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12.助けた相手は伯爵様でした



 ぼさぼさだった生気のない様子から一転して、非常に清潔感のある服装と容姿になっていた。


「すみません。学園でお声がけしようとしたのですが、急いでらっしゃたので」

「それは申し訳ありません……!」


 ばっと頭を下げて謝罪をする。まだ確定した訳ではないが、相手からとてつもない貴族の雰囲気が漂っているのだ。ほぼ反射的な動きだと思う。


「あの、頭を上げていただけませんか……命の恩人に頭を下げられたとあっては、どうしたらいいかわかりません」


 困惑の声が降ってきたので、すっと体勢を元に戻した。すみませんと謝りたくなったが、それをどうにか抑えて会釈で留めた。


「本日はどうされましたか?」

「先日のお礼と、お勘定について」

「足りませんでしたか……!」

「いえ、逆です。おつりをお渡ししに。それに、俺の分まで払っていただいたようなので」

「それはお気になさらなくても……」


 片手で持っていたバックに手を伸ばす男性。お金のやり取りが始まろうとしていた。しかし、いつまでも道端でやり取りをするわけにもいかない。人の邪魔になるのはもちろんのこと、男性の見た目が非常に目立つのだ。


「おにーさん。つもるはなしがあるなら、おちゃしましょう!」


 ルルメリア! 勝手なことを言っちゃいけません……! というか、どこで覚えたのそんな言葉! ……いや、最後のは愚問だろうな。

 声に出して言いたかったが、誘ってしまった以上、それを口に出すのは失礼に値する。


「……よいのでしょうか?」

「うんっ、いいよ! ね、おかーさん?」


 それで駄目だと答えられるのか逆に問いたい。

 心なしかルルメリアの瞳はきらきらと輝いており、わくわくしている様子は好奇心にあふれていた。


「……お兄さんさえ良ければ」

「では、よろしくお願いします」


 近所の喫茶店に足を運ぶことになった。男性が先に入ったのを確認すると、私は入店する前に、しゃがんでルルメリアに一言伝えた。


「ルル、いい子にしててね?」

「うん、できるよ!」


 本当なら、これ以上余計なことは言わないでとお願いしたいとこだが、五歳児に言うことではないなと呑み込んだ。ルルメリアと約束を交わすと、男性の後を追ってテーブル席に向かった。


 前回とは違い、私はルルメリアと一緒に男性に対面する形となった。


「おにーさん、おなまえは?」


 着席すると、最初に口を開いたのはルルメリアだった。その様子に目を閉じたくなった。頼むから勝手に喋らないでくれと思う。

 恐らくだが相手は貴族。下手な真似をすれば不興を買いかねないのだ。


「あっ……名前も名乗らず失礼しました。おれ――いえ。私はオースティン・レヴィアスと申します。現在はレヴィアス伯爵代理を務めております」


 その名前を聞いた瞬間、私は凍り付いた。

 貴族だとは思っていたが、かなりの名家。それも伯爵家だったとは思いもしなかったのだ。


「おーすてぃん!」


 ひいっ、呼び捨てにするんじゃありません!

 反射的にルルメリアの口をふさいで、目で訴えた。ルルメリアはぱちぱちと瞬きをしており、状況の整理ができていないようだった。


「えっと……私はクロエ・オルコットです。没落貴族なので、家を継ぐことはありませんでした。それで、この子が」

「はい! るるめりあ・おるこっとです!」


 元気よく手を挙げて自己紹介をするルルメリア。そこだけは可愛らしいのだが、気を抜けば無意識に失礼な言動をしてしまうので、注意が必要だった。


 レヴィアス伯爵家。

 オルコット家と同じく由緒正しい家。それだけではなく、きちんと機能している貴族であり、伯爵家の中でも発言権と権力を持っている家のはずだ。


 名家の名前に、失礼な態度でなかったかと不安が浮かび上がる。ゆっくりと頭を下げた。


「……ご無礼な真似をしてしまい、大変申し訳ありません」

「何も無礼なことはないかと。それに、本日は助けていただいたことの感謝をさせていただきたかったので」

「感謝、ですか?」


 無礼なことはないと言い切ってくれるものの、表情は微動だにしなかった。感謝と話題が変わっても、笑み一つ浮かばない顔に不安が増していく。


 わざわざ足を運ぶほど、感謝をされることをしたとは思っていないのだが、ひとまず伯爵様のお話を聞くことにした。


「あの日、本当に私はオルコット様に助けていただきました。死のうとさえ思っていたのに、もう一度生きようと思えたのはオルコット様のおかげでしたので」

「お役に立てて光栄です。ですが、当然のことをしたまでなので」


 過大評価をされていると感じた私は、両手を前に出しながら首を振った。しかし、伯爵様はそれを否定した。


「そんなことはありません。話を聞いて、心情に寄り添うというのは、誰でもできることではありませんから」

「そ、そうでしょうか」

「はい。ですので、命の恩人なのです」


 伯爵さまの表情は、またも動かなかった。だから、どこまで本気で言っているかはわからなかったので困惑が生まれる。


「命の恩人となれば、恩を返すのは当然のこと。何か私にできることはありませんか」

「で、できること」


 突然の申し出に、私は何と答えるべきなのか戸惑うだけだった。



 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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