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「お会いにはなりませんの?」
「ええ、手紙だけです」
「そうですか。とてもお元気そうでしたよ。それにとても豊富な知識を持っておられて、私の探している内容をお話しすると、迷いなくこれを出してくださったのです」
「ええ、姉は父のことをとても尊敬していました。私は少しだけ父を怨んでいたことがありますが……今はもう何も思ってはいません」
「お父様? どういうことでしょうか?」
「この作者が私たちの父なのです」
キディは驚きのあまり息を吸うことさえ忘れている。
「ああ、夫人。そんなに驚かないでください。大丈夫ですか?」
スミス牧師がキディを助けようと腰を浮かせた。
エマが駆け寄りキディの背中を擦る。
座りなおしたスミスが口を開いた。
「私たちの父は小さな領地を持つ子爵家の当主でした。彼は領地経営には向いておらず、趣味の研究にのみ心を砕くような人でした。母が代わりに領地経営や子爵としての仕事を引き受けていましたが、無理が祟ったのでしょう。姉が10歳、私が8歳の時に天に召されていきました」
スミス牧師は紅茶に口をつけて一息ついた。
「それからというもの、親戚だという人がやってきて母の代わりを始めましたが、私利私欲に塗れた仕事だったため、2年もしないうちに領地は没落し、爵位を売る羽目になりました。姉のローレンは、父の姉夫婦が引き取り王都へ向かい、私は母方の叔父に連れられて修道会に放り込まれました。それきり姉とは会っていません」
キディは驚きはしたものの、スミス牧師が経験したであろう苦労を思うと何も言えずにいた。
「修道会での仕事は私の性質に向いていたのかもしれません。辛くなかったと言えば噓になりますが、受け入れられないほどのものではありませんでした。そしてこの地に派遣されるまでも、何か所かの教会に行きました。今ではここが一番長く留まっている地になります」
「そうでしたか。本の内容はとても興味深く拝読したのですが、作者までは気が回らず……まさかスミス牧師のお父様とは」
「それは当然のことです。父はこの本を書くために全てを犠牲にしたといっても過言ではないでしょう。領地も妻も失い、我が子とも引き離されたのに、執筆を止めることは無かったと聞いています。きっとこれが彼の使命だったのでしょうね。製本された最初の一冊を抱きしめながら天に召されたそうですよ。彼は生を全うしたのでしょう」
キディは言葉失い、ただ黙って牧師の顔を見ていた。
スミスが優しい声で言う。
「この本が夫人のお役になっているとしたら、何よりの幸せです。ありがとうございます」
キディが慌てて口を開く。
「こちらこそありがとうございます。この本との出会いで救われた少女がいます。そのことを、お父上様にお伝えしたかったですわ」
そう言うと、キディはマーガレットの話をした。
もちろん家名や実名は避けたが、彼女とのやり取りを覚えている限り正確に話した。
「それは父も喜んでいることでしょう。これからもその方のお手紙をお出しになるのでしたら、私もお役に立てるかもしれません。父がこの本を書くにあたり、試験的に使われたのは何を隠そうこの私ですからね」
その後も暗くなるまで二人は黙字と幼児教育について熱く語り合った。
夕食に誘うと、少し躊躇する素振りを見せたスミス牧師だったが、キディとの会話の楽しさに負け、結局その日は屋敷に泊まることになった。
客間の無いフォード邸だ。
エマの進言でオーエンの部屋に案内することになった。
「明日は初日です。牧師様もお泊りになった方が何かとよろしいかと思いますわ」
オーエンの母の一言が決め手となったのは言うまでもない。
そして翌朝、まだ暗いうちから起きだしたキディとエマは、手早く朝食の準備を済ませリリアンヌとオーエンを起こしに行った。
リアはまだ眠たがるエスポを宥めながら、朝食をとらせている。
ロビーに置いた大きな机の上に、筆記道具と教材の絵本と聖書を並べ、胸を躍らせながら子供たちの到着を待った。




