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Op6 Grand castle ~とある少年のとある過去のとある決意~

読者「こ、この更新の速さ、こっ…これがスーパー永谷立凮(神)の実力と言うのかっ…!!ふ、普段からこうすればいいのに…!」

彼女はかなり古い付き合いの幼馴染みだった。




「やっクン!あーそーぼっ!」




彼女とはよく近所の公園で遊んだ。




「やっクン、はやくはやーくぅー」




彼女は砂場遊びが得意だった。




「はははっ!やっクンみてみて!」

「うわぁー、さすがカヤちゃん。上手なお城だねー」




僕は彼女が造る砂の城に毎度毎度魅了されていた。子供だというのに細部まで拘った大人顔負けのデザイン。異様なほどの壁面のさらさら感。そして有無を言わさぬ堅牢さ。彼女の技術は芸術性においても、建築学においても、非常に素晴らしい作品と言えた。

だが、僕が毎回魅了されていた理由はそんなことを理解していたからではない。絵本で見た城にそっくりだったのと、なにより彼女が造っていたからだ。






彼女はよく病院にいた。





「カヤちゃんまたお風邪?」


真っ白な部屋で真っ白なベッドにいる真っ白な顔の彼女を見て、僕はいつも同じようなことを言っていた気がする。




「やっクン…、このところお外で遊べなくてごめんね」




彼女が寂しい顔で笑っていたのを不思議とすごく憶えている。


僕はそんな彼女の横で折り紙やお絵かきをして遊んでいた。






小学生くらいになると、彼女は入院気味になっていた。




「今日は学校でどんなことがあったの?」

「今日はねぇ、将来の夢を考えたんだよ」

「えぇ~!それ面白そうっ!えっとねえっとね、カヤわね!いつかこぉーんな大きなお城を建てて、そこの女王様になるんだ!」



彼女のこの夢は昔からずっと聞かされていた。


他の人が聞いたら、そんなバカげたと思ってしまう夢かも知れないが、僕は“今でも”彼女ならやってのける気がしていた。




「やっクンは?」



突如振られたこの言葉、だが予想はしていた。


そしてこの返しに僕は意として答えた。





「僕はお医者さんになる。お医者さんになってカヤちゃんの病気を絶対に直すんだ」



決意の一言だった。


彼女は知らなかったが―――いや、もしかしたら薄々気付いていたのかも知れなかったが―――、彼女が重い病気であることを僕は彼女の両親の話を立ち聞きして知っていた。


母親のすすり泣きが寒々とした病院の廊下ではより一層響いていた。










コンコン、




「あっ、はーい!」


ドアノックの音に、随分とハキハキしたソプラノボイスが反応する。演劇部のように通るこの声は、高校のグラウンドの端から端に向かって叫んでも、近くにいると錯覚してしまうかも知れない。




「あっ!やっクン!」



僕が引き戸を開け中に一歩入ると、赤外線センサーでも作動したと思うくらいの反応の速さで、先程と同じ声が返ってきた。


僕は声の主を見る。赤い髪の毛を後ろでポニーさせる運動部のような活発的な印象を与えられる女の子だった。


彼女はまさかジャージではなく、乙女な趣味を覗かせるような桃色の可愛らしいパジャマを着ている。


僕は、彼女の子供のような無邪気な笑顔に、負けないくらいに微笑み返ししながら「やあ」と答える。




「やっクン高校合格したんだって!おめでとう!」

「そう言うカヤちゃんも建築科専門学校に受かったってお母さんに聞いたよ?」

「私のは通信だし…。それに比べてやっクンはスゴいよ!だってあの開眼高校に主席合格だよ!」



そう、決意の日から僕は今までにないくらい勉強に励んだ。


努力は徐々に実り、ついに東大輩出日本一を誇る名門高校に合格出来たのだ。





「当然だろう?僕は君のために医者になるんだから」




僕の一言に彼女は顔を紅くする。




「ありがとう…ね。えへへ嬉しいな。でも…、その、本当に私で良かったの?」

「何がだい?」


僕はベッドの傍の丸椅子に腰掛け、持ってきたフルーツの籠から林檎を取り出し剥き始める。



「いや、やっクンって見た目カッコいいし、オシャレさんだし、運動神経抜群だし、それでいて優しいし…、きっと学校でもモテモテさんじゃないのかな……?」

「だから…?」



僕は鼻歌混じりにスルスルと剥き終えると、それを食べやすいように切り分ける。




「いや…だから、私なんかが恋人さんで…いたっ」


僕は切り終えた林檎の一つを持って、それを彼女のおでこにコツンと当てる。



「そんなこと言う娘には林檎はあげません」

「で、でも、私いつもパジャマだし…お化粧もしたことないし……可愛くない…きっとやっクンに似合わなっ…!?」



僕の忠告も聞かずに逆接して未だに自虐的なことを彼女がいうので、そんな口は塞いでしまう。


彼女のか細くも生きた実感のある温度ぬくもりが直に伝わる。


逆に僕の中の止めどない思いもめいっぱいに彼女に送りつける。




「ぷはっ…」


しばらくの接触の後に離れる花と花。


花弁に残る僅かな朝露は物足りなさを感じさせる。





「キスはズルいよ…」



彼女は両手で口許を抑えながら、恥ずかしそうにフルフルと震える。



「カヤちゃんは可愛いよ」

「かっ…かわっ…!?」

「なにが可愛いって、普段堂々なのに、こうやってせめるとオドオドしてしまうところだね」

「もぉ~!やっクンの意地悪ぅ~!!」

「ははははは」


彼女は恥ずかしさと怒りとがないまぜになった感情で頭を沸騰させたまま、近くにあった枕を僕の方に投げてきた。














「そういえば話あるんだった」


別の日、彼女の近くで僕が読書していると彼女は思い出したようにそう言った。



「どうしたんだい?」

「私ね!なんとお城が造れるようになったの!」

「知ってるよ」



僕は幼少期に彼女が砂場で造ったお城を思い出していた。



「そうじゃなくて!」

「プラスチック模型か、コンピュータ図形の話かい?」

「そういうことじゃなくてぇー…もう…、実際に見てみれば分かると思うんだけど…」

「ん?」


彼女は手を開き平の方を上向けにする。


僕は本から目を離すとその手の方を見た。


その瞬間に彼女が言葉を発した。









「『城塞顕造グランドカッスル』」











「………………………………なんて…ね…。看護婦さんにも見せたんだけど、どうやら見えないみたいで、ごめんね。変なこと言ったよね忘っ…」

「すっ…すごい…手品かい?」



僕はあまりにも驚いて本を落としてしまっていた。


なにせ何もなかった彼女の手のひらにミニチュアサイズだが城が現れたからだ。


「青をベースとした色合いで実際のものとは違って見えるが、このにじみ出るフレンチ=ルネサンス様式…もしかして元にした城はシャンボール城かい?細かい柱の彫刻や屋根の装飾も素晴らしい、フランソワ1世がこれを見ればたちまちコンスタンティノープルを想起し、涙するのが目に浮かぶよ。……言ってしまえばこれはまるで本物をそのまま小さくしたようだ…!」

「み、見えているの?やっクン。もしかしてやっクンも中二病患者ヴィクターだったの?」

「ビクトール…と言ったのかい?それにさっきから見えるとか見えないとか意味が分からないんだけど?」

「え…嘘」




僕はこの時、初めて中二病大戦ヴィクターウォーズというものを知った。参加者にはキャパシティーという超能力が与えられ、それには一万人が参加していること、最後の一人になると願い事が叶うこと、そして…普通はキャパシティーは中二病患者ヴィクターにしか見えないということを。





「キャパシティーって、その人が元々持っている器に応じて与えられるんだって」

「ということは、カヤちゃんはやっぱり建築の才能があるってことなんだね」

「えへへ」


彼女は笑っていた。


「でも良かったよ、その中二病大戦ヴィクターウォーズってのは“寝ている間に、夢の中で行われるんだね。しかも健康な状態で”」

「う…、うん……」

「もし、実際に戦うとかだったら絶対に止めたもん」



















それから、一ヶ月もたっていなかった。




「…………………」




僕はただ真っ白なだけの病室で茫然自失としていた。


そこには色がない。


もう、彼女の笑顔を見ることは叶わないのだ。







ガラガラと音がした。

僕は反射的に振り返る。

そこには雪で作られたような白さの髪が足下まで伸びている青年がいた。

前髪には異様な数のヘアピンをつけ、胸元には世界中の宗教団体に喧嘩を売るように、様々な宗教のシンボルのついたペンダントを引っ提げている。極めつけは衣服だ。幼稚園児が縫ったような拙い真白の装いをしているのだ。





「ふーん、やっぱり朝霧あさぎりかやは死んでいたか」




その失礼な変人に僕はもちろん心当たりはない。

だが、僕は怒り任せに顔面を殴るよりも先になぜかこのように言っていた。




中二病大戦ヴィクターウォーズの関係者かなんかか?」

「…、おや?」


この男は僕がそのように言うまで僕の存在を気づいていないようだった。


「君は中二病患者ヴィクターではないようだが…」

「朝霧榧の彼氏だ」

「ああ、これは、お悔やみ申し上げるよ…」


まるで気が籠っていなかった。

礼儀だから言っている感をここまで分かりやすく出せる人も珍しい。


「……やっクンさん」


だが、彼が最後に言ったこの言葉を聞いて僕はそんなことどうでもよくなった。


「!?」

「驚くこともないだろう。私は運営委員長プレジデント、担当選手の身辺調査くらいするさ」

「…………」

「もったいない、地域支配型現象系能力エフエフシーはレアなのにな。やはり昼夜問わぬ戦闘は彼女に酷だったのだろう」











―――――は?






「不運にも彼女は粘着されてね。ずっとかわしつ」

「待てよ。中二病大戦ヴィクターウォーズは夜、夢の中でやるんじゃ…?」

「ああ、まだそんなこと信じてんのかよ君は。それは君を説得するために私が彼女に吹き込んだ嘘だよ。実際はもちろん起床睡眠に関係なく戦うのさ」

「あ?」



この男はうんざりしたような顔でそう答えた。


この男は彼女の状態を知っていながら大戦に参加させたというのに、全く悪びれもせず。





「お前は!」


僕は今度こそ憤怒と共に男の胸ぐらに掴みかかる。しかし男は顔色一つ変えない。


「彼女のあの状況を知っていてお前はなぜ彼女を参加させた!」

「おいおい、さっきから私は言っているだろう?彼女はレアな能力だったんだ。上手くいけば翼が生えたかも知れない」

「翼?なにをふざけたことを…、人の死を…、なんだと思っている!」

「重大だと思っているさ。お蔭で“彼女の死をヴィクターウォーズと関係ないように見せかける”のは大変だったんだから」

「お前っ…!」


僕の質問に命の重さではなく、作業の面倒さをあげたことで、僕の怒りの沸点をゆうに越した感情が湧き出て、その勢いで掴む握力が強くなった。


「お前…運営委員長プレジデントとか言っていたな。お前は本当に願いを叶える気があるのか?」

「ほう?」

「お前の顔は野心があるものの顔だ。なにか企んでやがるな」

「成る程、ということは私は今、さながら鏡でも見ているような経験をしているわけか」


引っ張る力が強すぎたのか、衣服の強度があまりに脆すぎたのか、僕が掴んでいた部分の白い男の胸ぐら辺りの布はベリリと破けた。


僕は布をその辺に捨てて腕を組み、別の気になることを問う。




「確か中二病大戦ヴィクターウォーズというのは神経質な程に秘匿するらしいな。なら、なぜお前は一般人の僕と話をする」

「………」


この沈黙は察しがいいことよりも、彼女を殺した張本人だと名乗っているのにあまりにも素早く僕が激昂の太刀を鞘に戻したことを驚いたのだろう。


もちろん怒りが冷めたなんてわけは全くない。ただ、ある予感があったのだ。



「なに、私も多少は人間味を帯びているというだけの話さ。刈や……いや、副委員長に叱られてね。早い話、君を特例で中二病患者ヴィクターウォーズに参加させてあげ…」

「さっさとしろ」

「やけに呑み込みが早いようだ。さすが秀才。だが、君に期待してはいない。勉学という秤で測定された優秀さとキャパ……」

「うだうだかすな、ご託はいい。早く僕を中二病患者ヴィクターにしろ。他の奴らは潰すし、ついでにお前の野望つばさとやらも砕く。そして必ずカヤちゃんを生き返らす」

「ふっ、どうやら威勢は良いようだ。君に翼は生えんだろうが、せいぜい序盤でくたばらないことを祈っているよ」



男はそれだけ言うと体が砕けて砂のようになったかと思えば、ついには消えてしまった。




そして僕の中には何かが目覚めたような気がした。






















「大和様…、一ノ瀬いちのせ大和やまと様」


……誰かが僕を呼んでいるようだ。


「ん…、どうやら僕は寝てしまっていたみたいだねかなで

「はい、」


目を開き横を見ると灰色髪の少女がちょこんと控えている。


椅子に座って思索にふけるうちにウトウトときていたのだろう。




「ったく、奏は声小せえんだよ、大きけりゃもっと早く起きたはずなのによ。待たされる身にもなれ愚図が」

「まあまあ、それくらい多目に見てあげないかい」


前では少年少女の二人が突っ立っていて、苛立つ少年を少女が宥めているようだった。


「夢子、そして連治郎、迷惑かけたね」

「いえ、大和様は何も」

「そうですよ。そんな謝らないでくださいよ」


僕がそのように言うと二人とも恐縮してしまったようだ。


僕は彼らの更に後ろを見遣る。


二十数人の僕の配下を。そしてスッと立ち上がる。彼らに向かって口を開く。



「さて、我らが『翼を穿つ者達アンチエアクラフトファイア』はついに動き出す時が来たようだ。戦いの時なのだよ諸君」


全員がしんと静まり返って息を呑む。


「僕の『トリニティー』はようやくパーツを揃え完成する。まず…その手始めとして遠藤真也率いる能力者集団を倒す。奴らはまもなく来る、総員、配置につけ!」




一致団結した「はいっ!」の声と伴に、彼らがいる“巨城”に早足の足音がいつまでも響く。



あとがき


新章突入だぜ!今年度は更新の速さをクロックアップしたいぜ。

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