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裏切りの代償  作者: 志波 連
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 その頃教会では、スミス牧師と浮浪者となったニック・レガートがテーブルを挟んで座っていた。

 ニックの目の前に置かれているのは、蒸したジャガイモと林檎、そして少し固くなったライ麦パンだ。

 紅茶は無く、お湯に薬草を浮かべたものが出された。


「申し訳ないですが、これが今ご用意できる全てです」


 食事を提供した側が恐縮しているのに、ニックはそれを指先で突いている。


「せめて温かいシチューとかないのですか? 出し惜しみしてません?」


「出し惜しみなどしていませんよ。これが私の普段の食事です」


 ニックはジャガイモにフォークを突き刺した。

 少量のバターが載ったそのジャガイモは、程よい塩かげんでまだ湯気を立てている。

 

「おっ……旨い。牧師様、この芋はおいしいです」


「それは良かった。どうぞ遠慮なくお召し上がりください」


 スミスはニコニコ笑っている。

 それを天井裏から見ていたオーエンは、ニックを絞め殺したい衝動に耐えていた。


「アノヤロウ……シネバイイノニ」


 呪いの呪文のような言葉を何度も呟きながら、聞き耳を立てるオーエン。


「ところで旅の方、お名前を伺っても?」


「ああ、ニック……じゃなかった。えっと、ホープスです」


 天井裏からチッという舌打ちの音がしたが座る二人は気付かない。


「ホープスさんですか。旅の目的地はどこですか?」


 面倒くさそうにニックが答える。


「ここですよ。私は父親の命令で子供連れの女性を探しているのです。連れ帰らないと私の大切な人が死んでしまう。だから必死なんですよ」


「大切な女性? それは大変ですね。お目当ての方は見つかりましたか?」


「いいえ、大金を払って買った情報だったのにガセネタのようです。また騙されてしまいましたよ。お陰で無一文です。王都に戻ろうにも馬車代もありません」


「それはお気の毒です。早く見つかると良いですね」


「そうだ牧師様、この村に近くで一年前くらいに来た子連れの女性を知りませんか?」


「子連れの女性ですか? その頃だと領主ご一家が戻られた頃ですね」


「ああ、それは確認しましたよ。あの女は違います。子供の姿も見えませんでした」


「…………そうですか。他には心当たりもありませんね」


 ニックは大きな溜息を吐いて薬草茶を飲み干してから、顔を顰めた。


「苦いお茶ですねぇ。紅茶は無いのですか?」


「ははは! 紅茶は今は無いですね。苦いなら白湯にされますか?」


「いいえ、もう結構です。ベッドに案内してください」


「ベッドですか……困りましたね。では私のベッドをお使いください。ご案内しましょう」


 スミスが立ち上がると、のろのろとニックも腰を上げた。

 オーエンは殺していた息を吐き、緊張を解いた。

 スミスが戻ってきて、祭壇前の椅子に毛布を敷いた。

 どこまでお人よしなのだろうとオーエンは思いながら、領主邸に戻った。


 エマとリアはリビングで待機していた。

 風邪を貰ってはいけないので、エスポはリリアンヌの部屋で寝ている。

 

「お帰りなさい。無駄足だったでしょう?」


「いや、そうでもないぞ。牧師様はエマの言う通りかもしれない。俺に気付いていたよ」


「兄さんの潜入に気付いた? とんでもないじゃん」


 エマが驚く。

 リアがすかさず言った。


「スミス牧師が凄いのか、ボスの腕が落ちたのか?」


「落ちてない!」


 オーエンがリアを睨む。


「だってボス、色ボケして腑抜けの顔になってますよ?」


「色ボケって……もしそうだとしても、ちゃんと契約は履行するし、公私混同はしないよ。その点は信頼してくれ」


「それはわかってますけどね? 勝てない戦はしない人だと思ってましたけど?」


 はぁぁぁっと大きなため息を突くオーエン。


「もう勘弁してくれよ。話を戻すぞ。奴はニック・レガートに間違いないが、スミス牧師には偽名を使おうとしていた。よりにもよってホープスと名乗りやがった時には、殺意を抑えるのに必死だったよ」


「真正のカスですね」


 エマが憤っている。


「オマケにさあ、スミス牧師は自分の飯を提供したのに文句つけてたし、ベッドに案内しろなんてほざきやがって!」


「あそこってベッドなんてないでしょう?」


「ああ、だからスミス牧師が自分のベッドを譲っていたよ。激動の一日だったのに、教会の硬い木の椅子で眠るなんてなぁ。どれだけ人が良いんだ」


「お人よし過ぎて気持ち悪いですね」


 エマが辛辣に言い放つ。


「まあ、俺達では到達できない域に達しておられるのだろう。俺なら真冬でも叩きだす」


「私なら殺してますね」


「ああ、私もそうね」


 エマとリアは短気らしい。


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