Ep4 Battle “COSMOS”~宇宙オタクが始めるアル妄想~
「中二病患者だと…?」
まだ、昨日見知ったばかりで馴染みの浅いその言葉は、しかし以前から知っていたかのようになめらかに口から出た。
《『最強の力』を有する者を『中二病患者』と呼ぶ。》
真也は大戦の要項にだいたいそんなことが書いてあったのを思い出した。
そして反射的に自分の左腕を中指が右肩に触れるように自分の胸辺りに持ってきた。
その動作により自然にめくれ上がった制服の袖から現れた物は悠然としていた。
まるで戦友を歓迎するように銀色を煌めかせるもう一つのヴィクターリングが。
「そうだ、中二病患者だ」
鏑木は真也に応えるように言う。
心細い程の弱々しい蛍光灯の光がそこの下に立つ鏑木を不気味に照らす。
「遠藤、少し話があってさ、なか…」
「良かった」
「…、?」
遠藤の話がまだ最後まで終わらないうちに真也は呟く。
脈絡のないその単語に不審感を覚え訝しむ遠藤。
その後に顔を下に傾けて「良かった良かった」と二言三言述べると前を向いた。
そこには素直に嬉しそうな笑顔が浮かんでいた。
「いやぁ、お前が中二病患者で良かった…、安心したよ仲間がいて」
「…………、」
鏑木はどこまでも純粋な表情を続ける真也に逆に気圧され、その発言に耳を疑った。
しかし同時に、鏑木は真也と同じように安心した部分があったのか肩の力を抜いた。
「良かったか!俺も良かったぞ!実は提案があってな!そだ!その前に能力教えてくれよ能力!遠藤の最強の力を!」
鏑木は興奮してまくし立てるようにそう言う。
「いやぁ、実はオレの最強の力さ…」
「うんうん」
「戦意皆無ってやつなんだよ」
「…………」
真也の告白に笑顔のまま固まる鏑木。
「…よ、よわごし?ナニソレ?ど…どんな能力なの?」
鏑木はしばらく固まってから能力の詳細について聞いてみようとするが、それでも名前から受けとれる印象に多少動揺しているのか、そわそわしている様子が見て取れる。
ただ、鏑木がそんな様子をしても真也は天然な性格であるためまったくもって気付かない。
真也は鏑木の言葉に反応して鞄からルーズリーフを一枚取り出した。
「戦意皆無はな、自分の攻撃力がゼロになる技なんだよ。ほら、こんな紙を全力でちぎろうとしても」
手に持ったルーズリーフをちぎるように力を込める。
何かを噛み切るように顎に力を入れ、顔にシワを寄せそして赤くほてる真也。その上、顔全体を細かく震わせている姿を見て、鏑木はそれが演技でないことを悟る。
「ずうぇんっぜんッ破れねえんだよなぁこれが!」
元気一杯言い放つ。
そんな彼に『ネガティブ』なんて言葉は一切存在しなかった。
「仲間になろうぜ鏑木!」
なぜなら彼には友達がいたから。
「ところで鏑木、お前の最強の力は何なんだ?」
「…、」
真也の問いに黙りこくる鏑木。
「どした?鏑木」
「…………」
鏑木の無言に真也は今朝方感じたような違和感という名の不審感を覚えた。
「ふふ…」
「あっ?」
「ふっふふふ…、」
すると、今度はうって変わって笑い始めた。
「ふはははははははははははははははははははははは!」
「おっ、おい。おま」
「『蒼い流星』」
「なっ?うわあっ!?」
突如弾けるように大きく笑い出した鏑木。それを気遣おうと真也は声をかけたのだが…、
「なんだよ今の…?」
ドカガガガ!と鏑木の後方の壁に、空から現れた無数のラグビーボールくらいの大きさの蒼い光弾が着弾したのである。
着弾した壁は半壊し、大小様々な破片が四方八方に散らばっていた。
「大丈夫か?かぶら…、って!?」
真也は初め鏑木の安否を確認してから何かを発見した。
先程の青い光弾が壁に着弾した際、その爆風によって壁にオブジェのように寄り添っていたゴミの山は崩れてしまったようだった。
雪山の雪崩れのように、もしくは火山の熔岩のようにゴミ山が崩れていく中から、一,五メートル強の何かが姿を現した。
「いっ…イシザワ!?」
真也には何が起きているのかイマイチつかめない。
ゴミ山の中にはクラスメートの石澤がいたのだ。辺りをよく見渡すとその取り巻き二人もいる。
三人は何かに殴打されたかのようにボロボロで、場所によっては血が固まっているところもあった。
「大丈夫かよ?おい!?」
真也は三人の生死を確認するため首の頸動脈に自分の手を当ててみた。
「…………、ふぅー」
脈を打つ振動が伝わり、安心してその場に腰を下ろす真也。どうやら過度のダメージからくる痛さに気絶しているらしい。
しかし同時に何故彼らがこんなところで深手を負った状態で寝そべっているのか疑問に思った。
この辺、『廃ビル村』はその人の少なさから暴力団関係のアジトとして使われている噂とかあるから、そいつらにちょっかいでも出して返り討ちにでもあったっていうのが関の山だろうか?
どちらにせよ、このままっていうのも好ましくはないので彼らを起こそうと思い、鏑木に手伝ってもらおうと真也は鏑木の方を振り返った。
「…………」
「かっ、かぶらぎ?」
そこには、無言で溢れんばかりの笑顔を振り撒く鏑木の姿があった。
「…………、…!?」
真也はしばらく見ていたが、やがて気がついた。
鏑木がヴィクターリングを誇示するように、上下左右様々な方向から舐めるように眺めていることに。
そして思い出す。昼のことを。
『今日の鏑木、あきらかにテンションが違うのよ』
『鏑木はフツー他の人は全く話さないのよ』
『石澤君と他二名が無断欠席しているのが原因でしょう』
『つまり鏑木君は短時間の間に彼らを倒せるほどの力をつけたと推測出来るのです』
不審感に顔を強張らせる琴音。
いつもより挑発的な委員長(♂)。
気持ち悪いほどの違和感を吐き出していた鏑木。
その全てを統合した結果を真也は信じたくなかった。
「どうやら、中二病患者以外は最強の力が見えないらしい。何も分からずにバタバタと倒れていく彼らを見るのは痛快だったよ」
鏑木は口が裂けるような満面の笑みを見せ、返り血でも舐めるように舌で唇を湿らせた。
「鏑木っ…」
怒りのあまりぶん殴りたい衝動が顕れたが、それとは裏腹に得体の知れないものに対
する恐怖で腰がすくんでしまい立ち上がれない。
真也は大戦なんてしたくなかった。
「そうだ、お前が言って俺が言わないのはずるいな。」
いつまでも日常を謳歌していたかった。
「俺の最強の力は『宇宙戦士』、偉大なる大宇宙の力を扱える能力だ」
それでも世界は、真也を置き去りにして進行していたのだ。
そして日常は超常へと移っていった。
日差しは完全に死んだのか、今や空に橙色はなく空しいほどの闇が支配していた。
廃ビルが壁となり周囲の光がほぼシャットアウトされている。ただ、廃ビルに設置されていたいくつかの蛍光灯の光により完全な闇があるわけではなかった。風前の燭のようにささやかな光を零す蛍光灯には蛾が数匹群がっていた。
それが弱く照らすのは二人の者。
彼らは対峙するように向き合っていて、互いの間には二メートルほどの距離があった。
ただ、対峙すると言ってもその片割れである真也は恐れるように顔を強張らせしゃがみ込んでしまっていた。
それを見下ろすように笑顔で立ち尽くすもう片割れである鏑木が少し大きく見えた。
「『宇宙戦士』だと?」
やがて口を開いたのは真也。
「ま…さか、お前が石澤達を?」立て続けに質問する真也。
その顔は疑問と驚愕で歪んでいた。
「愚問だな、遠藤」真也の確認を鼻で笑い、「俺がやった。俺の最強の力で仕留めた」鏑木は吐き出すように肯定した。
「おまえっ!」
悪びれない鏑木の姿勢に真也は頭にきてゆっくりと壁に手をつき腰を気にしながら立ちあがる。足が震えて上手く立てないのだ。
「仲間…、俺も初めお前を仲間にして大戦を勝ち進もうと思ったが、やめた。『戦意皆無』?攻撃力ゼロ?」
鏑木は普段見せないどこまでも邪悪な笑みをしていた。
「そんな雑魚はいらねえ『蒼い流星』!!!」
先程のラグビーボールくらいの大きさの蒼く光る球体が四つ鏑木の上空から現れ、それがカーブを描くように落下した後に鏑木の前方向にいる真也へと向かっていく。
「…くそっ!」
足の震えで立つことすら出来ない真也が、動くことは無理である。真也は不自由な自分の足に舌打ちすると、体を支えている壁への手を離した。
支えを失った体は自然と倒れ込み、辛うじて蒼い流星をかわす。
「ぐあっ!」
ただ、ろくに受け身を取らずに後ろから倒れてしまったので背中に大きな衝撃が走り、肺に溜め込んでいた空気のその大部分を吐き出した。
真也を素通りした蒼い流星は標的を失い、そこらの廃ビルの壁面に着弾する。拳銃を発砲したような破壊音が谺し、その壁面をえぐり取る破壊の余波の粉塵が真也を襲った。
その威力を垣間見、冷や汗が溢れ出る真也。
「ぐっ…」
「ははははは!すげえっ!やるじゃんもう一発かわしてみるか?」
そんなびりびりした雰囲気な中、一人だけ空気を読めずに盛り上がる鏑木。
真也は刮目した。
そこにあるのはどす黒でしかなかった。
そのどす黒はその周りの暗闇を喰らい潰すように広がり、その偉大さ、強大さを誇り高ぶるように顕現している。それはまるで恐怖を煽るように挑発しているようにも見える。
「…ン?」
しかし、真也はその中に対極な黒である氷水のようなものを見つけた。
邪笑顔で満ちる表情の中、一瞬だけ見せた真逆の感情のを押し込めたものである。
いわば九十九,九パーセントという名の完璧から零れ落ちた普通なら気に止めることもないカスってところだろうか。
しかしそんなカスだが真也は、
勇気をもらった。
いや、勇気とは言えないかもしれない。とはいえ真也はそのカスから、自身から湧き出した『身勝手』と言う名の『《使命を遂行する》という衝動』を叶えるための原動力を貰ったのだ。
それを便宜的に勇気と呼んでも罰は当たらないだろう。
少なくともこれから起こる“対戦”の勝敗には関わらないと思う。
真也は今度は震える事なく自力でしっかりと立った。
「ほう、立ち上がったか。やるね、でももう絶望しかないだろ?遠藤。お前としては俺に仲間になって欲しかったか?安心しろ遠藤、そんなことも忘れるくらいボロボロにしてやっからよ!ふはははは!」
「鏑木…」
完全に落ち着きを取り戻した真也。彼はどす黒い何かに向かって声を掛ける。
「なんだ?さすがにボロボロは嫌か?どーしても仲間になり…」
「勘違いしているようだが、仲間にはならねえよ」
「はぁっ?」
そしてそこからの間違い訂正。
「仲間にはならねえ。なぜならもう、俺らは仲間だからな」
先程の弱々しい声と態度はどこにもなく、そこには別人がいた。威風堂々と起立するその姿はここ数分で身長がメキメキと伸びたとも思わせる。
「だから仲間として、同じ仲間を傷つけたことを許さねえ」
そしてその発する一声一声は一つ一つが爆発のように轟き響いた。
「仲間を傷つけたことを許さないだって?」
真也が半屍化している倒れ込んだ石澤達を指差しながら放った発言を、失言とでも言いたそうに不満を漏らす鏑木。
「こいつらが俺をバカにして、蔑み、剰え暴力をふるっていたのを知ってんのか?」
「知ってるさ、いじめられていたことだろ?だが、それでも…いやだからこそ、オレは仲間を守るためにお前を止める!」
「止めてみろ!雑魚が!」
真也の覚悟を持った叫びは、鏑木の怒りを連鎖爆発させた。そして互いの思いを言った後、数秒の沈黙が現れそして、
「対戦」
鏑木が静かに開戦の合図を告げた。
「ん?」
鏑木の『対戦』の掛け声に反応して、両者のヴィクターリングからオーラのような翠の光が現れたと思ったら、それが拡散するように周囲へと広がっていった。
「(まぁ、いーや。それよりも…)」
真也は考えた。
あいつの技の蒼い流星、あれなら手頃な棒で打ち返すのは無理にしろ、打ち落とすことは出来るんじゃねえか?
現に先程の攻撃は、長年手入れが行き届いていなくて脆くなってしまった壁は壊せても、錆びた鉄柱はびくともしなかったからである。
「(…あれだ)」
真也は鏑木が先程壊した瓦礫から一メートル弱の鉄パイプを見つけた。先端のパイプにカーブがかかっているありがちなタイプである。
「何っ?…あぁ、ふふっ」
鏑木は真也が後方の瓦礫へと下がったことに対し訝しむが、意図が分かると子供のかわいらしい抵抗をほほえましく思うように、一瞬不敵な笑顔を見せる。
「(…っ、今だ!)」
次いで鏑木が口を動かそうとしたのを見て、一直線に走った。
鏑木に辿り着くまでに恐らく一度だけ出くわす蒼い流星を自分が走るルートの邪魔をするもののみ打ち落とし、そこまで出来なくてもせめて受け流し、その勢いで鏑木を直接拳で殴ろうという寸断だ。
しかし、鏑木が放ったのは真也の思惑とは懸け離れたものだった。
「『紅い彗星』!」
「…なっ!?」
思わず立ち止まってしまった。
先程のように上空から現れたのは、しかし先程と異なり巨大な紅い岩だった。その岩はビルとビルの間の通路の横幅を完全に埋め尽くすように、上空から真也に向けて直線最短距離で進んで来た。だが、これならまだダッシュで切り抜けられるかも知れない。
そう思い、大地を思いっきり蹴っ飛ばし翔けた。
「『蒼い流星』!」
「くそっ、やべえっ!」
しかし再びの停止。
今度はあの蒼い流星を鏑木は七つ発生させ放ってきた。
「同時に放てんのかよ!」
鏑木の反則技に対しブーイングを吐き、こいつを完全に避けるための打開策を模索していると廃ビルの壁にひびが入っていることに気付く。
「でりゃああああ!!」
恐らく先程の後方に着弾した蒼い流星の暴発の余波によるものであろうか。
ガンッ、ガン!と真也はほぼ反射の要領で五回ほど鉄パイプでぶっ叩くとボロっと壁が崩れ、直径一メートル程度の穴が開いたのを見ると即座に体を丸めて飛び込んだ。
その一秒後、今まで真也がいた所に廃ビル両方の壁をビリビリと震わせる小爆発が起こっていた。爆発が齎したその爆音と熱風の強さを自身の肌と耳を通して思い知った。
「成る程な。最強の力を有した中二病患者のことを『覇者』と呼ぶ意味が分かったよ」
何かを理解し、そして立ち上がる真也。真也は制服の金ボタンを外していくと、爆発粉によって汚れた学ランをその辺に脱ぎ捨てる。ついでとばかりにワイシャツの長袖を肘まで捲くり上げる。
「まっ、中には例外な中二病患者もいるけどな。」
真也の発言に呼応するように鏑木は真也の開けた穴から中を覗きながら言う。
「つかよ、強いのは分かったが、あまり建物とか壊しすぎんなよ。後でダリィじゃねえか」
「はっ?お前、これの意味分かってねえのか?」
「意味?」
鏑木は手元のヴィクターリングを指し示しながら言う。真也は意味が分からないようだ。
それもそのはず、真也は『運営委員会』の説明を完全に上の空で聞いていたし、教える側である紅い翼のオッサンもその怠惰により、細かいところは省きながら話していたからである。
「まあ、いい。知らないまま逝くってのも可哀相だからな。せめてもの慈悲、冥土の土産にでも話してやるよ」
真也は新しい攻撃に対して緊張するように息を飲みながら構える。それとは背反するように鏑木はリラックスして話し出した。
「この『ヴィクターリング』は『対戦』を開始するのに必要な道具だ。『対戦』の意義くらいなら分かるだろ?」
「確か、相手の戦意を喪失させて最強の力を消したら勝利みたいな感じじゃなかったか?」
「その通り。そしてそのために重要なのがヴィクターリングさ。ヴィクターリングを持った状態で『対戦』の掛け声をどちらかが言わなければ『対戦』は始まらない。そして始まるとお互いのリングから共鳴発光するように翠色の波動が出る」
「さっきのやつか?」
思い出して言う真也。
その姿は時間稼ぎをしているようにも見えなくもないらしく、鏑木は嘲笑うようにそれを鑑賞しているが、実際本当に知らない真也にしてみれば二重の意味でラッキーな時間である。
「そう。あれはこの世界から因果孤立した空間を制限的に作り出すもので、半径二百メートルまで達している。それには『人払い』とさっきも言った『因果孤立』の効果がある。『人払い』は文字通りで『因果孤立』ってのは俺達の世界を模した別のものってことだ」
「……………………、修復する必要性がないってことか?」
真也はしばらく考えやがてその意味を悟る。
「対戦時に現れるこの空間は現実とは別次元のものなんだから、現実には全く影響がないんだよ」
「成る程、で最後に質問なんだがいいか?」
真也は渾身の駄目押し的時間稼ぎ。真也は承諾の返答も聞かずに強行して続けて話そうとした。
「ところで、なんで決闘じゃなくて対戦なんだろうな?」
そして仕様もなかった。
というか、話言葉じゃ絶対に伝わらない質問であろう。
「それは俺達が『決闘者』じゃなくて『中二病患者』だからじゃねえか?」
「…………、」
と思ったが、案外意図は伝わったらしく鏑木は答えてくれた。なかなか親切だ。
しかしそれゆえに、ただでさえスベる程のしょうもない質問だったのに、ツッコミなしでフツーに答えられたために真也は恥ずかしくなって酷く自己嫌悪した。
穴があったら入りたかった四日くらい。
「さてと、ブッ壊しオーケーの意図が伝わったところで、」
そんなことを気にしている真也はいつの間にか緊張感が抜けてしまい、
「この穴、俺には小せえな。広げるか。」
新たな攻撃に気付くのが一瞬遅れてしまった。
「『緑の光線』」
鏑木がそう言った刹那、
ブォン!と緑色の直系一メートル程の円柱の軌跡を残す光線が放たれた。
ゴガン!という鏑木の目の前の壁の穴を壊し広げる轟音で真也はそのことに気が付いた。
「なんのーっ!」
真也は地面を思いっきし踏みしめた。数多もの物理法則が犇めくこの世界で反作用の恩恵を目一杯受けた真也は間一髪でそれを避ける。
「ちっ、当たっていたら儲けものなのだが…」
「っはぁ、はあっ…。ったく、さっきから瀬戸際瀬戸際って寿命縮むぜ」
昨日の不幸の反動なのか今日の真也はやけに運があった。まあ、あくまでそれは不幸中の幸いでしかないのだが…。
それでも、オレ。こうして生きている。
どんなに不幸でも真也は、なによりもそれだけは感謝していた。そして鏑木の最強の力である『宇宙戦士』の攻略法を考え始めた。
「(奴の能力は『蒼い流星』に『紅い彗星』、そして今の『緑の光線』だっけか?)」
レーザービームね…。
即座に真也は鏑木がガン〇ムオタクであることに感謝した。
恐らくさっきの一撃はガン〇ムを参考にしたものであろう。もし本物のレーザー、ないしビームだったなら指向性と干渉性の高いコヒーレント光に焼かれていたはずだ。さすがの真也も光速(≒三十万キロメートル毎秒)を避ける程の横跳びは持っていないのだ。
「(…にしてもあれ…ずるいよな)」
鏑木は壁を粉砕することによって飛び散った粉塵が晴れるのを待っているようである。自身の攻撃で粉塵爆発を誘発することを防いでいるのだろうか?
『緑の光線』はよほどの威力であったらしく、さっきまでいた真也の後方の壁まで貫通して被害は別の廃ビルにまで及んでいる。
だが、一つ奇妙なことがあった。
あれほどの光線が放たれていたというのに、そこには破壊の傷痕しかなく焼け焦げた香りは一切しないのだ。
「ふむっ、」
カタン、と廃ビルに人が足を踏み入れる音がした。
気がつくと粉塵の霧はいつの間にやら晴れていた。真也は「よっこらせ」と立ち上がる。
「(くそ、『宇宙戦士』には三つも技があんのかよ!めんどいな、この上まだあるとか言わねえよな?…って待てよ?)」
真也はマインドハートでそこまで愚痴ると、あることに気付いた。
「(…最強の力が持っている技とは一つとは限らないのか?だとしたらオレの…)」
オレの『戦意皆無』にも『自身の攻撃力ゼロ』以外に技があるのか?
いや、正確には『自身の攻撃力ゼロ』を拡張理解した新たな概念と言うべきなのか?
鏑木の三つの技も彼自身の概念である『宇宙』…というか、SFに起因しているものが多いのだ。
「(攻撃力ゼロ…か)」
オレのは?と考えた時、実は一つ思い付いたことがある。
今までこの力の実験をしてきたが、未だ“自分の攻撃力”しか打ち消したことがないのだ。
つまり、何が言いたいかというと、
「(もしかしたら、“自分以外のものの”攻撃力もゼロに出来るんじゃねえのか?)」
真也は身構える。
鏑木は真也の前方三メートルまで近付いた。
「愚かだな、『緑の光線』を避けるためとはいえ、こんな閉鎖されている空間に逃げ込むなんて」
「(…っても、さすがに出来なかった場合のことを考えると、さっきのや、『紅い彗星』を喰らうのは痛そうだな)」
真也は鏑木の嘲笑には耳を貸さず、今いるビルの中を見回してゆっくり考えた。
「へっ、お前の攻撃は出が遅いんだよ!オラオラ!オレのフットワークには敵わねえだろ?二度も避けられてるしよ」
真也は馬鹿にするように反復横跳びをし始める。静かな空間の中で、反復横跳びの足が粉塵を蹴散らすザッザッ!という音が際立つ。
「ふうん、ラッキーはもうねえよ『蒼い流星』!」
「(しめた!)」
全ては真也の緻密かどうかは別として作戦だったのである。
鏑木は周りに、ぱっと見十個ほどの『蒼い流星』を生み出すと、それを四方八方に散らした。
「(…ここだっ!)」
真也はその中の一つに目をつけ、それを受けるようにしかしダメージをなるべく殺すように後ろに翔ける。
「『戦意皆無』!」
「何っ?」
真也は最強の力を使った。
鏑木は心底不思議そうに“何故、そこで?”という呆然とした表情見せていたが、『蒼い流星』が真也に当たる寸前に意図に気付いたのか「まさか、敵の攻撃力もゼロにすることが!」と叫んでいた。
「…、」
ドッジボールの玉を掴むように、真也は『蒼い流星』を身体全体で覆った。
「ぐっ…ふぅっ、」
しかし『蒼い流星』が身体に触れた瞬間、
真也は吐血した。
まるで、高速で突き進むボーリングの玉をノーガードで腹に受けたみたいな間隔を味わった。
もちろん、実際にそんな経験をしたことはないのだが、それを即座に想起させるような痛烈な一撃であった。真也はその瞬間、気を失ってしまった。
そのまま後ろにぶっ飛ばされ、縦に二回転半転がると猛烈な勢いで背中から壁にぶつかった。
「があっ…うっ、」
さっきよりも何倍もの反作用に恵まれた真也は背中全体に激痛が走る。あまりにもの痛さに真也は我に帰った。
気が飛んだせいで最強の力は自動的に解除されたようだが、喪失はしていないようだ。
「………………、」
ただ、そのことは真也に冷たい現実を突き付けた。
様々な世界で攻撃をゼロにする及び能力を打ち消すという力は存在する。
だが、『幻想〇し』や『ハマノ〇ルギ』、それに『エム〇ロ』とか『珍〇の力』とか『ア〇ュール』にしても、『ディス〇ル』やら『《魔法カード》攻〇封じ』だって、
“自身の攻撃力のみ”ゼロにする技なんてない。
「(…くそっ、何で、)」
何で俺のだけこんなにも使えねえんだよ!
真也は心の中で吠えた。もし運命なんてものがあったら、それを創った奴を怨む。まあ取り敢えずあの紅い翼は次あったら一発殴る。真也は心に誓う。
ていうか、あくまでも拡張する概念ってのは『戦意皆無』の方ってことなのか?
真也はほとんど圧倒的勝負な現実と日常に絶望していたが、邪悪な笑みを浮かべる鏑木を見て、やはり立ち上がらなきゃなと思った。
「ぐっ、」
「ほう、まだ立ちあがんのかよ遠藤!てか今のは自滅か?」
「鏑木、お前…、」
真也は傷を庇いながら立ち上がる、いや立ち上がらないわけにはいかなかった。
「…お前、何がそんなに楽しいんだ?」
「はあっ?そりゃ、こーやって戦うのがに決まっているじゃん」
真也の質問に鏑木は拍子抜けたらしく、「何言ってんだこいつ?当然じゃねえか?」みたいに呆れた顔をする。
その姿に真也は哀しくなり、そして口を開いた。
「さっき、お前の話を聞いたときオレはお前が戦う理由は報復とか復讐、仕返しみたいなもんかと思っていた」
「そうだよ、合っているよ」
「いや、お前がしてるのは…」真也はここで声を張り上げた、
「ただの、いじめだ!!!」
「………………、」
ここまで余裕という意味を込めて狂喜の笑みをばらまいていた鏑木であったが、ここで初めて真也に圧倒され、後ろに一歩下がった。
「お前がやってんのは幼稚だ、石澤達と変わらねえ!」
「だまれ!お前にオレの何が…」
「分からねえよ!」
真也は居直り強盗の如く怒鳴る。
それだけで鏑木の反論は簡単に一喝された。
「じゃあ、お前は分かるのかよ?」真也は一歩ずつ鏑木に近寄るように前に進み、「…オレや、石澤達の痛みがよお」
「だったら何だよ!俺がいじめられているときは誰も何も言わねえのに、石澤達の時は…あいつらを、仲間の味方をすんのかよ!」
鏑木は本音をぶちまけた。
真也はその時に完璧に知ったのだ。クラスに起きていた自分の知らなかったことを。
鏑木は石澤達にいじめられていて、そして、クラスメートは見て見ぬふりをしていた。なぜかは分からないけど、庇って自分がいじめの対象になるのを避けたかったからなのだろうか。
バカヤロウ…。
オレのバカヤロウ。
何で気付けなかったんだ?真也は自分の性格を呪った。そして目の前の奴を見て思った。
「お前、一つ勘違いしているようだがな…、」
「なんだよ」
「今オレ味方するのは石澤達じゃねえ、お前だ!絶対勝ってお前を救う!いじめとか、そんな下らねえもののないクラスに連れて帰る!」
「ほざくな!『緑の光線』!」
「ぐっ、」
今度はさっきと違い即座に反応して走って避けた。
「うおおおおっ!」
そのままその勢いで近くにあった階段を駆け上がっていく。
「なっ、なんだよなんだよ!いろいろ言っといて逃げるのか?分かったよやってやるよ鬼ごっこ、さて、『蒼い流星』」
「はぁっ、ちぃっ!」
走り上がる真也に『蒼い流星』が襲い掛かる。鏑木もゆっくりと階段に向かって歩き出した。
この廃ビルはビルというには今一つ小さく、ひと階層は中学校の教室の三分の二ほどの広さ程度しかないのに七階もあるので塔と言う方が正しいのかも知れない。
階段はこの塔の入口の右端に位置している。と言っても、真也達が入った穴は入口と真反対にあるのでそこからみたら左端に位置することになる。
「はぁっ、はぁっ…。っ!痛っ!!ぐっ…くっそ、」
「はははははははは!さあさあ逃げ惑えよ!オレを平和なクラスに連れて帰るんだろ?一秒でも長く生きろ!」
真也は持ち前の運動神経によって、鏑木と較べ多量の位置エネルギーの獲得に成功していた。
しかし、鏑木が無鉄砲に『蒼い流星』を上空にぶちかますため、真也は通常よりも階段を上る運動が困難になるためにかなりのスタミナを消費していた。
また、たまに流れ弾が真也の近辺に飛弾しそれの暴発によって時々吹っ飛ばされたりもした。でも真也は諦めず、倒れては立ち上がり倒れては立ち上がり階段を翔けた。
「ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁー、」
それを繰り替えすうちに真也は最上階である七階に辿り着いた。
鏑木はまだ到着していない。勘だが、未だ四階辺りであろう。
真也の作戦通りだった。
各階層には一階と同じような部屋があったが、
真也はこの七階に到着するまで一度も他の階層に寄らずに来たのだ。
二階から上の各部屋には空の段ボール箱などが山のように積まれていて、ちょうど人が隠れられるようなスペースがあった。
だからこそ、真也はそこに隠れず一気に最上階まで駆け抜けたのだ。
多分だが、鏑木がこの状況で最も恐れているのは“オレの逃走”である。
もし、空の段ボール箱の山の後ろに隠れていたのを気付かずに無視して上の階に行ってしまったなら、その隙に階段を下りられ、そのまま二百メートル以上鏑木から離れて『引き分け』される可能性もあるのである。
そうなってしまえば、鏑木は『対戦』を介さない不意打ちでダメージを受けたり、真也が別の強い『中二病患者』を仲間に引き入れ二人がかりで『対戦』を挑まれるというリスクを背負うことになるのだ。
それを防ぐために鏑木は、必ず全ての階層に立ち寄らざるをえないのである。
「(…、時間は稼げて二,三分が妥当か?)」
とは言っても、鏑木はわざわざ探す必要性もないのだ。
奴は強力な最強の力を有しているわけなのだからそれを用いればいい。
『蒼い流星』『紅い彗星』『緑の光線』、もしくはまだ見ぬ新たな技。
それをどれでもいいから部屋にテキトーに撃ち続ければいいのだ。運よければそれでも倒せるし、悪くても真也を逃がすことだけはないのだから。
現に今も何か技を放っているのか、轟音が鳴り響く。
それらは真也の身体全体を揺さぶり、心臓を早鐘のように打ち鳴らせた。そして小さなトラウマのように先程の一撃をおもいださせる。唾を呑む音が妙に大きく聞こえた。
真也が今在る最上階(=七階)には二階とかより、較べものにならない程のはるかな量の空の段ボール箱の山があった。
また、上に行けば行くほど雨漏りの影響を受けやすいのか、もしくは他の原因なのか、部屋全体的に脆さを感じさせた。
部屋の窓は全て割られていて、残っている格子も真っ茶色に錆びていて、壁は所々に断熱材が見えている箇所があるくらい崩れていて、床には幾重もの罅があった。
「(…ったく、上に逃げ込んだのはある意味失敗か?)」
真也は馬鹿らしくなってせせら笑う。
しかしそれも一瞬のこと。
次見た時の真也は真剣な表情で打開策を模索していた。
「(さて…、どーするか?)」
せっかく得られた貴重な二,三分だがそれでも絶対なものではない。鏑木が気まぐれで他の階層に立ち寄ることをやめ、一直線に最上階に来ることもあるのだ。
ウカウカしてはいられない。
「(打つ手があるにはあるが、どーもこれでは心許ねえ)」
それでも無策というわけではなかったのだ。
鏑木が放った『蒼い流星』がたまたま真也の近くで暴発し、それを結構まともに喰らってしまった時に、無我夢中に助かろうとして、
そして偶然、
あることに気付いたのだ。
でも、それは必勝法ではなくただの事象。鏑木に勝つためにはとてつもなく何かが足りなかった。
鏑木はもう最上階付近にいるのか、廃ビルの悲鳴がいちだんと大きく聞こえる。
必要以上に技を使っているらしく鏑木の狂喜の声も谺する。
「(…、あのヤロー派手にやりやがっ……て?…派手に!?)」
真也は今一度、自分がいる最上階を見回した。
「(…!!もしかしたら、…急げ)」
そう思うと真也は一目散に空の段ボール箱の山に駆け出した。
カツン、カツン。
廃ビルの悲鳴である、『最強の力』の技の暴発音が止み、急に静かになる空間。
そこに一際大きな足の音が聞こえた。
「見ぃーつけた」
その足音も止み、最上階に姿を表したのは鏑木である。廃ビルの破壊による粉塵が彼に雨のように降り注いだのか、彼の黒い学ランは黒に近い灰色に染まっていた。
「さて、もう終わりにしようぜ?遠藤」
真也は最上階の入口から一番遠い場所である、対角線上の最先端たる部屋の隅にいた。
部屋には壁から五十センチメートル離れた位置に低い壁のように空の段ボール箱が積まれていた。
ただ、真也と鏑木の前にはなく、ちょうど入口が二つある段ボール箱の囲いが完成している。
「にしてもよ、ここに隠れていたとは…なぁ」
鏑木は囲いの入口に足を一歩踏み入れた。
「一々各階層に攻撃すんのまじメンドーだったぞ?」
そしてまた一歩足を踏み入れる。
「まっ、こっちとしてはおかげで技にも慣れて威力と数が格段に増したけどな」
真也は入口に踏み込まない、険しい顔で押し黙っている。
鏑木は二,三歩進みちょうど囲いの中心で止まった。「なんなら今、試してみっか?だはははははは!」
鏑木は自分の実力をひけらかし、驕り高ぶるように笑う。
真也はここでようやく口を開き、
そして張り上げた。
「弱腰でもたくさん集まれば強い!!オレの真の力は弱腰な味方をたくさん召喚する技だったのさ!今だ!!『弱腰連合』」よ!!中心に向かって集中砲火!!」
「そうこなくっちゃな遠藤。最高純度の流星を四方八方にぶちかましてやる!うおおおお!!『蒼い流星四十砲』!!」
鏑木は真也の声に驚きしかし喜び勇んで聞き、先程のよりも一回り大きな『蒼い流星』を空の段ボール箱の壁に余すことなく撃ち、そして貫いた。
真也にこそその攻撃を持ち前のフットワークで避けられてしまったが、とりあえず敵の攻撃を未然に防げたので満足の笑みを浮かべる鏑木。
「ふっ、ふふ。たいしたことねえな、ザマアミ…」
鏑木は真也の顔を覗き見た。そして思わず言葉を途中で止めてしまった。
真也は、鏑木と同じように笑っていたのだ。
何故だ?自暴自棄にでもなったのか?と鏑木はいろいろと考えたが、答えはすぐに表れた。
バコン!!!と、
廃ビル全体が大きく震えた。地盤が崩れたような音がした。
「まさか…!お前遠藤!!…正気か?」
鏑木の顔は一気に真っ青になる。
「お前!!俺と心中する気か!?」
ピシッ、ピシピシ!!生きているように床の罅割れが増した。その罅割れは部屋の隅々から鏑木のいる一点に向かって走っていた。
真也の『弱腰連合』は鏑木の攻撃を誘発するためのハッタリであった。真也は最上階を破壊し六階に叩き付けることで相手にもダメージを与え、戦況をひっくり返そうとしたのである。
鏑木は部屋全体の尋常じゃない程の揺れに立てなくなりしゃがみ込む。
そこで真也は鏑木のもとに歩き始めた。
そして鏑木の一メートル手前で止まった。
そこには周囲から集まった罅割れの中心であり、既存の罅割れの密集特区にもなっていた。
真也は足を顔あたりまで振り上げ、
「バカ!!遠藤やめ…」
そして勢いをつけて振り下ろす。
「一つ反論すると鏑木、オレは心中する気はねえぞ。勝つ。そしてお前と一緒に平和な世界に帰る」
ガンッ!とこの『対戦』の終止符を打つように真也の足は床を踏み締めた。
「うわあああああああああああああっっっっ!!!!」
けたたましい程の鏑木の叫びを合図に最上階は崩れ落ちた。
「(さてと、六階に降り立……なっ!?)」
床が抜け落ち、身体が緊張するような浮遊感に包まれた真也は下を見て驚愕した。
「六階が…ない?」
鏑木が壊したのか?あるいは、今の崩壊の連鎖反応なのか?もしくはその両方なのかも知れない。
下を見ると、一階までの全ての階層が抜け落ちていた。
「(もしかして、こいつ下がないことを知っていたからあんな叫んだのか?)」
真也は共に落下する鏑木を見遣ると気絶していた。
「(…、はぁー、ったく)」
真也は慣れない中空で必死に疱きながらそれでもなんとか鏑木に近付き、そしてお姫様だっこのように抱えた。
「(はぁーっ、男をお姫様だっこなんてついてねえ、)」
それは鏑木も同じ気持ちであると思うがそれでもぼやきたかった。
「(…………さて、と。ミスったら死か。…頼むぜ?)」
真也は思った。
《真也の有する『最強の力』は『戦意皆無』である》
もし…、
《『戦意皆無』はめちゃくちゃ使えねえクソな力だ、でも…それでも!》
もし、オレの『戦意皆無』が“自身の攻撃力をゼロ”にするならば…、
二人は廃ビルの二階部分にまで落下してきた。
自身の“攻撃力”を…“ゼロ”にするならば……!
オレの落下エネルギーで得られるベクトルをゼロにしろ!!
オレの着地による反作用のベクトルをゼロにしろ!!!
オレの仲間の命を助けろ!!!!
フワッ、真也が床に足をついた時そんな効果音がした。
実際には全くそんな音なんてしていないのだが真也にはそう聞こえた。
それはまるで鳥の羽がヒラヒラと地面に落ちるように………。
「終わった…。」
真也はそう呟いた。
そして重いので鏑木を床に寝かした。
真也はしばらくの間、気絶して死んだように眠る鏑木を見て何かしら考えていたが、やがてめんどくさくなりお決まりのあの一言を吐いた。
「…、まいっか。」
真也は落ちていた自分の学ランを、汚れを掃ってから羽織った。
真也はしばらく歩いて空を見た。
今日の夜空は澄み渡っているようで星がいくつも煌めいていた。しかし真也には天文学の知識がなかったためにそれが何座かは分からない。それでもいい、とにかく綺麗だなと思った。
ヴゥンッ!何かが消える音がした。
そして暗い廃ビルの中、翠色の何かが横たわった学生のヴィクターリングに吸い込まれた。
闇は続く…、どこまでも………。