Ep6 A precious partner~ロリっ子の憤激とロリコンの冤罪~
「お前…、中二病患者だったのか?」
『因果孤立』の世界で、二人の中二病患者が対峙していた。
「(…まじかよ。)」
真也は自分のノーテンキさを呪った。恐らくだが、彼女は真也のヴィクターリングを見て自分が中二病患者であることに気付いたのだろう。鞄にでも入れとけば良かったと後悔する。それにしても…。
「…………」
「(顔が…おっかねえなぁ…)」
目の前の彼女は真也の存在を忌み嫌い、そして怨み呪い殺したいかのような形相であった。
「(中二病患者ってのはそんなに戦いに飢えてんのかよ?)」
その彼女の佇まいに気圧されそうになりながらも、真也は同時にそこに哀しさを感じた。まあ、トップとかになれば豪華賞品だもんな。にしても物欲で人の目付きはこうも変わんのかね。
真也の見た『中二病大戦要項』には「この大戦の頂点、並びに次点と次々点には豪華商品がある」といった感じの一文があるのだ。
「(…にしても、なんだかなぁ)」
目の前の彼女は、あの聚楽園家のお嬢様である。真也が一生働いても辿り着けないような途方もない富を築いているであろう。しかもかなりの美少女。これ以上何を望むというのだろうか?いや、逆に人生の勝利者だからこそ欲望の連鎖が絶えないものなのだろうか?だとしたら、なおさら悲しいわい……グスン。
真也はまるで異世界のような、自分とは次元の違う世界の事情について考えた。
恐らくこの先プロレタリアの道を進む真也が、ブルジョア様の昨今の苦悩を分かったかのように語り、慮るなどおこがましいにもほどがあるのは百どころか千も承知だが、真也は同じ人間として、ひいては同じ中二病患者として同情してしまった。
それでも戦いとは非情なものだ。
頂点というものは一人しかなれない。
真也は全身に力を込めた。別に頂点になる気はないが、あの紅い翼のオッサンと交わした約束っぽいものもあるし、なにより未だ自分がどんな中二病なのか気付けていない。だから、まだこんなところで終わりたくない。
一ヶ月ぶりの戦い、久々の感覚、研ぎ澄まされていく戦闘意欲。
女子と戦うのは真也のポリシー的に不本意だが、最強の力有する中二病患者相手にそんな悠長なことは言っていられない。せめて傷付けないように気絶させるか降参してもらうかするとしよう。
真也は一ヶ月のブランクがあるので、取り敢えず自分が得た最強の力を思い出そうと精神集中の意味も込めて目を閉じた。
「(…………、っっ!!って確か、戦意皆無じゃん!)」
しかしすぐに目を開ける真也。今頃思い出したようだ。
真也は『ある事故』により、戦意皆無という“自分自身の攻撃力のみ”ゼロにしてしまう超最弱能力を得てしまったのだ。
真也は驚きの反動で普段以上に目を開く。
「(ぬおぉぉぉーーーっ!あん時はたまたま勝てたっつーか生き残れたが、実際問題あの能力でどう戦えと?)」
真也は嫌なことは忘れてしまうご都合脳検定一級の実力をもつほどの誰もが羨む脳構造をしているようで、ゴールデンウイークをネットにアニメにマンガにラノベとひたすら現実逃避し、異世界へと潜り込んでいた真也は、二次元の世界の住人が使う魔法だの超能力だのなんだのと自分の最強の力とを混同させてしまっていたのだった。
リオという少女は焦り慌てふためく真也を見て、怒った仔猫のような形相はそのままに首を微妙に横に傾け頭に疑問符を浮かべた。
「(やばい…やばい……やばい!!)」
真也は両手で自分のせっかく自然に整えられた綺麗な髪を、がしがしと雑に掴み必死にこの場の打開策を思案していたが、やがて左足を後方に一歩下げた。
「(にっ…逃げよう)」
諸葛孔明もびっくりのある意味究極の必勝法だった。三十六計逃げるに如かずだっけか?
「…っ」
真也のその決意と同時に、少女は噛み締めるように閉じていたその小さな口をついに開いた。言葉を発する予備動作に違いない。
そして、真也が逃げる姿勢を作ろうと体を反転させるために、右腕を左側に持ってこようとしたちょうどその時だった。
「あっ…、あんたがストーカーだったのね?許さないっ…、絶対に許さないんだから!」
少女は火山が噴火するように叫んだ。
「……………………………………………………、はっ?」
真也はその雄叫びに凍り付くように動きを止め、言っている意味が全く分からず長めの沈黙。そして長きにわたる思考の末、やっぱり分からず疑問を発した。
「(…こいつは、何を言っているんだ?)」
真也は初め、日本語じゃないのかも知れないと仮説を立てた。しかしいくら反芻してもお嬢様美少女リオの発言は日本語でありニホンゴだった。
次に中二病対戦に関する事柄の隠語かなんかか?と考えてみた。しかしいくら思い返してもぽっちゃり少年鏑木の発言にはそんな感じの言葉は含まれていなかった。
「ねえ、あんた。聞いてんの?」
しばらく唸るように考えごとをしていた真也であったが、やがてこんな考えは無駄なのではないかという境地に至る。
顔を上げ、前を見てみる。
口調が変わったのはやはり怒っているからなのか、そこには人差し指が真也の顔を指している右腕を、キリッと前に伸ばして、小さな体を大きく見せるように自身が抱いた不満をぶちまけているリオの姿があった。
そんな風に怒り続ける彼女を見てオレは場違いにも『可愛いい』と思ってしまう。…あっ、ここ誤植じゃないよ。なんかもう抱きしめたいくらい可愛すぎで、感極まって『カワイイイ』って思っちまったのだ。
そう、美少女の…、それもロリなとびっきりの美少女の大袈裟な言動は男の心のドリンク剤。飲み過ぎは体に毒だが、そのジューシーな魔の果実はオレの体をこれでもかというほど潤わせ、そして満たしてくれるのだ。
「(…にしても、ストーカー?)」
にへら笑いを浮かべつつ、ギャアギャアわめくロリっ子お嬢様をよそに、今一度本題に戻ってそんなことを考えてみる。
憂鬱とかに代表される、一文字違いの文庫本には心辺りはあるが、真也の知る限りストーカーさんのお知り合いには全く心辺りがなかった。
ましてやこんな性格ではあるが、真也は女の子をストーキングする特殊な趣味は持ち合わせていなかったし、探偵学園の生徒さんでもないどころか、なにより彼女とは初対面なのだ。
「(…、人違いじゃないか?)」
自分自身の分析結果を見かえして、不意にそんなことを思ったのでそのまま聞いてみた。
「とぼけるわけ!?最ッ低!!あんたじゃなかったら誰だって言うのよ?」
オレが聞きたいわ。
「だってあんた、中二病患者じゃない。いつもいつもいつも、姑息にも一撃離脱で勝負仕掛けてくる最低ヤロー。あんたのせいで私、授業に集中することも出来ないじゃない!!どーしてくれんのよ!!」
「ってか、ちょっと待て」真也はまくし立てるロリっ子を制止させ、「お前はアレか?オレが中二病患者ってだけで犯罪者扱いか?お兄さんびっくり!お前はどこの悪徳警察様だよ!!」
と嘆くように訴える。
「…これで次のテストで赤点取ったら、あんたをコンクリートで固めて東京湾に沈めた上にテトラポッド落としまくってやるんだから!」
えぇ~、オレの話無視?ちょっと聞いてよ~?てか、そしてやることえげつねえなぁ。おいっ。せめて沈めるまでにしてくれよ。“落としまくる”発言にお兄さんはそこはかとない戦慄を覚えますよ?
真也は突如沸き起こった言い知れない恐怖にビクビクしながらも、自分が冤罪であることを認めてもらうため、とにかく浮かんだ疑問をぶつけてみることにした。
「だっ、だいだいさぁ!オレ以外にも一万人くらい中二病患者はいるじゃねえか!」
「黙りなさい。じゃあ逆に言うけど一万人しかいないのよ?」
「あんっ?」
少女は説明を始めた。
それは物凄く誇らしげな、オレを見下したような態度であった。
私立の名門学校の紺色のブレザーに紅ネクタイの光る制服は、別に絢爛な造りには見えないのに不思議と着用者を上流階級だと思わせてしまう力があるようだった。
だから、ロリっ子でも不本意ながらそんな偉そうな雰囲気が全然おかしくないようにフィットするのだ。
「日本の面積ってのは約三十八万平方キロメートルなの」
「うん、それで?」適当な相槌をうつ。
「鈍いわねえ、あんた。そう考えると人口密度…というか中二病患者密度?まあ、どっちでもいいけど密度的に日本の三十八平方キロメートル圏内に、一人の中二病患者がいることになるでしょ?つまりこの辺七十六平方キロメートルの中には私とあんたの二人しかいないことになるの。この状態で三人目がいる可能性はほぼゼロなの。つまりあんたが犯人」
「……………………」
彼女は、まるで毎週水曜日に高確率で殺人事件と遭遇する少年探偵のように、堂々と自分の推論を述べた。と言ってもこちらのは見た目も頭脳もロリっ子なようで、幼さの残りまくる小顔に勝ち誇ったような満面な笑みを浮かべていた。
可愛すぎるロリだが、今の真也はリオの“名”推理というか、“迷”推理に唖然とするしかなかった。
「どうよ、観念した?」
リオが嘲笑うかのような態度をそのままに感想を求めてきた。
「あ」
「あ?」
「あ…ああ…………」
「???」
「アホか?お前」
真也はそう言わざるをえなかった。リオはリオで「あっあほ?何言ってんの?ぶん殴るわよお!」とか怒鳴っていたが、ひとまず無視。
そして、あの私立学校って偏差値高いんじゃねーのか?と疑問に思いながらもロリっ子を黙らすために理由を説明してやることにする。
「…あのな、ここ東京だぞ?」
「知ってるわよ!」
だろうな。
「日本人口の約一割を東京は占めてるんだ。仮に中二病患者が日本の人口分布と同じ割合で存在するんだとしたら、東京には約千人の中二病患者がいることになる」
リオは子供が泣き疲れたかのように黙りこくり、おとなしくしている。
「確か…、東京の面積はだいたい二千平方キロメートルだったから、お前の考えかただと二平方キロメートル圏内に一人の中二病患者がいることになるぞ?現にオレはお前じゃない中二病患者と一回戦ったこと……ある、し…な…」
真也は嫌なことを思い出し最後だけ口ごもってしまった。
「で、でも、それってあんたがストーカーじゃないって証拠じゃないじゃないの…」
…どーしても、こいつはオレをストーカーにしたいらしい。はぁ、好い加減にしてくれや…。
真也は嘆息しながら聞いた。
「そのストーカーの最強の力がどんなやつだったかって分かるか?」
「そんなのあんたが一番分かってるじゃない」
だからオレ=ストーカー発言をやめろ!
「真面目に言ってくれ」
そんな怒りを抑えながら真也は続ける。
「私は貴方がストーカーの犯人だと思いますので、貴方が一番ストーカーの、言わばあなた自身の最強の力を理解していると考えます。」
「真面目な言い方しろってことじゃねーよ!」
論理学者のようにつらつらと述べるリオ。なかなかボケの分かっているロリっ子であるが、ストーカー扱いされている真也にとってすれば笑えない冗談である。
「ってゆーかよ、オレの最強の力ってのはなぁ…」
真也は落ちてる自分の鞄をあさり、手頃な紙を探し出す。
三十点と赤で書かれた英語のテストを見つけて苦い顔になったが、仕方なしにそいつを手に取る。
次からはルーズリーフを持ち歩くことにしようという決意を胸に、その英語のテストを今にも両手でちぎろうとするような持ち方で見せ付けた。
真也の戦意皆無を披露しようというのである。
「見てくれ」
真也は真剣な面持ちで言う。
「…………」
リオは真也のその尋常じゃない態度に圧倒されていたが、やがて口を開く。
「あんたの八十点分の間違いを?」
「だぁ…!違う、見るな。こっちじゃない!オレの最強の力のことだ!」
テストの表面はリオの方に向いていたらしく、女の子のパンチラよろしく顔を赤らめ早口になる真也。
少し間を置き、テストの表面を真也の方に向けて、完全に落ち着いてからこう言った。
「__『戦意皆無』!!」
それと同時に力いっぱい紙を破こうとする。ただ、_攻撃力がゼロな今の真也には折れ目を入れることすら出来ないのだ。
「…………」
リオはリオで、なにがなんだか全く分からないのでこの茶番にキョトンとしていた。
「…というわけなんだな」
しばらくして、紙を鞄に戻しながら真也はそう告げる。
「いや…、何が『…というわけ』なの?」
リオは困惑顔で聞いた。
しかし真也はやり遂げた感を周りに醸し出し、「ふぅー」と溜息しハンカチを取り出し汗を拭っていた。
リオは一人だけ分かった気でいる真也に無性に腹が立ち、真也の両肩を自分の両手で掴んで真也の体を前後に揺らした。
しかしあまり効果はなく、揺られながら真也はアホ面で「ロリっ子萌へ」と歴史的仮名遣いで意味不明なことをぼやいていた。
リオはなんとなくバカにされている気がしたので、渾身の右ストレートをアホ面にかましてやった。
会心の一撃だったらしく、しばらくの間真也はアスファルトの上でノックダウンしていた。
こほんとリオは可愛らしく咳払いをすると改めて聞いた。
「んで、結局よく分からなかったんだけど、何なの?」
「はぁっ?知らないのかよ!いいか、『萌え』って言うのはだな…」
「そっちじゃないわよ!最強の力の方よ!!」
リオは真也の発言に熱り立ち、その怒り任せに本日二度目の右ストレートを学者面にかましてやった。
会心の一撃だったらし(ry
「痛た…」
殴られた部位をさすりながら、強烈な既視感を覚える真也。
こほんけほんくほん、とリオは可愛らしく激しく咳払いをすると改め改めて聞いた。
「で、あんたが何をやっていたのかさっさと教えなさーい!」
「何を…って、オレの最強の力をだよ。やる前に言ったろ?」
「言ったけど、いつ使ったのよ?あっ!まさか催眠暗示系?今の私は既にかかっているとか!」
「…」
まるでクイズの答えを当てようと必死になる子供のようにはしゃぐリオ。
少しからかってやるか…。
「惜しい、オレのは眼のスキルだ」
「瞳力だったのね!」
「そして万華鏡だ」
「写〇眼!?」
「しかも生け贄モンスターなんだ」
「サク〇ファイス!?」
「真也ガイ・アイは透視力…」
「やめろ、へんたーーい!!」
…やけに詳しいなこいつ。
「まあ、フツーに嘘だけどな」
「嘘かよ!!」
いや、分かれって…。
真也は仕方なくホントのことを言う。
「オレが紙を手に持つのをやめた後に、なにもしていなかったのに汗かいていたことに気付かなかったか?」
「そう言えば、ハンカチで拭っていたわね。ふざけているのかと思ったわ」
「あー、簡単に言うとだなオレの最強の力ってのは『自分の攻撃力をゼロにする』っていうものなんだよ」
「…………………………………………はっ?」
今度はリオが訳が分からなくなり沈黙し、そして疑問符を発する。
「まっ、そうなるわな」
真也は想定していた反応に、腕を組みながら「うんうん」と頷いた。
「えっとぉ、攻撃力をゼロにするのね」
「まあな」
「ってことは、相手の魔法やら超能力を打ち消せるの?」
「いや、そんな神様の奇跡すらぶち殺せるような代物じゃねえ。あくまで自分のものだけだ」
真也は自身の惨めさを再認識させるような会話に嘆息した。
道路側には濃い緑色のちょうどよい高さのガードレールがあったので真也は腰掛けることにした。少女は立ち止まったまま頭の中にクエッションマークを浮かべ顔を難しくする。
「ありえないわ」
これも想定内。
真也の考えが及ぶ範囲の台詞をとことん放ち続けるくらいリオは動揺していた。
「まぁ、世の中にはありえないけどありえることなんてザラだぜ?」
そんなリオの胸中を知ってか知らずか、真也はまるで他人事のように軽く言う。
真也の楽観的な態度に何で自分だけ固くなっていたのだろうか、そしてこいつは何でこんなにも落ち着いているのだろうか、天然なのか?むしろ私のほうがバカみたいじゃないかとリオは思い、少しリラックスして本題に戻ろうとする。ただハードからソフトへの移行の反動か、今の少女の姿は勢いを失ってしまったように小さく見えた。
「…、確かストーカーが使った最強の力は大岩を操るものだったわね」
「そうだな。…って!そうなのか!?知ってたなら先に言いやがれよ!」
真也はまくし立てる。
しかしリオはそんな真也を構わず弱々しく言う。
「あんたが…、あんたがストーカーじゃないのは分かったわよ。でも…じゃあ、じゃあ誰がストーカーなのよ!誰…なのよぉ……」
「…………っ、」
ああ、そうだったと思った。真也は思い返す。
さっきまであんなにオレをストーカーにしたがっていたのも、早くこの事件を解決したかったからだったんだ。
他に誰もいない空間で真也は俯く小さな女の子を盗み見る。
いくら偉そうに強がったって彼女も一人の女の子でしかないのだ。
どこの誰とも分からない奴に四六時中も付け回されたり、襲われたりするのは怖いだろう。いや、怖かったに決まっている。
真也は左手の拳を強く握り締め自己嫌悪する。
「(そんな単純なことにも気付かなかったなんてオレは最低な男だ。ロリコンとしても失格だ)」
異世界で何人もの女の子を幸せにしてきたオレが、“たかが”現実の、それもこんなか弱い女の子すら助けられないなんて聞いて呆れちまう。
真也はそんな思いこそあれど、まだ未熟であり精神的にも幼かったために目の前のその小さな体を包みこむことはおろか、触れることすら出来なかった。
それでも真也は一人の少女を出来るなら全力で、出来ないならあがいてでも守ってやりたい使命感と衝動が混じったものが爆発的に沸き起こった。
「聚楽園…」
「ふぇ…?」
真也は少女に向き合う。
可愛らしい小動物のような顔をする彼女は、今までの威厳はどこへやら半分泣きに入っていた。
「(くそが…………)」
同じ美少女でもどうせ見るならとびっきりの笑顔が見たい。
真也はそんな願望が胸に芽生え、そして少女の笑顔を奪った何者かに激しい怒りを覚えた。
だからこそ、言う。
「同じ中二病患者としてストーカーなんて奴は許さねえ」
吠えるように、唸るように言う。
「でも、姿とか分かんねーし、まだお前はストーカーの驚異に怯えることになっちまう」
疾風のように、迅雷のように言う。
「仲間だ。オレこと遠藤真也は今からお前の仲間になってやる」
怒るように哭くように言う。
「たとえどんな時でもお前を守ってやっから!どんなピンチにも駆け付けてやっから!…だから!……だからよお!!」
少女はしっかりと顔を上げ少年の言葉を待つ。
「…そんな顔、すんなよ」
「…っ!?」
少女は体を強張らせるように驚いた。限界だったのか、自然と涙が溢れ出た。
「ふっ…ふざけんじゃないわよ!」
「のわぁっ!」
少女は強引に目元の涙を手の甲で拭き取り叫ぶ。その大音声に真也はびっくりして変な声を出してしまう。
「誰が誰を守って?ふふっ、そんなよわゴシでなにが出来んのよ」
「わっ、笑うな!出来ることはあるし、出来ないなら頑張るだけだ!」
少女は痛いところを突く。それは怒りからでなく、泣きっ面をもってして得た嬉しさからである。
「いいわ分かった。仲間…ね。仲間は対等が前提よ。あんたの窮地は呼んでくれればチャッチャとご主人様が救ってあげるからよわゴシはせいぜい私のためにご奉仕しなさい!」
「なっ!それはひでぇぜ聚楽園!!」
「…びなさい」
「ほへっ?」
リオの提案した待遇の改善要求を真也が申し立てようと声を張り上げるとリオが何言かを口にした。
「…梨緒」
「どうしたんだ?おま…」
「なっ、名前で呼びなさい!!仲間とは対等なものなの、分かった真也?」
リオは林檎顔で、真也から目を反らすように言う。
「ヱ〆仝¥☆@%Дф∠!?」
真也は沸騰した。今ならば臍どころか爪の先で氷水を一瞬にして水蒸気に変えられる自信がある。
「いっ、いいのれすか?」
随分の奮悶の後、再確認。しかし呂律が回らない。
「いっ…いいに決まっているでしょ?」
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………リオちゃん。」
刹那、真也は鳩尾に回し蹴りを喰らった。
言葉にならない呻き声を上げながら悶絶する哀れな真也は、サッカーでレッドカード級の反則行為を受けたプレイヤーの気持ちになって地面を転げ回った。
「『ちゃん』はつけるなああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
少し晴れたように見える翠色の空間で、一人の少女の魂の叫びがいつまでもどこまでも響いた。
「…ふっ、なるほどな」
その二つの光を少し離れたビルの屋上から眺め見る影がいた。
影は一言呟くと闇へと消えていった。
中二病患者はどこまでも中二病患者でしかないのだ。