第十話 番外編 パラレルワールド ――未来ポリス SⅡO――
えー、話のテンポが悪いかな、と整理したところ、ここに穴が空いてしまいまして、急遽書き足した短編です。同じキャラを異なる設定で動かしています。
*こういうのをパラレルワールド呼ぶのだろうか……。間違っていたら、教えてください。
ピピピピピピピピ。
「っるせーなぁ……」
オレは安眠を妨害する憎き相手を壁に投げつける。こんな気持ちいい朝なんだぜ? もうちょっと寝かせろや。
そう思ったのも束の間。今度はオレのCS――Call system通信システム――が、けたたましい叫びをあげる。
ぶっ壊してやりたい衝動をどうにか理性で抑え、(結構な値段すんだよコレが)オレはそいつに手を伸ばした。
ったく今日は非番だってのによ。
10トンはあろうかというまぶたを押し開け、オレはディスプレイに表示された名前を見る。
「ちっくしょう……あんなんだよ」
そこにあったのはオレがもっとも嫌いな野郎の名前。イヤイヤ通話ボタンを押す。
「何か用か、憐」
10分の1サイズに立体的に映し出されたアイツ。
「侠輔、緊急事態だ。第19地区にヤツが現れた。今すぐに来い」
「は? オレ今日非番だろが。テメーらで対処しろ」
何で男のモーニングコールなんか受けなきゃなんねぇんだよ。気分ワリ。
そう思っていたら憐の隣に別のヤツが現れる。
「侠? お願いしますよ、どうしても僕らだけでは手に負えないんです」
お願いします、と再度言う孝太郎にオレはしぶしぶ動き出す。はあ、しゃあねぇ。同期のよしみってヤツだ。耳にライターほどの大きさのCSを装着し、奴らから状況説明を受けながら急いで戦闘用スーツに着替え始める。
「今回の敵は第27銀河からやってきたと思われる大型のクモ型異星虫」
「“思われる”? なんだよ、はっきりしねぇな」
オレはズボンを履き替え、その上からブーツを履きながら曖昧な情報に疑問を投げかけた。
「データベースに載っていない。おそらく新種だ」
新種……ね。そりゃこえーや。
「他の星にも照合かけたんか?」
「ああ。だが明確な回答は得られていない」
冗談だろ? どっからも正確な情報が入ってこねぇなんて……。
オレは黒い手袋をはめると、壁のボタンを押して武器を出す。ずらりと並んだ中からS-07タイプの特殊加工刀を選び、背中に差した。
「とりあえず急いで来てくれ。随分被害が出ている」
わあったよ、という意味で無言で通話を切ると、フライボードを手に二階の窓を開ける。
昨日充電しておいて良かったぜ。あーオレもソーラーパネル式ほしー。
「じゃ、いっちょ行きますか」
ボードに両足を乗せ、赤ライトとサイレンを鳴らしながら、猛スピードで第19地区に向かった。
空を飛んで現場に着いた頃、オレは奇妙なものを目にする。
「……なんでビルが勝手に倒れてんだよ」
次々と崩壊するビル。だがそこに何者の姿もなかった。地盤でも緩められたか……?
「憐、孝太!」
オレは特殊宇宙生物対策班――Sprcial Space Organization、 SⅡO[エスツーオー]の奴らがたむろしている場所に降り立つ。
「侠、すみませんね。お休みのところ」
孝太郎がキーボードを打つ手をやすめ、こちらを見る。
「そりゃあもういい。けど、何が起こってんだよ、一体……ヤツはどこにいんだ?」
ボードを小脇に抱え、光映像で監視しているSⅡO指揮官、CDR二人の傍へ寄った。
「ヤツならさっきから建物を壊し回っている」
「は……?」
何言ってんだよ、何にも映ってねぇじゃねぇか。
「見えないんですよ、その姿が」
孝太郎が真剣なまなざしでオレを見た。
「見えないって……」
「サーモグラフィー、特殊光線、レントゲン、レーダー、スキャンシステム……あらゆるものを使ったが、やつの姿を捉えることはできん」
どういうことだよ、ソレ……。
「いや、でもさっき大型のクモって言ってただろ?」
姿が見えねぇってんなら、何で。
「吐き出された糸があったことと、足跡を分析したんです。地面にできた溝の深さ、幅、間隔を測定し、その形状や大きさなどをデータ化しました。それでどうやらクモであろうことまでは掴めたのですが」
そう言って足跡からコンピュータで推測したCG画像を映し出す。これで検索をかけてもヒット件数0。
姿が見えない以上、どうにも調べようがないのだと孝太郎は眉をひそめた。
「あいつ、どこ向かって進んでんだ?」
「それが問題なんだ」
憐の合図で孝太郎が黒板ほどの光映像を、地図に切り替える。
「ヤツは現在時速30kmほどのスピードで北西に向かって進行中だ」
地図上に現れる矢印。
北西の方向? ……おいおいそれって……。
「宇宙生物留置センターへまっしぐらです」
点滅する丸によって示されるその場所。
「マズイじゃねぇか!」
あそこには今までに捕まえた危ねぇ生き物が五万といる。もしあそこが破壊されりゃ……。
「一応センターへ連絡はしましたが、今からでは他の場所に移すのは不可能だと……」
「くそっ。あとどれ位で着く」
「今のままで行けばあと10分」
オレは即座に腕のタイマーを10にセットする。
「本当ならランダムに弾丸を撃ち込んででも動きを止めたいところなのですが、生憎この地区の地下にはエネルギーパイプが通っています。もし弾が当たれば……」
「この辺りが消し飛ぶわな。わあった、オレに任せろ」
「何か策はあるのか」
「フン、何の為にオレを呼んだんだよ」
オレはボードに乗って再び空へ舞い上がった。
正直、憐の言う策があるわけじゃねぇ。けど何かできることがあるはずだ。
上空から破壊されていくビルを見る。時計をみれば、残り9分。
「なあ、例えばよ。上から色のついたペンキか何か流しゃいいんじゃねぇのか?」
CSを通して二人に話しかける。
「いや、胴体があると思われる部分に、食紅や凍結剤をかけてみたが効果はなかった。どうやらそういったものを弾いてしまうらしい」
すでにやった後か、仕事早ぇー。
「こうなりゃ接近戦しかねぇな。壊してるってことはそこにいるってコトなんだもんな」
「……気をつけろ。すでにHLが二機やられている」
「おー憐、オレのこと心配してくれてんのか」
「だまれ、始末書を書くのが面倒なだけだ」
「人の殉職を始末書で済ませんな!」
って言ってる場合じゃねぇ……!
オレは目にスクリーングラスを装着し、それを通して現在の状況から推察されるヤツの動きのCG画像を合わせ見る。
「うっし……やるっきゃねぇ!」
背中のS-07を抜き、やつの元に突っ込む。
異物の接近に気がついたのか、ヤツは警戒したようにその歩みを止める。とはいってもCG画面で分かること。
剣を振っては見るが、中々すばしっこいヤツで全くあたらない。
「くそっ、このボードじゃアイツの速さについていけねぇか」
奮発してでも最新型買っときゃ良かったぜ、と舌打ちする。
何て言っている間にヤツからの攻撃が加えられる。実際目で見るのとは違って、CGを通しての攻撃回避は容易じゃねぇ……。
「畜生ッ……! このままじゃ……!」
オレは細いビルの隙間に入り込むと、一気に上昇して間をとろうとした。だが……。
「!?」
ビルの隙間から飛び出た瞬間、オレに吹き付けられた糸が全身に絡みつき、バランスが取れずにボードのコントロールができなくなる。
異常感知システムが鳴るが、切り替え装置にも糸がからみついたらしく、オートパイロットに切り替わらねぇ……!
「何なんだよ、くそっ!」
もがいてももがいても、糸は取れるどことかますますオレにくっついて来やがる。目の前に迫るビル……!
「……侠!」
「侠輔!」
CSから聞こえる二人の声。オレはギリギリのところで窓に足を向けると、そのまま上昇、屋上に転がりこんだ。
「……はあ、はあ、はあ……」
やっばかったぁ~。全身脂汗まみれだぜ。
「侠!大丈夫ですか!?」
「生きているか、侠輔!」
聞こえてきた二人の声に答える。
「ああ、何とかな。ま、ボードは殉職しちまったけどよ……」
無残に散らばったオレの元相棒。しゃあねぇっちゃしゃあねぇけど、ちょっと涙。
ピピピピ、という音に反応して見れば、あと3分の表示。
「やべぇ……おい、ヘリ回してくれ」
「もうやっています」
さっすが。
すぐに現れたヘリの足に捕まり、パイロットに指示を出す。
「あのビルの裏手に回ってくれ」
「Roger――」
スクリーングラスの画像でヤツの動きを確認する。
「どうすりゃいいんだよ……ったく」
あと2分。もうすでに例のセンターが見えるとこまできている。
…………。
「おい、フライボード積んでるか?」
「はい。旧式ですが」
「十分だ。出来る限り近づいたら、お前はすぐに離れろ」
オレは腰の非常時用小型爆弾に手を伸ばす。
「ですが……」
「これは職務命令だぜ」
「……Yes,sir」
「何をする気だ侠輔……」
何かを悟ったかのような憐の声。
「人の命が皆同じ重さってんならよ。当然天秤は一人より大勢の方へ傾くよな?」
「侠? 何を言っているんですか? 侠?」
何を言ってるかだ? 知るかよ。
オレはCSの電源を切った。
目の前に立ちはだかっているであろう、巨大グモ。とはいえ姿は見えねぇけど。しっかりとその位置を確認し、オレはフライボードに足を乗せた。
ヘリが遠ざかるのを確認し、ビルの隙間からぐんぐんとヤツの胸元へ近づく。
いつでも押せるよう、手に持った白い爆弾のスイッチに指を置いておく。こいつならエネルギーパイプに損傷も出ねぇだろうし、ヤツにトドメ刺せなくてもその動きは止められるはず。まあボタン押した瞬間に爆発するから、オレは……。
満足のいく人生ってのには、程遠いものだったのかもしんねぇ……。けど、何かを護って最期を迎えられるんなら……悪くねぇよな。
オレは意を決して、ボタンに力を入れようとした。その時、ヤツの巨大な足が突如オレを狙う。
ちッ、気づかれたか! それを避けようとしたが避けきれず、やつの大きな足がオレを襲いかかった。
――CG画面上で、オレの腹をヤツの足が横へ通り抜け、体を完全に二つに切り裂いていた。
「侠――!」
「……あの、バカ……」
そう、CG画面上では。
「あれ? オレ……なんとも……」
己の体を見て驚く。どういうことだ?
その瞬間、オレの脳裏に一つの可能性が浮かぶ。
……そうか! だから食紅かけようとも、レーダー使おうともやつの姿を捉えられなかったのか!
オレは急いでCSの電源を入れる。
「おい、憐! 孝太!」
「……侠、輔、か?」
驚いたような憐の声。まあな、画面上じゃオレは死んでるわけだから。ってんなこと言ってる場合じゃねぇ。
「足だ!」
「何、足?」
「そうだ。ヤツは透明だから見えないんじゃねぇ! 足先しかねぇからそもそも胴体が無かったんだよ!!」
その言葉に、息を呑む声が聞こえる。
「直ちに全員足先に攻撃を加えろ!」
憐の命令が、CS越しに聞こえた。
発見されたのはトビムシとかいう異星虫。透明な特殊ケージに入れられてる、ビー玉サイズほどのそれは、見た目よりもかなり力が強い。ピョンピョン飛んで移動するらしく、さらに糸まで吐きやがる。
そいつが八匹、まるで透明な巨大グモが歩いてるみたいに群れて歩いてたってワケだ。これは夜行性のこいつらが敵に襲われねぇよう、自分たちの大きさを偽る為に生まれた新しい習性らしい。
……にしても、紛らわしいやつらだぜ。オレらが使ってたレーダーが探知できるのは、精々猫以上の大きさがある生き物だけ。映るわけねぇわな。
「タネが分かりゃ、案外簡単だったな」
オレは伸びをしながら、二人に話しかける。
「……完全に僕の初動判断ミスですね。CDRとしてあるまじきことです」
「何言ってんだよ、ミスをしねぇ人間はいない。それにあれじゃ誰だってそう思うって」
孝太郎の肩を軽く叩いた。
「……それにしても、お前は相変わらず無茶をする」
「何々? オレがやられたって思ったとき、もしかして泣いちゃった?」
オレはからかうように、憐の顔を覗き込む。
憐は何も言わず、真剣な顔でオレに一枚の紙を手渡した。
「推薦状だ。お前もいい加減にCDRになれ」
「そうですよ。同期で未だに現場に出るの、侠だけなんですから」
推薦状、コレを上に出しゃオレも明日から……。
でも、オレは――。
「へーっくしょい! あぁやべ、鼻水が」
勢いよく鼻をかむ。
「ちょ、侠!? それ推薦状ですよ!?」
「あ? あ、ホントだ。やっちまったぜ~。悪ぃな、憐」
「――ったくお前は……」
呆れたように腕を組む憐。
その時、署内の警報装置が作動する。
「何だよ、またか? 今終わったトコなのによ」
「仕方ありませんよ」
「仕事だからな」
「しゃあねぇ! いくぜ!!」
一言:
名称適当すぎ(笑)
何か最近、話ごちゃごちゃイジって申し訳ございません。
閲読ありがとうございました。