Ed5 Misdefended her ~「い、今の無し!」はきかない見落~
なんと!約束通りに今月中に更新出来た!テキトー感がハンパないのは許ひてふだはい。
「君、確か“念力使い”なんだっけ?優勝候補の一人と同等に渡り合ったらしいね」
「!?」
真也と芳賀の戦いが火がふっと消えるように終幕して、和やかな空気が流れていた時だった。
それはあまりにも突然現れた。
黒の学ランに身を包む、肩まで伸びた直毛茶髪の男が近くにいた宮城春香を品定めするように見ていた。その男の傍には、彼の肩甲骨くらいの身長の、白と黒の真中間に位置する色合いのショートヘアーの女の子が従者のように控えている。
「…」
この場にいた誰もが神妙な顔付きでこの闖入者をじっと見ていた。
「だ、誰だ?お前は…」
それは遠藤真也とて例外ではない。彼は決心してその男に尋ねた。
「誰だとは随分な言い方だね、遠藤真也。君は期待感を伴って、僕を探していたじゃないか」
男は少しガッカリしたように答える。
「僕が、“一ノ瀬大和”さ」
「っ」
三度目の正直。
なんとなくは予感していた。
その出で立ち、振る舞い、口振りで。
全ての話の元凶。
優勝候補筆頭の一ノ瀬大和。
「貴様っ!!」
芳賀がいきり立つ。
その様子は尋常なものではなかった。真也と戦ったときとは並外れた殺気を彼は放っていた。
「あぁ、これはこれは芳賀くんかい。噂には聞いているよ。僕の部下が何人も世話になったようだ」
「なんだ…?知り合いなのか?」
「…」
芳賀は答えない。
代わりに一ノ瀬が口を開く。
「君の推理力は素晴らしかったよ。“お陰で助かった”」
「待て、どういうことだ!」
「君は、そもそも彼がどうして彼らの能力を嘯いていたか分からないのかい?彼らは戦っていたんだよ、僕らと」
「はあっ?」
「知っていると思うけど、僕はある企てをしていてね、初めからある能力者を狙っていたんだよ。だけど、そこの彼の実に賢しいこと、僕らに対しては『蹂躙千里』をフンダンに使った戦法を、他の中二病患者には『百発百中』の名を使った脅しを用いたのさ」
一瞬、「ぷろびでんす?」となったが話の流れ的に未来のキャパシティーの名前だろうと真也は思う。
『蹂躙千里』を用いた『飛来軍刀』の効果は尋常ではなかろう。『百発百中』のフリをする気配りをしなくてよいのなら、サーベルの数をもっと増やせば良いのだから。オレもそれを恐れて芳賀がそれをする前にケリをつけたくらいだし。
「だから僕は考えた。ならば、“『百発百中』だと騙す必要があり、且つ、優勝候補というブランドにビビらない優勝候補以外の相手”を差し向ければいいのだと」
「それが、オレか……。つーことは、無限ヶ崎はお前の差し金か」
真也は言う。
「無限ヶ崎!?無限ヶ崎って言いましたか?真也くん!」
真也から飛び出した言葉に対して委員長(♂)が異常に反応する。
そういえば少し前のことは誰も知らなかったなと真也は思い出した。
「委員長(♂)、その話は後だ」
「差し金?うーん、あの人の名誉のために言ってあげると、利害の一致っていうのが正しいかな。ただ、お互い大同団結は好みじゃなくてね。君は僕らにとってチッポケではあるが必要な存在なのさ。君はこの奇妙なバランスの中で生かされていたことを、すなはち、君は実力でここまで生き残ったのではないことをもっと自覚すべきだね」
一ノ瀬のこの発言は衝撃のカミングアウトである。さっきの伏見との戦いだけではない。極論を言ってしまえば真也が中二病患者となってから今日までの全ての戦いで監視支援を行ってきたことになるのだから。
「はっ?おいおい、何もしていないのに自分の手柄みたいに言っちゃうなんてどこの小悪党だよ?」
と、真也は精一杯強がる。
「僕の手下になるかい?僕に従順でいる間は君の生き残りは決定しているよ」
「悪いが、オレは今モテ期なんだよ。お前のようなゲスな男相手に誰が欲情するよ!」
「御前、一ノ瀬様を、侮辱、するか?」
真也の言葉に瞳をギランと細め、初めて言葉を口にする側近。
片言まがいに話すのは癖なのだろうか。
「奏…、いいから」
「………」
一ノ瀬は奏と呼ばれた少女の頭にさっと撫でるように手を置き、彼女を宥める。
「ちぃっ、見せつけやがって腹立たしいぜ」
「なにはともあれ僕は君に感謝しているんだよ。君は僕の思惑通り柿崎未来を生かしたまま倒してくれた。君の甘さならこうなることは想像に難くなかったよ。これで“安心して彼女を連れていける”」
一ノ瀬はそう言って、ニヤリと笑い、真也の下にいる未来に向かって直進しようと一歩を踏み出す。だが、この前進を真也が許すわけもない。
「させると思うか?」
「『飛来軍刀』!!」
「『粉砕爆発』!!」
「『霊動念力』!!」
真也の発言を合図とばかりに、芳賀が数本のサーベルを従えながら右から、梨緒が空間を今にもねじ曲げる勢いで左から、彼らの中央、その少し後ろには春香が立ち塞がった。春香の周りは今か今かと発動しようとしている念力の余波か、公園の石砂利がカタカタとざわついている。
「『絶対防御』!!」
真也の前には委員長(♂)が控えている。彼の周りに何もないように見えるのは、逆説的に高純度の盾を張っているということである。
「ハッ、ハハハ、君達は今までの説明を何一つ理解していないようで、実に愚かだ。言っただろう?もう終わっていると、僕が出てきたのは万全の体勢をとるためさ」
「吠え面たたけるのも今のうちだぜ!」
「おや?よく分かっているじゃないか」
「…はぁっ?……はっ!」
一ノ瀬の意味深な言葉を受けた時はよく理解していなかったが、次の瞬間には自分の体の異常に真也は気付いた。
―――――なっ、なんだ?体が…動かなっ……い…っ。
正確には体は動かないことなんてない、確かに動く、ただそのスピードがあまりにもノロいのだ。まるで頭だけが物凄い高速回転しているような感覚。それはなにも自分だけではないようだ。芳賀も、梨緒も、春香も、委員長(♂)も、そしておそらく未来も。皆して動きがノロく、そしてそれに戸惑っているかのようだった。
「ふっふっふ、では、しばしのお別れだよ、遠藤真也」
そんな中、一ノ瀬大和は優雅にこちらに向かって歩いてくる。
「くっ………。お…っ………ま、………………え…」
決して止められないスピードではないはずなのに、真也達は手も足も出ないどころか、言葉すらろくに口に出来ない。
ひょいひょいと障害物をかわす一ノ瀬はあっという間に真也の前に来た。一ノ瀬はさっと未来の片腕を掴むと、空いている方の手を真也のオデコに持っていく。
「ばいばーい」
「?………っふぐぅっっ!!!!!?」
そのまま一ノ瀬がデコピンをすると真也は一人激しい勢いで後ろに吹き飛ばされる。物理法則を完全無視したこの攻撃力は、真也が『戦意皆無』で威力を弱体化させるのを忘れるほどに強烈であった。
「がっ…」
真也の勢いが止まった時には、彼は口から血を吐き、既に気を失っていた。
「ふっ」
一ノ瀬はそれを満足そうに見届けると手だけ掴まれたまま沈んでいる未来を、両腕でガシリと固定し、お姫様だっこの要領で持ち上げる。
彼はそのまま従者と供にゆっくりと歩き、虚空へと去っていった。
「………以上が、刈谷くん、君の言う、気になるところというわけかい?」
常に正気を保っていようとしなければ、簡単に飲み込まれてしまいそうな、雰囲気で酔ってしまいそうな、そんな塩梅の橙色の灯りが明滅する書斎のような部屋。
そこには大きな机があり、最新の家庭用ノートパソコンがウィンウィンとファン音を鳴らしていた。
その画面を覗くは二人の男、この中二病大戦の運営委員長と副委員長であった。
「これで一ノ瀬は“『反論生成』に加え”、『蹂躙千里』も手に入れることに成功したわけだな」
「そういうわけだね」
副委員長の黒髪の男の発言に白髪の委員長は頷く。
様々な人々と、その思惑が濃密に交差する。
既に、大いなる現象に飲み込まれてしまった真也。
そんな彼は気絶する前に、あることを思い出していた。
―――――「彼女を守れ」とは…こういう……こと…だっ…たの…か…。
あとがき
半年かかってようやく今の章が終わりました。
いやあ、もっと更新率あげられるだろう私。
本気で小説書くための練習というか、落書きで始めたこの作品も43話目か…。なんか感慨深いものがある気がしますね。こうしてみると最初の方と比べて私の文章力も上がっ…………いや…、あらっ…?
えっと、ところで今回の章ではたくさんの優勝候補とそのしがらみなどいろいろと出てきました。本当はまだまだ先の予定でしたが、こんな長々としてたら私が御爺ちゃんになって、歯がガタガタになっても終わらない気がしたので、一気に進めました。
このお話で10人中、9人の優勝候補が出ています。君は全員言えるかな?そして、あと1人は…?
個人的に優勝候補の中では阿佐倉=K=悠一が好きです。彼を主人公にしたお話をスゲー書きてえなあなんて思っています。だから今回、彼のイラストレーションを書いていた時は手が嬉々として動いてましたよ。
彼は「遠藤真也が絶対に勝てない中二病患者」というコンセプトで作りました。真也の戦法は能力を打ち消して、肉弾戦に持ち込むパターンが多いので、その肉弾戦でも勝てない、且つ、キャパシティー自体も、そして思考能力さえも上というトンデモ人間が生まれました。しかも、一切の甘さもありません。今の真也と出会ったなら即主人公交代ですね。ご愁傷様。
イラストレーションの話が出ましたが、今回の章はこれまでの話構成とは違って行間が入りました。行間はトビトビで季節は春から始まり、だんだん今の話の流れに追いつくようになっています。
さて、次回はついに遠藤真也が一ノ瀬大和と戦うみたいなんで、面倒臭がらずについてきてくれている読者の方々には、日ごろの感謝をしつつ、また読んでくれることを願っています。