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裏切りの代償  作者: 志波 連
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 その後ろ姿を見送りながら、ロミット夫人はキディが初めてこの屋敷を訪れた日を思い出していた。


「キディ、あなたのおかげでマーガレットはとても素敵な姫に育ちましたよ。あなたの幸せは私が守るわ。耐えるのよ……キディ」


 遠く離れたフォード村で暮らすキディに話しかけるように、ロミット夫人はそう呟いた。

 

 一方、オーエンは取るものもとりあえず、馬に鞭をくれていた。

 飛ぶように駆けながら、半年前にリアがもたらしたスミスの素性を思い出す。


~オーエンの回想~


『スミス牧師は隣国の第三王子です。幼い頃に母親と共に死亡したことにして王宮を出されていますが、生存しているのを知っているのは現王と宰相のみでした。皇太子と第二王子の争いが激化すると同時に、その消息を探る動きがあります。まあ、まだバレてないみたいですが』


『なぜ王宮を出されたの?』


 エマの問いにリアは頷いた。


『皇太子の正妃と側妃がほぼ同時に命を狙ったのよ。第三王子の母親は皇太子、今の国王の専属侍女だったの。まあ要するにお手付きってわけ。正妃と側妃は政略だったから、皇太子の寵愛が一気に傾いたというのがその原因。当時の王妃の計らいで逃されたみたい』


『ではなぜ牧師様に?』


 エマが重ねて聞いた。


『信じていた側近が裏切ったわ。逃亡資金を全て奪い、母親は娼館に売り、息子は道端に捨てた。道端で衰弱死しそうになっていたところを、通りすがりの牧師が拾って教会に連れて戻ったの。なかなか激動の人生よね』


『消息を掴んでなかったのかしら。なんと言うか間抜けねえ』


『逃亡を助けるはずだったその側近というのが、王妃の実弟だったから疑いもしなかったのでしょうね。ある日皇太子が会いに行って発覚したのだけれど、その時にはすでに遅しで、母親は死に、息子は消息不明。二人を売った王妃の弟はその場で皇太子に切り殺された。叔父が甥に殺されたってことね』


 エマが吐き捨てるように言った。


『どいつもこいつもクズばっかりね。それにしてもあの技量はどこで?』


『彼を拾った牧師が元騎士だったのよ。怪我をして退役するまで王直属の騎士団に所属していたほどの男よ』


 ここでオーエンが聞いた。


『隣国の奴らが掴んでいないことまでよくこの短期間で調べたな』


 ニヤッと笑ったリアが答えた。


『隣国の影集団には貸しがあるからね。スミス牧師が死んだはずの第三王子だということを影たちは掴んでいるわ。でも王と宰相には『生きているらしい』としか報告していない』


『なぜだ?』


『彼らは王家を嫌っているからね。聞かれたことにしか答えないの』


 ~~~~~~~~~~


「嫌いだから報告しないって何なんだよ。笑えるな」


 オーエンはフッと笑って馬に鞭をくれた。

 街道を歩く人々が、飛び跳ねて避けるほどの迫力で、オーエンを乗せた馬が駆け抜ける。

 フォード村まであと半日というところで、馬の脚に限界が来た。

 オーエンは仕方なく馬を休ませるために宿を求めた。


「俺の部屋はどこでもいい。とにかく馬を休めたい」


 領地の村まであと少し。

 ここまで無理をさせたのだから、明日は昼まで休ませてやろうと決めたオーエンが、食事のために部屋から出た。

 食堂の真ん中で豪奢なマントをぶら下げて、数人の男たちに囲まれて酒を飲んでいる貴族に目がいく。

 一瞬で誰かを判断したオーエンは、サッとその集団に背を向けた。


 間違いなくレガート侯爵だ。

 なぜ彼がここにいるのだろう。

 ニックは鉱山送りにしたはずだが……そう考えていた時、彼らの会話が聞こえてきた。


「ニックはフォード村辺りから連絡を寄こさなくなったからな。あの村は洗った方が良いだろう。本物が出てくれば御の字、出なくても弾はあるさ」


 弾? 本物が出なくても困らない? 替え玉を仕立てるということか? 誰だ?


 オーエンはジリジリとレガート侯爵のいるテーブルに近づいた。

 そんなオーエンの肩をポンと叩く者がいた。

 驚いて振り返る。


「父さん! 早かったね」


「お前がとろいんだ。これ以上近づくな」


 心臓が飛び出しそうなほど驚いているオーエンをしり目に、レッドフォードが酒を注文する。


「まあお前も飲めよ。馬はここに預けておけ。新しい馬は用意してある」


「父さんは?」


 レッドフォードは何も答えず、チラッとレガート侯爵の方に視線を向けた。

 彼らを探るということだろう。

 オーエンは小さく頷いた。


「ところで息子よ。部屋がもう空いていないんだ。お前の部屋を使う。いいな?」


「え……この歳で親父と同じベッドとか無理」


「同じベッドなんて使うものか。お前は床だ」


 オーエンは黙って頷くしかない。


 朝日が昇ると同時にオーエンは再び馬上の人となった。

 馬を預けるための費用は、昨夜泊まったオーエンの部屋代より高かったが仕方がない。

 盛大な砂ぼこりを巻き上げて走っていく息子を、窓から見送ったレッドフォードは、どこから見ても旅の商人の姿だ。


 昼前になってようやく準備を始めたレガート侯爵一行の後をのんびりついて行く。

 まだまだ道のりは遠いと思っているのか、焦る様子もなくパカパカと馬を進める一行を追うレッドフォードが操っているのは馬車だ。

 荷台には藁が積まれ、見た目よりも軽いうえに捨てやすい。

 いざとなれば荷台を捨て単騎で駆けることもできる。


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