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Ep1 Accepted capacity ~不良品渡されたことへの文句~



「はぁっ?」


春休みをまったりと消費して、つい数日前に無事に中学二年生へと進級したこのオレ遠藤真也えんどうしんやは、これでもかと言うほど口をへの字に曲げていた。

自分の周りに広がる場景も、目の前にいる『運営委員会ディレクター』とかいう意味不明なことを話す奴にも全くもって見覚えがなかったからだ。



…おいおい、世界よ。オレを置き去りにして進行しすぎじゃねえか?


なんでこうなっているんだ?


真也は戸惑っていた。





ファンタジー小説の主人公にありがちな一文だが、この少年、遠藤真也もなんてことないフツーの少年である。

日本の首都のそれなりに人が多く住む地区の公立学校に通う彼は、平均身長平均体重と中肉中背を誇り、成績も並である。

運動神経はなかなかいい方であるが、球技に関しては苦手に磨きがかかる程の実力で平均すると体育の成績も五段階で三になる。



「あァ~、…なんかおもしれえことねぇかなぁ。」


机に突っ伏す遠藤真也。今この学校は給食を終え、四十分の昼休みに入っている。

教室には十人程度の人数しかいなかった。そもそもひと学年五組のひとクラスには四十人いるのだが、今はそのほとんどが廊下で他クラスの奴と駄弁ってるか、部活の用具の整備をしているか(主に運動部が)、校庭でバカみたいに騒いでいるかのどれかである(まれに黒魔術を研究している奴とか、深夜に見たことあるなぁって感じのダンスを披露している奴もいるが無視だ)。


「遠藤さあ。宇宙だよ、宇宙。君も宇宙について調べてみなよ。星間飛行とか憧れるぞおっ。」

「宇宙ねえ。なぁ鏑木ぃ、宇宙のどこらへんが面白いかオレに教えてくれ。」

「バカヤロウ!!宇宙は広いじゃねえかロマンじゃねえか!!フロンティア精神うずくじゃねえかよ!!」


さっきから、宇宙ウチュウと政治家みたいに連呼してくるこいつは鏑木亮太かぶらぎりょうたというクラスメイトだ。

身長はオレと同じくらいだが、体重がオレの一,五倍くらいはある肥満体質である。彼は基本、恥ずかしがり屋で人との会話ではしどろもどろとなってしまい、よく虐められてしまう。容姿ゆえに苗字をもじって『デブらぎ』と呼ばれる程だ。

しかし、何故かは知らんがこいつはオレとの会話ではかなり高圧的である。今みたいな『友達同士の駄弁だべり』的な会話もあるのだが、なんかオレが虐められているようなそんな会話もあるのだ。


以前、若干気になったのでクラス委員長(男)にオレのことを相談してみたことがあった。その時の言葉がこれだ。


「君はいじめられっ子に虐められる才能がある」


ちょっと頭にきたんで、営業スマイルをし続ける委員長(男)を軽く二、三発殴ったのだが、そんな誹謗中傷ひぼうちゅうしょうを受けながらも心の中で納得している自分がいた。

オレの学年ではデブら…じゃなくて鏑木の他にも虐められているやつがいる。何故かオレは委員会やら行事やらでそいつら全員と面識を持っている。あのうざスマイル委員長に言われてから気付いたが、よく考えればオレはそいつらに虐められているような言動を受けた気がする。


遠藤真也という少年はめんどくさがり屋でポジティブで少し天然が入っている。

そんな彼だからこそ自身が虐められているとはあまり思わないのだろう。

不意に真也と鏑木が話しているところへ三人組が歩み寄って来ていた。


「ロマンねえ。オレには自分の玩具で飽き足らなくなってしまった子供が人のものまで欲しているようにしか見えないけどなあ。」

相変わらず机に突っ伏し、投げやりに言葉を放つ真也。対照的に鏑木はどんどんテンションが上がる。


「分かってねえよ。遠藤。宇宙はみんなのものだ。そして広い。太陽系くらい開拓してもあまりはありまくるのさ」

「なんつー、考え方だ。これは第三次エンクロージャーか?まあ、いーや。ところで鏑木、火星にはいつ頃住めるんだ?」

「いつか」

「今、宇宙に人は何人くらいいるんだ?」

「それなりに」

「そういや、"星間飛行"って何だ?」

「ググれ」

「…お前ホントは宇宙について何も知らないだろ?」

あきれ果てる真也に、プライドを傷つけられた鏑木は少し怒ったようににらんだ。


「で、でもガン〇ムが核融合かくゆうごうで動いていることくらいは知っている」

「それは宇宙の知識じゃねえ!!」

「楽しそうじゃねえか、よぉデブらぎぃ。俺も混ぜてくれよぉ」


第三者の声が聞こえその方向に振り向く(この場合、顔を上げる)真也。そこにはクラスメイトの石澤いしざわと取り巻き二人がいた。


「えっ、いや…ぅん」

オレ以外の相手には高圧的な態度を保てない鏑木。オレの汚名を晴らすためにも強気になってくれと心の中で応援。

「バーカ!!入るわけねーだろ、デブがうつる。」

「ぅぅ、ごめん」

ゲラゲラ笑う石澤とその取り巻き。応援むなしく完全敗北の鏑木。いやぁ、祝杯をあげたいくらいの負けっぷりだ。

取り巻き二人と一緒に石澤が嘲笑ちょうしょうを浴びせる鏑木が少し不憫ふびんに思えてきたので助け舟でも出すことにした。


「もう、若干デブ移ってるかもな」

「あぁ?なんか言ったかエンドー」

石澤は嘲笑をやめ、こっちに視線を移した。石澤は野球部のエースである。すらりと伸びる身長はオレよりも遥か高く、制服の上からでもわかる筋肉質マッチョ。決してデブには見えないがとりあえずの意見。


「イシちゃんさぁ、ちょっと肉つけたほうがモテるかもよ」

「イシちゃん言うなエンドー。このマッチョに文句あるのか?」

イシちゃんとは石澤のことである。オレの中で流行っているあだ名。


「いや、ゴリマッチョだとさ。だから一昨日、三人目の告白も失敗におわ…、イテっ。」

「エンドゥー、テメェは何を言っているのかな?」

「くはっ!!これ禁句タブーか?まて、冗談だ。グーは止めろグーは」


石澤はオレにつかみ掛かり、本気の殴りを見せてくるが、表情は笑っていた。仲いい奴同士が「こいつめ」ってやるようなものだ。

委員長(男)は前にオレにこうも言っていた。


「お前は、クラスのムードメーカーだ。」


どうやら、オレは虐めっ子と虐められっ子の緩衝剤かんしょうざいらしい。全く面倒な役だぜ。


まっ、楽しいほうがいいだろ?



その後、明るい雰囲気に包まれたクラスには、石澤が鏑木に「放課後な。」と言っている姿や、授業の道具を出している奴の姿とかいろいろあった。

少し暗い気もしたら、蛍光灯が一つ消えかかっていた。


確かその後は、テキトーに授業聞いて一人で帰って来て、ゲームして飯食ってさ

っさと寝たんだったよな。






「んー、それでこいつは夢なのか?」

一通りの回想を終えた真也は、呟いた。しかし、疑問は晴れないので目の前で話している『運営委員会ディレクター』に聞いてみた。


話を中断されて、少し嫌な顔をした『運営委員会ディレクター』であったが、快く答えてくれた。


「先程も言いましたが、ここは夢ではありません。意思の仮想体を転送することで擬似的な現実を作り出しているのです。」

「はぁ」

どうやら、夢じゃないらしい。理解は出来ない…というかしようとも思わなかった。


「オレは痛みとか感じるのか?」

「はい。ほぼ覚醒状態かくせいじょうたいに近いですからね。やってみればわかりますよ」

いたっ、マジだ!!」

ちょっと感動しちまった。夢でも現実でもない世界かあ。おもしれえなあ。


「ところで…」

「ほおっ?」

不思議な体験に対しはしゃいでいたオレは、急に『運営委員会ディレクター』に話し掛けられた。

「そういや、話の途中だったな。悪い、今からちゃんと聞くわ。」

「では、」

運営委員会ディレクター』は改まった。



「あなたはどんな力が欲しいのですか?」

「へっ?」

あまりにも唐突過ぎてオレは言葉の意味が分からなかった。十秒程度固まった後に少し分かってきたオレは慌てていった。


「いっいい、い…いや、もしかして戦うの?やだよ、喧嘩とかそういうの面倒臭いもん。逃げてー。へっ平和が一番なのに。って訳で戦う気はないから。」

「分かりました。」


運営委員会ディレクター』はそういうと左手をオレの胸辺りにかざした。


「うぉぉおっ?何だこれ?」

それと同時にオレの体とその周囲が輝いた。

ひとしきり輝き終えると『運営委員会ディレクター』は左手を下ろし。オレにこう告げた。




「これで終わりました。貴方に与えられた力は『戦意皆無よわゴシ』です」

淡々と述べる姿に見取れてしまい、オレは反応が少し遅れた。


「ちょ、ちょっと待てよ。オレ力いらないって言ったじゃん。」

「ええ、だからその要望にこたえられる力を与えました。」

「こたえられるって、お前…」


オレは戦慄した。生まれて初めて感じる程の恐怖に震えた。


「はい、貴方の力は『戦意皆無よわゴシ』です」


「っなあ!!」

オレは両手を頭に置いて、地面にひざをついた。



「『戦意皆無よわゴシ』って、よわゴシってヨワゴシってYOWAGOSHIってえ……、弱腰かよーーー!!」


真也は不条理アンフェアを背負いながら、夢でも現実でもない世界の恐らく中心でよわゴシを叫んだ。



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