだが、どうせならばお世話になっている使用人の皆や、危ない目に遭いながらも取ってきてくれた主にイーゾとそれを先導したギル、ハウザー、そしてリカルド夫婦と、これからお世話になっていくリリアンにも、邪魔にならない程度のブレスレットを贈ろうという話になったのだ。


ブレスレットには勿論テオルドの防御魔術を組み込むのだが、贈る皆それぞれが魔術を使うので、防御する装飾品を一つ贈っても問題ないと判断して決めた。


ビビアンは魔術を使えはするが、普段は殆ど使わないので店を紹介してくれた御礼として渡すことにした。それにここ最近の物騒事もあるため、有事の保険にしてもらうことにする。


皆それぞれが装飾品をつけているので、細く目立たないブレスレットにしたので受け取ってもらえるだろう。腕に付けなくても所持していれば同様の効果があるので問題ない。


出来上がったユフィーラとテオルドのブレスレットは、白金の鎖に石を全体に満遍なく一周してもらった。お互いごてごてしたものを好まないので石そのものは小さくして作ってもらっている。


そして贈り物用のブレスレットは、白金の細めの鎖に間隔を開けて石を入れてもらっている。敢えて間隔を開けたのは、そこに自分で施した魔石を足したりできるようにと魔術師のテオルドならではの魔術を使う皆のことを考えた配慮の賜物である。



帰宅したユフィーラ達は夕食まで部屋に籠もり、ブレスレットの石にテオルドの防御魔術を始め、微力ながらユフィーラも魔力を流して参加させてもらった。


テオルドのような凄まじい効力のものは到底不可能だが、皆を思う気持ちは負けないぞと想いを込めて魔力を流し、テオルドがそれを上手く交えて施してくれただろう。


夕食前には人数分出来上がり、先日ジェスがいそいそと作っているのを発見して半ば強奪するように譲ってもらった黒いシルク素材でできた手の平サイズの巾着袋にそれぞれのブレスレットを入れて、夕食時に使用人の皆へお守り代わりとして渡した。


模擬戦前のテオルドからのローブに始まって、今度はユフィーラ達二人からの贈り物をされた使用人達は目を輝かせながら解析に勤しんだり、照れ照れしたり、もじもじしたり、蹲って咽び泣いたりと様々な様子を見せてくれたが、皆喜んでくれているようでユフィーラもにっこり微笑んだ。







「というわけで先生にも贈り物です!」

「国宝手前の代物だな」



数日後、ユフィーラはピッタのところへ行くダンと共にハウザーの診療所に訪れ、薬の納品に来ていた。ダンは夕方頃に戻ると、今は牧場の方へ赴いている。


出来るだけ早く渡したかったので、数日後で良かった薬の納品内容も出来上がっており、ダンが外出する際にお願いしたのだ。



「凄いな…魔術を齧っている程度の私でもとんでもない数の防御魔術が組み込まれているのがわかるくらいだ」



そう言ってハウザーのブレスレットを屈んで見るのはリリアンだ。

ユフィーラが訪れた際、ちょうど異国の技術についてリリアンが国の医者との会合後にハウザーの所に寄っていたらしく、診療所に居たのだ。



「凄いということを判断できるだけの目があるリリィさんは魔術師並みだと先生も言っていましたよね?」

「そうだな。魔術師のようにある程度純粋ではないところが上手く作用しているのもあるだろうよ」

「いつも一言余計だな、お前は。お前の魔術ほど癖があり過ぎて意地の悪いものもないだろうに」

「それが理解できるお前も相当だからな」

「ああ言えばこういう男だな」



二人の相変わらずの軽快な応酬に、ユフィーラはハウザーが淹れてくれたミルクたっぷりの珈琲を啜りながら眺めている。最近少し甘いものを飲むと胃が重くなる感じがするので、今日は砂糖抜きにしてもらっていた。


ここ最近美味しいものをこれでもかと頬張っていたような気がしないでもないので、お腹がちょっと程々にしろよと、警告を出しているのかもしれない。


ユフィーラはことんとカップを置くと、念の為持ってきておいて良かったと、薄いグレーのローブの中からもう一つ巾着袋を取り出した。



「来週の往診の時に渡そうと思っていたのですが、もしかしたら診療所に居るかもしれないと持ってきておいたのです」



そう言ってユフィーラはリリアンにハウザーに渡したものと同じ巾着袋を渡した。



「え?まさか私にもか?」

「はい。これからもお世話になるので、是非。男性用と女性用に少しだけ作りは変えているのです」



リリアンが目を丸くしながら受け取り、巾着袋からブレスレットを取り出す。


男性用には黒の部分が多い石を、女性用には紺色の部分が多い石を注文の際にお願いしていた。もしかしたらそこの部分でも店員があのように窶れた原因だったのかもしれないとふと思ったが、もう過去のことなのでユフィーラはさっと記憶に蓋をすることにした。


手に乗せたブレスレットを見て、リリアンがふっと微笑む。



「物は勿論素晴らしいのだが、贈り物として貰ったことが…何より嬉しいな。ユフィーラの魔力も入っているんだね」

「あら、わかるのですね!私の魔力は微々たるもので、主にテオ様が主体となってあれこれやってくださいましたが、想いだけは込めて魔力は流しました!」



それを聞いたリリアンが優しい笑顔になる。



「うん。それが何だか凄く伝わってくる。…ありがとう。肌見離さず付けさせてもらうよ。色々なものから守ってくれそうだ」

「ふふ。テオ様の魔術もさることながら、私の想いもしっかりと呪いの如く詰め込んであります!悪い奴らがきたら発動するように念をしっかりと!」

「どれだけ禍々しい思いを持っているんだお前は」

「おっと、それは怖いな。そんな輩がもし現れたらまずはそのことを伝えてやらないとだな」



おどけるように言いながらも嬉しそうにリリアンはその場でブレスレットを付けてくれた。



「そう言えば、先生はあまり装飾品の類を着けるのを見たことがないような」

「ないな」

「まあ。もしかして嫌苦手なのです?」

「面倒だからな」

「お前が付けている記憶はそう言えばないな」



リリアンもそう言うので確かなのだろう。



「そうなのですね。先生のものは……この部分みてください。石はほとんどが黒と紺色だったのですが、僅かにですが金色っぽい色が入っていたのです。それを見つけたので、これを先生用にとお願いしたのですよ」



そう言うユフィーラにハウザーが片眉を上げる。



「あれに金色が混ざっていたか?」

「表面上からは見えなかったですね。石を解体していく上で見つけたようで連絡があったのです。金色と言えば先生!だったので、そうしてもらいました。でも本当に僅かな範囲だったので、男性用の黒主体ではなく私の紺色が隣合わせだったので紺色もしっかり入ってしまってますが」



ハウザーが装飾品嫌いとはいえ、せっかくの防御魔術を詰め込んだものなので、所持するだけなら大丈夫だろう。


だがハウザーは自分が貰ったものを持ち上げてユフィーラに渡してきた。



「お前が付けろ」

「え?付けてくれるのです?所持するだけでも構わないのですよ?」

「お前が選んだ石なんだろ?細い鎖で石も大きくないからそこまで邪魔にならないしな」



そう言って左腕を出してきたので、ユフィーラは本当に付けてくれるのだと、嬉々としながらハウザーの手首にブレスレットを付けた。



「お似合いですよ!お客さん!」

「どこの気合の入った店員だ」

「ハウザー…ちゃんと人間になって…」

「元からだが」



またしてもリリアンはハウザーの人間味に感動しているようだ。



「あれーお嬢ちゃんだ。この前テオルドからさー連絡魔術とかちょっと驚いた」



三人でお茶を飲みながら話していると、診療所の扉が開きギルとイーゾが入ってきた。



「ギルさん、イーゾさんこんにちは。お疲れ様です。連絡とはいただいた石の件のことですか?」



二人共口元の布を外しながらイーゾはキッチンに向かい、ギルは折り畳まれた紙をすっとハウザーに渡してからユフィーラの元へやってくる。



「そうそう。しかも内容がね、『石・完成』だけだよ?酷くない?」

「まあ、随分簡潔ですねぇ」

「簡潔にも程があるでしょ」



肩を諌めながらギルが診療台に乗ろうとするのを、着替えてからにしろとハウザーに言われ、疲れてるのにーとぶつぶつ言いながらも近くの椅子に座ったところを見計らって、ユフィーラは持ってきていた巾着袋をギルに渡した。



「受け取ってもらえたら嬉しいです。渡すのは順番的に先生が先になってしまいましたが、出来上がった後、一番にお伝えしたのはギルさんなんですよ」



巾着袋を受け取りながらギルの綺麗なブルーグレーの瞳が三日月型になる。



「嬉しーありがとー。テオルドから連絡魔術なんてくるから、この前の再戦願いかってちょっとわくわくしちゃったんだよ。それなのにあの文字数でしょ?」

「ふふ。伝えることをお願いして、すぐに飛ばしていたので早いなぁと思っていたのですが…テオ様らしいと言ってしまえばそれまでですねぇ」

「まあね―――って何これ。凄い効能の塊」



ギルは手に出したブレスレットを見ながら、すぐに高性能な中身を理解したようだ。



「私にはさっぱりですが、テオ様の織は素敵な色でした!」

「お嬢ちゃんのそれも面白いよね。僕のも綺麗だとか言っていたし」

「ギルさんの紫主体の織と力強い動きは驚嘆の連続でしたね!」



そんな話をしていると、キッチンから戻ってきたイーゾが珈琲の入ったギルのカップを彼に渡す。そして自分のカップを持ちながら近くのソファに座ったタイミングで彼にもブレスレットを渡した。ネミルに渡したものと極力同じ柄のものを選んでみたと伝えると、ちょっとはにかんで頬を掻きながらお礼を言ってくれた。相変わらずその仕草はネミルと寸分違わず同じ動きである。



「そう言えばさーあんた、最近このカップ使ったでしょ?」



そしてギルより静かに口火は切られた。



「ん?ああ、前回か前々回ここに訪れた時に使ったな。それがどうしたんだ?」

「これはね、僕専用なの。僕がここに持ち込んだものなの。触れないでくれる?というか使わないでよ」



ギルが冷たい視線でリリアンを見据えるのを、リリアンが首を傾げながら答える。



「何故だ?」

「は?」



ギルの声音が低くなる。



「それはハウザーの診療所の棚にあって、他の物と一緒に並べられていた。それがたまたま手前にあったから使っただけだ。もしどうしても使って欲しくないなら他の場所に置くか名前でも書いておけばいいだろう」

「何でそんな面倒なこと僕がしなくちゃならないの」



リリアンの素直な疑問の返しにギルが食って掛かる。ユフィーラがハウザーを見ると、「前からこんなんだったな」と言うので定例らしい。



「面倒も何も嫌ならそうすればと良いと言っただけだ。同じ場所にあるなら今後も私は使う可能性があるな」

「これは僕のだって言っているんだから配慮とかしないわけ?」

「逆に退かす配慮をすれば良いんじゃないか?」

「だからなんで僕がそれをしなきゃいけないの」



お互いが一歩も退かない会話にイーゾは、何も悪いことしていないのにこの場で渡してしまったことが原因なのかとちょっと分が悪そうに見守っている。


ユフィーラから見ると、ギルもそうだがリリアンも興味のない相手にはこういう対応はしなさそうだなと何となく思う。特にギルに関しては何だかちょっと思春期の弟が姉に反抗するみたいな場面に見えてしまったのだ。当然口が裂けても言わないが。



そのまま見守り続けても大丈夫そうではあるが、暫くは終わりそうにないなと思ったので、ユフィーラはことんとカップを置いて棚の方に向かった。


因みに今ユフィーラが使っているカップは、以前に始めてちゃんと表に出せる薬を精製できた時にハウザーが買ってくれたものを未だにずっと使っている。


ユフィーラは棚から一つのカップを取り出して二人の側に近づき、持ってきたカップをリリアンに差し出した。



「うん?これは?」

「良ければこれをリリアンさん専用のカップにしましょう」

「え?」



リリアンが綺麗な真っ青な瞳をぱちくりする。



「私がここの上に住まわせて貰っている時に、始めて稼いだお金で買ったカップなのです。私が今使っているものは先生が私がまともな薬を作れた時の記念カップで、割れてしまった時用にここに置かせてもらっていたものなので今は誰も使ってません。リリアンさんが決まったものを使うことを好まないというのでないならば、良かったらこのカップを今後診療所に来た時に使ってもらえると、このカップも使われて本望です!」



リリアンは目を丸くしていたが、そっとユフィーラから青いカップを受け取ると淡く微笑んだ。



「私と同じ瞳の色だな」

「そうなんです。実は私も自分の目と同じ色のものを探していたのですが、そこのお店には紺色はなくて、その青いカップを購入しました」



妥協して買った青いカップはきっとこの時の為に買われたものなのだと、ユフィーラは都合よく纏めようと言葉を紡ぐ。



「きっとこのカップはリリアンさんが使うべく今まで棚の中で、その時を待っていたに違いないです!」



ユフィーラの取って付けたような浅い話に、リリアンは美しく顔を緩ませながら、ゆっくりと手を上げて頭を撫でてくれた。



「お言葉に甘えて有り難く使わせてもらおう」

「是非!これで私の置きっぱなしだった罪悪感もようやく成就します!」

「最後に本音が漏れたな」

「はは!それは良かった」



そう言って、先程まで使っていたカップを持ってリリアンは自分のカップになった青いカップでもう一度飲もうとキッチンに移動していった。




「お嬢ちゃんは人を掌握して纏めるのが相変わらず上手いねー」

「お二人は何だかんだ言いながら気が合いそうですねぇ」

「…ん?どういうこと?」



首を傾げるギルにユフィーラはカップを持ち微笑む。



「ギルさんは本当に興味の欠片も無い相手には、テオ様のように完全無関心を貫きそうなので」

「んーそうなのかなー」

「無意識にでもそう判断しているのかなと。何だかその辺りがテオ様ととても似ています」



そう言うと、ギルは目を少し丸くしながら三日月型に細める。



「そんなに僕似ている?旦那様と」

「似ているのはそこの部分だけです。あと戦っていた時の挑み方?でしょうか」

「挑み方?」

「はい。模擬戦の時に見ていて思いました」



その言葉にギルの片眉が上がる。



「先生も言っていましたがお互いが先の先を読みながら、更にその先を考えて動いている節がそっくりだと。それを聞いて改めて見ていて、なるほどと思うところがあったのです。同じ部類というか…同じ種族の戦い方みたいな感じですかねぇ」

「…」

「ふふ。二人共同じ様にお顔が整っていて、でも心を許した相手にだけはその表情が変わるのだと思うとほっこりします」

「…え」

「ギルさんは本当に先生が好きなんだなぁと思いました」

「…ちょっと止めてくれる?」



ギルが珍しく目を泳がせながら言うので、ユフィーラは口元を手で押さえながら、「テオ様も同じ様に目を伏せながらもう止めてくれと良く言うので、今日はこのへんで勘弁しておきましょう!」とこの話を締めると、ギルは「何これ…勘弁してよ…」とぼやいていた…のをハウザーは面白そうな表情で見ていた。







不定期更新です。

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