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Ep28 Ilustration④~そして交差する時間軸~

いやっほー!40話目だぜ!今気づいたぜ!てか、前回の話を見直したんだけど、真也は左腕骨折してんのに左腕で殴ったのか?やっぱバカだなぁ~♪というわけで、どうぞ!




「ついに見つけたぞ、遠藤えんどう真也しんや



世田谷区の住宅街に災害と共に現れた燕尾服の少年は確かにそのように言った。


「…………………っ」




しかし真也には、大惨事の最中でも平然として、執事のような佇まいを見せるこの少年には全く面識がなかった。それともただ忘れているだけなのだろうが。だが、遠い過去に結婚の約束を誓った美少女転校生なら全然構わないが、野郎相手にその可能性は否定したい心情の真也であった。


ここで真也は他の二人に振り返る。




「…………………」

「……………貴様は…」




九条くじょう彌生やよいと、四天王寺してんのうじ龍鵞りゅうがも燕尾服の少年の顔を見てからひどく同様しているようだった。そりゃ、この大惨事を見れば当然のことだろうが、ただそれだけでなく、おそらくお知り合いのような反応だった。


燕尾服の少年が再び口を開く。




「四天王寺がこの所、妙な動きをしているとの情報が入ったから、アレに関係があるのかと思ってつけてみたら、まさかお前達に出くわすとはな」




言いながらこの少年はゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


彼を知りはしなかったが、真也には一つの予感があった。


優勝候補ベストテン共を怯ませるほどの実力、炎・氷・雷などと様々な現象を操る多彩能力マルチスキル、そして初瀬川はせがわ凛崋りんかの言っていた優勝候補筆頭ベストフォーというものの存在。


それらの素材が真也に一つの名前を導き出させる。







一ノ瀬いちのせ大和やまと………?」











「っ」


真也の発言に、意外さを感じて燕尾服の少年は瞳をやや大きく開く。

展開的に考えるならば、やはり彼が一ノ瀬大和なのが妥当だろうと真也は考える。『反論生成カウンターアーギュメント』の逃避を防いだ程の実力に、あまりに多彩過ぎる能力。真也はこの男に身構えざるをえない。


「一ノ瀬大和だと?」


少年の声色はやや強くなる。




「あっはっは、まったく俺もとんでもない奴と勘違いされちゃうとは…面白い……」





しかし彼は一ノ瀬大和ではなかったようだ。


では、誰なのだろうか。真也がそれを訊ねようと思ったとき、足元に異変が訪れる。



「んなっ!?……地震?」

「ぐわわわわわ!!」

「んぬっ…つっ!」



真也達は大地の揺らめきに翻弄される。各所から物の落下音がコーラスする。





「面白い…わけねぇだろうがぁっ!くそ野郎!!」



おおよそ、執事とは思えない汚い口調。

そのギャップ効果もあってか真也は非常にビビらされた。

しばらくして地震がやむと彌生が真也の隣に来て呟く。




「あいつは一ノ瀬大和なんかじゃない。下手すりゃそれよりもはるかに面倒臭い奴。中二病大戦ヴィクターウォーズ最強派閥『聖天の三柱グローセスドライエック』が一柱にして、優勝候補筆頭ベストフォーの一人、『天変地異ディザスター』の伏見ふしみ雪成ゆきなりって奴だよ」

「肩書きなげぇー…」


真也はそのように目を細めつつ呆れながらも実際は名上されることで、より深く彼に脅威を感じていた。そんな真也はここでふと疑問を抱く。



「え?ちょっと待って…。その伏見って奴は最初からいなかったぽいのに、どうやって因果孤立の空間ニアーディメンジョンに入ってきたってんだ?潜伏していたのか?いや、仮にそうだとして奴が出てきたタイミングがかなり謎なん…」

「『因果破りエンターハーフウェイ』だろう?」

「は?『因果破りエンターハーフウェイ』?」


真也は非常に大きな発見をしたと思って、考えていたが、彌生にあっさりと答えられてしまう。急に現れた専門用語に真也は不甲斐なく鸚鵡返ししてしまう。


「シンヤ、それマジで言っているの?冗談にしても面白くないよ?」

「うるせーなぁ。ううっ…オレだって事情があるんだよ」


真也は大戦開始の説明を受けている最中、起きた事態に圧倒されてしまって話をマトモに聞いていなかったのだ。通常、そのような場合は担当の運営委員ディレクターが再度説明をする制度が実際には存在するのだが真也の担当は偶然にも職務怠慢をする最悪の担当だったので、真也はこの大戦に関するほとんどのことに無知なのである。


「『因果破りエンターハーフウェイ』ってのは、要するに途中参戦の方法ね。中二病大戦がやっていそうな場所でそのように言うと、リングが光出して侵入できるのよ、簡単に言うとね」

「成る程な。んで、その優勝候補筆頭ベストフォー様がオレ達に何か用か?」


彌生の解説もそこそこに真也は出没の理由を伏見に訊ねる。

しかし彼がそれに答える前に彌生が言う。


「どうせ、アレってのは一ノ瀬大和関連のことでしょう?だったらこの中二バカは何の関係もなかったわけだから、お前はさっさか家帰ってお寝んねしてな」

「おい、貴様っ!誰が中二バカだ!」


先程、あれほどの威力の現象を見せつけられて怯んでいた彌生は、もう完全に立ち直っていて、挑発をしかける余裕があるくらいだった。しかしその挑発は検討違いの方向に効果を発揮し、当の本人はただほくそ笑んでいるだけだった。



「用事は、今出来たさ」



「あ?今?出来た?」


彌生が意味が分からないと一単語一単語復唱していると、


「あぁ、そうだ」


と、伏見は肯定した。そして大きく息を吸い大分堅い口調で次のように一息で言う。




「我々『聖天の三柱グローセスドライエック』と合縦連合の協定に基づき、【『優勝候補ベストテン』同士の戦闘】を行いし不法者々を我々の反逆者と見なし、即刻両者を成敗する!」


伏見の仰々しい物言いに暫くポカンとしてしまった真也だったが、我に帰るとすぐに彼に言う。


「あははは、おいおいなに勘違いしてんのよ伏見さん。別に優勝候補ベストテン同士は争ってねえよ。ただのしがない中二病患者ヴィクターのオレが優勝候補ベストテンに挑んでるの」

「そこのゴミクズラビッシュの言う通りだ伏見」

「あぁ、成る程」

真也と龍鵞の話を聞いて納得したような反応をする伏見。真也はホッとしたが、彌生は逆に非常に嫌な予感を感じていた。





「…成る程成る程、遠藤真也はそうやって二人を庇うわけか」






「…はっ!?」


真也の顔から笑みが失せる。


「バカ!庇うとかじゃなくて、ガチな話なんだって!」


真也は焦って弁解をする。


「なかった?現実に起きている道路の穴ボコはどう見ても非常に大きなAEOCが発動したとしか思えないんだよね。それこそ優勝候補ベストテン同士が争うような…」

「いや…、あれには深いわけがありまして…」

「本当に争いがなかったなんて言うなら、それを証明してみせてよ」

「そんなっ…無いことを照明しろだなんて、そんなのまるで悪魔の証明じゃないか…」



悪魔の証明とは、大元の意味としては「所有権を証明するのはあまりに複雑不明瞭すぎて、悪魔でなければ証明は不可能」というものだが、真也が言うのは「ある事実あるいは現象存在が全くないことは証明することが出来ない、また証明させてはならないという約束事」のことである。たとえば「この世界には悪魔がいる」という証明は書物をちょちょいと探して悪魔の所業が記されたものを提示すればいいが、「この世界には悪魔がいない」という証明には、世界中に広がるあらゆる現象事象歴史を1つ1つ悪魔とは関係なく起きていることを証明しなければならなく、圧倒的に無い証明の方が個人レベルでは実現不可能な程の手間や労力がかかってしまったり、今回の真也たちのように証明をするためのものがなにも存在しなかったりするのだ。




「そう、悪魔の証明的理論なんだよ。俺の用事っていうのは」


真也の言葉に伏見が意味深にのっかる。


「はあっ?」

「ははは、本当は知っているぞ?なにもかも。お前らが争っていないことも、現実の爪痕がAEOCを原因としていないことも」

「なら…なんでっ……!?」


真也はここに来て伏見が抱える用事という名の陰謀の正体を悟った。



「やっと気付いたか?遠藤真也。だから悪魔の証明なんだって。シナリオはそうだな。やっぱ簡単がいいか。九条彌生と四天王寺龍鵞が争っているのを発見したので、仕方なく二人と、ついでに巻き込まれた一匹の中二病患者ヴィクターごと葬ってしまった。ってことで。どうだ?」

「…っ!!」


真也は伏見のあまりに卑劣なやり方に歯軋りして怒りを表現した。


伏見の企みはどういうことかというと、彼はこの場にいる全ての証人を隠滅することによって、真也と彌生と龍鵞に起こった本当の事実をなかったことにしようとしているのである。彼はその場に実際に他の優勝候補ベストテンがいたことと、現実に発生している戦いの爪痕を証拠に(彼自身が作り出した偽りの)正当性を確固としたものに出来るのだ。逆に彼の正当性の否認は悪魔の証明的に、証人不在の相乗効果で糾弾が難しいのである。



「ふんっ、そんなところだと思ったよ。相変わらずセコいやり口ねロリコン執事」


彌生が呆れたように言う。


「ははっ、誉め言葉として受け取っておくよ。にしてもお前もいつまでもそんな余裕でいられるかな?」

「うるせーよ。お前」


真也は瞳を尖らせて、彼にしては珍しく冷たく言葉を吐く。


「オレは基本的にこんなセリフは使わねーが、今日はあえて言おう。オレは『お前が嫌い』だ。ひっさびさに腹が立ってきたぜ。ぜってぇー、お前の思惑通りにはいかせねぇ!」


よわゴシは基本怒らない。なぜなら集団のストレス換気口をになっている彼は、達観的にストレスは自然発生的なものだと知っているので、仕方ないと考えているからだ。だから彼は皆の踏み台に自ら進み出てストレスを軽減することを担い、それを誇りに思っているからだ。

だからこそ彼と真逆の行為を行おうとしている伏見が許せない。ストレス軽減のためでなく計略という無機質なもののために平気で多人数を足蹴にする奴を。


「ほうっ」


伏見は毅然として話す真也に対して関心していた。ただの中二病患者ヴィクターならば自分の名前を聞いただけで震え上がるといっても過言ではないのに。目の前のこいつはあまつさえ暴言を吐いているのだ。


「あっはっは。面白い奴め。俺の『破壊』に心底恐怖を思い知らないほどの阿呆でもなかろうに」

「はっ?知るか!分かったのはお前だけには赤坂プリンスホテルの解体工事は任せらんねえってことと、お前はぜってぇーに倒さなきゃなんねえってことだよ!」

「あはは、いきがるねえ。それが勇気なのか自棄なのか確かめてやるよ」

「じょ…上等だ!おおお前は絶対倒す………彌生が」

「私かよ!」


真也が少年漫画並の熱血を繰り広げているのを惚れ惚れと聞いていた彌生は、最後の最後でビビってよわゴシな発言をした真也にガッカリも込めて強めにツッコミを入れる。


「いだっ…!つっても、彌生の方が全然強いじゃん。そもそもこうなったのオレのせいじゃないしお前らだし、よく考えたらオレ部外者だし」

「シンヤ…お前、どんどんクズになっていくから、もう喋らない方がいいよ」

「フハハ、遠藤真也よ」

彌生に心底情けないようなものを見る目による視線の波状攻撃をくらい、生きるのが苦しくなり始めた真也は龍鵞の声に振り返る。彼はどこかソワソワしているようだった。


「あ~、どうした?四天王寺」


真也はなんか声をかけるのを躊躇ったが、切羽も詰まっているし諦めて聞く。


「フハハ、き緊急事態のようだなどうやら」

「見りゃ分かるだろ。他人事か?」

「フハハ、そこでだ。一度我との戦いを休戦してだな…その、我も力を貸そうぞ」


中二病の奴はコミュニケーションに自信のない奴が多い傾向を知っていた真也は、龍鵞はこれでも全力で声をかけたのだろう。真也は彼の頑張りに微笑む。






「いや、別にいらないわ」

「謹んでお断りするわ」



真也と彌生は同時に言う。真也は他人を敬える心も確かに持ち合わせているが、同時にお約束に忠実でもあるのだ。決して「よく考えたら諸悪の根元こいつじゃん」と思い出して八つ当たりしたわけではないのだ。


「あっはっは。仲間割れとは余裕だな。悪いがいかせてもらうぞ、そろそろ」

「ちぃっ…!やっぱふざけている場合じゃなかったか!彌生!粉塵を巻き上げろ!!」

「はいよ」


伏見の攻撃開始を見て、真也は彌生に指示を飛ばす。






―――――ち、目眩ましか…、小賢しい





伏見が一寸前に辺りに災害を撒き散らした為に、住宅地帯は大空襲でも遭ったかのように焦土と化していた。ゆえに、彌生が起こした風によって、木屑や灰塵や石片などが巻き上げられてカーテンが出来上がる。




「『災害の竜巻』」




伏見がそのように言うと掌に高さ15㎝の小型の竜巻が発生し、それが累乗的に肥大していく。五秒後には100m長のものに成長しカーテンを引き裂くように吹き飛ばす。



「っ!?」



闇が晴れた時、伏見の下に一筋の雷迅が突き刺さる。否、それは雷光の来迎などではなかった。その如き素早さで直進してきた彌生だったのだ。


「こーんにちわー、ふっしみーン!」


ガゴンと鋼鉄を打ち潰すような音が響く、それも一度だけではない。短い間に何度も何度もだ。彌生がそのご自慢の右ストレートをジャブのように幾度も叩き込んでいるのである。


「ふ、九条か…」


その恐ろしげな凶戦士の強襲に遭いながらも伏見は相変わらず涼しい顔をしていた。彌生の攻撃は届かない、目の前15㎝で見えない何かに阻まれているのである。






「なあ、四天王寺」

「どうかしたか?遠藤真也」


真也と龍鵞は激戦が繰り広げられている場所からかなり離れた位置に潜んでいた。女一人に戦わせて大の男二人が隠れているなんて実に情けない構図に思えるが、真也は彌生の機動力を鑑みて前後衛を決めたのである。


「…伏見って奴のあの見えないガードはお前の『自動防霊オートガード』と原理は同じなのか?」


真也はこのように尋ねた。もし、そうなら真也のご自慢の忍び腰スニーキングスタイルが使えるからだ。しかしその際に四天王寺にはもしかしたら真也のキャパシティーに対する嘘がバレる可能性があるが、この場合はやむを得ないだろう。

しかしその心配は杞憂だったようだ。なぜなら龍鵞は首を縦には振らなかったからである。


「奴のあれは手動防御マニュアルガード、それも確か触れ込みは中二病患者ヴィクター最強の“耐防御”だとか」

「耐防御だって?」


真也は自動でなかったことにガッカリしながらも龍鵞の言った単語に反応して聞き返した。


耐防御、真也はこの単語を知っていた。今までに出会った中二病患者ヴィクターで所有しているものがいたからだ。敵ではない、…いや、一度戦ったことがあるが。真也の言うそれは聚楽園しゅうらくえん梨緒りおのキャパシティー『粉砕爆発バーニング』の『爆発耐性フルレジスト』である。


だがしかし、真也の記憶によると確か耐防御とは自分の攻撃しか防げなかったような気が…。



「耐防御の中には相手の攻撃を防げるものもあるのだよ」

「そうなのか?となると伏見の耐防御は風?」

「それ“も”だ」

「は?」


真也は龍鵞が何を言わんとしているか分かったが、にわかには信じられないという気持ちで疑問符を口にするしかなかった。龍鵞も真也の反応の意図を理解できないほどには抜けていないので、無視して続ける。


「伏見雪成が最初に仕掛けた攻撃を憶えているだろう?あの火災旋風に雪崩に落雷を」

「炎、氷、雷…」

「奴のキャパシティー『天変地異ディザスター』はあらゆる自然災害を操る現象系能力フィナメナキャパシティー。奴の対防御はそれらを自分が喰らわないように、あらゆる自然災害級の攻撃にも対抗できる超堅総耐な携帯要塞、その名も『総耐防御シェルターコート』」

「マジかよ…それってポケモンで言やあ…あらゆるタイプに対して『効果はいまひとつ』か『効果はないようだ』ってことだろ?その“とくせい”チートだろ…」


真也がそのようなことを言って落ち込むと、なぜかこんなときだというのに龍鵞が目をキラキラさせて興奮していた。


「えっ…え遠藤真也もポケモンやってるのか?ブラックか?ホワイトか?じ実はたまたま我もでな…こ今度通信た…」

「どうやら、二の矢オレじゃ役不足のようだな。流石は優勝候補筆頭ベストフォーというわけか。一先ずは一の矢に任せておくか」


真也はやれやれと遥か彼方の激戦を見つめる。バックミュージックに龍鵞が少し上擦った声で「三タテ」だとか「ラキグライ」だとか「6Vメタモン」だとかぬかしているけど、ハタシテコイツハナニヲイッテイルノヤラ。











――――――なんだ?不思議と振動が強い気が…




真也達から離れた場所で繰り広げられる戦闘地帯。伏見は風神に魅入られし凶戦士をいなしながら、ふと疑問を覚える。辺りは凶戦士が無秩序に吐き続ける突風で粉塵が舞っている。彼女の凶戦士ぶりは彼も知らないわけではなかったが、話に聞いているのとは違う感じがした。




―――――百聞は一見に如かず…なのか?いや、近衛このえとのシュミレーションとあまりにも“違いすぎる”。




気のせいかとも考えたがすぐにそれを否定する。彼は彌生が真也と戦った際の最新の戦闘データを元に仲間の能力で疑似体験済みであった。


「ハッハーン!流石はふっしみーン!早くも私の攻撃に疑問を持ってるねぇ?ちぇっ!涼しい顔にサクッと一発キメたかったのになー!」


彌生は怒濤の攻撃を続けながらも伏見の表情を見て、からかうように演技ぶって残念がる。


「っん!成る程…、まさか想定外だ。性格変えたのか“お前ら”?」

「あぁー、やっぱ分かっちゃうかー。けど惜しいよねー。“私達”がこんなことしようと思うわけないじゃん」


伏見は彌生の発するキャパシティーを観察してようやく一つの答えに達したようだった。そしてそれが計算上は限りなく有意でないものだったために心から驚いた。


「あのイレギュラーか…」

「ま、私も初めはノリ気じゃなかったんだけどね。趣味悪ぃし。けどあれ、食わず嫌いってゆーの?これがやってみるとなかなかでね。クセになっちゃいそう。私はこいつを『殲空モード』と呼ぶことにするわ」


彌生は邪悪な笑みを浮かべる。



真也が弓から放った一の矢やよいには実は毒が塗ってあった。それも実に混沌としてこの世の安寧の何もかもを侵入して掻き乱すようなトビキリの。











「あの九条め。我の能力をまた虚仮にしおって。雑に扱われるなど我も憤怒をひた隠せぬよ…」

「まあまあ、抑えて抑えて」

遠くで見ていた龍鵞は彌生の言動を見てジリジリと苛立ちを募らせる。そんな彼を真也は宥める。











「お前は…」

「そう、お前の思っている通りだよ。伏見!」

「お前は…四天王寺のキャパシティーの助けを借りたというのか!」


瞬間、もう何度目になるだろうか、九条彌生の強烈な右ストレートが放たれる。


エアガンの原理を利用して右肘に爆発を起こし、それを『向かい風の壁ウィンドリフレクション』で受け止め推進力に変え、拳前にも爆発を起こし異常風圧で、まるでモンローノイマン効果のように衝撃に刺突性を与えて一点に集中させて放つ強力打撃









………の一連の流れに『英檄攻霊プラスインパクト』を付加した究極強力打撃











………の一連の流れに『自動防霊オートガード』で空気抵抗という“攻撃”を可能な限り弾いた超究極強力打撃!!!!!!




が、『総耐防御シェルターコート』に炸裂する。


その威力はトラックがマッハ3で壁に衝突するのに匹敵するレベルである。




「正体気付いて青ざめた?ねえ、青ざめた?」


そんな剛力、怪力なんかで表現できるレベルを疾うに超えてしまった暴力を、バーゲンセールのように無尽蔵に放出する彌生は心底可笑しいように伏見の顔を伺う。




―――――成る程な。それでこれほどのパワー。さっきから無駄に舞っている粉塵も『魑魅魍魎カオスインベイド』の恩恵で増した風の威力を御しきれていないからか。





強力ならいいが、協力なんて二文字が似合わない性格を持つあの二人が、どうしてあんな短時間でそれに同意したかは分からないかもしれない。だが真也はこの難題をたった一言で解決してしまった。






「あのすかした優勝候補筆頭ベストフォーの鼻明かせるぜ?」






つまり彌生と龍鵞の全てはこの瞬間の愉悦を得るためだったのだ。

そして実際、伏見はおどろいた。…が、



「にしてもなかなかガタが来ないわね。もう数百発は余裕で撃ち込んだ筈なのに」



総耐防御シェルターコート』は顕在しているのである。だが、彌生の顔は曇らない。


「まっ、んでも流石の『総耐防御シェルターコート』様もこうも防戦一方じゃザマアないわね。あと千発二千発…どのくらいもつかね?肉弾戦の出来ない自分のキャパシティーでも恨めば?」


彌生にとっては強靭な防御力などただのカウントダウンに過ぎないのだ。彼女の攻撃が『総耐防御シェルターコート』に一応響いてはいるのは理解しているからだ。


だが、この場には既に驚きの表情の男などいなかった。


「お前は勘違いをしているよ、九条」

「あ?勘違い?」

「出来ないのではない、いらないのだ、『災害の土砂崩れ』」


突如、空に発生した大小様々な土砂が伏見ごと彌生を飲み込もうとする。


「っぶねっ!」


間一髪の所で足に空気爆発を発生させて攻撃をかわし、飛び散った土砂を『向かい風の壁ウィンドリフレクション』と『自動防霊オートガード』で弾く。

伏見は中心地にいたのでマトモに喰らい積み上がった土砂の山に埋もれてしまっていたのだが、その中から声がする。




「『災害の雹吹雪』」




ドガンと山が弾けて中から吹き出すように四方八方に鶏卵ほどの氷塊が飛び散る。


「くっ…」


彌生はあまりにもの猛風に『向かい風の壁ウィンドリフレクション』の強度を強めるが、伏見はそこを畳み掛ける。




「『災害の落雷』!!」




これらの攻撃は勿論伏見自身にも被害を与えているが、彼にはそんなものは関係ない。『総耐防御シェルターコート』は自分の持ついかなる災害級の攻撃も受け付けない強度を誇るのだ。理論上は地球上でこの防御を貫くものは存在しないと言えば、この堅さ、総耐さを分かってもらえるだろうか。


どうやら矛盾を制するのは実は盾だったようである。




「…………」




彼は災害の中心地にいたので全ての攻撃をマトモに喰らった。





「…………?」




マトモに…喰らっ…た?





――――――なぜ?なぜ雷撃が…空を青白き閃光で満たすほどの雷撃の雨が降り注がない!




唯一、今さっき彼が発した『災害の落雷』だけは彼はマトモに喰らわなかった。

どころか、いつまで経っても始まらない。

彼は顎を動かし空を仰いだときに一つのことに気付いた。





―――――いや…雷?まさか!





そして伏見は急いである方向をに顔を向ける。

そこでは彌生が空中浮遊しながらニタァと笑っていた。






以前にも述べたかも知れないが、九条彌生は発電能力者パイロキネシストではない。彼女はあえて言うならば天候操作師ウェザーオペレーターである。だから自分で電撃を産み出すことは出来ないが、“自然の雷電を操作する”ことならば出来るのだ。


…それは、たとえば『災害の落雷』のような自然災害だとか。




「ま、流石の私でも出来たのは発射の取り止めだけ。お前のキャパシティーじゃ各上過ぎて操作権乗っ取りは無理だったけどね」

「ふっ、なら無駄なことを。こんなもの別の災害に変えればいいだけの話だ」




この伏見の発言は全くその通りである。


たかだか一つの災害を止めただけでは彼のキャパシティーは止まらない。


彌生の行為は実に他愛ないものなのだ。


こんなもので稼げるのはたかだか数秒の隙でしかない。


数秒間の隙ならば迫り来る災害から逃げる余裕もない。


だから無意味なのである、こんな数秒間は。









「だがオレはこの数秒間が欲しかった」

「!!?」


伏見の“後方”から遠藤真也の声が轟いた。

伏見は振り替えるとたった10メートルの距離に真也と龍鵞が立っていた。


「なっ…いつの間に!」


伏見はここまで言ってから彼は自分の過ちの1つに気付いた。戦闘中にずっと舞い上がっていた粉塵は彌生の無意識によるものではなかったのだ。“彼ら”を隠すためのものだったのだ。

そして、伏見はここまでで“『殲空モード』こそが彼らの切り札だった”とずっと勘違いしていた。無理もない。あれほどの機動力、破壊力が、まさか“オトリ”であるなんてだれが思うだろうか。



「おい、私がここまでお膳立てしてやったんだ。まさか外すなよ?」



彌生が伏見の後ろから叫ぶ。当の伏見は動けない。『災害の落雷』の中断と別の“災害”の発生へのモーションに入ってしまっているからだ。




「聞いた話じゃ…、『総耐防御シェルターコート』ってのは、地球上のいかなる攻撃手段でも破壊できないんだってな。けどよ、そりゃあ…“サイエンス”の話だろ?」

「なに…を?…っ!?」


真也の意図が掴めないでいた伏見だったが、彼の影に隠れていたものの姿を垣間見たときにようやく全てを理解した。



総耐防御シェルターコート』の堅牢性理論はあくまでも科学の分野においての話でしかない。だが、最強の力キャパシティーが担っているのはサイエンスだけではない。“オカルト”に関しての領域もこいつは踏み込んでいる。


九条彌生は『魑魅魍魎カオスインベイド』の『自動防霊オートガード』と『英檄攻霊プラスインパクト』の恩恵を受けて超大な力を行使したが、そもそもこのキャパシティーの本質はこれらのスキルではない。これは、あくまでも“大砲のチャージングを守るためのガーディアンに過ぎない”のだ。


伏見雪成の最大の誤解は敵が優勝候補ベストテンだと思ったところだった。だが実際は違う。彼は本当は遠藤真也と戦っていたのだ。彌生は真也が右手に持った相手を翻弄するためのナイフである。本命の左手に掴んだ槍の一撃を叩きこむための陽動の。



「喰らえよ、オレの“三の矢”」



言って、真也はその場からどく。するとその後ろに控えた龍鵞が姿を表す。ピストルを象った手のサインの人差し指の先端に一軒家級のどす黒い球体を携えながら。





「集えよ我が僮共、侵掠の限りを尽くすのだ!!」




その闇色は矛盾を食い破り、辻褄を無理矢理合わせるようなオーラがあった。








「『壹萬鬼夜砲テンサウザントデイモンズカノン』!!!!!!!!!!!!!!」











龍鵞の指先の球体から伏見に向かって一直線に極太の黒い光線が発射される。その鈍い発光で空間は真っ黒に彩られた。













「…やっ…たのか」


しばらくして攻撃が止んだと思った真也は龍鵞の後ろになんとか歩み寄る。辺りは衝撃で吹き飛ばされた粉塵が霧を作っている。龍鵞から反応はない。それだけ疲労困憊なのか。あれほどの威力…無理もないな。


「シンヤ、ここかい?」


彌生も近くに来た。恐らく『風の知らせ』を使って察知したのだろう。そんな彌生は今、霧を鬱陶しそうにしていた。


「にしても、うざいわね、これ」


そう言って彌生は風を操作して辺りを晴らす。







「…な」




その光景に真也は言葉も出なかった。







「『“災厄”の絶対零度』」






そこには“あの『壹萬鬼夜砲テンサウザントデイモンズカノン』や周囲の空気ごと凍らされた”四天王寺龍鵞の姿があった。氷像になっていては返事できないわけである。






「いや今回、本気で俺は焦ったよ」





そして氷付けにされた槍の先端付近で“無傷の状態”で話始める伏見雪成。





「俺の『総耐防御シェルターコート』がよもや10センチメートルも削られるとは…。他の奴らが警鐘を鳴らす意味を理解した。俺も認識を変えよう。「お前はすぐに葬るべきだ」と」

「がっ…ぐ」


伏見は真也の首をぐわしと掴み軽々と持ち上げる。すらっとした燕尾服のどこにそんな筋肉を隠しているというのだろうか。


「シンヤっ!」

「ふんっ」

「つっ」


彌生の声を聞きその方に真也を投げ飛ばす伏見。真也は飛ばされた際の落下力を無効化する余裕もなく、落ちてすぐに首をさする。が、それもすぐに出来なくなる。




「『災厄の重力磁場』」





「ぐけっ!」

「くっ」



真也と彌生の体が地面に貼り付けられその上を象でも乗っているような圧迫感を与える。彌生は風の力の全力を持ってこれに立ち向かおうとするが、全く歯が立たない。




――――――バカな…“災厄”だと?なんだ、この威力は





「俺にここまで出させたこと光栄に思うがいい。そして朽ち果てろ、『災厄の流星落下』」





大気圏辺りに隕石が現れ、それが自由落下の物理法則の助けで物凄いスピードで真也たちに向かってくる。

伏見はてくてくと隕石の安全圏に移動しようとしている。



「彌生、なっ…なんかないのか…奥の手とか…」

「出しきったっつーの!つかシンヤこそ、またいい作戦ないの?」

「オレ?オレはもう無理疲れた…。しんやさん@がんばれない…」

「がんばれよ」




そんなやり取りをしている間に隕石はもう二、三秒で落下する位置に到達していた。流石の真也にも為す術なしである。とはいえ、まあ、隕石に圧殺される最期ってのもなかなか経験できないだろうし、悪くないかな…なんて真也は最後までアホなことを考えて、目をつぶった。










「『現象幻化エフェクトイレイザー』」





そんな声が聞こえたような気がした。

死ぬ間際ってのは面白いな、いや厳密には中二病患者ヴィクターとしての死だけども。




―――――いや、待て




真也は目を開く。死ぬにしてもおかしくないか?一切の痛みを感じなかったぞ?


彼が起き上がって最初に見たものは二メートルはありそうな体躯の持ち主だった。彼はからだ全体を紫色のマントで完全に覆っていて腕まで隠していた。今は腕は前にあるマントの繋ぎ目からまるで暖簾を潜るように右のものだけ出ていた。



「な、なにが起きているんだ?オレには…全く分からない…!」


真也は事態を理解できなかった。

この男のことも、今自分が“起き上がれていることも”。




「ワルイガ、オマエガクタバルノハ、イマデハナイノデナ」




ボイスチェンジャーを使っているような高い声を発しながら、その二メートルの男はこちらを振り向く。彼の顔には魔女がかぶるような帽子で頭を全て隠してしまっていた。だから顔は見えなかったが、その帽子には代わりに赤いインクで子供の悪戯のように笑顔が描かれていた。



「だ、誰だ…誰なんだ…お前は?」



真也はその得体の知れないなにかに問う。


なにかは、すぐに、短くこう言った。






「オレハ、ムゲンガサキ レイジ」




《あとがき》


今回、中二病患者ヴィクターが持つ防御手段がいくつか出てきて、混乱及び勘違いをしてしまっている人のために久々の後書きで解説しようかと思います。


まず、本文には出てこなかったのですが防御手段の大元にキャパシティーガードとスキルガードというのがあります。


防御手段のほとんどは後者になるので覚える必要はないのです。なぜならキャパシティーガードは今のところとこれ以降も恐らく『絶対防御イグノアー』だけなので。



続いてスキルガードについて述べます。そもそもスキルとはキャパシティーという大きな幹から派生した枝のようなもので、それぞれのスキルは幹の影響を受けています。


だから遠藤真也の場合は幹のキャパシティーは「自分の攻撃力のみをゼロにする能力」で枝のスキルは『完全無事着』『弱腰空走スカイウェイカー』『忍び腰スニーキングスタイル』になります。




ここで防御手段の話に戻りますが、スキルガードは二つに別れます。それが自動防御オートガード手動防御マニュアルガードです。


自動防御オートガードは以前出てきた御門みかどしおりの『カミノゴカゴディバイングレース』や四天王寺龍鵞の『自動防霊オートガード』がそれにあたります。どちらも攻撃を認識したものを名前の通り自動で防御するものになります。便利ですが、概念系ノーションのように穴を突かれれば簡単には直せないのが弱点になります。


手動防御マニュアルガードは九条彌生の『向かい風の壁ウィンドリフレクション』や伏見雪成の『総耐防御シェルターコート』のように言わば自分で楯を持っているかのように、それにも気を回さなければならないのは不便ですが、操作性が高いのは一つの利点である。


とはいえこれまで露骨に盾が出てくることがなかったので、正直今の説明でも違いは分かりにくいと思います。


より簡単に違いを説明するなら手動防御マニュアルガードは使っている間、攻撃が来ようが来まいがずっと盾を張っている状態になります。対して、自動防御オートガードは術者に「使う」という意識がなく、また防御行動は攻撃が来たその一瞬間だけ盾をはるようなものです。『忍び腰スニーキングスタイル』が後者だけに有効なのはこれが理由になります。


また、今回、耐防御というものは『手動防御マニュアルガード』だと“勘違いしている”人もいるかもしれませんがそれは違います。そもそも本文にもあるように、基本的な耐防御の概念は「現象系能力者フィナメニストが自分の能力でダメージを負わないように」という補正に過ぎません。だから聚楽園梨緒は誘爆でダメージを負いましたが、中には「自分のを含めて他のも」という発展的というかバグみたいに耐防御スキルを生み出す中二病患者ヴィクターがいて、その最たる者が伏見雪成にあたるというのです。そして彼の耐防御がたまたま手動防御マニュアルガードに定義されるものだったのです。




……やれやれ、後書きだというのに面倒臭いこと書きやがって。それだというのに更新率の相変わらず低いこの小説をいつも最後まで読んで頂き読者様には本当にありがとうございます。お気に入りにまでされている方には顔が上がりません。


ところで私は今、これを小説だとかほざきやがりましたが、ぶっちゃけ小説だとは思ってません。ただの落書きですねこれ。てへ。


となると、「この『小説を読もう』で落書きが読めるのは唯一、永谷立風だけ!」とポジティブコマーシャルを繰り広げながら今日はここで終えようと思います。






ついに、あいつまで出てきちゃってアラ大変アラカオス

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