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第六話 目標と、自分自身の幸せと

 魔術師団に入団して丸一年の月日が経った。


 元々ろくに練習しないであの強さだったのだ、訓練すれば上達するのは当然の話で、フィルミーはめきめきと腕を上げて今や魔術師団の要と言える存在になっていた。


 周囲は彼女のあまりの成長ぶりに驚いているらしく、尊敬の眼差しで見てくる者までいる。


 そんなに上達するのだからよほど魔法が好きだったのだろう――そう思われるかも知れないが、全然そういうのではない。

 ただのストレス発散だったのが、たまたま認められて拾い上げられただけだった。でもその恩返しのためにも強くなろうと毎日毎日努力を欠かさず極めていっているうち、フィルミーには一つの目標ができた。


 魔法を極め、最強になる。そして人の役に立つのだ。


 この一年、フィルミーは大勢の人々に感謝されてきた。

 魔物に平和を脅かされる村。盗賊が出没して子供を攫っていく街。そんなところで暮らす人々を助ける度に彼ら彼女らの安堵する姿を見て、仕事にやりがいを感じるようになった。


(たとえ結婚したとしても続けられる。私はこれから一生魔法で生きていきたい)


 現在のフィルミーの実力は、魔術師団の中で副団長に次ぐ強さと言われていたノエルを少し超えたくらい。

 魔術師団ではそれぞれの力を測るため、三ヶ月に一度ほど試合が行われる。一対一の勝ち抜き方式で、最初の頃はズタボロになりながら最終まで残ったもののノエルに呆気なく倒されていた。

 しかし少しずつ改善していき、ついこの間の勝負では戦術でノエルを嵌めて勝つことができた。以来、魔術師団において三番目の実力者になっている。


 次はリリシアン夫人に手合わせしてもらおう。そして絶対勝ってみせる。

 フィルミーはそう、密かに決めていた。


 まだまだ足りない。だって、いまだにあの視線を感じることがあるのだ。

 あれがなくならない限りは努力をやめない。監視の目で見られているのを実感するといつも気が引き締まる思いで、とても張り合いのある毎日だった。




 魔物討伐等の仕事がない日は、魔術師団本部の一角で魔法の修練をする。

 火魔法と風魔法を合わせて空中に高精度な罠を展開させられないかなどと試行錯誤していたところ、リリシアン公爵夫人がふらりと現れて声をかけてきた。


「また難しい魔法に挑戦していらっしゃるの?」


「……あ、はい。ちょっと飛行する魔物の捕獲の効率が悪いので、改善したいと思って」


「そうなの。それはとてもいいことだと思うけれど……老婆心というのかしらねぇ。あなたを見ていてたまに心配になるわ」


 こてんと首を傾げるフィルミー。

 別に、寝食を忘れて魔法の修練をしているわけではない。団員の中には新種の魔法を生み出してばかりで丸一日部屋に篭りきりな人もいるが、フィルミーは違うのだ。


「あなた自身の幸せも、そろそろ考えてもいいのじゃない?」


「――え」


 自分自身の幸せ。

 そう言われて、硬直した。


 だってフィルミーは、ここでいられさえすれば幸せだ。

 たとえ結婚したって働き続けられる。だから何も問題は――。


 そこまで考えて気づいた。

 結婚。それはつまり、学園に残してきたノディと結ばれなければならないということなのだと。


 ノディから手紙はラボリ男爵家へたくさん来ていた。ただ、忙しいからと一通も目を通していなかった。

 いいや違う。読みたくなかったというのが正しいだろう。この場所にいることを否定されたくなかったから、嫌だったのだ。


 ノディはきっとフィルミーが魔術師団員であることを是としない。

 どうして貧乏男爵令嬢に過ぎないフィルミーが自分より目立つのだと、お前なんかが不相応だと言われるのが目に見えていた。だからあえて結婚について深く考えないようにしてこなかったに違いない。


「……そろそろ決着をつけないと、か」


 かつては無力だった。

 扇子を投げられ、嘲笑われてもただグッと堪えるだけ。その怒りを魔法にぶつけて、さも無力のように生きていた。


 でももうそんな生き方は嫌だ。だって私は魔術師団の一員になり、最強を目指す女なのだから。


「リリシアン夫人、ありがとうございます。考えてみます」


「そう。余計な口出しをしてごめんなさいね」


 応援してるわ、と言って、リリシアン夫人が静かに立ち去っていく。

 そして最後――一瞬だけ立ち止まり、ちらりとこちらを振り返った。


「安心して。あなたを嫁ぎ遅れにはさせないから」


 その言葉の意味はいまいちわからなかったけれど、フィルミーは一応頷いておいたのだった。

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