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Ep20 Desperation~傲慢過ぎる雷轟の幾筋~

お久しぶりです。ついに書けました、お待たせしてスイマセン。ではどうぞ。





「はっ!! オレはいったい何を?」



随分と空白な時間が続いていた気がした。真也は脳内桃色小劇場を強引に閉幕させて両手で両頬を張り、自身を戒めて口の中から痰混じりの性欲の固まりを吐き出して気を引き締めようとする。それと同時にストンと大地にパラシュートよりも安全に無事着した。すると委員長(♂)が駆け寄って来た。


「つか…、お前はいつまでそこにいる気だ?終点ですよお客さーん」


真也は不意に頭を垂れる。そこには神妙な面持ちで自分の今の状況を忘却してしまっているお姫様がいた。

「っ!?………いっ…!いつまでもアンタがかっ…抱えているからでしょ?早く下ろしなさっ………………いよ…」

梨緒はたったの今に起き出したかのように瞳を大きく開いて通常営業で高圧発言が飛び出したかと思ったら、途中から口を濁して勢いがたゆんでいった。その普段と違うものを目の当たりにして、最近はこれを頻繁にしていたから気にしていなかったが真也も改めて自分がお姫様抱っこという異常な行動をしていることを羞恥した。

「ごっ…ごめん」

そっぽ向く少女の上気のぼせた顔が妙に色っぽく気恥ずかしさはますます増してくる。影響されたように真也は口数を減らして、彼女の方をまともに見れないで梨緒を降ろすのにもまごついてしまう。




「そうです、早く降りやがって下さい」




その甘酸っぱい空間を切り崩すように委員長(♂)が梨緒の頭に手刀を振り下ろした。痛みから可愛く両手で頭を抑えながら真也の腕から落ちるようにけ出した梨緒はキッと睨んで委員長(♂)に抗議する。

「なっにすんのよ!」

梨緒は瞳に微量の涙を溜めて声を張り上げる。

「ププッ、空手チョップなる単語も知らないとはよほどの子供だったようですね」

「私が言いたいのは何でチョップするのかってことよ!てか、誰が子供よ!」

お前だろと心で思う真也。


「はてさてところで真也くん、かなり無理をしたようで腕は大丈夫ですか?」

「えっ?あぁ、大丈夫だけど?」

ぎゃあぎゃあわめき散らし続ける梨緒を委員長(♂)は完全に無視して出し抜けに真也に言葉を振ってくる。さすがはというべきか、ひとクラスをまとめ仕切れうる者の達人にもなると短時間で人物の性格を把握して賢く対応出来るのだろう。普通の人間ならこうもいかない。真也も含む彼らは人間関係のギクシャクに触れて時折、堪えられなくなって感情の爆発を起こすものだ。それがことを余計にややこしくする原因になりうることを本人は承知して、それでも抗えなくなるのが普通なのだ。



――――オレですら“あの時”生き方を変えてから、あまりムキになることをやめてたとはいえ…だ。



真也は思う。よほどにこの委員長(♂)という男の醜い感情を覆う殻は硬いのだろう。梨緒にも見倣ってもらいたいものである。

真也がそうやって改めてこの優等生を尊敬し気苦労をいたわっていた一方、当の委員長(♂)は暫く黙って真也の腕を凝視していた。そして唐突に、何を思ったのかそれをいとしむように自分のたもとに引き寄せる。


「ばっ!なにしやがる?」

真也はギョッとして顔を青ざめる。拍子に彼へのプラスイメージが全て吹き飛んでしまった。真也はそれを振り切ろうと力を入れるが委員長(♂)がそれを許さない。

「可哀想にこの腕、恐らく聚楽園さんの重みで粉砕骨折してしまったのでしょう」

「だとしたらお前が今、圧迫している間に激痛が走り回っているわっ!!」

あわれみの瞳で真也の顔と腕を交互に見る委員長(♂)。しかしその言動は第三者にカチンときたらしく、

「なによそれ!私が重いって言うの?」

案の定、梨緒が文句を言って委員長(♂)の腰をポカポカ叩く。


「違うんですか!?」


梨緒の発言に驚きの表情を見せる委員長(♂)。少々、パフォーマンスがわざとらしいくらいである。真也は呆れながらこのやり取りの行き先を見守る。


「違うわよ!」

「じゃあ何トンあるんですか?体重」

「何で単位がトンなのよ!」

「おっと失礼、じゃあ何ギガトンですか?」

「単位が大きくなってるじゃない!!」

「ふーむ、やれやれどうしてか僕には何が不服なのか全く分からないんで…、っ…!!」


「なっ!?」

「うっ…?」



委員長(♂)が何事かを述べようとした時、三人のかたわらでドスンとお腹に響く重たい音がした。思わず身構える三人、しかしそこには何もない。真也に戦慄が走る。比喩ではなくて、その場に空気の塊が墜ちたことに気が付いたからだ。発信源はもちろん分かっている。




「うん、随分と無視してくれちゃってんじゃんシーンヤァー?緊張感なさすぎじゃね?たかだか窮地を脱したからってだけで余裕ぶっこけるなんてマジで尊敬しちゃうわー」



「…九条」

墮天使が降臨するが如くゆっくりと下降してくる少女をゆっくりと見詰める。和服美人がグレたらちょうどこんな感じになるんだなという見本のような彼女はロングのツインテールをなびかせながら怖い笑みをあらわす。

別に無視してはいない。真也はそう思った。彼は自身の性格上、嫌なことからは逃げてしまう特性があるのである…………と彼はそこまで自己分析したところで首をひねる。




――――――ん?いや、てか無視していたのオレじゃなくね?



そして真也はチラと後ろの二人を見る。


「ほら、真也くん。ふざけるのはここまでのようですよ」

「いつまでも遊んでないで集中しなさい、シンヤ。じゃないと死ぬわよ」


「…、おっ、お前らなあ」

もはや息を呑む程の余り図々しさに対して呆れがてら何か言おうと思ったが、自分のいじられる才能を彼は嫌というほど十分に熟知していたのでその抗いが徒労に終わりそうなのは目に見えていると思い、真也はその傲慢を無視してタメ息してから改めて集中し現状を見直すことにする。




まず、基本な所で九条の能力は“風”。

そしてそれを応用した空中浮遊にエアガンを使っての高速移動と強化格闘、そしていかなる攻撃も跳ね返す『追い風の壁ウィンドリフレクション』。それに今しがた見せた空気の塊をぶつける遠距離砲をも加えれば無敵以外の言葉が見つからない気がした。


「真也くんは見ていなかったので知りませんが、実はどうやら空気を介してこちらを感知できる能力もあるようですよ」


委員長(♂)はつけ加える。なんじゃそりゃ?と言いたかったが成る程確かに風を操れるのだから空気を通して伝わる音まで操れない道理はないだろう。九条は本当の意味で“風の知らせ”が知れるらしい、プライバシーの侵害じゃねえかと投げ槍に真也は思う。


「ですが、曖昧にしか分からないようですよ。現に彼女はあなたと知り合いだというのに実物が姿を現すまで真也くんだと気づかなかったようですから」

委員長(♂)は安心させるように屋上での一見の推察結果を告げるが、要はあの無敵な力の前では“いることを知るだけで”充分なのだろう。

そうこうしている内に九条は地面へと着地した。



「お待たせー、じゃあ続きという終わりを始めようか」

「…」

三人相手でも一切物怖じしない九条を見て真也は少し考えてから意を決して提案してみる。



「あのよー、もう、やめねえか?」



「「「はっ?」」」


これには言われた九条だけでなく味方である梨緒や委員長(♂)までもが振り替えって怪訝の声をあげる。その絶妙なハモりに一瞬怯んでしまうが湧いた唾液を一度飲み真也は続けた。


「いや、だからやめようぜ?もう、戦うのはさ」


実のところ委員長(♂)と梨緒にはそこまでの驚きはなかった。それはこれまでの戦いで彼がいかに“よわゴシ”かを理解していたからである。






「………………………………………………………………………………………………なんでよ?」






だからこの絶望感漂う疑問系は彼らのものではなかった。九条彌生くじょうやよいはここにきてこれまでにない空虚な声を吐き出す。あまりに覇気がないので一瞬前の彼女とは別人かと疑いたくなる。体は枯れるように力が抜けてだらんとし、口は半開きで、瞳は焦点が定まっていなかった。それはどこか目の当たりにした現実を受け入れられないでいるよう…


「なんでって、そりゃあ…」


真也は彼女が先程から時々見せるこの反応を不思議に思った。さっきから九条は何に対して怯え、そして失望しているのだろう?


「お前は…私が憎くないのか?」


九条は声を絞り出す。


「憎いさ」

「なら…なんで?」

「いや、ほら確かにあの事件のことは今でも頭には来るが、いつまでもいがみ合っていてもしょうがないだろう?お前だってきっとわざとじゃなかったはずだ。訳があった、そうだよ、やっぱり理由があったんじゃないか?だから今日はそれを言いに来た!成る程成る程、辻褄つじつまが合う。オレらは何があっても結局は友達なんだよ。やっちまったことは仕方ない、うんうん仕方ないんだ。若気の至り……、いやいやいやアレはきっと事故だったんだ。そうだろ?きっとそうだ、だから今こそもう一度やり直そうぜ?絶対にオレ達やり直せるし、あの頃に戻れるよ。いやっ、多分それ以上に……って、どうしたんだ九条?」

真也は何かにとりつかれたようにさんざん述べてから俯いてしまっている九条に気付いた。


「…うるさい」


ぼそぼそと言う九条。


「えっ?」


そして歯を食いしばって顔をあげて呆気にとられている真也を睨む。


「お前は…なんでっ……まだっ!!」


そのまま一歩一歩強く地面を踏み締めながら真也に近付いて、力んでいるのか大きく振動した諸手もろてで胸ぐらを掴もうとする。





「させないっ!!」


轟音と共に真也の視界が橙色と茶色のグラデーションに遮られる。梨緒の『粉砕爆発バーニング』が文字通り火を噴いたのだ。真也はあまりの熱量と大音量に一瞬、反射的に顔を覆ってしまうがそれも長くはなかった。

「交渉はどうやら決裂のようですね。まあ目に見えていたとはいえ残念なのは本音です。しかし気を落とさずに、今からは戦いに集中しましょう。取り敢えず住宅街の方へ行きますよ」

委員長(♂)がポンと真也の肩を後ろから叩く。いつのまにか真也は翡翠色のオーブに包まれていた。爆発に対するありとあらゆる攻撃を防いでいるそれは委員長(♂)の最強の力キャパシティーの『絶対防御イグノアー』である。


絶対防御イグノアー』は本来ならば薄緑なんかではなく無色透明のものなのであるがそれは彼が自身の能力を完全に使っていないからである。そもそも彼の本当の力とは“絶対”防御であり、それは“光”や“音”や“空気”さえも例外ではない。しかし全てをはじくのでは闘うことが出来なくなるので委員長(♂)は幾つかの除外項目オプションを作っているのだ。それが多ければ多い程に『絶対防御イグノアー』は緑色を増していき----より正確には光をも弾くわけだから闇色であるが----同時に防御力が必然的に落ちる。なぜなら除外項目オプションのせいで彼の絶対性は揺らいでしまっているからだ。単に除外項目オプション以外が絶対防御などという合理的なことは出来ない。当然だろう。部分的絶対性とはその文字列だけで自家撞着をきたしているのだから。彼は彼自身が抱える“絶対性”の“矛盾”ために全力を出さないのではなく出せないのである。



「勝算でもあんのか?」

ここまで九条の反応に戸惑いポカンとしていて委員長(♂)に促されるままに一緒に駆け出していた真也は少し落ち着いてきたので並走している委員長(♂)に顔を向けた。


「僕はですね、勝算がないことなんてないと思っています」


委員長(♂)はいつもの微笑みを返した。

辺りはいくつかの一軒家が密集した地域で流行なのか慣習なのか多くの庭先には木々が植えてあった。場所によってはほったらかしになっていて鬱蒼とした密林になってしまっているものもあった。二人は十字路の真ん中で棒立ちになる。真也は辺りをチラチラとうかがってみるが九条は見えない。同じ場所にとどまっているのだろうか。


「随分と楽観的だな。お前のその態度にはいつも安心させられるが今回ばかりはあんな無敵な奴に厳しいんじゃねえか?」

真也は当然のように疑う。だが、委員長(♂)は堂々と言った。





「いいですか、真也くん。物事には必ずしも弱点があるんです。君が『絶対防御イグノアー』を撃ち破ったようにね。強い人というのが弱点がないように思えるのは要は見方考え方の問題なのです。とあるものが一見、物凄い力を秘めていると思った時そのことに圧倒されてしまって弱点が見えなくなってしまうのですよ。僕達自身が不本意にも相手を強くさせてしまっているわけです。」





“お化け”とはなんで“怖い”のだろうか?

不気味だから、神出鬼没だから、脚がないから、気配が薄いから、いろいろあるように思えるが実際はそんなものは枝葉末節、飾りのようなものに過ぎない。実際は“怖い”から怖いのである。どういうことかというとたとえば人は花を見て“怖い”と思うだろうか?思わないはずだ。それどころか“怖くない”とすら思わないはずだ。そもそもそういったものが前提にないのである。だから「お化けなんて怖くない」と豪語しても、そもそも“怖い”“怖くない”の判断をしている時点でアウトなのである。


「侮れというわけではありません。ただ…一つの物事を深く考え直して発想を転換させなきゃいけないんです。物事が複雑であり完璧であればあるほど実は逆説的に弱点も増すんですから。そして、そこを討てばいいのです」

「お前の言いたいことは分かる。強さの過剰解釈、だが…それを考慮してもあの強さには太刀打ち出来ないだろう?」

「“不可能思考は悪い”と人は言いますが僕に言わせればそんな辻褄の合わないものは存在しないと思うんです。そもそも不可能という断定は思考を停止させた結果なのですから。だから思考さえやめなければ彼女も倒せないことはないですね」

「と言うと?」

真也は関心を持って続きを聞こうとする。

「はい、たとえば彼女を最強たらしめている『追い風の壁ウインドリフレクション』。彼女曰く“全方位からの攻撃を全て跳ね返す”らしいですが、真也くん。基本的な話、風とは何からできているか分かりますか?」

「…いや、よくは分かってねえが確かアレだろ?気圧だとかなんとか」

「いえいえもっとメタな話ですよ。小学生でも分かるような」

真也はしばらく頭を掻きながら思い悩んでいたが、やがて半ば自暴自棄に答える。

「あっ…空気……なんてね」

「そうです!さすが真也くん。小学生の思考をよく理解しています」

「お前…それ、誉めてねえだろ……」

真也は睨むが委員長(♂)は気にしない。

「つまりです。風は無限ではなく有限なものだということですよ。ある一点から全方向に空気が流れ出てしまったらどうなります?」

「真空?」恐る恐る答える真也。

「そう。だから常に『向かい風の壁ウインドリフレクション』が全方位を向いているのは物理的に不可能なんですよ。これこそが本当の不可能。多分どこかにカラクリがあるんです。まあ大体はそれも分かっているんですが」

「じゃあ、さっきからやってる空気の砲弾はなんなんだ?あんな風に風を自在に操れられたらたまったもんじゃねえぞ?」

「あれは恐らくダウンバースト現象というやつですね」

「だうんばあすと?」

真也は聞き慣れない単語を復唱する。

「それについて話す前に“自在”に隠された弱点を話しておきましょう」

「“自在”に弱点って、バカな。何もかもを自分の思い通りに動かせられることに不自由なんてそれこそ矛盾じゃないか?」

「いいですか?風を自在に操るとは要するに全てオートマチックではないということなのです。真也くんは右手と左手、それに右足と左足とで別々のリズムを刻むことが出来ますか?難しいはずです。自分の体ですらそうなんですからしてや風なんて複雑な動きをさせるのは厳しいんじゃないでしょうか?」

「てことは、複雑な攻撃をしてる時は防御がやわになる?」

「フフフよく分かっているじゃないですか」

「そういうのはいらねえ。で、なんだよ?そのウインドなんちゃらってのは?」

真也は委員長(♂)を急かす。

「ダウンバースト…実際にはマイクロバーストをさらに強引に一点に集中したもののようですが、積乱雲や雄大積雲からの下降気流が途中で弱まることなしに地面と衝突して大きな破壊力をもって周囲に吹き出すというやつで、まあ…」

そこで委員長(♂)はその場から数歩進む。真也はその真意が掴めずにただ「まあ?」と疑問符混じりに鸚鵡オウム返しした。

その直後にドンという大きな音と続けて-----『絶対防御イグノアー』が壁になっているとはいえ------強大な風圧を感じた。真也が少々パニック気味に辺りをキョロキョロと見回して九条を探しているのを眺めながら委員長(♂)は言う。



「こういうものですよ」

と。




「こういうものですよ………じゃねえよっ!ましてんじゃねえよ!!余裕ぶっこき過ぎだろ!!とっ…とにかく走るぞ!」

真也は妙気庵待庵の茶室で茶でもすすって侘びの極みに至っている程に落ち着き払っている委員長(♂)の手を強引に引っ張って駆け出す。特に何処かへ行こうという宛てはなかったが最後に九条を見掛けた所から距離をとろうと思った。





「真也くんっ!!」




あまりの声に振り返るとそこには真剣な眼差しの委員長(♂)がいる。

「どうしたんだ?」

九条絡みか?と推察する真也。




「なんかこうやって手を繋いでいると恋人みたいですね」

「うん、お願いだから黙ってようね」

なんでこいつはこんなに余裕なのか本当に不思議に思う。その余裕をオレの焦燥と合わせて二で割れば丁度よくなりそうなものだ。そんな風にオレの呆れが宙返りをしていると委員長(♂)が体を使ってオレの歩を止めにかかる。文句を言おうとする前に人差し指を口許に置かれて「喋らないで」とサインし、委員長(♂)自身はいつの間にやら拾ったのか石ころを前方に投げる。それがカツンと壁にぶつかる音をあげると、数秒遅れて…






…そこに風の雷が落ちた。






―――成る程。



オレは委員長(♂)に仕方なく密着しながら壁に張り付いて確認した状況を整理することによって彼の行動の意味を悟った。


九条は風の噂を知れると言っていた。それはつまり委員長(♂)は音を媒介にしているんじゃないかと憶測したわけである。音とは物体や空気の振動である。ここら一体の風の動向を掴むことで異様な振動の震源を索敵しているのである。ならばそれを逆手にとりオレ達の進行方向に音を出すことでまんまと誤情報を掴ませたわけである。


オレは息を飲む。委員長(♂)はこちらの音を完全に遮断する意味をも込めてエメラルドグリーンの『絶対防御イグノアー』を展開しているので、意識的に押し黙る必要性は実際に全くなかったわけではあるが全身に伝わる緊張感がその時オレにそのことを忘れさせていた。だけども、その頑張りが至極無駄であることだけはすぐに分かった。


「ぬおっ!?」

地震でもあったかのような揺れを感知して空気が稲妻を帯びているように体を痺れさせる。端的に言うならば件のダウンバーストが落ちたのだ。弱体化しているとはいえあの『絶対防御イグノアー』は外部と遮断しているというのに、これ程の威力を感じられるとはこのダウンバーストとやらは実際に喰らったら本当にひとたまりもないだろう。


とりあえずオレ達はこの場でいつまでも固まっていても仕方がないので逃げ出すことにした。






――――くそっ、音じゃねえのかよ?










否。

その実、委員長(♂)の推理は間違ってはいなかったのだ。

最初の邂逅だけでこれを判断できる者はそうはいないだろう。


だが、九条の能力。


それはより正確には“音も”なのである。


風、そして空気が伝えるのは何も音だけにとどまらない。熱、空気の流れ、水分濃度、匂い等々、いくつも存在する。九条はその全てを把握することによってより精密に辺り一帯の状況を理解できるのである。



「ギャハハハハハハハッ、音だけなわけないじゃん!まんまと騙されてやんの!ギャハハハハハ!!!!」


そんな歩く有機質レーダー九条は真也達から少し離れた場所で元の高飛車な態度に戻っていて、この狩りを心底たのしんでいた。ただ、客観的視点でかんがみるならば彼女のそれは目的ではなく手段でありネガティブなものであった。つまり何か直視したくない現実から目をそむけるために闘いに逃げるということであり、そう意味では真逆ではあるが真也と同じように彼女もまたよわゴシと言えた。

その証拠に彼女は一気に終わらしにはかからない。彼女はエアガン力学の応用による並々ならぬ機動力を備えているために真也達に追いつくことは造作もなかったが、それではゲームとしてはつまらないのだ。離れた場所から遠距離砲を発射して恐怖感を与えてつつ徐々に弱らせていく方が彼女にとってそそるのである。


「シンヤァ、やっぱお前はそうでなくちゃなぁ。本当に面白いよ、さあ、さあさあカッコよく逆転してみやがれよ!!」


九条は吠える。それが真也に届いているかは不明だったが九条はそんなことはどうでも良かった、彼には結果で答えてもらえればそれでいいのである。


「石ころで誤魔化す作戦は結果としては残念だけど、私的には評価高いぞ?さてと、次はどこに……っ…?」


九条はここで思い出す。あまりの狂喜に冷静になれてなかったので思わず真也ばかりを追っていたが、よく考えなくとも敵は三人。風の異様な流れや音の異常な途切れから推測するに、あのにやけ面優等生は真也と一緒にいるとして爆発のちびガキはどこにいるかを掴めていなかったのだ。


「ちっ、面倒な女め。だがあの爆発はちょっぴしでも厄介ではあるから位置確認しとかなきゃな。索敵範囲マップを広げてみるか」


そう言って、九条は精神を統一する。より広い範囲をより綿密に把握するには集中力を高めなければならないのだ。とはいえ、そんな大袈裟なものでもない。余計な情報を遮断する為に瞳を閉じて耳をすまし体の全神経を敏感にさせるのだ。





「!!!!!?」


九条は突然に驚きで目を大きく開いた。次に「ぁのオンナあっ!?」と眉間にシワを寄せ怒りをあらわにした。そのまま両足の裏に風を強引に集めてそれを一気に解放して移動力を得た。

九条は駆けている間に目測でもここら一帯の異常を関知することができた。その景色には所々から黒い煙が上がっている。




梨緒は真也達と別れて移動した間にしばらく距離をとってから“委員長(♂)に直前に言われた通り”無差別無秩序に家々を爆破したのである。無数の爆発は更に多くの“音”や“熱”や“風の向き”や“火の匂い”等を生み出す。それらのイレギュラーな要素は九条の索敵範囲マップを狂わせるには充分だった。


つまるところ…、





“精密”な索敵とは言い換えれば“繊細”な索敵なのだ。







実際のところ委員長(♂)は九条の“風の噂”が音だけでないことなんて既に気付いていた。

委員長(♂)は石ころを投げるという大仰おおぎょうで意味深な行動に出ることで九条に勘違いをさせたのである。彼自身にとっては単なる確かめ算。真也が九条の特殊なマイクロバーストを『絶対防御イグノアー』を通じてにしてはより生々しく感じたのも、“風の向き”という要因を委員長(♂)があえて防御対象から除外していたからである。あの時点で委員長(♂)の推測は証明されたのである。さらにあの行動にはこちらに注目させて梨緒を隠す意図も含まれていた。


「くそっ!?あの女っ!!どこ行った?」


九条は索敵範囲マップの異常な乱れの中心を算出してそこに梨緒がいることを確信して追いかけたのだが彼女はもはやその場にいなかった。

忘れてしまっている読者もいるかもしれないが、彼女―――聚楽園しゅうらくえん梨緒りお―――には爆発耐性フルレジストという特性があり自身の爆発そのものでダメージを受けることはない。だが爆風に関しては二次発生の産物な為に例外である。だからこの二つの特徴を利用して彼女もまた九条のように移動が出来るのである。ただ九条程に精確な動きは難しいので多少荒っぽくはなってしまうものの、単純に逃げるだけならば大した問題ではないのだ。



そしてこの時、九条は委員長(♂)の新たな策略に同時にまっていたのである。





「しまった!?真也はどこ?」

彼女は真也の追跡を中断してフィールドを縦横無尽に動いていたために彼らを完全に見失ってしまったのである。九条はイライラがつのる。これは誰かを徹底的に対象を痛めつけなければ治らないレベルだった。



「シィンィャヤぁああっ゛!!」



九条は頭に爪を立てて右手で覆いながら再び索敵を開始する。異常な乱れを計算に入れた上での遠藤真也単体の動きにのみ限定したのでなんとかだいたいの場所を割り出せた。



「そこにいたかあああっギャハハハハハハハハハ!!!!!!」


限界まで熟した激怒の果実と非常にたわわに実った狂喜の果物をジューサーに押し込めたドロッドロの液体を今の彼女からは彷彿させた。エアガン力学の応用による移動法で即座に例の地点に赴き、その瞳が目標シンヤの着衣を確認すると鋼鉄をも粉々に砕く右拳を躊躇なく叩き込んだ。





今の彼女は、まさしくバーサーカーだった。






だから、こんな人間を超えた人間の本気の一撃を、もしマトモに喰らっていたならば通常の人間はひとたまりもないだろう。










そう、          “もし喰らっていたら”






「あ゛っ?」

バーサーカーは疑問の声を吐いた。

訳すならば「人間とは殴るとこんなにも岩を粉砕させたように破片となり、一切の液体を出さないものなのか?」



真也にとって、バーサーカーと化した九条なんて全く怖くなんてなかった。

否、九条が怖くないのではない。“何も考えない”バーサーカーが怖くないのだ。



九条は理性を吹き飛ばすことによって甚だしい力を獲得できたが、それは“考える”という人類の大きな武器を放棄してしまった割に合わない交換であった。もし彼女が殴ろうとしているものは岩片に学ランを被せたものではないかと疑うことが出来たら、もし彼女がしっかり索敵をして同じ座標でも敵はより“高み”にいることに気付きさえすれば結果は変わっていただろう。





「うおおぉぉぉおおっ!!!!!!」



真也は九条の真上で空中浮遊を維持し続ける『弱腰空走スカイウェイカー』を解除して落下の姿勢に入る。九条は先刻の一撃に全力を放っていたので後ろに真也がいるのを分かりながらも、反動でけたり防御に入ることが出来なかった。さらにここで真也には嬉しい誤算があった。もちろん愚図な真也自身は一切気付かなかったが、それは今の九条の一撃が出来る限りの風を集約したものであるが故に彼女の後ろの空気が前に解放される流れを創ってしまい、真也の落下が加速されたのだ。



真也はバーサーカーではない。

彼は右拳を振るうがそれは、普通の人間の普通の人間による普通の人間のための一撃であった。


だが、今の彼女にはそれで十分すぎたのである。




「おおおおおぉぉぉおおっ!!!!!!」




真也の拳が九条の後頭部近辺にしっかりと当たる。彼女は衝撃に白眼をむきながら前方に倒れこむ。役目を果たした真也はカッコよく着地を試みるがよわゴシな彼には無理な話で、結局は顔を盛大に地面にぶつけて砂を食いながら二回転くらい不様に前回りをしてしまう。


「つっ…だっあ!」


落下の衝撃は『戦意皆無よわゴシ』で殺せても、その他諸々の痛みに顔を歪める真也。そこに梨緒と委員長(♂)が駆け寄ってくる。


「さすがは、真也くんですね」


委員長(♂)が手を差し伸ばす。


「ぐっ、いや…。オレは最後の最後だけ。実際はお前の手柄だろ?」


その手を借りて立ち上がりながら真也は言う。




人間は技術力が上がれば上がるほど逆説的に技術が劣っていく。便利になって手順が省けるようになったから、そこに頭を使わなくなるのである。たとえば交通手段の利便性が増すほど人間は怠惰になり運動をおこたりメタボリックシンドロームなるものも増えてきているとか。

中二病患者ヴィクターも同じ。その『最強の力キャパシティー』が強ければ強いほど、それに頼りきりになってしまい能力者自身が考えることをやめてしまう。『絶対防御イグノアー』の持ち主の委員長(♂)もかつてはそうであった。自分の防御を破るのは“不可能”だと断定してしまうことによって、ただの丈夫なあしに成り下がっていたのだ。それを変えさせたのが他ならぬ遠藤真也だったのである。だから委員長(♂)の言う「さすが」はあながち間違っていなかったのだ。







ただ……、


勝負とは冷静さと同時に“熱”をも持ち合わせねばならないことを彼らは忘れてはならなかった。


熱とは気であり、勝負がつくまでは緊張感を抜いてはならないということである。


言わずもがな、中二病対戦ヴィクターウォーズの“勝負がつく”とは気絶状態で再び能力で攻撃すること、すなはち能力喪失ロストのことである。











「かっ………あっ…!?」


オレの目の前で委員長(♂)が崩れていく。けたたましい音がしたと思ったら溢れる閃光のために目を反射的に覆ったその後の出来事である。その手を離したあとの光景がよく分からない。倒れて小刻みに振動している委員長(♂)を前にしてオレは茫然自失となっている。



「お前さぁ…、さっきの私の索敵が“音だけじゃない”という事には気付いたくせに、私の最強の力キャパシティーが“風だけじゃない”ということには気付かなかったわけぇ?」


すると後方からやけに大きいアルトボイスが発せられる。

それは真也が今一番聞きたくない声だった。

咄嗟に振り返る。

そこには石で切ったのか顔面から流血している九条が息を荒らげながら立っていた。自慢のツインテールはゴムがとれたのかただのストレートになるにとどまらず、静電気でも帯びているように所々が逆立っていた。


「九条なんっ…!?」

「おおおおおおおっ!」


真也が戸惑っていると傍に控えていた梨緒が甲高かんだかい音を立てて駆け出した。目の前に巨大な爆発を巻き起こそうとするが、それよりも速く彼女を蒼燕ツバメが貫いた。梨緒はこと切れたように地面に伏せる。今度は真也にも分かった。豪光豪音を持ちうる速さの化身、見ているだけで痺れるようなそれは圧倒的に“雷”であった。




真也はふと『疾風迅雷アローガンス』という言葉を思い出していた。





真也の嬉しい誤算には更に誤算があったのだ。それは風の流れに引き寄せられたために後頭部ではなく後頭部近辺に拳がそれてしまい相手を完全に気絶させるには至らなかったということだ。だが、真也の不幸はそれだけにとどまらない。この一種の刺激のために九条は正気に戻って理性的に考え始めたのだ。

まず彼女は不意討ち気味に委員長(♂)を潰した。九条の風の力が精密性や柔軟性を特質として挙げるならば、九条の雷の力は圧倒的な攻撃力がそれにあたる。梨緒の爆発とはまた違った攻撃力の圧倒性、あれをハンマーと表現するなら九条のは槍。どこまでも貫通性と速攻性に満ちているのだ。さしもな委員長(♂)だってまだ見たこともないものには対策を打ちようがない。文系の天才が初見の数ⅢCの問題に全く太刀打ち出来ないようなものだ。そして司令塔いいんちょうを潰すことによって、それまでくさびを打たれていた梨緒を野生に解放させて空回りさせることが出来る。さっきまで自分がそうやられていたように、そんな“マト”なんて討ち取るのは容易いのだ。



「うっ…あっ」


九条がにじり寄る。その度に真也は情けない声を上げながら後退していた。

れた九条は弱い雷撃を真也の両脚に与える。



「がああっ!?」


麻痺したのか全然使えなくなった脚のために地面に尻餅をつく真也。だが今は痛みに悶えるよりも恐怖が彼を支配していたためにただひたすら後ろに後ろにと動こうとしていた。



「もう、ごめんなさい…。助けてください…」


真也はそれも無駄だと悟ると今度は命乞いを始めた。



「シンヤ、早く立ち向かってこいよ。逆転してみせろよこっからさあ」


九条は聞く耳を持たない。ただひたすらぶつぶつと唱える。



「もう無理だって。お前だって薄々と分かっているだろ?オレの能力『戦意皆無よわゴシ』ってんだ。くそな能力なんだ。勝ち目ねえよ」





――――うるさい、そんな言葉を吐くな。




だが、そんな九条の言葉が届くはずもない。




「頼むよ、じゃあせめて仲間だけでもさ。何でもするから」




――――仲間のため?ふざけるな。なんだそれは、その言葉は?それは免罪符か何かなのか?傲慢だ、そんなのは傲慢でしかない。











「シンヤ、お前がやっているのは仲間のためとかじゃなくて、結局は自分のためなんだろ?」




「へ?」

真也は聞こえていなかった。それは九条の声がぶつぶつとしたものだったからという理由もあるが、それ以上に真也の傲慢さが板につき過ぎていて無意識であるためでもあった。



九条はもう“何も”言わない。



「お前、なんでもするっていったよなあ?」

「あっああ!だから頼む」


九条は笑う。それはさっきまでのものとは言ってしまえば真逆の冷めきった笑いであった。






「じゃあ、私の足をなめろ」






「へっ?」

今度は聞こえてはいた。だがその屈辱と絶望に聞き入れたくないと思っていただけである。今度の返事は九条にとって問答無用で構わない。


「じゃあ別にお前ら全員殺すだけだから構わないよ」

「やめてくれ!分かった、やるから」


真也は涙をボロボロと情けなく落としながらいつくばって九条の足下に辿り着くと、ゆっくりと舌を出して靴を湿らせた。醜い音が響くが一度始めてしまうと真也は羞恥を忘れて黙々と舌を動かし続けた。




ねちゃねちゃと。

ねちゃねちゃねちゃと

ねちゃねちゃねちゃねちゃと

ねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃと

ねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃと

ねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃねちゃ

















「うるさいっ!!」







「ぐっ!?」

九条はその粘着質な液体で包まれたローファを真也の顔にエアガンで強化された右脚を思いきりよく叩き込んだ。真也は不意だったのも重なり二、三メートルサッカーボールになっていた。その動きが止まってから九条は言う。



「一週間以内にお前の手であの二人を葬りなさい、そうしたらお前は助けてやるよ」




そして、その場を離れようとする。

真也にとってその提案は受け入れがたく今すぐにでも九条に変更をすがりたかったが、叶わなかった。なぜなら急激な睡魔に彼は抗えなかったから。
















「そう、私がなんとかすればいいのよ」


九条はとある公園のベンチにいた。

そこで右脚に履いていたローファを脱いで両手で持って自分の胸辺りに持ってくる。


「私と一緒になってシンヤを教育すればいいのよ。あの頃のように戻るために」


九条はそのローファをいとしく見つめながら、ゆっくりと紅色の舌をはわせて無色と無色を重ね合わせる。











人間とは斯くも傲慢な生き物なのである。


へへっ、傲慢過ぎてごめんなさい

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