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Ilustration③

前回、超能力に関して一つ勘違いしていたことがあったのと、友人に分かりづらいとの指摘を戴いたのがあったので内容を一部変更しました。具体的には透視能力→読心能力への変更です。

 

面積にして2.5畳、体積にして5614升という空間がある。


そこは少し薄暗く、壁面は通常よりも音が通しにくくなっていて、唯一の入り口である扉はガラス張りだったがしかし曇り窓であった。そしてそんなじめじめと密閉された空間に、二人の少女がソファーに座っていた。ソファはL字型でその前に小テーブルがあり、二人の少女はテーブルに対して直角の面通しに位置していた。

二人の内一人は、今は真夏だというのにファーのあしらってある厚手のコートにマフラーとベレー帽のようなものを身に付けていた。全体的にモコモコしている印象を受ける彼女の髪はシルバーカラーのショルダーレングスをシャギーカットしたもので、お上品な西洋人形のようであった。雰囲気としてはおとなしめな様子がある。


対してもう一人は、チェーンがジャラジャラと巻かれた古着のジーンズに「A gentleman's agreement」と英語プリントされた黒いTシャツを着て、瞳はカラーコンタクトで紫と緑のヘテロクロミアにしていて、髪は赤に染めたのを一部密網にして後ろで纏めているパンクな様子の少女であった。



誰もが疑問を抱かずにはいられない謎の組み合わせ。それは激辛のハバネロと激甘の生クリームを同時に口に放り込むが如し。違和感という新手の味に受け入れがたい何者かを感じてしまう。


だから、そんな圧倒的な組み合わせが醸し出す雰囲気は、この場が“カラオケボックス”であることも忘れさせてしまう。




そう、ここはカラオケ。

そう、日本人の発明品で、イグノーベル賞にも見事輝いたあのカラオケ。

小田急線町田駅周辺にあるカラオケ屋の一室なのである。









「ごめんなさいね。私が予備校があるからってわざわざ都心から来てもらって」


と、低姿勢でつらつらと言葉を発したのは意外にもパンクな格好をした少女の方だった。彼女はまるで忠実な犬の心を持ったホオジロ鮫のような誠実な性格をその身に宿していた。彼女の名前は涼代すずしろみやび。言うなれば、黒髪艶やかで清楚な大和撫子の姿で、少し圧され気味になりがちな不良の性格を持つ九条くじょう彌生やよいとは対極に位置する存在と言えた。



「別に…気にしないわ…雅」


凉代雅の丁寧な謝罪に対して、もう片方の少女、近衛このえ文香ふみかは静かに返答した。心ここにあらずでぼおっとして、ほとんど口も動かさずに抑揚もなく答えた彼女からは合成音のような無機質な印象を得られた。



「ありがとう文ちゃん」

雅は彼女に対し愛称で呼びながら感謝の辞を述べた。

「いえいえ」

「にしても、まさかあなたが来てくれるとは思わなかったわ。“お互いの巨頭同士”の会談なんて聞いたから、てっきり優勝候補筆頭ベストフォー御門みかどさんか、伏見ふしみさんが来るのかと思っていたわ」

しおりはこの頃忙しいみたいね。どうやら、一ノ瀬……………ナンチャラと牽制合戦を繰り広げているみたいだわ」

「……一ノ瀬いちのせ大和やまとね。彼に対する話し合いなのだから名前くらい憶えなさいよ」

文香が話題の当事者の男を苗字だけで名前を度忘れし、思い出すのにもおっくうな様子を見せるので雅は呆れながら教える。


「やれやれ、本当に憶えづらい名前ね」


しかし文香は覚える気がないようだ。


「そうかしら?どちらかというと憶えやすくない?」

「あんなの、山田太郎とかでいいのに」

「憶えやすっ!ってか、扱い雑っ!筆頭の貫禄皆無じゃん。いや、別に山田太郎って名前が悪いってわけじゃないけど…」

「それと、伏見ふしみ雪成ゆきなりのことだけど…、彼と会話するのは無意味よ。というか場合によっては危険かも」

「?」


文香の発言に首を横にふって疑問を表す雅。


「伏見雪成は基本的に性質に関して語るなら山田太郎と同じようなものよ」

「…、一ノ瀬大和ね。にしても同じ?」


そう聞きながら雅は渇いた喉を潤すためにドリンクバーからとってきたホワイトウォーターを口に含む。


「伏見雪成は『聖天の三柱グローセスドライエック』の中でもとりわけ強行派なのよ。彼自身の考えでは今すぐに同盟を破って優勝候補ベストテン達を駆逐するのもなんの抵抗もないと思うわ」

「ふーん。でも、だとしたら、なんでまた文ちゃん達の仲間に?」

「伏見雪な……あぁ、もう言いにくいわ。…コホン、あのロリコンは…」

「ぶほっ!ゴホッゴホッ、ろ…ロリコン!?」

「ところで、私達も雅の考えと同じように現状は同盟関係を継続していきたいと思っているわ」


驚きのために思わずホワイトウォーターを口から盛大に噴き出してしまう雅。激しく被害を被りびしょ濡れになってしまっているが、全く気にした様子はなくさくさくと話を進めようとする。




「いやいやいやいや!待って!!なにナチュラルに話進めてるの!?」

「もう、なによ」

「いやなによじゃないよ!ロリコンって何?なんの話?そんなワードを言われたら気になってこの会談を上の空にしか終えられないよ!」

「もう、雅は好奇心旺盛の虫かしら。来年から高校生なんだからもっと大人になることをお勧めするわ」

「これは私が悪いのか?これは私が悪いのか?これは私が悪いのか?これは…」


文香は話を止められたことを不服そうにしている様子だったが、雅はそれどころではなかった。手を拘束されて背中の痒いところが掻けないような気分。彼女はそれでも、何もしようとしない文香にかわり律儀にタオルで彼女の濡れを拭い取りながら、しかししまいには頭を抱えて自問自答してしまっていた。


「伏見家は代々御門家に仕えているでしょう?彼は栞の執事なのよ。要するに熱狂的なファンね」

「多分、要せてないよ?」

「失礼、狂信的な信者ね」

「え?ごめん?どこが変わったのかイマイチ分からないんだけど」


雅は頭を抱えてしまう。


「私は別に大袈裟に言っている訳ではないのよ」

「そうなの?ただ仕事だからでしょう?」

「伏見雪成のスマホの待受画面は栞よ」

「うっ…いやでも仕事だし…」

「スク水だと言っても?」

「……………………」

「まあ、スク水は脚色だけど」

「脚色なのかよ!」


フフフと涼しげに笑う文香。その冷たさはいかにも暖かそう―――というか、この時期暑そう―――な格好をしているというのに、風鈴の音を想起してしまうくらいである。ただ、その程度の音でもかき鳴らしてしまえば喧しいのには変わりないようで雅はただひたすらうんざりとしていた。


彼女ははぁと一つため息をついてから顔を上げる。


「にしても、執事ねぇ?さすがは上流貴族様は次元が違うのね。現実味がわかないわ」

「そうね」

「いやいやいや、何を言っているのか近衛家?」

「あら、私は近衛家でした。そしてそういうあなたは庶民様」

「じゃかしいわっ!今時あからさまな貴族の嫌味とか斬新だわ!」

「オーッホッホッホッホ!!」

「そのテンプレートな金持ち笑いも、もっと抑揚ある喋り方ならストレスの溜め甲斐があるんだけどね…」

と言ってから、雅は改めて辺りをキョロキョロする。


「ところで、今更だけど会談場所がカラオケってのはどうなの?私は貴族の俗物趣味と皮肉を言えばいいのかしら?」

「失礼ね。それではまるで私がカラオケに行きたがっている子供のようじゃない」

「いや、まるでもなにも事実だけどね?あなたがカラオケ機種をわざわざ選択していたことも、今さっきこの機械でユーザーログインしていたのも知っているけどね!」

「ふふっ、お見逸れいったわ。さすがはあなたの最強の力キャパシティーね」

「いや別に最強の力キャパシティー関係ないよね。普通だよね。てか、確実に誤解を招いていると思うから言うけど、別に私は読心能力とかじゃないからね」

「ふふ、ご謙遜を」


雅はいい加減からかわれているのにマトモに対応するのはやめようと考える。彼女は気をまぎらわそうとカラオケ機器対応のタブレット端末を適当にいじる。すると気になるものを発見した。





「この既にログインされているアカウントって文ちゃんの?」


目を細めながら手にしたタッチペンでタブレットをツンツン差しながら、文香に尋ねる雅。画面にはログインユーザーの様々な情報が記載されてあった。


「勝手にいじらないでほしうわ」


この反応を見る限り明らかに黒。雅は少し面白くなってきたようだ。


「黙りなさい、このえ@ふみふみ。ってか、なんなのよこの「ふみふみ」って」

「近衛フミカだかひゃひょ」

「この頬か!このマシュマロみたいな頬への形容擬音語か!」


雅は文香の話を遮って彼女の頬を引っ張り、こねくりまわす。


「ひゃめひゃひゃい(やめなさい)」

「てか、なんなの文ちゃん。このカラオケ全国ランキング分母700万にして300位代って…。あなた相当のカラオケ廃人よ」

「雅、ズバッと言うのね」

「カラオケの採点って100点とか取れるのね…。しかもこれ最近売り出し中のアイドルの歌じゃない。あなたのその機械のような抑揚であんなきゃぴきゃぴした歌なんて歌えるのかしら?不思議ね」

「雅こそ、その一切オブラートにくるまない毒舌は性善説を疑いたくなるものがあるわ」


ここでハァと二人してため息をついてからお互いに見遣る。


「攻守交代も終えたところだし、そろそろ本題に戻らない文ちゃん?」

「そうね閑話休題ね」

「…やれやれ。まあ、でも…今日の会談相手が文ちゃんで良かったわ。御門さんからはなんか圧迫感を感じちゃって緊張するし」

「さっきも言ったけど伏見雪成は猛獣が栞という枷にはめられているに過ぎないわ。だからこんな場所に二人きりで集合なんてなったら彼の猛獣が襲いかかるわよ。…性的な意味でないほうでね」

「いちいち断りをいれんでも分かるわ!それにこんな場所を選んだのは文ちゃんじゃない!」

「それより私は驚きだわ。いくら雅が不可侵条約の功労者とはいえ、雅はむしろ支える方で、表立つ人じゃないのに。よく山田太郎の後を継ごうと思ったわね」

「山田って…まだそれ続いてるのね」

「てっきり、無限ヶ崎むげんがさき零次れいじが来るのだと思っていたわ」

「私だって、別に好きで合従の長をやっているわけじゃないのよ。無限ヶ崎は相変わらず何を考えているのか分かったものではないし、阿佐倉はこういうの向かないだろうし、他もじゃじゃ馬ばかり。ただの消去法よ」

「あっ…そういえば」

「何?」


ここで文香はあるワードを聞いて思い出したように口を開く。


「話が反れてしまって恐縮なのだけれど、阿佐倉あさくらで思い出したことがあるわ」

「あなたが恐縮できるなんて驚きだわ。なんでさっきしなかったのかしら。まあ、それは置いといて阿佐倉がなんだって?」

「えぇ、最近流れている噂なんだけど、5月の中盤辺りに渋谷駅周辺で地震が発生したニュースは知っている?」

「確か、最大震度五弱のものが不自然的に超局地的に多発したってニュースで見たわ。東大付属地震研究所も未だに原因を解明できないとか」

「出来るわけがないわ。あれは阿佐倉のAEOCだもの」



AEOCとは域外能力余波――――AfterEffect Of a Capacty―――の略称で、中二病患者ヴィクター因果孤立の空間ニアーディメンジョン内で最強の力キャパシティーを使った際に、現実に及ぼす影響のことである。しかし影響すると言ってもそれは普通は気にすることない些細な量であるが。

具体的に言うならば火炎能力で四畳半の部屋を炎が充満するくらいに炙ったのなら、現在では室内温度が0.001℃上昇する程度に影響する。あと、遠藤真也が聚楽園しゅうらくえん梨緒りおと争った際、彼女が最後に放った、因果孤立の空間ニアーディメンジョンの緑結界を破壊するほどの爆発はあの学校敷地内の温度を1℃上昇させたらしい。


ただ些細な量とは言っても、優勝候補ベストテンのような規格外の威力を誇る最強の力キャパシティーならば、現実でも大きな影響を与えてしまうのである。





「阿佐倉のAEOCですって?まさか?だって彼の『百発百中クリティカル』は派手な能力ではないじゃない」

「どうだか?あの男、裏じゃ有名な殺し屋なんでしょう?この戦いでは無殺の精神を貫いているようだけど。何か隠していることがあるんだと私は睨むわ」

「はぁ…なにもかも杞憂ね。これは尚更不可侵条約の必要性を感じるわ」


雅は心配事にうんざりしてか一度俯いてから、顔を上げきっと強く文香を見てからアクセントを強めてそのように言った。それを受けて文香はふっと微笑んでから聞く。


「それは、不可侵条約の更新及び改善そして一ノ瀬討伐同盟の承諾と受け取ってもいいのね?」

「そうだけど、そこは山田じゃないのね?」

「忘れていたわ」


二人はここでクスクスと静かに笑う。ひとしきり笑ってからほぼ同時に立ち上がる。












「何人いる?」

「五人いるわね」

「なら、文ちゃんはいいわ。私一人で十分。あなたはカラオケでもして待っていて。一曲歌いきる頃には終わっているわ」


と、言う雅に対して文香はタブレット端末を指しながら言いかえす。


「あら酷いわね。私にアカペラで歌わせる気?“この世界では機械は使えない”ということを知らないあなたではないでしょう?」

「これは失礼。なら同盟の記念に協力して駆逐する?なるべくAEOCが出ないように気を付けながら」

「それはなんて魅力的なお誘いなのでしょう。もし私が女なら雅にベタ惚れね」

「ちょっと!それじゃ私がまるで男みたいじゃない。訂正を求めるわ」


と、彼女は自身の格好を鏡でみないのかと思ってしまう発言をする。文香はつっこむか迷ってから面倒になって扉のノブに手をかける。




「そんなことはどうでもいいわ。早く彼らを歌わせましょう?」







気付けばこのカラオケ店には二人の少女はいなかった。


消えた?違う違う。もともと皮を被っていたのを脱いだのである。






数分後、無〝人〟のカラオケ店からは、5つの男の悲痛な声が鳴り響いたとか…。

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