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Ed1 Quickening of the fixer~そして始まるダラダラ感への感謝~

「…あっ、やべえ」


午後七時十三分現在、家の近くの交差点の信号待ちで真也は忘れ物に気付いた。

この場所はあそこから三十分も離れたところ、真也は戻るのめんどくせえなと思った。

そして同時に『対戦デュエル』のことを思い出した。


真也はクラスメートである鏑木亮太にビル集合地の北西に位置する廃ビル村という場所に呼ばれ戦った。

戦ったといっても、単純な喧嘩けんかではない。最強の力キャパシティを使用した、中二病患者ヴィクターによる対戦デュエルである。真也の力はクソよわゴシなものではあったが、激闘の末に辛くも勝利したのだ。


「勝利…っていうのか?」

真也は『中二病大戦ヴィクターウォーズ』についての詳細をほとんど知らない。それは何度も言うが、説明のときに真也は気が動転しててほとんど話を聞いていなかったのと、話す側である『運営委員会ディレクター』の男が仕事を怠惰したからである。

だから、『中二病大戦ヴィクターウォーズ』の概念において本当の意味で勝利したのかは疑問なのである。


「はぁーっ、しょうがねえ走るか…」



そうやって真也は夜闇の中、来た道を駆け戻って行った。






「フフッ、面白いな」

茶色い明かりが部屋を包む、全体的に暗いイメージをもたらす異様な部屋があった。

そこは壁が見えなくなるほどの本棚に覆われ、あとは部屋の中心から少し後ろに下がった位置に巨大な木製のデスクが置いてあるという家具配置になっている。

デスクの上には無造作というよりは乱雑に、例えるならゴミ捨て場のように本や数台のノートPC、それにお風呂に浮かべるアヒルの玩具や折り紙に紙粘土といった類いが置いてある。それとはうって変わり、本棚は貴族のように粛然しゅくぜんと軍隊のように整然せいぜんと本が並べられている。

その対比は偶然の産物だとは思うが、魔術的意味を込めて、ある法則に従うように敢えてそうしてあるようにも自然と感じられるから不思議である。


そんなアダルトな雰囲気を醸し出すこの書斎しょさいのような部屋には一人の男が鎮座していた。

その男はデスクとセットになっている社長椅子で目の前にあるノートPCのディスプレイを眺め見、心底愉快そうにほくそ笑んでいた。


男はたたずまいこそ高齢に見えるが、顔はそれなりに端正でまた肌のツヤもよい。また髪形は肩甲骨けんこうこつくらいにまで達するほどの長髪で髪色は白である。しかし、白と言っても枯れ切ったような透明感が混じる白髪しらがなどではなく、南極の白熊を連想させるような雄大感を人に与える優美な白髪はくはつと言ったほうが正しいような気がする。

それだけなら二十代、…いや十代後半にも見えなくもない。


しかし、彼のそれ以外の身なりが圧倒的にそれをぶち殺していた。


体に身につけているものは囚人服に見えるくらい、材質の布は無地であり相当な粗悪品であった。長袖長ズボンのつもりなのか、上半身も下半身もその布を用いており、寸法もテキトーで質素な作りの服は所々がほつれていた。また、優美である白髪には無駄に二桁単位のピン留めを付け、首にはそれぞれ違う品のアクセサリーをいくつも下げ、足は裸足の上に超新品のバスケットシューズを履いている。

男のこのなんとも表現できないような姿は、ただの狂人か、もしくはまるでこの男が魔に魅入られているのではないかと人に思わせてしまう。


コン、コン。部屋の扉が二度叩かれた。

「フム…、」

男は楽しみを突然の来訪者によって水をされてしまったことに少し不愉快になったのか、しばらく顔をしかめていたがやがて


「入れ」


中に入るように促した。


「失礼します」

ガラッ、扉を引いて現れたのは部屋の中の人とは姿身が対照的な男であった。

男は短髪でつややかな黒髪を生やした青年で、少し寝癖のついているその髪形は逆に清潔感を出している。贅肉も筋肉もなさそうなすらりとした体には葬式でも行くのか?ってくらい真っ黒なスーツを着ていて、顔にはその姿に合わせるように黒縁メガネを掛けている。

三十代後半と思わせる微妙なシワを寄せる彼は目を吊り上げていた。


「何だ、君か…。何の用だ?」

白髪ロン毛の男はめんどくさそうに口を開く。

「『何の用だ?』とはご挨拶だな、運営委員長プレジデント

その態度に男は気が触ったのかさらに怒りの形相ぎょうそうになる。


その男の姿は奇妙だった。


それは別に、その男が全身を漆黒に統一しているからではない、また態度や今の顔付きが高圧的だからというわけでもない。というか、それならば“まだ普通”である。


男の奇妙な根源はその背中にあった。いや、“生えていた”と言い表す方が妥当かもしれない。


この四角い部屋の扉側の壁面をほぼ覆い隠すように男の背中から七~八メートル程の“四つの紅い翼”が生えていたのだ。

男の背中に存在する四つにして左右二セットの紅い翼は、威嚇いかくするように部屋を灼き尽くさんばかりの勢いを撒き散らしている。

そんな男の姿を気にせずあくびする白髪ロン毛の男、彼は紅い翼の男に『運営委員長プレジデント』と呼ばれていた。


「ふぁあ、どうでもいいけどその羽しまって。本が燃える」

「…、ふん」

全く動揺しない運営委員長プレジデントに飽きが回ったのか、紅い翼の男は言葉に従う。

収納するというよりも、削除したかのようにその翼は一瞬で消え去った。男の背中に名残は全く見られない。


「てかよ、『何の用だ』はこっちの台詞だ。お前が呼んだんだろうが?」

「君と会話するたびに比例するように口が悪くなる謎は未解明だが、そういえばそうだったな。私は君を呼んだ」

運営委員長プレジデントの口ぶりが一々カンに障るのか、男は度々イライラしていた。しかし耐え忍ぶ。

「んで、用事って何だ?」

茶色い明かりが統べるぼんやりとした空間は、扉から差し込む廊下の白い光の登場で少し掻き乱されたものになった。白い光が照らすのはほんの一辺に過ぎないのだが、わずかな量のミルクで紅茶が白く濁っていくように、それだけで全体の明るさが少し増したように思えてならないのだ。


「まあ、たいした用じゃないんだけどね、」

運営委員長プレジデントは前置きをする。

「そうだ、とりあえず『永久雷撃フォーエバー』の彼は今どうしてる?」

木偶の坊でくのぼうの副委員長なら、『運営委員会ディレクター』を何人か連れて「関西に行く」とか言っていたぞ?」

「…フム、副委員長あれを木偶の坊呼ばわりとはたいした御身分だな」

運営委員長プレジデントは上司を小ばかにする男の態度に注意の意を込めた言葉を漏らす。しかし、それは怒っているわけではなくむしろ状況を楽しんでいるように見える。


「ふん、勘違いするなよ」

それでもその言葉に全く動じない男、いやそれどころか運営委員長プレジデントの言葉を挑発と受け取りさらに勢いが増したようにも見える。

現に、男は右足を一歩踏み出し乗り出すような体勢をとっていた。男は続ける。


「アレはあくまでも暫定だ。それに俺はあんたの下らない野望に荷担するつもりは…」

「分かっている、だからこその用なのさ」

「……ちぃっ、」

運営委員長プレジデントと呼ばれる白髪長髪男の顔には純粋な子供の笑顔にも、薄汚い大人の笑顔にも見て取れる満面の表情が浮かんでいた。

その運営委員長プレジデントの前に立つ男は、自分は目の前の奴の手の平の上で踊らされていると改めて気付くと、やり切れない感情を発散するように強く地面を踏み締めた。そして諦めて目の前の奴の話を聞くことにした。






「だああっ!ギリギリセーフ!はぁっ、はぁっ…」

教室の扉をバン!と思いっきり真也は開いて、チャイムの鳴り終わりより一秒フラット早く飛び込みなんとか遅刻をまぬがれた。

翌日、真也は寝坊したのだ。



………………

昨日、カバンを取りに戻った真也は石澤達のことも忘れていたと同時に気付き、瓦礫の上で添い寝しているむさい男どもを乱雑に起こしにかかった。

もう、ホームレスが板についたような姿のこいつらは目を覚ますといきなり真也から飛ぶように離れた。鏑木と勘違いしたのだろうか?少し震えていた。

真也は悪戯しようかなという衝動にもかられたが、あまりにもビビりようがマジなため逆に興が冷めた。取り敢えず真也は、事の結末(『対戦デュエル』のことは除く)とその原因とこれからのことについてさとしてやった。

意外と向こうも懲りていたらしく、いじめの言及にも鏑木の待遇に対する意見にも素直に応じてくれた。


「(おっ!今日は全員いるじゃないか!)」


応じてくれたおかげなのか、今このクラスは確実に変わっているとオレは思えた。


真也は辺りを見回してみた。

廊下側の先頭では、全て分かっているような顔でニコニコと真也のぶざまな姿を眺め見る委員長(♂)がいて、その後ろの方には今日は珍しく遅刻せず早く来たのか、机に伏せてクークーといと可愛らしく寝ている琴音がいて、教室の真ん中には、もう昨日の恐怖なんて家で寝て忘れちまったのか?ってぐらいやかましく喋り、オレの遅刻をバカ笑いしながらけなすコノヤロ…じゃなくて石澤達がいて、そ

してその少し後ろには石澤達に同調するように俺を小ばかにするクソヤロー!そろそろぶっ飛ば……、じゃなくて吉村達がいて、その中には楽しそうに会話している鏑木がいた。他の皆もどことなくいつもと良い意味で雰囲気が違った気がした。


もしかしたら世界の外面はいつも通りかも知れない。


他のクラスの輩がこの光景を見ても特に変わったとは思わないだろう。


それでも内面は変わった。

そうだと信じたい。


ただ、これは単なる気休めなのかも知れない。

まだ、オレの知らない何かが潜んでいるのかも知れない。



でも、それでもいいじゃないか。今が平和ならば。


これが長く続かない平和だというのならば、その時になってまた、平和のために奮闘すればいい。

今感じている平和がオレの妄想で、オレの知らない何かが潜んでいるのだというのならば、オレはこのクラスをもっとよく知るように努めればいいだけのこと。


「さてと、席に着くか…」

真也は先生に挨拶と、遅刻ではないがそれに匹敵するほどの遅さで登校したことへの謝罪を済ませると窓際の一番後ろに座る。


中二病大戦ヴィクターウォーズ』に『対戦デュエル』に『戦意皆無よわゴシ』。

この三つの単語はオレの昔の日常を超常のものにしてしまい、超常を日常に変えてられてしまった。

この事実はオレが今感じているこの平和が制限的擬似的なものであることを暗に証明している。


でも、


それでもいいじゃないか。



なぜならオレは…、

平和っていうのは、いつか訪れるこの平和が壊された未来を想像しビクビクと恐れることではない。

不確定な未来のことなどより今を大切に生きることを第一にする、ある意味刹那主義的な思考なのではないだろうか?と思うからだ。


「ふぁー、日差しが気持ちいいなあ」

真也は机の上で腕を組むとその上に頭を置いて目を閉じた。







「フフフ…」

妖しい雰囲気を放ち続ける茶色の淡い光のみが支配した書斎のような部屋で、一人の白髪の男は静かに笑っていた。

部屋には先程までの廊下の白い光はもうなく、この男一人が社長椅子のようなものに凛然りんぜんと座っていた。

紅い翼を持つ男はこの白髪の男の用事の内容である話を全て聞き終えると「怪物め…」と吐き捨て扉を乱暴に閉めさっさと出て行ってしまったのだ。


「フッフッフ……、カイブツねぇ?」

運営委員長プレジデントは笑う。

そして突然立ち上がり部屋をぐるりと歩き出した。静寂が支配する部屋にトントンという冷たい音だけが響いていた。


「あの男は私の計画プロジェクトを野望と称していたが、アレはそんな大それたものじゃない。切なる願いとでも言ってほしいよ」


そしてとある本棚の前に立ち止まると一つの本を取り出した。


「まぁ、その成就のためなら、私はその“カイブツ”にでもなれるがな…」


運営委員長カイブツは笑っていた。




一つの大戦が始まり幾つもの対戦が終わる。

純粋の混沌は思惑の緻密に喰われるという演技ショーが始まる。

そして、平和の対極が少しずつ動き出す。



どうも、あとがきでは初めましてです。ハヤテサM@-です。

ちょうど第一章が終わったところ、単行本的に言うならば第一巻が終わったところなのであとがきを書かせていただきます。


さて、この度は『よわゴシ。~中二病大戦紀ヴィクターウォーズ~』を、初回投稿からずっと見続けてくれている心優しい方々、「ありがとうございます」

わざわざこんな初心者の落書きみたいなものをお気に入りにして下さった名前も知らない女神のような方々、「恐縮です。これからもどうか見捨てずにお願いします」

そして、たまたまクリックし間違えてあまつさえ最後まで読んでしまったご不幸な方々、「お見苦しいものをすいません。それでも最後まで読んでいただいて顔が上がりません」


 この物語はそもそも偶然生まれたものなのです。

本当は以前から暖めていた『高校生のバトルもの』を書くつもりだったのですが、ハヤテサM@-は臆病な豚なので本命をめちゃくちゃに批判された時のショックは耐えがたいものがあるのです。例えるならザキです即死です。


という訳で、練習として何か書こうと考えました。

その時、本当にたまたま近くの友人が中二病の話をケラケラしていて、そういえば以外と『中二病』を題材にした小説ってないよなぁと思って書くことにしたのでしたー。



……で、何で大戦なのかと言うと。。。


すいません。しがないハヤテサM@-はくそ素人なので、このテーマに対しバトルもの以外の小説は考えられなかったのですぅ。

さらに言えば、当時(私がこの小説を書こうと決意したとき)の私の中二病に対してのイメージが「自分は最強だ!地球を壊すぞフハハハハ」みたいな狂った中学生っていうものだったのです。つまり邪気眼の拡大解釈っぽい要素を含む中学生です。



でも、改めて調べてみると中二病は実は奥が深いものでした。


もとは、あるラジオ番組から生まれたものなのですが、現在とはその意味するところや定義は異なる部分もあり、現在でさえも様々な考え方があるので一概に「中二病とは○○○だ!」とは言えないものなのです。だから作中で取り上げている中二病の概念(OP1を除く部分)はあくまでもこの物語の中においての中二病の概念なので、これを読んでも概念を鵜呑みにしないでください。むしろ懐疑心を持って別のものと考えてくれるとありがたいです。


主人公、遠藤真也は天然バカです。

でも、天然バカだからこそ私はこいつを愛したいです。


今回取り扱った内容は主に『いじめ』についてです。

『いじめ』は自然界のメタンガスのように社会があれば必ず存在するものだと思います。

だから、「この学校にいじめなんてない」とかかんとか言っている校長は大嘘つきで、ゆえに真也の平和への願いは叶うのが難しい儚いものなのです。



もしかしたら真也は自分の願いが無謀であることを理解しているのかも知れません。それでいて挑戦する彼は勇者であり、同時に中二病患者ヴィクターです。


中二病とは、突然変わった周りに対して、焦ったり無理をしたり鬱になってしまうといった状態といった意味も含まれると思います。


そして、そんなモヤモヤをぶち壊す最強の力キャパシティを得た中二病患者達かれらはそれぞれどんな思いを込めてこの大戦に挑むのでしょうか?



長くなり、すいません。

ではまた、次のお話で会いましょう。


         ハヤテサM@-

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